瞳にうつるもの
 
 気がついたら、僕はいつもにいさんを目で追っていた。
 
 そう、思い返してみると、僕は、いつもにいさんを見ていた。それこそ、物心つくずーっと前から。
 だって、にいさんが一番僕の側にいたんだ。
 いつもいつも僕をのぞき込んできて、僕の視界を埋めてくれた。
 だから僕は、僕の視界ににいさんがいることが普通で、いないと何とも不安になっていた。
 これって、鳥の雛に良くある、「刷り込み」ってものに近いのかな?
 そのころの僕の世界は視界に入るものしかなかった・・・
 特ににいさんは良く動いて、僕の興味の対象だったんだ。
 
 少し大きくなって、世界が広がった時、にいさんの目に映るものが僕だけじゃなくなっていることに気がついた。
 今思えば、そのときから僕は、僕の方からにいさんのに視界に入ることを望んで努力はじめたんだと思う。
 

 
にいさんがウィンリィと話していると僕も混ざりたくて仕方なかった。
 僕のわからない話題がいやで、ついていくのに必死だった。
 ウィンリィは昔から可愛かったけど、どんどん可愛くなっていって、学校のクラスの友達とかがウィンリィのことを話題にするたびに、
僕の中に焦りが生まれた。
 がさつで、乱暴者のにいさんは、学校の女の子達には人気なかったけど、そのにいさんを平気で度付き回せるウィンリィは
にいさんにとって特別な存在だと思ったんだ。
 
 そんなとき、突然かあさんが亡くなってしまった。
 
 僕たちはとっても哀しくて、さびしくて。しばらくは二人だけで、慰め合った。
 だって、この悲しみをわかってくれるのは、にいさんしかいないから。
 にいさんの悲しみをわかるのは僕しかいないから。
 ウィンリィも、ご両親が亡くなってて、同じ境遇だったから、ピナコばっちゃんが僕たちを家族のように面倒見てくれた。
 それはそれで凄く助かった。子供だけでは難しいことがたくさんあったから。
 僕たちが、施設送りにならなかったのも、ばっちゃんのお陰だと思う。
 
 だけど、そのためにウィンリィは、もっとにいさんに近い存在になっていったんだ。
 

「ウィンリィって可愛いよね。」
 にいさんもそう思っているか、聞きたくて仕方なかった。
 それこそ、毎日そればかりだった。
「はぁ?どこが?」
 眉間に皺を寄せて、心底不満そうな顔をする。だけど、僕は知ってるよ。にいさんは本当に興味のない話題を振られると、
無表情で答えるんだよね。
「クラスのみんなが言っているよ?ウィンリィは可愛いって。」
「けっ、だまされてるんだよ、あいつの見てくれに!どこがっ、あんな暴力メカおたく!」
 やっぱり、にいさんも外見は可愛いって思っているんだ。しかも、ちょっと焦っているよね。
「なんだよ、おまえ、ウィンリィが好きなのか?」
「えっ、ええぇっ?」
 す、好きって?なんか、にいさんの口からそんな言葉を聞くなんて、思ってもみなかった!!
 クラスのみんなは色々話題にしていたけど、にいさんがその話題に入ることはなかったから・・・
「そ、そんなこと、」
 詰め寄ってくるにいさんの瞳が綺麗だなぁ、とか、そのときまるっきり関係ないことを思っていたような気がする。
僕が口ごもると、にいさんはむっとした。僕がウィンリィを好きだとイヤなの?
「ちょっとー、何やってんのよー、早く帰ってきなさいよねー」
 僕たちの帰りが遅いから、先に帰っていたウィンリィが途中まで向かえに来ていた。
「ばっちゃんが、今夜はシチューだから、早く帰っておいでって言ってるわよっ」
「ばっちゃんのシチューかぁ、」
「何よ、あんた、牛乳飲めないくせにシチューならOKじゃないの。ばっちゃんもあんたの身長のこと考えて作ってくれてるのよ。」
「うっせーなぁ、牛乳なんて、どうでもいいんだよっ!!俺はこれからのびるんだ!!むかつくから背のことは話題にするなっ!!」
「僕もシチュー大好きだよっ」
 思わず割って入っちゃった。だって、にいさんの視界はウィンリィで、いっぱいになってるんだもん。
「な、んだよ、俺だって、シチューは好きだけど、ばっちゃんのは、」
「まずいっていうの?」
    「そうじゃなくて、その、」
「色々入ってて、美味しいよね」
「イヤ、だから、その、いろいろが、俺としては・・・」
 ピナコばっちゃんの作るシチューには、かあさんが入れなかったものが色々入っているんだ。

 普通に入れる物の他にグリンピースや、ほうれん草、ゆりのね、アスパラ、ブロッコリー、カリフラワーの時もある。
 ちくわ、かまぼこ、すり身、イカ、エビ、ホタテ、鶏肉、牛肉、ミートボール、ウインナー、ゆで卵、たまには白身魚も入っていることがある。
 全部いっぺんに入っているわけじゃないけど、いつも味が違ってて、なかなか美味しいと思う。
 だけど、かあさんの作るシチューはいつも同じ具で、たっぷりのミルクで、とっても美味しかった。

 にいさんは、その味が気に入っていたんだね。よし、今度、作ってあげようv
「作ってもらえるだけ、ありがたいと思いなさいよ!それに、あたしだって、ちょっとは手伝ったんだから・・・」
 最後の方は、小さな声だったけど、へいへい、と返事したにいさんにウィンリィは極上の笑顔をみせた。
「ほんと、ウィンリィって可愛いね。」
 思わず言ってしまった。
「ちょっと、やっだー!アルったら、いきなり何言い出すのよっ!このっ正直者っ!!」
 凄い力ではたかれ、前のめりにつんのめる。
「ア、アルッ、食い物なんかで買収されるなっ!!良くみろっ!考えなおせっ!!」
「ちょっと、それどういう意味よっ!」
「言葉どおりだよっ!弟をたぶらかすんじゃねーよ!この、メカブス女っ!」
「・・・言いたいことは、それだけ?」
 ひぃぃぃ、にいさん、やばいよっ!
「いつもいつもご飯たべさせてやってるってのに!なによっ!あんたなんか、二度とシチュー食べさせてやらないんだからっ!!」
「誰もたのんじゃいねーよ!」

 いきなりにいさんに飛びかかったウィンリィは、どこから取り出したのか、大きなスパナで、何度もにいさんを殴った。
「いてっ、やめろよっ!いてぇっての!この暴力女っ!」
「やめてよ、ウィンリィ。にいさんも、言い過ぎだよっ、」
「なによっ、なによ!!あんたなんか、だいっきらいっ!!もう知らないんだからっ!!行くわよっ!アル!」
「えっ、う、うん。大丈夫?にいさん、」
 行こう?って、手を伸ばしたら、にいさんにその手をはたかれた。
「行きたきゃ勝手に行けばいいだろうっ!!」
「そんなヤツ、ほっときなさいって!!ほらっ」
「う、うん、」
 ウィンリィは、泣いていた。にいさんは・・・怒っていた。
 僕は、ウィンリィに引っ張られて、ばっちゃんのシチューを食べに行った。
 
「にいさん、」
「・・・なんだよ」
「にいさんの分のシチューもらってきたよ?お腹すいたでしょ?」
「いらねーよ。」
「けど、」
 にいさんの顔や腕にはいくつもの青あざが出来ていた。

 男の子同士でケンカする時には殴り返すのに、ウィンリィにはそうしないんだね。女の子だから?それとも・・・特別だから?
「いらねー、お前くえ、俺はもう寝る。」
 ケンカはいつものことなのに、今日に限っては、何かが違っていた。にいさんもウィンリィも本気で落ち込んでいるように見えた。
 
 それから、僕らは自炊することが多くなった。にいさんとウィンリィは仲直りしたけど、前みたいにじゃれて遊ばなくなった。
 毎日錬金術の勉強ばかりして、錬金術の先生を見つけて修行して、にいさんの視界はとても狭くなっていった。
 その狭い中に、錬金術がらみだとしても、少なくとも僕が入っていることに僕は満足していた。
 
 そして、かあさんの錬成に失敗。僕は体を、にいさんは左足と右腕をなくしてしまった。
 
 あの時、にいさんが何を見たのか僕にはわからないけど、にいさんはその視界に何も映さなくなってしまった。
 軍のあの人が来るまでは・・・
 
 可能性を見いだしたにいさんは、その綺麗な瞳でたくさんのものを見つめだした。
 その目的は、僕のため。僕の体をもとに戻してくれるため。
 機械鎧をつけてからは、前みたいにウィンリィとぎくしゃくした所はなくなった。
 また、前のように仲良くじゃれあっている。傍目にはちょっと過激に見えるけど、それが二人にとっての大切なコミュニケーションなんだ。
 僕も何か吹っ切れた気がする。
 肉体をなくして、魂のみの存在になってしまった僕には、未来はない。生きていること自体が不自然だ。
 僕にはもう、・・・にいさんしかいない。
 たとえ、にいさんが誰かを好きになって、結婚したとしても、僕を理解してくれる人は僕の創造主であるにいさんしかいない。
 これから僕は、にいさんのために存在していこうと思う。にいさんが僕を必要としなくなった時が、僕の存在理由がなくなる瞬間。

      何故だろう、そんな存在なのに、僕は今、凄くしあわせなんだ。


    鎧のに体になって五感をなくし、人間として存在することも出来ないのに、僕の視界すべてがにいさんであることが。
 
     にいさんの最優先を僕が独り占めしていることが、とてつもなくしあわせだと思うんだ・・・
 

 
アル視点ですね。アルは、お兄ちゃん大好きです。世界そのものです。お兄ちゃんがいて、自分がいます。
すみません、続きます、