その2 札幌ルネッサンスホテル


 12階から眺めた札幌の夕景 左の方に見える
のが札幌タワー
               夜景
 ホテル生活は夢である。一言でいえば非日常空間
であり、生活に必要なものはなにもかも揃っていて、
その生活を維持するための雑多なものは注意深く
隠されている。亡くなった映画評論家の淀川長治さん
は、晩年の20年間をホテル住まいされたと聞く。
 さぞかし本やらなにやらたくさんの荷物が増えたこ
とだろう。そうなると非日常の空間とはいえなくなるか
もしれない。女優山田五十鈴もやはりホテルを住まい
にしていたと聞く。
 オーストリア皇妃エリザベートはなにかに追われるよ
うに、なにかから逃れるようにおつきの者を従えて旅
から旅の暮らしをした。そして旅先のジュネーブ?で
非業の死を遂げた。
 ところで、淀川さんは深くご母堂を愛しておられた。
死の床にあった母上を看病なさっているとき、部屋
のすみになにかがいるのを見た。瞬時に死神と察知
した淀川さんは心の中で「どうか、わたしの命を3ヶ月
、おかあさんにあげてください」と祈ったという。お母様
はちょうど3ヵ月後に亡くなられたそうだ。
 この話はもう何十年もまえに読んだのだが、忘れが
たく残っている。
 わたしは実はホテルがかなり好きである。
ひとりで宿泊するのがいい。昔、やはり逃れたいこと
があって、大井町駅前のよく覚えていないのだが阪
急ホテル?のシングルルームにすこしのあいだ、滞在
していたことがある。なにを食べたかとか、どうやって
時間をつぶしたとかは覚えていないのだが、そのとき
の気分、透明な倦怠感のようなもの...かすかな不安と
おなじようにかすかな希望、そして追い詰められていた
はずなのだが浮き立つような気持ちもはっきり覚えて
いる。ホテルは日常から離れて自分を見つめなおす
のにいい場所である。