レコード芸術 2015年2月号 新譜月評

大木正純

 イタリア系の弦楽四重奏作品集となると、CDでもめったに現われない。今回はまたエルデーディという、ハイドンやべートーヴェンを連想させる名前の団体のディスクだけに、余計、意表を突かれた感じだ。収録曲は3曲。その陶然たる美しさに誰もが虜にならずにはいられないプッチーニのポピュラー小品、対してこちらはお世辞にもとっつきやすいとは言えないピツェッティの40分になんなんとする大曲、そして決して難解ではないが知名度はおそらく限りなく低いと思われるニーノ?ロータの戦後作品と、内容はヴァラエティに富んでいる。
 ブッチーニ《菊》は、やはりいつ聴いてもしびれる音楽だ。エルデーディの面々は、いつもとは少し違ぅところでもこんなに美しい四重奏ができますよとアピールするかのよう。
 一方ピツェッティの弦楽四重奏曲第2番は、とりわけ前半の2つの楽章がイタリア音楽らしからぬ寡黙なスコアで、静謐な祈りの気分が多くの場面を覆っている。終曲は比較的インパクトが強いが、ここではぎくしゃくした楽想の連続が、聴き手にあえてストレスを与える傾向がある。4人はこの難物に正面か
ら、向き合って、全曲を丹念に描ききっている。コラール風のエンディングがすべてを美しく収斂して感動的だ。ロー夕(ピッエッティの弟子)作品は小
組曲風の全3楽章。保守的な書法でシリアス性は薄い。

 

中村孝義

推薦 結成25周年を迎えたエルデーディ弦楽四重奏団によるイ夕リア人作曲家の手になる弦楽四重奏曲を集めたアルバムである。イタリアの作曲家による弦楽四重奏曲といえば、普通はヴェルディのものが取り上げられることが多いが、ここではあえてそれを外し、珍しいピツェッティとロー夕の作品を収めている。そのことだけでもこのアルバムには一定の価値が,与えられるが、演奏もなかなかに興味深い。初めに収められたプッチーニの《菊》が鳴り始めた時には、この弦楽四重奏団のややくすんだような、しかし柔らかく暖かい響きや音色に、明るく輪郭の明瞭なイタリアの作品に対する適性の上でいささか齟齬があるのではないかと感じた。しかし聴きすすめるに従って、そのしなやかで目の詰んだ膨らみのある響きや美しい音色、豊かな歌に満ちた表現が、収められた3人のイタリア人作曲家の独特の魅力をなかなか見事に引き出し、説得力を持って迫ってきたのだ。残念ながら、これまで私はこの弦楽四重奏団の実演を耳にしたことはないのだが、この録音で耳にする限り、ここには25年という長きにわたって弦楽四重奏というジャンルに携わってきたものにしか出せない親密でこなれた表現や、響きの密度の濃さがしっかり聴き取れた。ピツェッティやロータといった滅多に耳にすることができない作品の価値を明らかにしたという意味で、これは見過ごせない一枚だ。ぜひ一聴を勧めたい演奏といえよう。

 

山之内正

[録音評] 4本の楽器がいずれも密度の高さとなめらかさをかねそなえており、音調がきれいに揃っている。そこから生まれる一体感のある響きを自然な距離感でとらえているが、このレーベルの録音としては楽器との距離がやや近めに感じるのは弦楽四重奏という編成を意識した結果かもしれない。チェロの豊かな低音域がくせのない自然な残響とともに全体の響きを支えている。 〈93〉

 

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