音楽現代 2019年5月号

推薦 晩年にいたり功成り名遂げた楽聖の精神は自由に羽ばたき、何物にも囚われず、《第九》で語り始められた「心地よく」「歓喜に満ちた」調べを歌い出した。・・・そんなカルテット群の精神を見事に実現した演奏だ。4人の息が合って、何より透明感のある音色と率直な、スッと各音を置いていくかの奏法が、ベートーヴェンへと、「心から心へ」通じる道を開いているようだ。たとえば嬰ハ短調作品131の両端楽章を聴けばわかる表現の幅の広さ、あるいはヘ長調作品135の第2、3楽章の対比も効果的に形成されている。厳しく合奏の鍛錬を志しつつも、気負わず、いたずらに勿体ぶらず、自然に作曲者の世界に遊ぶ。成熟した日本の室内楽の典型をみる思いである。  ☆茂木 一衛

 

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