お礼の挨拶

「俺は、空に大切なものを見つけました。それを守るためなら、なんだってします。
あなたに、必ず帰ってくる、とは約束できません。」
 敦子の姉の律子が解かっていたと言う様に、運河を見つめたまま溜息をついた。
「やっぱり、あなた達みたく高いところにいると、私達には見えない何かを見つけてしまうのね。」
「あなたは、心を削って帰りを待つ事にはもう耐えられない。俺には、あなたに安息を与える事は出来ません。」
 すみません、と頭を下げる梶尾に律子はゆっくりと視線を向ける。
 その瞳は、涙にぬれていたが、梶尾にはその瞳を見つめ返すことが出来なかった。
「それでもね、待っていたかった。…でも、そこにあなたの心がなければ、意味がないものね。」
 ふう、と大きく息をつく。大切なものを切り捨てるように。
 梶尾が持ってきた花束は、夫が散った空の下の運河に放たれた。
「最後の思い出に…キスを一つください。」
 頭を下げたままの梶尾が驚いて顔を上げると、一生懸命作り笑いしている律子を見つけた。
 有無を言わせず背伸びしてくる律子の視線に、自分のを重ねる。最初で、最後の挨拶。
 
 
「どうしたの?」
「いや、その、あの、えっと、…いやぁ〜」
 梶尾が敦子の姉の律子に会うと聞かされて、どうしても心配だった我夢が、木陰に隠れながら様子を覗いてたのだが、
まさか、梶尾のキスシーンまで目撃してしまうなんて思ってもいなかったのである。
 地上に降りると言った我夢にどうしても付いてくるといった、アルケミースターズのキャサリンが、一人でじたばたと赤くなっている我夢の
不審な行動に目を丸くした。
「あんなの、挨拶ジャナイの。そだ、あたしもしよう、ありがとう、って、」
 まだパニクっていた我夢の頬に口付けたキャサリンに我に返った我夢が納得する。
「え?そっか、挨拶なのか。あービックリした。浮気現場目撃かと思って、あせっちゃったよ。」
「ナニ?なんていったの?ん〜、でもぉ、私も我夢の口に、挨拶したいなぁ」
「えっ?えぇぇぇぇぇぇぇ;;」
 我夢より長身の身をかがめて、上目遣いでいたずらっぽくチロリとのぞいた舌先が形のいい真っ赤な唇を舐めた。
 その吸い込まれそうな仕草に、我夢がしり込みする。
「ねえ、いいでしょ?」
「い、いいいいぃぃ、よくなぁい」
 慌ててバタバタと、逃げだす我夢に置いてきぼりをくらったキャサリンは頬をぷーと、膨らましていた。
 
「一人で何パフォーマンスしているんだ?」
 逃げ出したはいいが、梶尾に見つかりそうになって、慌てて踵を返して走り出したところ、木の影から延びた腕にいきなり捕まれて、
悲鳴を上げそうになった。
「ふ、藤宮ぁ、びっくりしたぁ」
「なんだ、レイプでもされそうになって逃げてきましたって顔しているぞ。」
 そんな情けない顔をしていた。
「や、そんな、それ程では…」
 口ごもる我夢の左頬を見て、当たらずとも遠からずだと知る。
「立派な勲章だな。」
「こ、これは、挨拶だから、」
 藤宮の視線に気が付いて、キャサリンの口紅がついているだろうところを左手でゴシゴシ擦ると、その手を藤宮が止めた。
「やめておけ、のびて、余計目立つ」
「えっ、」
「落ちづらい口紅だろう、きちんと取らないと荒れるぞ」
「えぇー困ったなぁ、って、藤宮、随分口紅に、詳しいんだ。」
「俺は、全ての事に詳しいんだ。」
 しれっと言う藤宮を疑惑の目で見る我夢に、藤宮が切り返す。
「挨拶か、俺も、ガイアには随分助けてもらっているから、お礼のキスでもするか。」
「えっ、それは、僕だって、一緒だから、相殺、ということで」
 どこから見てたんだぁー!と叫びたくもなりながら、ギクシャクとその場を後ずさる我夢ににやりと藤宮が笑う。
「相殺?そんな言葉、聞いた事もないなぁ」
「う、うそばっかりだぁー」
 



戦友
 
(我夢がウルトラマンだったなんて、何であいつは黙っていたんだ!何で俺は、気がつかなかったんだ!!)
 考えても、考えても、何故、どうして、ばかりが頭の中をぐるぐる回って、まともに思考がまとまらない。
(コマンダーは我夢がそうだったことを知っていたみたいだ、なのにおれは!)
 怪獣と肉弾戦をするなんて、あの性格で、あの体格で、つらくなかったはずはないのに、そんな事、おくびにも出さずに、あいつはっ!
(待っていろ!今行く、お前一人につらい思いはさせない!)
 新しく開発されたファイターに乗るべく格納庫に向かっていた梶尾の頭の中は、我夢の事しかなくなっていた。 
「梶尾さん!」
「!」
 呼び止められて我に返ると、格納庫の入り口には北田と大河原が待っていた。
 我夢の痛みをわが身に感じていた梶尾は、北田の顔を見て唇をかみ締めた。
「梶尾さん!」
 大河原は、梶尾が我夢の事で傷ついていることを察して、声をかけかねていたのだが、北田は、まっすぐに梶尾を見詰めていた。
「高山さんは、梶尾さんに気を使って欲しくなくて、必死で自分の事を隠していたんだと思います。」
 北田の声は、確信を持っていた。
「初めから、自分はウルトラマンだから、XIGに入隊させろと言っていれば、きっとみんなと友達にはなれなかったんです。
それが嫌だから高山さんは隠していたんだと、俺は思う。だから、梶尾さんが責任を感じる必要は、まったくありません。
ここまで秘密にしていた高山さんの気持ちを考えてください。」
「北田…」
「だから、あなたは高山さんの友人として、いつものように戦ってきてください。」
 北田の言葉で、梶尾の胸の中に固まっていたものが簡単にほどけていく。
「そして、必ず無事に俺のところに帰ってきてください。」
「…あぁ、」
 解きほぐされた心が、素直に帰ってくることを約束できる。この男の元へ…

 新しく開発されたファイターは一機のみ、シリアルベースも落とされた今となっては、新しい機体を量産できるほどの
余力は残っていなかった。
「大河原、ちょっと後ろ向いててくれないか?」
「ほいほい、」
 北田の願いに大河原は後ろを向いたまま、二、三歩離れた。
「おまっ」
 (ほんとうは、一人でなんか、行かせたくない!)
 わめき散らしたくなるのを噛みしめ北田はまっすぐに梶尾を見つめたまま口付ける。
 すぐに離れると思ったそれは、いつもよりも深くて激しくて、梶尾は慌てた。
 それでなくとも、すぐ傍に大河原がいるというのに、何を考えているのかと、体を引いて逃れようとするが
北田は梶尾の頭を捕まえて放そうとしない。
 きつい口づけが、どんどん梶尾を追い詰める。
「ん、ぁ」
 永遠に続くかと思われたそれが解放されたとき、思わず梶尾の喉から声がもれた。
 後ろの大河原はたまったもんじゃない
「この頃、ホントに気持ちよさそうな顔するようになってきましたよね、」
 にっこり微笑んだ北田に、梶尾は憤死しそうになる。
「ばっか、やろっ」
 すでに涙目になっている瞳で睨まれてもまるで迫力がない。
「…、っちまっただろうがっ!」
「じゃあ、続きは、帰ってきてからということで、」
 声はふざけているとしか思えないが、見つめる瞳は息を呑むほどに真剣で、懇願していた。
「あぁ、思いっきりな!」
 今度は梶尾から、北田の首に腕を回して口付ける。
「あー、ちくしょー、俺も早く両思いになりてぇー!!」


 
 


戦闘機

 
 我夢が、何故、あれほどまでに藤宮博也に執着していたのか、ここになってやっと納得した。

(奴がもう一人のウルトラマンだったんだ。)

 我夢がガイアだったというだけでもかなりのショックだったのだが、梶尾にとって藤宮博也が
青いウルトラマンだったというのは、さらに衝撃を受けた。
 何度か対峙していた梶尾の彼に対する印象は、最悪のものだった。
 弟のような、子分のような可愛い我夢が自分以上になついている相手というだけでも腹が立つのに、
それが、テロリストとまで呼ばれるほどの反逆分子なのだ。
性格もかなりな俺様だし、口を開けば全てが喧嘩腰、なんであんな奴になついているのか不思議でならなかったのたが、
こういう訳だったのかと、溜息が出る。

 まして、自分は、青いウルトラマンに命を救われている。借りがあるのだ。

 テレビがウルトラマンの正体を報道してから、藤宮は我夢の強い希望もあって、XIGの面々と行動をともにしている。
 青いウルトラマンが藤宮博也だと解かってしまった以上、
一言礼を言っておかなくてはならないだろう。
 
 思いっきり不本意ながら…
 
「また梶尾さん、なんか悩んでるんすか?」
 眉間に険しいしわを刻んでいるのを見て、後ろを歩く大河原が溜息をつきながら北田にたずねる。
 いつもの事なので、北田も困ったように笑って見せた。
 その時、タイミングがいいのか悪いのか、迎え側から藤宮が一人で歩いてくる。
 嫌な事は早く済ませてしまおうと、梶尾は意を決して、すれ違う藤宮に声をかけた。
「その、いつぞやは、助けてもらって、感謝している。」
 突然の事に、藤宮は面食らった。
「…何を気色の悪い事を言っている。」
「俺もそう思うが、お前に命を救ってもらったのは事実だ。借りを作ったままでは、寝覚めが悪い。
とりあえず、礼をいっておく。
あとは出来るだけ、お前らのバックアップをさせてもらうから」
 たどたどしく言う梶尾を 藤宮は黙って見つめていた。
「あのとき…戦闘機を拾ったのはお前のためじゃない。
あいつが悲鳴を上げたから…お前が死ねばあいつが悲しむから、した事だ。
お前が礼を言う代物ではない。似合わない事は止めろ、周りの迷惑だ。」
 言うだけ言うと、まるでそこに梶尾が居ないかのように無視をして歩き出した。
 同じセリフを我夢が聞いていれば、もっと違う捕らえ方をしていたのだろうが、
藤宮の性格を知らない梶尾は立ち尽くしたまま、握った拳をぶるぶる震わせているだけだった。

「か、梶尾さん?」
 恐る恐る大河原が覗き込むと、真っ赤な顔をして訳のわからない事を叫び出した。
「梶尾さん、落ち着いてぇ」
 梶尾の怒りが収まるまで、二人は必死で梶尾を押さえていた。


 
 


いかがでしたでしょうか?ウルトラマンガイアの北田×梶尾編+アルファ終了です。
書いていると、また、ガイアのビデオが見たくなります。宇宙特撮ものの間に垣間見せる人間関係と恋愛感情。
あぁ、長かった…でも、楽しかったv
もし、時間とお金があまってて、何をしようか悩んだ時、ウルトラマンガイアを借りてみてください。お薦めです。