レコード芸術 2013年4月号 新譜月評

 

皆川達夫●

推薦 今年はアルカンジェロ・コレッリ(l653〜l7l3)没後300年に当たる。この日本ではさして話題になっていないようにみえるが、今回2つのすぐれた、しかもきわめて対照的なCD、ソナタ作品5(l700年刊)が登場した。ひとつはヴァイオリンの桐山建志さんによる2枚組全曲盤、もうひとつはリコーダーのダン・ラウリンとチェロの鈴木秀美さんたちによる1枚の抜粋盤である。

 まずヴァイオリン盤にはチェロは加わらず、大塚直哉さんがチェンバロを受けもっておられる。桐山さんは大きなフレーズの流れのなかに、コレッリ特有の風格あるメロディをおおらかに息ながく弓いっぱいに歌わせてゆく。各種の舞曲のリズムの扱いも妥当。装飾音も過剰におちいらず、その当時「知的で優雅、かつ哀愁を誘う」と評された作曲家にふさわしい明晰で流麗、安らぎと癒しにみちた音楽がくり広げられている。凜とした格調たかいその姿勢が好ましい。

 大塚さんのチェンバロの支えも適確で、この全曲盤を最後までひきしめている。ただし欲をいえぱ、やはりチェロが加わっていた方がポリフォニックな楽章などで有効ではなかったかという思いもあるが、決定的なことではない。「私たちはコレッリをこのように感じ、このように作ります」という御両所のご意図が、手にとるように真直ぐに伝わってくる。いつまでも聴いていたい心あたたまるコレッリ演奏である。

美山良夫●

推薦 初版には「ヴァイオリンとヴィオローネもしくはチェンバロのためのソナタ集(……)作品5」と記されているにもかかわらず、多くの場合、たとえぱヴァイオリンとチェロおよびチェンバロによる通奏低音という編成で演奏、録音されてきた。むろんグリュミオー盤のようにチェンバロのみによる録音があるにはあった。だが、桐山建志と大塚直哉による演奏は、チェンバロに限ることによりヴァイオリンでコレッリが実現し開示しようとしていた世界に耳を集中させる。素早い運弓、低有部の動きや和声付けを抑える指示(タスト・ソロと表記)、長く続く重音奏法によるフーガ、アルペッジョによる和音の連続、バリオラージュ、反復進行の連続によりヴァイオリンが築く明確な調組織、そして楽器が最も美しく鳴るポジションに限った響き、カンターピレの魅力など、作曲者がもとめた多様性と音楽の質を追求するのに適した選択であろう。

 ヴァイオリンは、当時から盛んにおこなわれた装飾過多には与せず、むしろ裸型のコレッリを求めた演奏を指向している。強く楽器を歌わせるより、軽く親密な音空間をもとめる。チェンバロは、その実現と洗練に寄与、低音に対旋律ないし独自の動きが必要な場合はそれを確実に鳴らすなどの的確さ。過不足の一切ない、必要な音がもっともあるべき形で響いている安定感、音楽的なバランス感覚に満ちている。控えめながら明確なアプローチをもった成熟した演奏解釈だ。

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