レコード芸術 2001年5月号 新譜月評

  バロック・フルートの前田りり子、バロック・ヴァイオリンの桐山建志、ヴィオラ・ダ・ガンバの市瀬礼子、チェンバロの平井み帆の四人がメンバーのラ・フェート・ギャラントのデビュー盤である。この組み合わせなら、誰しも思い浮かぶ名曲テレマンの《パリ四重奏曲集》(1738)から一番と六番、ラモーの《クラヴサン合奏曲集》(1741)から第一番、もうひとつおまけに、編成からフルートが抜けるが、マレの《パリのサント・ジュヌヴィエーヴ・デュ・モン教会の鐘》がプログラムを飾る。

 ヨ−ロッパ留学を経験し古楽を学んだ比較的若い世代のアンサンブルだが、とくにフルートの前田とヴァィオリンの桐山は、世界でもっとも権威あるブルージュ国際古楽コンクールで1999年に一位と二位を得た人材だ。ライナー・ノーツの中にある「ヨーロッパの言葉で友人と議論をし、石造りのよく響く部屋で生活するうちに自然と身についた、共通のリズム感、表現力、透明感のある音色などがアンサンブルの基礎にある」という一文が、なるほどとうなずける。

 共通の感覚的な基盤に立つほか、このアンサンプルのもうひとつの特色は、特定のリーダーがなく、ひとりひとりの個性のぶっつかりあいのなかから音楽が生まれてくる点にある。それが今回のCDのなかで、とくにテレマンが成功している理由と思われる。最後の《パリ四重奏曲第六番》など、思わず「ブラヴォー」と声をかけたくなる名演だ。テレマンの曲は、内容的にすぐれているだけでなく、なにより演奏者自身がインタープレイを楽しめるようにできていて、その楽しい気分が聴き手にも伝わってくる。フルートやヴァイオリンだけでなく、ときにはヴィオラ・ダ・ガンバも愉悦に満ちた旋律を歌い上げる。いっぽうマレでは、各奏者が互いにぶっつかりあってゆく感じは評価できるが、その反面、優雅流麗さにやや乏しい。ラモーの場合も、一気にリズムに乗ってゆく楽章は別として、楽章ごとの気分のとらえ方、流れの整え方と言った点では、もうひとつこまやかに練り上げたものがほしいというのが、実感だ。だが、それは将来きっと達成されるだろう。期待して待つことにしよう。

〈服部〉

[録音評]

 四つの楽器がのびのびと広がり美しい空間性を聴かせる。こうした音楽にふさわしい残響感とその量が、演奏を見事に引き立てている。間接音の質の高さも注目のポイント。どちらかと言うと明るさ方向への響きが強めになるのはホール・トーンの持ち味だううか。バロック楽器の特性もあって中域あるいは中高域が全体のエネルギーとしてはやや強め。

〈90〉石田

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