「ン?………もしかして、不二の弟?」
兄の出番以外は退屈で仕方なく、そのままシートに寝転がっていたら、不意にむかつく呼び名を耳にし、
不機嫌さを隠そうともせずに声の主を睨みつけた。
「その仏頂面!まちがいねぇな!ひさしぶり!元気だったか?」
耳につく大声に相手の顔を見やればどこかで見覚えのある…
「………桃城?だっけ?」
「そうそう!覚えててくれた?うれしいねぇ!なに?不二先輩の応援に来たんだ?へーっ、良いとこあるじゃん?!」
テンションの高い相手に眉しかめつつバンバンと背中を叩かれ、何か言い返そうとするが次々出る桃城の言葉に
口を挟む事ができない。
「今年の不二先輩、かなり張り切っててさ、体育大会の実行委員長にまでなってたぜ?企画にかなり熱入れてたからなぁ、
あ、俺も実行委員なんだけどよ。先輩とは色別になったから、敵同士なんだよな。」
言われて桃城の頭を見れば赤の鉢巻きが巻かれている。
「兄貴は?」
「ああ?なんだよ、自分の兄貴の組み色もしらねぇのか?不二先輩は白だよ。今のところ赤が負けてるんだから、
俺の応援してくれよ!」
な?と片目つぶって肩に手をかけられても返事をしてやるのもためらわれ、「なんで俺が」と言いよどんでいると、
姿の見えなかった姉の呼び声に気がついた。
「裕太!何してるの?!周助が出るわよーっ」
声のする方に顔を向けると人混みの中から姉が声を張り上げて手招きしている。
「おおーっ、先輩のお姉さん!相変わらずゴージャスだなぁ。ン?先輩が出るって事は、借り物競走だな。これ、
ぜひやろうって企画立てたの、不二先輩なんだぜ?よっぽど借り物競走好きなんだろうかな?ほら、行こうぜ。」
「兄貴が?」
借り物競走が好きだなんて初耳だ。と思いつつも本来の目的の大半をしめている兄の勇士を見ないわけにも行かないので
促されるままに姉の元へといそいだ。
白のTシャツに紺のハーフパンツ。白の鉢巻きを巻いてにこにこと笑顔を振りまきながらも皆を先導している姿は
意識せずとも人目を引いていて、裕太も多分にもれず暫し目を奪われてからはっと我に返った。
「不二先輩!やっぱ格好いいなぁ」
感嘆と尊敬の意を込めた桃城の台詞に心の中で同意しながらも意に反した表情を作って見せた。
「敵の応援してるんじゃねぇよ。のんきなやつだな。」
「まあなぁ、けど、格好いいもんは格好いいんであって。事実はみとめなきゃなぁ。」
兄を褒められくすぐったいようなしゃくに触るような感覚をもてあまし、仏頂面のまま競技を眺めていると、さすが借り物競走、
走った選手は次々と観客の中から色々なアイテムを借りに走り回ったり、特定の先生を探し回ったりと右往左往の大騒ぎだった。
「あ、次は周助の番だわ!がんばってーっ!!おとうさんの分も応援してるわよーっ!」
年がいもなく黄色い声を上げる母。
「本気ね、開眼してるわ。」
スタート地点に立つ本気の弟の姿に姉が腕組みをしたままくすくす笑う。
テニス以外でも本気になるんだ、と何となく感心しながらも息をひそめて兄のスタートを見つめると、スタートの火薬がはじけ
一斉に走り出す。
コーナーを回って並べてある紙をそれぞれ一枚ずつ手にとって確認すると次の瞬間、選手たちはそれぞれに走りだし、
目的の物を探し回った。
しかし兄は立ちつくしたままその場から動かない。
「兄貴?」
「不二先輩どうしたんだ?」
「周助?!」
動かない兄に応援席がどよめく。
見つめる先の兄の表情が柔らかく笑みを浮かべたかと思うと、その場で兄は突然一人の名を呼んだ。
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グランドの中心で愛を叫ぶ 2