レコード芸術 2014年6月号

原稿のチェックがなかったので、私の発言と聞き手の発言が、一部表現が入れ替わっている箇所があります。

3つの楽器を駆使して描く
ヒンデミッ卜の抒情とユーモア
桐山建志

ききて・文=渡辺和彦
写真=堀田力丸

 4月新譜でヒンデミットのソナタ集、作品11/全6曲の中からの5作品と、ヴィオラ・ダモーレ小ソナタ(作品25の2)を収録した2枚組アルバムをリリースした桐山建志。作品11に含まれるのは、ヴァイオリン・ソナタ(第1、2番)、ヴィオラ・ソナタ(第4番)、無伴奏ヴァイオリン・ソナタ(第6番)、無伴奏ヴィオラ・ソナタ(第5番)。桐山はチェロ作品である第3番を除くヴァイオリン、ヴィオラのための5曲をひとりで担当。共演のピアニスト小倉貴久子(1913年製作ベヒシュタインを使用)と協力して、作品25(全4曲)の中からも珍曲を1曲捜し出し、全6作品によるアルバムとした。従来のヒンデミット作品表では欠番扱いの作品11-6(無伴奏ヴァィオリン・ソナタ、未完成曲)も収録されている。2013年10月29日、東京文化会館での演奏会ライブながら、会場ノイズはほとんど聴きとれない。ひとりの弦楽器奏者とピアニス卜によるこうした企画は世界的にも珍しい。

幻の未完成曲
作品11-6も収録

− 実際の演奏会の演奏順序はどうだったのですか? CDでは作品11の中から1、5、4番が1枚目、2枚目が作品25?2と作品11-6、2番の順ですが。

桐山 ディスクに収録されている順序のままが実際の演奏順です。1枚目が終わったところで休憩、そして作品25?2があり、それから作品11-第6、11-2でした。ヴァイオリン(とピアノのための)・ソナタが2曲ありますので、それを最初と最後に配置しました。演奏会のチラシは番号順でしたけどね。ゲネブロで2回通し、実際の演奏会と合わせて収録しました。

− 作品11-6には驚きました。ライナー・ノーツには特に触れられていませんが、第6番は「未完成曲」として楽譜も出ていなかったはずの曲です。それが昨年12月には舞台演奏され、今回のような形で録音が出てきたのですから。

桐山 最近ショットから楽譜が出版されました。完成している3つの楽章だけで出されたのです。残りの楽章を書き始めたところで「未完」となっていた曲です。

  (注:残りの楽章を書き始めて・・・というのは、他の作品と勘違いしておりました。未確認情報です。)

− このソナ夕全体の趣旨として「バッハをべースにしている」とされていますよね。ということは、書き始めて完成しなかった楽章は、たぶんフーガじゃないですか?あくまで私の推測ですが。それで挫折して「未完」のまま放置された。

桐山 そうなのかもしれませんが、私はわかりません。色々調べましたら、作品表には無いはずの曲がショットのカタログに載っていまして、楽譜を手に入れて演奏したわけです。

ヒンデミットならではの
ヴィオラ・ダモーレの珍曲

− ヴィオラ・ダモーレのための小ソナ夕作品25-2も、私は実演を聴いたことがありません。昨年10月の演奏会を聴き逃したのは本当に残念でした。この曲の存在によって、今回の企画が実現したともきいていますし。あれは見た目もけっこうヘンな楽器ですよね。共嗚するだけの弦が7本も張ってありますし。

桐山 私も作品25-2だけは、他の人の実演を聴いたことがないです。作品11-3がチェロ・ソナタですので、その代わりの曲として作品25-2を演奏しました。

− 楽器は現代仕様に新たに制作されたもの(1968年ドレスデン、マツクス・シェーマン作)で、指板などを直してバロック・ピッチに戻し、最初はバッハ作品で使ったときいています。その同じ楽器で、演奏ピッチの異なるヒンデミット作品を演奏されたのですか?

桐山 はい。ただ、指板はバロックで使ったままにして、弦をモダンのピッチにして演奏しました。バス?バーなど楽器本体はいじっていません。

− そんなハードな使い方をしても、楽器は人丈夫なのですか?

桐山 ええ、大丈夫です。ヴィオラ?ダモーレは共鳴弦が7本ありまして、調弦もヴァイオリンやヴイオラとは違いますから、?れるまでは本当に大変です。最初はフィンガリングもわからなくて。私は絶対音感があるのですが、バロック音楽をやるよぅになつてからは、(Aのピッチが現代標準の)442Hzでも415Hzでも43OHzくらいでも平気なんです。自分の耳でちゃんと標準音は取れる。でもヴィオラ?ダモーレをさらっていると、これが本当に正しい音なのか、だんだんわからくなる時がある(笑)。

− ディスクを聴き続けて、ヴィオラ・ダモーレの曲になると、「エエーッ?」という感じですものね。響きが異様で。

桐山 実演の時も、終演後の楽屋であの曲がいちばん話題でした。皆さん同じように感じられたのかもしれません。

楽曲の調性表記について

− 冒頭の作品11-1はヴァィオリン・コンクールの課題曲になったりしていますので、よく聴きます。短いですし。作品11-4は有名作品ですね。

桐山 そうです。ヴィオラを弾く人はみんなやります。でも、難しかったです。

− あの曲のキモは第3楽章と、それに続く第4楽章ですよね。この2つは主題が共通で、しかも第4楽章は前の楽章の変奏曲の続きになっている、という複雑な構造。

桐山 あれは意外と、本当に、難しかったんですよ(笑)。私が初めてこの曲に触れたのは、知り合いがレッスン用の曲として持ってきたのが最初でした。その時に「あ、これはいい曲だな」って。

− ヒンデミットによる自作自演をお聴きになりましたか?確か今回の曲集ではないですが、第4楽章に有名な指示がある無伴奏ヴィオラ.ソナ夕作品25-1が残っていたかと思います。

桐山 聴きました!その指示というのは「荒れ狂った速さで粗暴に、音の美しさは二の次で良い」というやつですよね。それをヒンデミットはゆっくりと、きれいな音で弾いているんです。勝手なものだなと思いました(笑)。

− 細かいことですが、作品11?1のディスクの表記が、「ヴァイオリン・ソナタ変ホ調作品11の1」なのは大賛成です。「変ホ長調」と表記するディスクや演奏会プログラムがありますが、楽譜は単に[in Es]です。ディスク2枚目最後の作品11?2も「ヴァイオリン?ソナ夕 ニ調」と正しく表記してあります。

桐山 そうなんです。ただ、演奏会の時には誤って「変ホ長調」と書いてしまっていました。でも終わりの第2楽章は短調ですし、やっぱり「変ホ調」とすべきです。逆に作品11-6は楽譜に何も書いてないのですが、あれは明らかにト短調なので、そういう表記にしました。作品11-4も「へ長調」と書いてある資料もありますが、楽譜には何も書いていませんし、第2楽章から先は全然違います。それとは別に、ディスク表記に最終的に誤りが出てしまいました。

− そうなんですか?全く気づきませんでした。

桐山 「ヴィオラ・ダ・モーレ」ではなくて「ヴィオラ・ダモーレ」なんです。欧文はアポストロフィーですから、「ダ」と「モーレ」の間にナカグロは入らないのが正しい。ですが入ってしまいました!

− 表記へのこだわりも、広い意味での演奏解釈のひとつと考えていいですか?

桐山そうですね。

− そのうち「作品11」演奏会をもう1度やってください。

桐山 ぜひ!またやりたいです!

 

戻る