「裕太?今晩は。元気にしてたかい?」
「なんだよいきなり。……元気だけど」
9月の末、晩飯も風呂も終わらせ、寮の自室で宿題と格闘していた頃、自宅からの電話を寮長から取り次いでもらった。
こんな時間にといぶかしみながらも受話器を受け取ると耳で繋がる声は聞き慣れた兄の物。
心地よい響きとは裏腹に何故か兄への反抗心が頭をもたげ、ぶっきらぼうな返事となって返してしまう。
「元気なら良かった。今度の日曜日、何か予定ある?」
いつものごとく優しく機嫌の良い声に 悪い内容の話ではないな、と安心しつつも話の意図が理解できず
ついつい電話口で言葉少なにうなると返事を待たずに兄の言葉が続いた。
「今度の日曜日、青学の体育大会なんだ。特に予定が無かったら裕太も遊びにおいでよ。」
体育大会に遊びに来いと言うのも変な言い回しだが、要は応援に来いという意味なのだろう。
「なんだよ、ンなモノ、わざわざ行くほどの物でもねぇだろっ」
『体育大会を見に行く』=『兄の応援』と繋がった瞬間、またしても反抗心がわき起こり、意に反しての言葉が口を割って出る。
兄の勇士が見たいという小さくも大きな望みに蓋をして。
「そう?裕太が来るかもしれないからって、おかあさんも姉さんも腕に縒りをかけてお弁当を作るって張り切っていたんだけど………。
裕太が来ないなら、二人ともガッカリするだろうね。」
だてに裕太の兄を13年やっているわけではない。弟の扱いなら誰よりも慣れているだろう。核心をついてくる。
巧みな罠だとはつゆ知らず、自分のプライドと母と姉が作る豪華スペシャル弁当を秤にかけ、おまけとして先ほどふたをした自分の心を
かくして乗せると天秤は簡単に傾いた。
「………仕方ねぇなぁ、」
「じゃあ、土曜日の午後には帰ってこられるんだよね?楽しみに待ってるよ!」
ガチャン、ツーツーツー、
「あ……、」
ボソリと口から出た言葉に兄は即座に返答し、二の句を継ぐ暇を持たせずに電話は切られた。
「………ったく、しょうがねぇなぁ、」
強引な兄の電話に少し口を尖らせるも、自分の意志とは別にわずかに口元に笑みが浮かんでいた…
天気は快晴で夏を思い出したかのように朝から照りつける太陽の中、パンパンパンと体育大会開始の花火が打ち上がり、
真っ青の空に小さい白い雲を作り出す。
「あー、ねみぃ」
朝から暑い日差しの下、観客席の最前列からやや離れた所に敷いてあるシートに顔にごろりと寝ころんだ。
「なによ、裕太がいつまでも起きてこないから、こんな席しか取れなかったのよ。まだ眠いって言い張るの?」
人の背中を見る状態で座っている姉がブツブツと文句を並べる。
「まあまあ、周助の走る時だけ見えるところに行けばいいんだから、良いじゃない?それにしても、おとうさん残念ねぇ。
今年もお休みが合わなくて帰ってこられなかったんですもの、寂しがってるわ。きっと。」
万年ラブラブ夫婦には体育大会の応援座席がどこになろうとたいした問題ではないらしい。
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グランドの中心で愛を叫ぶ 1