瞳にうつるもの3


「っっっくっ、」
「鋼の。」
 背中から覆い被さっている男が耳元で囁く、
「仕事だ、割り切ればいい。」
「うるさいっ!」
 屈辱に耐えんと、シーツに爪を立てている左手を男が上から包み込むように握ってくる。
 その暖かさがイヤで、左手を払いのけた。
 身体を支えていたモノがなくなって、そのまま上半身がシーツにつんのめる。
「かたくなだな」
 捕まれたままの腰だけが高く上がっていた。
 エドワードは信じられないほどの醜態に憤死しないのが不思議だった。
 更に腰を高く引き上げられ、自分でも見たこと無いような人体の排泄器官をまじまじと眺められた、
「こ・・の、変態っ!!」
「心外だね。君はまだまだ、大人の世界をしらないだけだ。」
「うぎゃぁっ!!」
 思っても見なかった感触に思わず悲鳴が上がった。
 ぬめった生暖かいモノが排泄器官の入口をはいずり回っている。
 自分を慮辱している男の位置からいって、何をされているのか安易に想像がつく。
 吐き気を催すようなその感触に全身鳥肌が立った。
 逃れようと無意識に両手ではい上がるが、腰を引き戻され、それもかなわない。
(きしょくわるい、きしょくわるい、きしょくわるい、イヤだ、)
 仕事だ、の一言がこの狂気の現場にエドワードを縫いつけている。

「軍の狗にでも何でもなってやるさ、何ならしっぽもふってやろうか!」

 弟のため、唯一の宝物「アルフォンス」のために、何でもすると誓った。
 これも仕事の一つだと、がまんすればいいことなのだ。
 だか、どんなに歯を食いしばっても生理的嫌悪感に涙があふれ出る。
 大人はこんなことをしなければならないのか?これが大人の世界なのか?
 こんな屈辱を味わうくらいなら、一生大人になんてならなくていい、
 そうも思うが、一日も早く弟を元の身体に戻してやるには、早く大人にならなくてはいけない・・・
 
 柔らかくぬめったモノが離れ、解放されたのかと、ほっと気を抜いた瞬間、堅いモノがその入口から押し入ってきた。
「な、なにっ?いやだっ、」
 逃れようと腰をひねるのだが、片腕でがっちりとホールドされて動けない。
 びりっと引きつった感触とずるずると体内に侵入する感触に身動きすらもできなくなった。
「うぁぁぁぁ、」
 止めようもなく、口からおぞましい悲鳴が上がる。
 奥まで入ったそれは、中で2,3度うごめくと、ゆっくりと引き抜かれた。
 進入した時とは別の、排泄時に感じる感触に、このまま引き抜かれるのかとほっとしたが、またしてもその異物はゆっくりと押し入ってきた。
 そうして、何度も挿入を繰り返される。
「や、め、いやだ、きもちわりぃ、やめてくれ、」
「そうか?そうでもないはずだが、」
 男はそう言って、背中からうなじに向けて濡れた舌を這わせながら、確信を持って腸壁のある部分を探り当てた。
「う、・・・ぁ、」
 全身に電流が走ったような気がした。
「ぁぁぁぁ、」
「よくはないか?」
 息を吸うこともできず、ただ首を振りながら、身体の変化に硬直した。
 男は指先を器用に動かし、そこをゆっくりと、執拗に刺激し続けた。
「い、や、だぁ」
 指の動きに連動して身体がビクビクと痙攣をおこす。
 精通前のエドワードの前立腺を無理矢理刺激したため、開放感などというものではなく、ただ、だらだらと放出させられたのだった。
「慣れれば良くなるものだ。」
 男の言った言葉も、意識の遠のいたエドワードには届いていなかった。


「お帰りなさい、にいさん。」
「お、う、ただいま。」
 玄関前にアルフォンスが向かえに出ていた。
「何だよ、ずっと待っていたのか?」
「ううん、窓からにいさんの姿が見えたから、」
「そっか、」
 兄がそっと苦笑いをする。
 国家錬金術師の資格を取ってから、兄の心からの笑顔をアルフォンスは見ていなかった。
 このところは、無理して笑っている。それに気づいてはいるのだ。
 兄の置かれている状況に、気づいている。しかし、兄がそれを隠そうとしている限り、アルフォンスには問いつめることはできなかった。

 賢者の石の情報を聞きに行く時は東方司令部まで弟も一緒に連れていってくれるのだが、出先から帰ってきた時や、
情報の無いのにもかかわらず呼び出される時は兄は弟を置いて、一人で行くことが数回あった。
「わりーな、軍の重要資料らしいんだ。」
「向こうで待っているよ。」
「長くなるし・・・その、」
 口ごもる兄。そんな兄はこっちへ来てから見られるようになった。
 もともとすっぱりと竹を割ったような性格の兄だったのだが、こちらに来てからは言えないことが増えたらしい。


 「朝帰り」など、弟が心配するような行動はもちろんするわけが無かった。
が、帰ってきた時には、ほんの少し目の周りが赤かったこともあった。
 問いただすと、朝からずっと文献を読みっぱなしだったから、と言われた。
 弟がついていかない日は、帰ってくると、夕飯も食べずにシャワーだけに時間をかけて、すぐに就寝してしまうことも多かった。
「にいさん・・・」
 何とも言えない焦燥感がアルフォンスを襲う。
 兄の寝ているベットからずり落ちそうな掛布を直そうと手を伸ばした時、洗いざらしの長い金髪の間からのぞいたうなじに
鬱血の後を見つけて弟の思考が止まる。
 のばしかけていた鎧の手が拳を作ってわなわなと震えた。
「にいさん・・・」


 やはりそうだった。知識のみでしかないものの、大人達のそういう行為が兄の身にも降りかかっているのではないかと
心配してはいたのだ。
 元の身体を取り戻すという兄の決意を聞かされた時、ある程度の汚い仕事や、人間として問われるような仕事もあるかもしれない
とは聞かされ、覚悟はしていた。
 兄はその行為に対して、どう思っているのか?恩人だからと割り切っているのだろうか?
 その、鬱血した部分にそっと指先で触れてみた。
「なっ!!」
 寝ていたはずの兄がもの凄い勢いでベットから跳ね起きた。
 見たこともないような動揺をあらわにして・・・
「な、んだよ、アルか、びっくりさせるなよ、」
 弟の顔を見て、ほっとしてはいるものの、明らかに青ざめている。
「・・・にいさん、」
「なんだ?どうしたんだ?」
 起き上がった瞬間の兄の表情が脳裏に焼き付いて離れない。
 泣きそうなほどに、恐怖に引きつっていた・・・
「にいさん、」
「だから、どうした?」
「もう、いいよ、」
 弟の声がかすれる。
「もう、いい、にいさんが、僕のためにそんなことされる必要ないよ。」
「・・・アル・・何、言ってんだ?」
「・・・首のうしろ、跡が、ついているよ。」
 兄は瞳を大きく開いて唇をかんだ。
「・・
んの・・・ヤロー!」
 ぜってー殴ってやる、と言いそうな顔をしてから、弟に向かって笑って見せた。
「ンなこと、たいしたもんじゃねーって、大人はみんなやってんだしよ、気にするなって、」
 だったら何故、あんな顔をしたの?
「気にしないわけないだろう!!僕だって、僕だって触れていないのに!!」
 いきなりの弟の剣幕に兄は声を出すことも忘れた。
「僕だって触れていないのにっ!・・・大好きで、大好きで、にいさんだけだった。僕はまだ子供で、どうやってにいさんに
気持ちを伝えればいいのかわからなかったから、ただ、ただ好きで・・・一緒に居られるだけで良かった、」
「アル・・・」
「鎧になってから・・・、僕たちがあのころより少し大人になってから気がついたよ。僕はにいさんに恋している。
他には何もいらないほど、兄弟なんて関係ないくらい、生まれた瞬間からにいさんが好きなんだ。
今になって思うよ。もっとにいさんに触れていれば良かったって。こんな、感覚もわからない身体になってしまう前に、
にいさんの感触を忘れないくらい触りまくっていれば良かった!!」
 叫ぶ弟に、エドワードの心がぞくりとふるえた。
「にいさんに、僕の気持ちがわかる?大切な人が、適当な誰かに好き勝手に触れられている、悔しくて、悔しくて、
死んでしまいたいくらい自分が許せないよ・・・」
 兄の手が、鎧の弟の右腕をつかむ。
「にいさんをよく知りもしない人が、にいさんに触れて良いわけがない・・・僕だって、」
「だったら、お前、」
 引き寄せた弟の首に兄は腕を回した。
 その首に体重をかけ、ベットの上に立つ。
「今からでも遅くないだろ?」
 立ち上がった兄を見上げた鎧の口に兄はそっと口づけた。
「ずっと・・・俺だけ変なのかと・・・思っていた。」
 嬉しそうに笑っている兄の金色の瞳から、ぽたぽたと透明な滴が落ちてくる。
 何度も何度も兄は鎧に、弟に口づけた。
「あ、・・・え?・・・にいさん?」
「俺だって、お前が生まれた瞬間から、お前に恋してるよ。何度くっちまいたいと思ったことか・・・」 

 止めどなくあふれ出る兄の涙は鎧の顔を濡らして流れた。

 まるで、泣けない弟の代わりの涙のように・・・

 昔のままの笑顔で、弟の分まで泣きながら微笑んでいた・・・

「俺も、後悔していた、お前と、抱き合っていれば良かったって、純粋に、お前と・・・」
 裸で 朝を迎えればよかったのに・・・



「鋼の。今回は何日の予定の視察になるのかね?」
「10日くらいだな。移動に3日づつ取られるから。」
「そうか、10日は長いな。」
「あ、帰ってきても、もう、あんたの道楽にはつきあえねーから!」
 ふむ、とため息をつく大佐にエドワードがあっけらかんと笑って答えた。
「それは、なぜかね?」
「大事な弟の相手でせいいっぱいだからなv」
「・・・強敵がやっと立ち上がったというわけだな。それはそれで、楽しみが増えたという物だ。」
 面白げに笑っているセリフも聞きもせず、エドワードは新しい情報を持って弟の元へと走っていった。





大佐ファンにケンカを売っているわけではありません、ひーっ、怒らないでくださいね。
なんか、じたばたあがきまくって、書いた物です、あぅーー;;