レコード芸術 2009年12月号 新譜月評

高橋 昭●

 このCDにはヘンデルの真作で、しかもヴァイオリン用であることが確実な4曲のソナタ(HWV361、359a、371、364a)と、真作であることに疑問は残るものの、永らくヘンデルの作品であるとされてきた4曲のソナタ(HWV370、368、372、373)が収録されている。

 桐山と大塚は共演を重ねているだけに、演奏は周到な準備にもとづいており、その点は評価される。桐山はバロック・ヴァイオリンの特徴を生かして落ち着いた演奏を展開している。低域の豊かな響きと高域の引き締まった響きが強い対照を形づくっているのも特徴だが、この間の移行が自然であることが表現に広がりをもたらしている。フレージングも明確である。

 大塚も好演で、響きが美しく、ヴァイオリンとのバランスにも注意が払われている。

大木正純●

 ピリオドとモダン双方の領域で活躍する桐山建志と、日本古楽界に欠かせぬ存在になりつつある大塚直哉による、バロック・ヴァイオリンとチェンバロのデュオ。信憑性に疑いのある作品を含めた全8曲の選曲は、ヘンデルのヴァイオリン・ソナタ全集として、現在のところ妥当なものといえるだろう。

 演奏はヘンデルの歌謡世界を気楽に歌い上げようというのんきなアプローチではなく、全体に真摯な姿勢で貫かれている。ただ録音の状況も含め、楽器のバランスが大いに気になるところ。すなわち、チェンバロが全体にこもった音色で奥に引っ込んでいるのに対して、ぐいと前面に出てくるヴァイオリンが対照的にきわめて生々しい。しかもその弦の響きがかなり硬質であるために、ヘンデルの大らかな楽興がもうひとつふくらまない点が惜しまれるところである。名高いニ長調のソナタ(作品1の13)にしても、第1楽章はアフェットゥオーソ(情愛の深い)という標語とは距離のある印象だし、第2楽章のような急速な楽章ではとりわけ、もっと柔らかな音がぜひとも欲しい。虚飾を排し、スコアに忠実に、余計なものを付け加えず、という潔癖な思いが、あるいは強すぎたのだろうか。

 ヘ長調(作品1の12)の第1楽章アダージョのように、よく歌われている箇所でもなお、やはりヴァイオリンの響きがあまりにも硬い、と私は思う。

石田善之●
[録音評]ヴァイオリンもチェンバロも比較的近い距離から漏らさずピック・アップしているだけに明解。お互いの距離や質の高い響きや空間性が共有されているが響き感が多いわけではなく、それぞれの楽器が持つ艶やかな音色が表現され、低域のエネルギーは全体的にやや抑えられ気味。〈90〉

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