誰のイヌ?


「おめでとう。これで晴れて軍の狗だ。そして、国家錬金術師に与えられる二つ名・・・君が背負うその名は 鋼の錬金術師

「なーんてかっこつけやがって、人のこと犬っころ扱いだぜ、いけすかねーな、」
 急遽契約した古アパートはまだ何も家具など入っていなかった。
 その寒々とした部屋の中に唯一備え付けだったこちらも古ぼけたベットに兄エドワードはどっかと腰を下ろした。
 その腰元で国家錬金術師の証である銀時計が金属音を立てる。
「しかたないよ。世の中等価交換が原則なんだから。それよりさ、銀時計の他になんかくれたよね。なにもらったの?にいさん。」
 脇に投げ出した袋の中にはマスタング中佐から渡された書類と小さな薄い小箱が入っている。
 小箱は中佐からのプレゼントだと聞かされていた。
「あ?」
 弟アルフォンスにいわれるまで気にもとめていなかったそれを袋から取り出してなにげに振ってみる。
 重量はそれほどでもなく、動くスペースがないのか、中でほんの少しカタカタ揺れるだけだった。
「なんだろ?」
 面倒くさそうに開ける兄の手元を弟はワクワクしながらのぞき込んだ。のぞき込んでいて、中身を見たとたん固まった。
「なんだぁ−?首輪?ものっすげー嫌みな野郎だな!」
 中には紅い牛革のベルトに細かな装飾が施してあり、銀で出来た軍の狗のピンズが埋め込まれている。一目で高級品とわかった。
「なんだよ、洒落か?ひとの税金使いやがってこんな無駄遣いしてんのか?軍の奴らってのは。」
「・・・にいさん、それ、特注品って、言っていたよね。」
「ん?ああ。」
「軍からの支給じゃなくて、中佐からのプレゼントだとも言っていたよね。」
「だったな。んじゃ、ヤツの金で買ったもんなのか?」
「・・・にいさん!」
 座っている兄の肩に弟が両手をかける。硬いベットがギシリときしんだ。
「まさかと思うけど、・・・中佐の前で、そんなものはめないよね・・・」
 地を這うような声で弟が問いただしてくる。
「お、おう、あたりまえだろ?あんなヤツの冗談なんかをまともに受けたら最後まで笑いものの種だぜ、、、、
ところでアル?・・・お前何怒ってるんだ?」
 滅多にへそを曲げない弟だが、一度怒ると、母より怖かった。雰囲気だけで、無条件にご機嫌を伺ってしまう。
「今度から東方司令部には僕も着いていくから。」
「え?いいよ、一人で行けるって」
僕もついて行くから!
 額に角が刺さるほど詰め寄られては、頷くしかなかった。


「にいさん、首輪は置いてきたね。」
「あぁ、」
「中佐の執務室には絶対に一人で入っちゃいけないよ?」
「あぁ?」
「中佐以外誰もいなかったら、ドアは開けておくんだよ。」
「お前、何心配してんだ?」
「絶対に、二人っきりになっちゃだめだからね?」
「・・・・・あのなぁ、」
「返事は?!」
「お、おう、」
「んじゃ、行ってらっしゃい。」
「あぁ、」
 昨日から様子のおかしい弟に首をかしげながら兄は中佐の部屋へと入ってゆく。


「早速来たな。鋼の。ん?ドアくらいきちんと閉めたらどうかね?」
「ここには、あんた一人か?」
「今日はそうだが、それがなにか?」
「んじゃ、ドアは開けとけって、弟が・・・」
 職場に弟のことを持ち出すのも変だよなぁ、と今頃口ごもってみたのだが、中佐はたいした気にもとめていないようだった。
「そうか?ふむ、まぁいい。ところで私からのプレゼントは気に入ってもらえたかね?」
「わきゃねーだろっ!!犬なんて飼ってねーよ」
「そうか、似合うと思ったのだがね。」
「わけわかんねーよ。それより、今日の用事はなんだよ。」
「別にない。」
 きっぱりと言い切った。
「はぁ?なんだそりゃ!」
「上司の命令に即答するかどうか、試しに呼んでみただけだ。」
 エドワードの拳がぷるぷる震える。
「・・・あぁそうかい、『呼び』の訓練ってわけか。けっ、用がないなら帰らせてもらうぜ。」
 勢いよく踵を返したその背中に中佐が声をかける。
「弟君に、よろしくな。」
 何とも意味ありげな声音に眉間に皺を寄せながら振り向いたが、そのまま部屋をあとにした。

「にいさん!!」
「おう、」
「中佐、何の用だったの?」
「べつに、呼んだだけだってよ。ムカつくやろうだぜ。あと、帰り際にお前によろしくっていってたぜ。」
 ふと、弟の動きが止まる。
「?」
「・・・ふーん、んじゃ、僕からもよろしくお願いしますって言っておいてね。」
「あ、あぁ、」
 心なしか弟の声が温かくないように思えて、エドワードは首をかしげながら帰路についた。


「こんな感じで、だいたい必要なものはそろったかな?」
 東方司令部を出た後、借りたアパートでの滞在用に数個の調理用品と食器、食材、寝具類等を購入した。
「あ、あと、ちょっとそろえたいものがあるから、にいさん先に帰ってて、」
「なんだよ、待っててやるから行ってこいよ。」
「んー、結構あちこち探さなきゃないから・・・にいさん、もう疲れたでしょ?」
 ね?と言われては、帰るしかない。持てるだけの荷物を持って、帰ることにした。
「迷子にならないで、まっすぐ帰るんだよ!」
「わぁーってるよっ」
「寄り道しちゃ、だめだからね!」
 結構離れているにもかかわらず注意してくる弟に周りの人たちがくすくす笑う。
「うっせー!わかってるっつーの!!」
 あいつは、過保護すぎるんだとか、ぶつぶつ言いながら遠ざかる背中を見ていたアルフォンスは、兄とは反対に商店街の方に足を向けた。


「なにやってるんだ?」
 買ってきた物も片づけ、シャワーもすませ、あとは錬金術の本でも読みながら寝るだけという時に、弟が机の上で
ごそごそと何かをやっていることに気がついて、後ろからのぞき込んでみた。
「ん、僕からのプレゼントを用意してみました。」
「プレゼント?なんの?」
「にいさんの就職祝いと、僕たちのこれからのために。」
「?」
「まあ、見てて」
 机の上には錬成陣。その中央に牛革、染料の粉、数本のシルバーチェーンとその他の金属。
「んじゃ、」
 弟が両手を錬成陣の端につく。短い錬成反応の光。中央にできあがったものは。
「んなっ!!」
 先日見たものよりも一回り小さめの・・・同じようなもの。
「何だよ、お前まで・・・」
「プレゼントだよ。」
「・・・だから、俺にどうしろってんだよ、こんなもん・・・」
 明らかに打ちのめされている兄が、渡されたベルトを持ってうなだれた。
「これは首に付けなくてもいいんだよ?だいたい、中佐がくれた、あんなごついもの、にいさんには重たすぎるよね。・・・
趣味丸出しだよ。
「ア、アル?」
「これくらいなら、腕につけても、靴につけてもさまになるから。ね。」
 兄は明らかにイヤそうな顔をして、眉間に皺を寄せる。
「金属の配列を組み替えると軽いけど結構硬度の高い物になるから、万が一の時はにいさんが錬成し直して、武器として使ってね。」
「武器・・・なのか?」
「そうだよ。何だと思ったの?」
「あ、いや、その。・・・ありがとな。」
「どういたしまして。」
 顔を見合わせて二人でへへっと笑う。
 (にいさんの首は細いから、あのくらいの大きさで充分なんだよね。そのうち遊ばせてもらおーっと)
 弟の心、兄知らずである・・・


 後日、
「おはよう。鋼の。今日は調査してきて欲しいところがあって、君を呼んだんだが。」
「はいよ。何でも屋の国家錬金術師参上!んで?どこだって?」
 地図を広げているマスタング中佐の机にエドワードが手をついた。カチャリと軽い金属音がする。
「ん?なんだね?それは。」
 エドワードの左手首に見えるのは、深い青に渋めのシルバーが入ったベルト。さりげなくフラメルのマークが主張されている。
「アルが護身用にくれたんだ。」
 兄は無邪気に笑う。
「・・・ほぅ、」
「あ、そうそう、中佐によろしくお願いしますって言ってたぜ。」
「そうか、・・・
宣戦布告というわけだな。
「あぁ?」
「いや、こちらの話しだ。では、任務の目的地だが・・・」
 がんばれ!鋼の錬金術師!旅の先は長いぞ!!

 

言わずもがなの、日記首輪事件から生まれた妄想です。
やまなし、意味なし、落ち無しのくせに、エロもない・・・こんなんで、いいのかしら・・・