宴会
僕は今、宴会のまっただ中、兄さんの隣に邪魔にならないように座っている。
ここは飲んで食べて楽しく騒ぐ所だから、僕がいるのは場違いだって事は分かっているけど、兄さん一人で大人達の中に入れておくのはやっぱり心配だったからついてきてしまった。
事の始まりは、今日のお昼に仕事の依頼で呼ばれたときにだった。
「じゃあ、今の件は年内中にまとめておいてくれ」
「はいはい、めんどくさいけど、やっておきます。んじゃ、」
「あ、そうそう、今夜暇か?」
帰ろうと、踵を返した兄さんを大佐が呼び止めた。
何となく、嫌そうな表情をする。
「仕事のはなしか?」
「んー、そうとも言うな。そろそろ年末なんでな、忘年会をやるんだが、」
「忙しいんで、あんたらの道楽につき合ってる暇はない、」
「そう言うな、こんな機会でもないとみんなに会う事なんてないだろう?上の方にも君の活躍の噂が流れていて、一目会いたいと言われているんだが」
「そうそう、アフターファイブも立派な仕事のうちなんだぜ、」
「ハボックさん」
いつの間にか少尉が入ってきていた。
「もちろん、経費で落ちるんっすよね」
「んー、まあな」
「やったー、飲みだめするぞぉー」
仕事の書類を大佐の横に控えているリザ中尉に渡すと小躍りし、兄さんの両肩をばしばし叩いて出ていった。
兄さんはすでに嫌な顔をしている。
「酔っぱらいばかりだろ?」
「そうだな、君はまだ大人のつき合いには早いかもな、小さいから」
あ、大人って、卑怯、
「んなこと関係ないだろ?顔を見せればいいんだな?わかったよ、どこに行けばいいんだ?」
ほら、やっぱり、兄さんは単純なんだから!
「そうだな、夕方迎えのものをやらせるよ。繁華街を未成年者一人でうろつかせるわけにはいかないからね。」
大佐のにやけ顔に気付いているのかな、兄さんは…
「あの、僕もご一緒しても、いいですか?」
「アル、」
「兄さん一人じゃ何をやらやらすか、心配で、」
「もちろんだ、楽しみにしているよ。」
(おまえこそ退屈だぞ、ネタにされるだけだって、いいのか?)
小声で兄さんが聞いてきた。
(兄さんを野放しにするよりはね。)
「どいつもこいつも子供扱いしやがって…」
愚痴った独り言が、まわりに聞こえてるよ、
忘年会は初めレストランの一室で行われた。
大総帥なども来ていたから大した騒ぎにもならず、殆ど顔見せのような状態で終わったんだけど、問題は場所を変えた二次会…
羽目がはずれた大人はこんなにもなってしまうのか…僕は体が戻ったら、これを反面教師として、自分の行動を慎もう…
「飲んでるか?鋼のぉ!」
「だから、未成年にすすめるなっての!!」
「ちょっとくらい、いいんじゃないのか?」
と、いいながらハボックさんは自分のコップにだけビールを注いでいる。
兄さん、何で、大佐の隣になんて座ったんだよ。何か、一番質が悪そうだよ
「ほら、お茶なら、いいんだろう?」
テーブルの真ん中にいろいろな飲み物が置いてあって、大佐はその中から一つのコップを兄さんの前に差し出した。
何で肩に腕を回す必要があるんだろ!!
「ホントにお茶だろうな」
「こういう席では出されたものは素直に飲むものだ。その場を白けさせるような発言は避けるように」
「大佐、職権乱用的発言です。一歩間違えばセクハラ行為です。お気をつけ下さい」
「リザ、君もこんな席まで堅苦しくするなよ。」
「いいんですね、無礼講で、」
「当たり前だろ?楽しくやれよ、ほら、鋼の、一気に飲んで楽しくやれ、」
兄さんが、うー、と もらったコップを睨み付けていたら、横の席でどっと、笑いが巻き起こった。
「隠し芸、いっちばーん、ジャン・ハボック!ニワトリのまね、いっきまーす!!こっけこっこー!こーっこっこっ!ぽん!!」
指を口に入れて勢いよく出して、ぽん!と音を出している。
何が楽しいのか、周りの人たちはお腹を抱えて笑い、涙を流して笑っている人もいる、
「おれおれ、にばーん、マース・ヒューズ行くぜぇ!中尉のまね!大佐は無能なんですから!!」
「おおぉ!!」
拍手喝采である。
「お前等!」
わっ、大佐が立ち上がった!!
「俺のいない所で俺の話題で遊ぶな!!しかも!俺は不能ではなーい!!」
「ぎゃはははは!!」
みんなばんばんとテーブルを叩いて喜んでいる…
つき合いきれないよ…でも、兄さんを置いていくわけにも行かないし、
「あ、」
兄さんが堪らずに、もらったコップを一気にあおった!
「おお、いい飲みっぷりだな、もっと飲め、どうせお茶だ!」
大佐が兄さんのコップに継ぎ足している。ホントにお茶なんだろうか?
「に、兄さん、大丈夫?」
「んぁ?」
に、兄さん、顔が赤いよ!
「大丈夫だ、お茶だから」
何か、言葉がヘロヘロしているのは僕の気のせいかな?
「何か、食べた方がいいよ、食べて誤魔化しなよ、」
「さっき食ったから、腹はいっぱいだ。悪いな、アル。退屈だろ?」
「僕はいいけど、兄さん、そろそろ帰ってもいいんじゃないの?」
「こら、兄弟で、何をこそこそ喋っているんだぁ?アルフォンス、お前もデカイ図体を縮こまらせてないで、一緒に楽しめ。ほら、飲んで」
「無理言ってんなよ、この酔っぱらいめ!」
大佐が僕に差し出したコップを兄さんが横から取り上げた。
「あ、」
「お?」
「ぷはーっ」
「いけるじゃないか、どんどん飲め」
「に、兄さん」
「エドワードさん、飲み過ぎです、大佐も、いい加減にしてください、子供相手に何を盛り上がっているんですか?」
「リサ中尉、兄さんが飲んでいるのは本当にお茶なんですよね。」
「ウーロンハイです」
「ひぃっ、に、兄さん、兄さん、もうやめなよ、だめだってば!!」
「ここの店はかなりケチなので、ものすごく薄いですがね。」
薄くたって、兄さんはお酒なんて殆ど飲んだことないのに、死んじゃうよ!
「お、鋼の錬金術師さんも、程良い加減になっていますねー、ここいらで、何か出してみてくださいよー、」
大佐の向こう側から顔を出したのはケイン・フュリー曹長。
「馬鹿ヤロー、錬金術は等価交換だぁー、手品じゃないんだぞー、何もないとこで、何か出せるかってんだー!!」
語尾が全部のびてるよー兄さん、もう帰ろうよー
「何を言う、それは君が力不足なんじゃないのか?私なんか、指パッチンでなんだって火を点けられるぞ」
止める間もなくぱちんとならした指先から、コップに火種が飛んで、大佐の持っていたコップに青白い炎が灯った。
「おぉ〜」
美しさに感嘆の声が上がる。
「んなの、錬金術でも何でもねーよ、練金ってのはこうすんだ。」
パンと軽く手をうち鳴らしたかと思うと、兄さんの手元にあったフォークが銀色の小さな自転車になった。
「何だと、ではこれでどうだ。」
今度指を弾くと、別のコップに、二つの火が灯った。それはまじることなく、別々の色をした小さな炎。
「きれー!」
「素敵ねー」
「さすが大佐だわー」
女性陣のハートをくすぐったようだ…
どうだと言わんばかりに胸を張る大佐。
「成分別に燃やしているんだ。錬金術は芸術だよ、さらにこんな事も出来るが…」
持ったコップをくるりと回すと、さらに色とりどりの火がコップの中で回りだし、歓声が上がった
「にゃにおぅ」
見下したような大佐のほほえみに兄さんが立ち上がった。
パン!!両手をテーブルに突いた。と、テーブルが変形し出す
ごごごごごっ
「うわっ」
「きゃー」
轟音が止まると、テーブルの上には川が流れ、水車小屋が出来てくるくると回っている。川は琥珀色していて、この場にあったお酒らしい。周りには噴水や、マーライオンなど、全てお酒が巡回していた。
「お客様、一体何事ですか?うわぁ!!」
騒々しさに様子を見に来た店員さんがひっくりかえってしまった。
「にいさん、まずいよ、やりすぎだよぉ」
「なかなかやるなぁ、それじゃぁ、この水全てに火を」
大佐が立ち上がった
「わぁー!!」
一気に酔いが醒めたのか、みんな一斉に逃げ出した!
「冗談じゃないよ!!お店が丸焼けになっちゃうよ!」
「いい加減にしてください!!」
すぱこーん!!と小気味のいい音がして、大佐の顔面に張り扇が炸裂した。
リザ中尉、いつの間にそんな物を用意していたのかな?大佐につっこみ用?もしかして、普段も持ち歩いていたりして…
「って、そんなことより、兄さん、早く元に戻して!!」
「んー、めんどくさい、アルやっといて、」
「ひぃー、ひどいや兄さん、寝ちゃわないでよ!兄さん!にいさんってば!」
ここ全部に錬成陣書くなんて、複雑すぎてわかんないよ、
「ちょっと、失礼します」
「あ、」
スパパパパーン!!
リザさんの張り扇が兄さんにも炸裂した…
「いってぇー」
両頬がみるみるまっ赤になっていく…そりゃ痛いだろ?
「一人前の人間として、自分のやったことには責任を持ってください!!」
「へいへい、それっ!!」
パンッ!
同じように、前の状態にほぼ戻った。と、同時に店員さんが店長を引っ張ってきた。
「なんともないじやないか?」
「えっ?あれっ?さっきまで、川がざぁーっと、あれ?」
「君、働き過ぎかね?今日はもう帰っていいよ。」
「えっ?あれっ?あれ?」
ふぅー、危機一髪…
「ふむ、ここでの勝負、常識のある私の負けだな、」
「どこがっ!!」
満場一致で全員がつっこむ
「どれ、私から、一人前の君にプレゼントだ」
「えっ?」
しまった、出遅れたっ!!
「兄さん!!」
兄さんは大佐に顎をがっちりホールドされて、く、くちづけされている…
じたばたしていた兄さんの両腕が「ぱー!」の状態で固まった。
ゴクリと皆の喉が兄さんの喉と一緒に上下する。
「ぷはっ、どうだ、最高級の酒の味は!」
「大佐、何を飲ましたのっ」
「げほっ!げほっげほっ、あちーっ」
「ウオッカの最高級品だ!寒い国のものでな、アルコール濃度が高くて、車の燃料にもなるほどだぞ。」
「喉が焼けるー!!いてぇー」
兄さんはノドを抑えてのたうちまわっている!
「兄さん、水だよ!飲んで!!」
ちくしょう!ちくしょう!ちくしょう!!油断したっ、兄さんのファーストキスなのにっ!!僕には水すら飲ませてあげることも出来ないのにっ!!
「貸して、」
リザ中尉が僕の手からコップをもぎ取った。
「おおっ」
大佐の時とは違う歓声が上がる
あぅー、兄さんのセカンドキスもとられたぁー
二度、三度と水を口に含んでは、兄さんに飲ませている…もう、カウントも無意味だ…
「出せれば、出した方がいいわね。体に良くないから…出来る?」
「…はい、」
ぐったりした兄さんを受け取る
「このヤローは後できっちりとっちめておくから、」
「…よろしくお願いします」
横で、すでに大佐もひっくり返って高いびきをしている。
リザ中尉の殺意のこもったにっこりの笑顔に、背筋が寒くなった…
酒は飲んでも飲まれるな、だよ、大佐。
僕も、許さないけどね。
「兄さん、大丈夫?」
「うぇー、最悪だー、」
さっきトイレですっかり出してきたんだけど、やっぱりすぐには復活しないだろう。
「服を脱いで、横になって、ほら、しっかり」
「アルー、いつもすまねー」
「兄さん、それは言わない約束だろ?」
ぷっ、二人して吹き出した。
「うえーっ、アルー、気持ちわりー」
「まだ水を飲む?トイレ行く?ちょっとまってて、」
水持って来よ
「いらねー、ここにいろ」
「兄さん、」
ふー、と息を吐く兄さんに、思わず息を飲んだ…
首まで桜色の肌。薄く開いた唇。腕を額に乗せて胸を上下させている。
見、見てらんないよー!!僕、やばい!!心臓ないのに、バクバクしている!!
「や、やっぱり、水」
「いいって、」
「!!」
兄さんの右手が、僕の腕を捕まえた…
額に乗った左腕の下から兄さんの熱を帯びた瞳が僕を捕まえている…
えっ?なに?
「…アル」
そんなに、色っぽく見ないでよ!僕、今やばいんだから、
「冷たくて気持ちいい…」
僕の手を引っ張っていって、頬ずりしている。もしかして、誘ってるの?
「兄さん!!」
僕、もう限界!!
がばっと兄さんを抱きしめる!!
ちっちゃい体が何の抵抗もなく僕の腕の中にすっぽり収まった。
「兄さん!兄さん!!世界で一番好きだよぉ、可愛くて、生意気で、優しくて、もう、我慢できない!!」
抱きしめた背中のシャツの下に手を滑り込ませてなで上げる。兄さんの肌。感じたいよ、
「んんっ、」
くぐもった声が兄さんのノドから漏れる。
首筋から、丸い頬まで撫でて、キスしようとしたら、兄さんの頭が、くてっと横に逸れた…
「にい…さん?」
「ぐかーっ」
………ひどいよ、兄さん………僕の恋心は、どこにいけばいいの?…
「はぁー、」
寝ている兄さん相手に、これ以上何も出来るわけないよ、体があれば話は別だけど…
早く元の体に戻りたいよー!!しくしくしく………

大佐ファンの方、ごめんなさい
どんな場所の設定だよっというつっこみも、勘弁してください
つい、勢いで書いてしまいまいました。