レコード芸術 2019年4月号 新譜月評

大木 正純●

推薦 別掲のクァルテット・エクセルシオもついに結成四半世紀を迎えたが、実はもっと上手がいる。ショス夕コーヴィチの全集をリリースしたばかりの古典四重奏団はすでに何とキャリア30年超、そしてこのエルデーディ弦楽四重奏団も今年がちょぅど結成30周年だ。これらのクヮルテットがいま、競い合うように揃って優れた成果を上げつつあるのは、日本室内楽界の誇るべき出来事である。
 ちょうど1年前にリリースされた第13番&《大フーガ》の1枚に続く今回のべートーヴェン後期第2弾は第14番と第16番の組み合わせ。これまた前回にまったくひけをとらない堂々たる出来映えである。まず第14番。語り口はごくさりげない。曲の神秘性を強くアピールするのではなく、むしろ淡々とスコアに向き合い、そこから自然に滲み出るものに思いを託そうとする姿勢である。核心部分たる第4楽章変奏曲においても、表面的な効果を追わず、しかし入念な譜読みのもとに長い道のりを辿るその迷いのない足取りが頼もしい。全7楽章が大きな息継ぎなく続いてゆくこの曲の場合、楽想の推移の作為のない自然さも、ひとつの大きな成功要因だ。第16番は滑り出し、いくらか生真面目な印象がなくもないが、やがて気分がほぐれて、やや謎めいたこの四重奏曲に潜むある種の軽妙な感覚が次第に浮かび上がってくる。抒情に溺れず、渋いトーンでしみじみと語る第3楽章がことのほか美しい。

 

中村孝義●

 昨年同じべートーヴェンの弦楽四重奏曲第13番と《大フーガ》の録音で弦楽四重奏団としての健在ぶりを示したエルデーディ弦楽四重奏団だが、続いて第14番と第16番をリリースした。後期の弦楽四重奏曲を続けて出しているのは、ひょっとしたら全集を目指しているのだろうか。ともあれこの第2弾もなかなかに充実した好演である。まず何よりも感じるのは音楽の落ち着きだろう。慌てず、騒がず、音楽そのものにじっくりと向き合い、作品の核心をしっかり見定めながら、それを真摯かつ丁寧な姿勢で音楽にしていこうという姿勢。聴きようによっては、あまり何もしていないように聞こえなくもないが、そう感じさせるほど音楽がごく自然に流れていくのだ。表現に無理がないといえばよいだろうか。だから聴く方は、実にゆったりした気分で作品の世界に浸ることができる。ただ第14番といえば、ベートーヴェンが誰からの依頼も受けずに、自らの創作意志で書き、その内容には様々な想念が渦卷いていたことが知られている特異な作品だけに、前半4つの楽草において、後半の3つの楽章に示されたような作品の内部に切り込んでいくような積極果敢な姿勢がさらに欲しかった。それに対して第16番は、彼らの、肩から余計な力が抜けた自然な姿勢が、この作品の天衣無縫とでもいうべき軽みを持った在り方や全てを悟りきったような澄んだ心情表現に見事に呼応して絶妙な境地に達している。意欲的な演奏というべきだろう。

常盤清●

[録音評] 一般的に各楽器の距離感とアンサンブルのバランスが気になる弦楽四重奏曲であるがこのCDはどちらも上手く捉えていて力のこもった熱っぼい演奏とともに好印象を持った。ともすると過度に鋭い音の第1ヴァイオリンはほどよい音質でしっかり主役を担っているし曲の要であるヴィオラの存在感もよい。しかし左右いっぱいに広がった楽器配置は多少集中力が散漫になる。 〈92〉

 

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