モーストリー・クラシック2010年2月号 新譜を語る

新譜を語る 桐山建志 ヴァイオリン

 バロックとモダンの両極を軽やかに往来する実力派ヴァイオリニスト桐山建志が、ヘンデル没後250周年を記念して、「ヴァイオリン・ソナタ全集」を発表した。長年の共演者である大塚直哉(チェンバロ)と共に、ヘンデルの自筆譜や初版譜を丹念に精査した当盤に込めた思いや聴きどころを語ってもらった。

ヘンデル
ヴァイオリン?ソナタ全集
取材・文&撮影=渡辺謙太郎 音楽ジャーナリスト

−収録曲はどのようにして選ばれましたか。

 広く普及する15曲のソナ夕全集のうち真作ソナタ5曲のヴァイオリン用と断定できる4曲と、真作性は疑われているものの、長らくへンデルの作品として演奏されてきた4曲の計8曲を、自筆譜と初版譜になるべく忠実に収録してあります。ヘンデルのソナ夕は、私も小さな頃、教材によく使いましたが、そうしたモダン用のアレンジとは違う本来の姿を、節目の年にきちんとお伝えしたいと思って、今回の録音を発表しました。

−録音はいつどこで、どのように行われましたか。

 今年の3月15〜17日に、埼玉の秩父ミューズパーク音楽堂で行いました。2001年以来、何度も録音に使っている弾きやすい空間なので、今回も非常にリラックスして臨めました。それに録音の半年くらい前から、共演者の大塚直哉君ともしっかり準備ができたので、当初の予定通り、とても順調で充実したセッションになりました。強いて言えば、普段演奏機会が少ないニ短調のソナタHWV359aが厄介で、少し時間がかかりましたね。

−録音に際して、音楽表現の上で大切にされたことは。

 楽譜の師事に素直に従って、その音符の連なりをどうすれば最良の形で表現できるか。これは今回に限らず、私が音楽に対して、常日頃から最も大切にしているス夕ンスです。あと、どんなにいい解釈でも、音が美しくなければ、誰も演奏を聴いてくれませんから、もっといい音、もっと美しい音色を、日々追い求めています。繰り返し聴く度に、新しい発見が生まれるような、常に未来を向いた録音が理想ですね。

−長年のパートナーである大塚直哉さんの印象は。

 彼と最初に出会会った頃は、まだお互い学生でしたから、もう15年以上の付き合いになります。まあ、鍵盤奏者としては一風変わった存在ですが(笑い)、通奏低音奏者としては、今も昔も、彼ほど自由自在に弾ける人はいないと思います。

−今後の録音予定があれば教えてください。

 メンデルスゾーンの初期のニ短調作品(ヴァイオリン協奏曲、ヴァイオリンとピアノのための協奏曲、弦楽のための交響曲、レチタティーボ)を集めたライヴ録音「若きメンデルスゾーン、ニ短調の魅カ」をもうすぐ発表します。今年2月に静岡県袋井市の月見の里で収録したもので、とてもいい出来になりました。12月27日に、池袋の自由学園・明日館-講堂でも同じ公演があって、そこで先行発売しますので、どうぞお楽しみに!

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