血化粧
「にいさん…」
ベットの上で兄は規則正しい寝息を立てていた。
実年齢より遙かに小柄なその体からはいつも想像できないほどのパワーを発揮するから
うっかりすると忘れがちだが、彼はスーパーマンでも正義の味方のヒーローでもない。
ただの15才の少年なのである。
負けず嫌いで、人一倍向こうっ気が強く、正義感が強くて、自分に正直で、弟を自分よりも
大切にしている。
その兄が、幾重にも包帯を巻き付けて、薬品くさい、飾り気のまるでない、白で統一された
部屋の四角いベットの上に横たわっている。
昨夜出会った、自分と同じ肉体のない鎧が言った言葉が何度も鎧の中をこだまする。
『お前は兄貴にだまされているんだよ!』
ありえない、何度も否定してみるがその言葉をぬぐい去ることが自分にはできない・・
小さい時の記憶も、かあさんの匂いも、にいさんの笑い声も、すべて作られたものなの?
ベット脇にたたずむ鎧の気配に兄が夢の世界から引き戻される。
「ん・・・ア・・ル?」
はっきりしない視界の中でたたずむ弟に違和感を感じ、上体を起こそうとして脇腹から全身に走る痛み
に身を縮ませた。
「いっつー」
「だ、だいじょうぶ?にいさん、動かない方がいいよ、」
「あ、ああ、お前は大丈夫だったのか?」
「え?うん、」
「そ、か、よかった」
心底ほっとしたような顔をする兄に、何故か複雑な思いがわいてきて、何を喋って良いのか判らなくなる。
「ぼ、ぼく、お医者さん呼んでくるね。」
様子のおかしい弟と入れ替わりにロス少尉たちが入ってくる。続いて入ってくる少佐に弟のことを心配して
いる余裕もなくなる兄だった。
昼間の一騒動が終わり、病院内も静まりかえった頃、怪我のせいか、薬のせいか、いつもはあまり熟睡しない兄が
早いうちから寝息を立て始めた。
人がいるうちはあまり思い出さない事が、誰もいない病室で兄の寝顔を眺めるうちにまた蘇ってくる。
『お前は兄貴や周りの奴らみんなにだまされている』
だったら、この気持ちはなんなのだろう?どこから来たのだろう?
規則正しい寝息を聞きながら音を立てずに立ち上がる。
枕元で膝をつき、そっと前髪に触れてみた。
感触のないこの手は、細心の注意を払わないと兄の顔にキズをつけかねない。
怪我のせいで熱っぽいのか、額にうっすら汗が滲んでいる。
口が少し動いた。声にならない寝言を言っているのだ。
なんの夢を見ているのだろう?
動きを止めて兄の様子をうかがった。
《ア・ル》かすかに動いた口は確かに弟を呼んでいた。
「にいさん、」
無意識にその唇を指でなぞった。
こんなにも愛しくて、大切な存在
この鎧の体が作られたもので、この心が作られたものだとしたら、この気持ちは・・
この気持ちも兄が作ったものなのだろうか?
この体になった時にはすでにこの気持ちは持っていた。
記憶の中の昔の自分もこの気持ちは持っていた。
これが兄によって作られたとしたものだとしたら・・・それなら・・・それでいい、
望まれているんだとしたら、このうえもなくしあわせなんじゃないだろうか?
「にい・・さん」
「・・・ん」
低く呼びかけながら唇を愛おしく撫でていると、兄の意識が緩く覚醒した。
やはり薬のせいか、半分夢の中だ
「すきだよ、」
額が当たらないように角度を変えてそっと鎧の口の部分を押し当てた。
自分のされている行為が判っているのか いないのか、いやがることもなく、ゆっくりと瞬きを
繰り返している。
反応がないのをいいことに、掛け布団の中に手を入れ、パジャマの裾から包帯の隙間に見える肌にふれた。
「んっ、冷、た」
鎧の手は体温を持たない、微熱のある体にはさぞ冷たかろう
包帯の上に手を移動させ、口づけていた部分を少し押しつけながら唇の端をもう片方の手で触れる。
まるでひな鳥のように口を開けた兄にさらに口を押しつける。
「あ、ふぅ、」
開いている口の中に指を入れ、布団の中ではほんのり人肌にあたためられた鎧の手をもう一度肌に
這わせてみる。ひくりと兄の喉が上下した。
きつく包帯を巻かれている兄の脇腹にじわりと赤いシミが広がってきていた。
鎧に魂をつなぎ止めているものと同じ物質。
それがとても愛おしかった。
とまどうことなく布団をめくり、包帯の上からその傷口に触れた。
「うぁっ!」
痛みが電流のように兄の体を駆けめぐる。
目に涙が浮かんできた。
「ア、ル、なに」
執拗にキズ口の上に指を這わすだけで答えない。
やがて赤い色が白を染めていく。
包帯をなぞっていた指が濡れて光り始めた。
「こんなに綺麗なのに、ぼくに付けば黒にしか見えない、何でだろう」
いつもと違う弟に兄の背筋が寒くなる。
「ごめんね、いたい?」
こぼれそうな兄の涙を指でぬぐったら、青白い兄の頬に赤い筋が入った。
「・・綺麗だよね。」
その手を頬から首筋に滑らす。赤い筋がかすれてのびた。
「やめ、」
びくんっと兄の体がはねた。怪我のため、全身が敏感になっているのかもしれない
「味わいたいのに、」
朱の入った喉元を見つめる。
意味の込められた言葉にゾクゾクと背中を駆け上がるものがある
次第に兄の体の熱が別の熱に代わり始めた。
「な・・に、言ってんだよ、どうしたんだ?」
さりげなく体をずらして体制を変えるが、弟はその体の変化に気づいた。
「にいさん、僕に欲情してくれてるの?」
「バカ言うなっ!お前が変なこと言うからだろっ!」
「・・・でも、」
「やめろって、ばか、触んなっ」
片腕の機械鎧が動かない今、左腕一本で弟に抵抗することは難しい
よじるだけで走る激痛に体が動かなくなり、弟の手を拒みきることができなかった。
「や、めろ、アル、うあっ」
「あんまり動かないで、キズに悪いから」
だったらやめろよ、と兄は目で訴えるが、弟は放す気配もない
異常な行動を取る弟に、何かあったのだろう事は判るが、今それを聞き出せる状況ではなかった。
兄を解放することに弟は集中している。
「も、や・・ぁ」
必死に抑えてはいたがこらえきれずに小さく声がもれ、弟の手を濡らした。
こらえていたぶん、息が荒い
「このばか!・・・なにすんだよっ!」
涙目で睨むが弟にはそれが愛おしくてならない
「何がかなしくて、弟に、イカされなきゃならねんだよ、」
はずかしすぎて、悪態をついてごまかそうとするが、弟の行為は止まらなかった。
「・・アル?なに・・やめっ」
起き上がろうとした兄のあごから口を弟の大きな左手が抑えつける。
指の間から弟の行為が見えた
激痛に耐えながらも足をばたつかせて行為をこばむが、右足が弟の丸い背中に当たって
ゴンゴンと響くだけだ。左足の機械鎧でのぞき込む頭部を押しやるが、脇腹の傷口が開いた感触に
唇をかんだ。
ここに来て兄は何故いま、こんな事になっているのか、かすむ頭で考える。
弟の凶暴な変容ぶりの理由を考える。
「ひやっ、やっ」
後ろの入口に指があたっていた。
全身に緊張が走る。
年相応の肉体に対する好奇心なのか、自分ではわかり得ないものに対しての?
だとしたら、その行為を許せるのは自分しかいないのではないか?
これは弟の肉体を奪ってしまった自分の罪の代償なのだろうか?
弟の指がゆっくりと体の中に押し入ってくる。
唇を噛みしめてその違和感と激痛をこらえた。
しかし、こらえてもこらえても、涙は止まらない。
拒むことはできない、自分の罪だから・・・
「にいさん、にいさん、」
呼ばれてそっと瞳をあける。
下腹部が苦しくて息もできない
「ごめんね。苦しい?」
「くっ、はぁ、」
そう思うならやめろと言いたかった。
が、顔にかかっていた弟の手が愛おしそうに兄の頬を撫でたから、兄はまた涙を流すしかなかった。
2,3度動いた体内の指が内壁のある部分をすりあげた時、瞬間こわばった兄の変化を
弟は見逃さなかった。
慎重にその場所を探り出す。
「やめ、アル、だめだ!」
金属的な刺激が神経を走り抜け全身を駆けめぐる。
「うぁっ、や、だ、アルッ!アルッ!!」
「にいさんっ」
激痛よりも勝る快感に、力任せに身をよじる。
「やめ、アルッも、」
強すぎる感覚が視界にスパークをちらせ耳鳴りも呼んだ。
しかし弟にやめる気はなかった。さらに兄を責め立てる。
「は、あぁっ、」
「だめだよ、まだ」
キチキチに張りつめた兄の根本に指を絡ませ押さえつける。
「ねえ、にいさん、ぼくはにいさんが好きだよ。この気持ちもにいさんが作ったものなの?」
「やめ、はなせ、」
朦朧とする頭では弟の言っている意味がまるで理解できない
一生懸命弟の言葉を反芻して内容を理解しようとするが、それを阻むように弟が内部を刺激する。
そのたび無意識に体が跳ね上がる。
「記憶もにいさんに作られたものなの?」
「なに、いって、んか、わかんね」
ぶんぶん首を振っている兄を見て、さすがに弟は手をはなし、ひときわ強く兄を貫いた
「ああぁっ」
いきなりの解放に兄の背は弓なりに反り返り、勢いよく排出されたものはその胸を濡らした。
「おまえ、」
昨夜の行為ですっかり傷口が開き、再度輸血かとあわてた病院関係者に問いただされても、兄は
《出歩いた》の一言で終わらせた。
部屋の片隅で座り込んでいる弟も尋問されたが、《弟は関係ない》の一喝で誰もが口を閉ざす。
「昨日、なんか聞いていたよな?」
一段落付いた頃、兄の言葉に弟はゆっくり視線を向ける。
あの尋常でない行動に出たのは、その、兄に投げかけた疑問がきっかけだと思うのだが、
どうしても思い出せないのである。
「ん、なんでもないよ。」
「んなはずは!」
弟の視線が兄を止めた。
立ち上がって歩み寄る弟の姿に動揺を隠せない。
「・・食べないなら、下げてくるね。」
朝食はほとんど手をつけていなかった。もうすぐ昼食が運ばれてくるだろう。
黙って部屋を出て行く弟に声をかける術はなかった。

黒アル万歳!鬼畜アル万歳!嫌いな人は・・見てないよね。
しかし、黒アルと流血兄が書きたかったために、目的を果たしたら、後はなにをすればよいのか
わからなくなってしまって、山なし、落ちないし、意味なし。これでも、やおいになるのかしら? |