レコード芸術 2010年11月号 新譜月評

高橋 昭●

 お互いに友人であり、ともにロマン派音楽の流れを切り開いたメンデルスゾーンとシューマンの作品を組み合わせたCD。エルデーディ弦楽四重奏団は演奏会で前者の6曲と後者の3曲の弦楽四重奏曲を取りあげており、ここではその中から彼らなりの視点で選んだ作品を演奏している。

 メンデルスゾーンのイ短調四重奏曲では以前に比べると各パートの存在感が大きくなり、同時にバランスも良くなっている。チェロが着実に演奏しているのでアンサンブルには安定感があり、ヴィオラを含む中声部も充実しているし、第1ヴアイオリンも好演。特に第2楽章アダージョ。ノン・レントでは真摯であると同時に優美な旋律を抑制の利いた演奏でその魅力を生かしている。第4楽章でも演奏は強い緊張感を保って進行するが、第1楽章の冒頭部分の回想も、緊張感ばかりでなく、落ち着いた情感を反映させて美しく演奏している。

 シューマンのイ長調四重奏曲も好演。第1楽章では4つのパートのバランスがとれていることが演奏に安定感をもたらしている。第2楽章(変奏曲)では主題の提示からアンサンブルが緊密で、対位法的な進行のもたらす緊迫感、美しい音で導入される落ち着いた情感ばかりでなく、コーダの抑制された演奏が、効果をあげている。フィナーレでは弦の響きがしなやかで美しく、引き締まった表情とよくマッチしている。

大木正純●

 エルデーディ弦楽四重奏団はすでに結成から20年を超えるキャリアを持ち、ステージでは着実に活動を積み重ねてきた実績あるグループだが、意外にもCDを聴くのは私は初めてだ。ただしブックレット解説には「PAUレコードよリハイドン作品CD2枚をリリース」とある。不勉強をお詫びしたい。

 今回、彼らがメンデルスゾーンとシューマンを選んだのは、アニヴァーサリー・イヤーを巡ってここ数年、これらの作曲家を積極的に手がけてきたからと思われる。その意味でこのディスクは、ひとつの区切りとなる重い1枚ということになろう。

 演奏はその重みをがっちりと受け止める立派な出来映え。とりわけ四重奏の音色の美しさは抜群で、メンデルスゾトンもシューマンも、曲いっぱいに塗り込められた深いロマンの色を、充実した響きのうちに浮かび上がらせている。

 とくにシューマンが美しい。響きの調和を常に意識しながら、たとえば第3楽章アダージョ。モルトでは、ややくすんだ色調の、それでいて深みのある音色を駆使して、絶妙な色合いを醸し出すのである。シューマンの弦楽四重奏曲は演奏する側にとってはやっかいな領域なのか、ディスクの登場は稀にしかないのがもどかしいが、少なくとも聴き手にとっては断じて取っつきにくい音楽ではない。ぜひ、後続を聴きたいものである。

峰尾昌男●

[録音評] 2010年3月の録音。この会場は400弱の席数を持つすり鉢型ホールで、客の入った演奏会ではあまり残響は感じさせないが、空席で行なわれる録音では適度な量があるようだ。明瞭度を失わない程度の残響を伴い、4人の奏者が前方に展開する。各楽器はピンポイントではなく適度に解け合い、室内楽的一体感がよく表現されている。 〈92〉

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