J.S.バッハ:ヴァイオリンとチェンバロのための作品集Vol.2

曲目解説

ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタト長調BWV1021

 現在伝えられる妻アンナ・マグダレーナによる手稿譜は、1730年から34年頃に書かれたといわれているが、近年の研究でバッハの自筆部分も合まれていると主張されている。トラヴェルソとヴァイオリンのトリオ(BWV1038)、ヴァイオリンとオブリガート・チェンバロ(BWV1022)といった異なったヴァージョンも伝えられていることから、バッハが一種の作曲の練習のためのパス課題として生徒に与えていたものなのではないかともいわれている。綬-急-綬-急のいわゆる教会ソナタの典型的な楽章構成をとるが、特に細かく書き込まれた通奏低音の数字に表されている豊かな和声が全体をしっかりと支えている。

無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第3番ハ長調BWV1005

 1720年の日付を持つ美しい自筆浄書譜によって伝えられるが、作曲年自体はもう少しさかのばると考えられている。第1番や第2番のソナタの冒頭楽章がイタリア式の「装飾されたアダージョ」となっているのに対して、この3番の冒頭楽章は《平均律クラヴィーア曲集第1巻》のハ長調のプレリュードなどと同じように1つのリズム素材(この場合付点)を繰り返すタイプとなっている。この種のプレリュードでは、リズムがシンプルであるためにかえって和声の妙が浮かぴあがる。この堂々としたアダージョに導かれて始まる長大なフーガは、そのテーマがバッハも親しかった讃美歌「来たれ聖霊 主なる神 Komm, Heiliger Geist, Herre Gott」のメロディーを連想させる。354小節の長さは3つのソナタの中でも最長である。さらに、よくうたうLargoと軽快でヴィルトゥオーゾなAllegro assaiが続いて締めくくられる。

ヴァイオリンとオプリガート・チェンバロのためのソナタ第4番ハ短調BWV1017

 マタイ受難曲の中のアルトの名アリア《憐れみたまえ》の旋律を思い起こさせる、冒頭のヴァイオリンの6度のモティーフが印象的である。この第1楽章は、第3楽章と同様、ヴァイオリンが旋律、チェンバロが和声を受け持ちお互いにモティーフを共有しないタイプである。それぞれの楽器が自らの最も得意な要素を待ち寄り不思議な一体感を醸しだす。バッハらしいダイナミックなテーマによるフーガに続いて、チェンバロの左手、右手、ヴァイオリンが2:3:4のリズム比をなす美しいアダージョ、そして緊迫した対位法が繰り広げられる最終楽章では2つのテーマの葛藤が感動的なクライマックスを導いて曲を閉じる。

チェンバロのためのソナタニ短調BWV964(原曲:無伴秦ヴァイオリンのためのソナタ第2番イ短調BWV1003)

 無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番をチェンバロ(クラヴィコード)用に編曲したもの。編曲者はバッハ自身であるという説と、バッハの息子か弟子によるという説が対立している。現在は娘婿アルトニコルの筆写譜で伝えられる。編曲が誰の手によるものであれ、バッハが鍵盤上で「必要と思われる和声を加えながら fugte von Harmonie so viel dazu bey, als er fur notihig befand」、どのように実際弾いていたのかを髣髴とさせる優れた編曲である。原曲のイ短調から鍵盤楽器の音域を考慮して5度下げられている。豊かな和声による美しい2つの綾徐楽章と、楽器のイディオムによるスリリングな速い楽章とのコントラストが見事である。

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