気まぐれな風のように

N州シルフィードタワー屋上、宝石のような景色を眺めながら語り合う二人。
「何て美しい景色。きっと世界一美しいに違いない。ねえ、アルバート。」
「ああ、マリ、嘘をつかないで。この景色は確かに美しいけど、世界一じゃない。世界一美しいのは君さ、マリ。」
「まあ、本当?」
「もちろんさ。それにこの景色は全て君のものさ、マリ。このタワーから半径10キロ以内の全ての建物は、株式会社シルフィードの所有物なんだよ。」
「まあ、素敵。」
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一人の男が走ってくる。
「なんだね秘書君。そんなに急いで。」
「アル、アル……!」
「落ち着きたまえ。私の名前はアルバートだ。」
「ヘルマンお父様が、アルバート様にお手紙を……」
「手紙だと?見せたまえ。」
『アルバートへ。ああ、何と書けばよいのだろうか。株式会社シルフィードは倒産した。お前には黙っていたが、先月発売した「かわいいアルバート人形」、まったく売れなかったのだ。さらに、先週発売した「幸運ネックレス」、イカサマだとばれてしまった。明日にでも警察が捜査に来るだろう。しかし、気にするな!こんなこともあろうかと、シルフィードタワーには、大量の爆弾が仕掛けてある。これで証拠隠滅だ。
私のことは気にするな!外国へ高飛びして、老後を楽しむつもりだ。だから、アルバートも頑張れ!ヘルマンより。
追伸。爆破時刻は12時丁度だ。』
「何ということだ。しかも、12時まで5分しかないぞ。秘書君、どうすればいい?」
「ヘリコプターがあります。それを使いましょう。」
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3人はヘリポートへ行く。
「秘書君。運転はできるのか?」
「はい。しかし、このヘリコプター二人乗りなんです。」
「何ということだ。」
アルバートは腕時計を見た。あと3分……!悩んでいる時間はない。
「マリ、君と秘書君が乗ってくれ。」
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マリと秘書がヘリコプターに乗り込む。
「アルバート、愛してるわ。」
「僕も君を愛してるよ、マリ。」
プロペラは徐々に回転の速度を上げ、やがて、重々しい鉄の塊を宙へ浮かべる。
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「さあ、爆弾の死神よ、我を殺すがよい。たとえ体が滅しようとも、我が愛は滅びぬ。(腕時計を見て)5……4……3……2……1……0……!」アルバートは叫んだ。
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静寂。
「ん、腕時計が狂っているのか?今朝合わせたばかりだが。」
「おたくの腕時計は狂ってなんかいませんよ。」
派手な服を着た、見知らぬ男が一人。
「これは、いったい……?」
「ドッキリカメラだよ~ん。」
「これは何の冗談だ。」
「はい、冗談です。XYZテレビの『ドッキリカメラだよ~ん』という番組です。」
「全て嘘だったのか!?」
「えっ、嘘だったの?」いつの間にか、マリ達が後ろに戻っていた。
「私が世界一美しいと言ったのも?」
「私を愛していると言ったのも?」
「いえいえ、そんなことは。まいったな。愛しているよ、マリ。」

※この物語は、学生時代に書いたものを、加筆修正したものです。

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