レコード芸術 2016年10月号 新譜月評

 

藤田由之●

 2007年に松本市音楽文化ホールで結成され、翌年年からは「Xmasコンサート」を毎年うけもってきたという「ファンタジー合奏団」による2016年5月4、5日の同ホールでの録音が登場した。

 『ものがたりの世界へようこそ』ということで、ナレーションも含め、チャイコフスキーのバレエ《くるみ割り人形》の組曲版と、ムソルグスキーの《展覧会の絵》とが、桐山建志の編曲によって演奏されている。このアンサンブルは、表記されているブロシュアによれば、ヴァイオリン2、ヴィオラ、チェロ、コントラバス、フルート(ピッコロ)、オーボエ(イングリッシュ・ホルン他)、クラリネット(バス・クラリネット)、打楽器2、ピアノという限定されたものであり、双方の作品の表現に限界もあることはまちがいない。

 《くるみ割り人形》の組曲版は、ハープも含むほぼ3管であるが、《展覧会の絵》の方は、原曲がピアノ曲であり、ラヴェル版をはじめ多様な編曲はあるが、すべてが参考になるわけではない。有名なラヴェル版にもかな変更はあるが、ここでは第7曲の前の〈プロムナード〉は復活されているし、第6曲の最後も変えられており、ピアノからの編曲ともいえそうだ。

 なお、ナレーションの内容についても、とくにチャイコフスキーについては異説もあるようだ。

満津岡信育●

 2007年に結成された合奏団によるディスクで、音楽監督の桐山建志による編曲によって、ロシアの作曲家による2つの名曲が収録されている。チャイコフスキーの原曲やムソルグスキーのラヴェル編曲版では、金管楽器が大活躍する場面もかなりあるのに対して、この合奏団は弦楽器+木管+ピアノ+打楽器という編成である。しかし桐山の編曲譜は、木管楽器を巧みに重ね合わせて響きの色合いを変化させたり、各楽器が俊敏にフレーズを受け渡すなど、音楽のエッセンスを鮮やかに聴き手に伝えることに成功している。《くるみ割り人形》の〈小序曲〉における弦楽器奏者たちの溌剌とした音楽づくりが耳に心地よく、以下、各奏者のソロやアンサンブルの練れ具合もすばらしい。楽曲によって、木管奏者がフルー卜とピッコロ、オーボエとイングリッシュ・ホルンとオーボエ・ダ・カッチャ、クラリネットとバス・クラリネットという具合に楽器を持ち替えることによって、響きに変化を加えている点も好ましい。

 なおライナー・ノーツには、松本市音楽文化ホールの「Xmasファンタジー」というコンサート・シリーズがグランド・フィナーレを迎え、その集大成としてCDを制作したことが記されている。おそらく同コンサートで披露した形を踏まえて、ナレーションを入れているのだろうが、音楽の流れが分断されてしまううえに、話の中味も本誌の読者には、物足りないものとなっている。

神崎一雄●

[録音評] 《くるみ割人形》と《展覧会の絵》を室内楽編成に編曲したものを、解説ナレーション入りで収めている。全体にすっきりした軽いサウンドが印象的で.演奏もナレーションもホール録音としてはス夕ジ才録音ふうの高SN比である。演奏空問の膨らみは乏しくスケール感もほどほどだが、サウンド全体も楽器も明瞭感が高い。平面的だが内容に沿った収録か。〈90〉

 

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