J.S.バッハ:ブランデンブルク協奏曲全曲
松本バッハ祝祭アンサンブル

MM-2081,82

ライナーノーツより

 2010年1 月31 日。常念岳をはじめ、北アルプスの山々がすべて克明に姿を見せている快晴の松本で、1つのコンサートが開かれた。チェンバロ席に座る指揮者、小林道夫のもとに、桐山建志以下、中堅と若手のピリオド楽器奏者たちが参集。音響効果のいいザ・ ハーモニー・ホールで、バッハの《ブランデンブルク協奏曲》全曲を彼露したのである。これは2008年の《管弦楽組曲》に続く、松本バッハ祝祭アンサンブルの企画だった。

 《ブランデンブルク協奏曲》においては曲ごとに編成ががらりと変わるため、全曲のコンサートは、おいそれとは開催できない。難曲も含まれ、演奏時間も長大であるため、チェンバロを弾きながら指揮する者には、大きな負担がかかる。そうしたコンサートが実現し、豊かな成果を生み出すことができたのは、小林道夫の人格と音楽性に対する深い敬受の情が、演奏者たちのすべてに共有されていたからにほかならない。

 その日客席で聴いた《ブランデンブルク》の演奏は、繊細にして潤いに満ち、しかも理にかなったものであつた。小林道夫という芸術家は誰の目にも温雅な人柄だが、そのふところには鋭い批評眼が濳んでおり、演奏者たちへの要求は、なかなか厳しい。しかし演奏者たちはその高い理念に向けて一体となり、響きのよく揃った、細かなところまで気持ちの行き届く演奏を展開していた。音楽の意味はそれぞれの曲でしっかりと把握されていたが、とりわけ小林、桐山、北川森央の3人による第5番の第2楽章は磨き抜かれ、味わいが深かった。コンサートと並行してCDが収緑され、市場に供されることを喜びたい。

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