海水浴

「みんなで海水浴にでも行くか。」
 ここ数週間、破滅招来体は現れていなかった。
日本ではちょうど夏休みの頃だがここエリアルベースには、まったくといっていいほど季節感が無い。
 毎日同じ仕事ばかりで退屈になったのか突然に千葉参謀が発案した。
「どうだね、コマンダー」
 またこの人は突然なんだからと、溜息をつきつつも、コマンドルームにいる全員の
期待に満ちた視線に、ま、たまには息抜きも必要かとOKサインを出す。
「シフト表だしますね。」
 嬉しそうに敦子がい言うと、みんなに教えなきゃ、とジョジーが全館放送のスイッチを入れる。
エリアルべース内がバカンスムード一色になった。
 
 
「あーぁ、」
「なによ我夢、でっかい溜息なんてついちゃって」
「だってさーせっかく海に来たってのに、周りみーんな男ばっかじゃん」
「失礼ね、女ならここにいるじゃない」
 砂浜に座り込んでいる我夢の正面に、敦子とジョジーが立ちふさがった。
 見あげると、かわいい柄のワンピースの水着パレオ付きを着ている。
「二人じゃねぇ、」
 ちょっと傾げた我夢の首に突然ハーキュリーズの志摩が腕を巻きつけた。
「ぐぇっ、し、志摩さん、くるじい」
「解かる。解かるよぉ我夢さん、その気持ちっ!もっと、こう、ババーンと、ドドーンと、しているのが好いよねぇ」
 身振り手振りで話す志摩に、あわてて我夢はその場を逃げだした。
「ちょっと、待ちなさいよ!」
「僕が言ったんじゃないよぉ、」
 後には小さな浮き輪を二つ顔にはめられた志摩が残される。
 
 
「どうして、男ってそんなことしか考えないのよ、まったく」
「はい、すみません、十分気持ちいいれす…」
 我夢は二人に追いかけられて、引きずり倒された後、椅子がわりにされている。
 今回のバカンスは万が一の破滅招来体出現のために、とりあえず二組に分けていた。
 居残り組みはチームクロウ、チームライトニング、チームファルコン、堤チーフである。
もちろん敵が出現した場合すぐにここにいるものたちもエリアルベースに戻れるようピースキャリーはもちろん
スティンガーやEX機も近くに止めてある。少し沖にはチームマーリンのセイレーンも待機していた。
 これだけ大掛かりになってしまうため民間人がいる海岸では無理ということで、
日本列島から少し南にある無人島を借り切っているのである。

「そぉだ、ビーチバレーしようよ、」
「いいわね、ほら、いつまで寝てるのよ、2対2でいくわよ、」
 ネットの代わりに砂に線を引いて、ジョジーが用意していたボールを膨らます。
「えーと、あ、神山さん、お願いします。」
 体力に自信のない我夢は少し遅れてきた神山をすかさずゲットする。
 一応持ってきた救急箱をパラソルの下でサングラスをつけたまま寝ているコマンダーのシートに置かせてもらって
神山が参加した。
「やはり若いもんはいいですな、本来、あの子達はああしている時期のはずなんだ、こんな、
命がけの戦いが早く終わってくれることを心から祈るよ。」
 キャーキャー騒ぐ敦子らを見ながら千葉参謀がコマンダーに声をかける。
声を出さずに、コマンダーは小さくうなずいていた。
 
 
「やだ、もー」
 我夢は、砂に足を取られてボールについて行くのがやっとであるが、神山はその長身をいかしてボールを打つので
敦子たちはぜんぜん歯が立たない。
「よーし、俺が助っ人してやる。神山、もう手加減いらねーぞ」
 ハーキュリーズの吉田が敦子、ジョジーチームに加勢した。
「うえー、もっとハードになるんですかぁ?」
 我夢はすでに顎を出している。
「ほらいくぞ、」
「うわっ」
 吉田の打ったボールが我夢の顔面を直撃した。
「ナイスレシーブです。高山さん!」
「痛いよぉ」
 神山の打ったボールをジョジーがひろって、吉田が思いっきり飛び上がる。
「も一発いくぞぉ」
「わぁっ」
 ボールは後ろを向いて逃げた我夢の後頭部に直撃して、大きく跳ね上がり、
場外で見学していた志摩まで飛んでいった。
「我夢さん、ボールから逃げたらだめですよぉ、吉田さんも我夢さんばっかいじめちゃだめですって。」
 志摩が乱入すると、桑原は女の子がいいー、と吉田側に入った。

 男女入り混じりのビーチボールも、何とかバランスがとれて、何度かラリーが続いていたところ、
突然の突風に、敦子の麦藁帽子が風に飛ばされた。
「ちょっと、やだぁ」
 帽子は風に巻き上げられてはるか彼方まで飛んでいき、海の上に落ちた。
「えー、あんなとこまで、取りに行けないよぉ、ブランド物で、高かったのにぃ」
「ンナもの被ってこなきゃいいのに、」
「こんなときじゃなきゃ、被る機会がないんだもん」
 ブーと膨れる敦子は、我夢に取ってきて、と頼むが、我夢はさっきのバレーで疲れきっていて、
立つこともままならないでいる。そうこうしているうちにも帽子はどんどん潮に流されていく。
 仕方がないと、神山が波に入っていこうとして、志摩に止められた。
「海のレスキューは本職に任せちゃいましょ、暇そうですし」
 志摩は、潮にぬれない様にしまっていたXIGナビを取り出した。

「マーリンのみなさーん、バーベキューやるからこっちまで、泳いできてくださーい、
途中で、あっ子ちゃんの帽子ひろってきてくださいねー」
 帽子よりはるか沖にいるセイレーンを見ると三人がセイレーンの上で甲羅干しをしていた。
まず一人が飛び込み、残りの二人はもめているようだったが、無理やり落とされて、
全員がこちらに向かって泳いできた。
「あんなところから泳いでくるんですか?」
 結構波が高いので、プールでしか泳いだことのない我夢にとっては信じられなかったが、
見る見る三人は近づいてくる。途中、敦子の帽子に向かっていったが、あと少しという所で、
波に飲まれて帽子が消えた。
「あー」
 悲しそうに敦子が声を上げたとき、三人のうちの一人が波の中に消えた。
残りの二人はかまわずこちらに向かって泳いでくる。
「大丈夫ですか?うわぁ」
 波打ち際まで駈け寄ると足元からいきなり人が出てきて、我夢は驚いて腰を抜かした。その手には
敦子の麦藁帽子が握られている。
「ほら、」
「ありがとうございます!横谷リーダー!!」
「かっこいいー」
 ボーッと、見とれるジョジーの横をプルプルッと、頭を振りながら、横谷が通り過ぎる。
その後ろを上がって来た今井と巌がついて行った。
「水をえた魚、とは、ヤツのことだよな。」
 吉田が腰に手を当てて、溜息をつく
 横谷たちは広げ始めていたキャンピング用の椅子に座って、用意するのを見ていた。
 いつのまにか、シーガルのメンバーが、バーベキューの用意を始めている。
 
 
「男の人の体って、キレイねー」
 しみじみというジョジーに一同がギョッとジョジーを見つめる。
「やだ、ジョジー、また変なことを言い出すつもり?」
 ゴクリと、息を飲む一同…
「変じゃないよぉ、ね、吉田さん、神山さん、ちょっと、並んでみてください、」
 ?のまま、二人が並ぶと、まるで違う生き物のようだ。
「ね、ぜんぜんちがう。」
 あ、そだ、とジョジーが今井を呼ぶ、
「すみませんねー、いま、男の人のニクタイについて、研究していたんです。」
「は?」
 ここ、ここ、と今井も並ばせる。
「みーんな、素敵な体してるのに、ぜんぜん違うよね。」
 フムフム、と、値踏みするように見る中、敦子が下を向いていた。
「どしたの?あっこ」
「あんた、はずかしくないの?」
「ぜんぜん、あたし、男兄弟多いから、見慣れてるよ。」
「あたしは見慣れてないのよ!」
「じゃあ、今のうちだよ、見ときなって」
 影に隠れようとする敦子をグイグイと前に押し出している。
「筋肉の付き方が違いますからね、」
「俺たちハーキュリーズがガンガンに、筋トレやってるのと違って、神山たちは泳ぎもやってるよな」
「水泳の選手と、陸上の選手みたいなもんですね。」
「我夢、あんたは並ばない方がいいよ、見ていて、可哀想なくらい貧弱だから、」
 一同が笑う中、我夢が膨れる。
「我夢さんはこれ位がちょうどいいんだよねー。かわいいから。」
「うれしくないです。僕は頭の中を鍛えてるからいいんです。」
 抱きつく志摩を振りほどきながらさらにむくれる。
「俺達が陸上で、今井達が水泳だとしたら神山達はトライアスロンの選手ってとこだな。」
「ふーん、水陸両用って、ことですね。」
「そうそう、俺たちあんまり水に浮かないから、水泳は得意じゃないんすよ。」
「そうナノ?」
 ジョジーが不思議そうに吉田を見る。
「重たい筋肉しかないからね。」
 桑原が混ざりこむと、吉田が咳払いをした。  
「だから、さっき、あっ子の帽子、取りにいってくれようとしなかったんだ。」
「そうそう。」
頷くハーキュリーズに感心する一同。
「泳ぎなら、うちのリーダーの右に出る人はいないと思いますよ、私もどちらかというと、
筋肉ついているほうですから。」
 ここにいるからそう見えないだけで、と今井が苦笑いした。
「横谷リーダーって、そんなに泳ぐ人ナノ?」
「ええ、泳ぐっていうか、水に溶け込んでるっていった方がいいのかな、さっきも、ここに来るのを
渋っていたわりに、潜れるきっかけが見つかれば、黙っていませんでしたからね。」
「じゃぁ、体が華奢な方が泳ぎやすいンだ」
 華奢って言うのか?と思いつつ、
「スピードを競うならある程度の筋肉が必要でしょうけど、そうじゃないなら、そうかもしれないですね。」
「よかったね、我夢」
「なんでそこで僕にふるかな」
 不満たらたらのところに、バーベキューの用意が、滞っていることに気がついた。


「どうした、なんか忘れてきたか?」
「しけっているのか、なかなか炭に火が付かないんです。」
 汗をかきながら松尾とマイクルが右往左往している横で待ちくたびれて、横谷がテーブルに突っ伏して寝ていた。
 手伝わなくて悪かったかなと、一同思う中、吉田がいきなり大声で笑ったから、寝ていた横谷が首だけ動かしてガンを飛ばす。
「なんだ、そんなことか、おい、志摩、あれ持ってきてたよな」
「あれっすね、」
 志摩は嬉しそうにガッツポーズを決めると、裏側の茂みの方に消えていき、あっという間に戻ってきた。その手にあるのは…でっかいファイアー砲。それを肩に軽々と担いで、全力で走ってくる。
「やっぱ、筋肉だけは超一流だよなぁ」
 全員頷く
「よっしゃあー!」
 ファイアー砲をもらって、嬉々として構える吉田に、あわててマイケルが止めにはいる。
「ここにあるモノ全部灰にする気じゃないですよね。」
「おお、そうだった、この間、パワーを対怪獣用にアップしてもらってたんだよな、わっはっはっ、横谷ごと焼くところだったぜ」
笑い事じゃないって…この人たちはと、我夢が頭を抱える中、出力を最低にして、無事点火した。
 
 
「我夢、肉ばっかり食べてないで野菜も食べなさいよ」
「野菜なんて、いつでも食べれるじゃん。ホント、美味いよ、この肉!」
 敦子とジョジーが、必死で網の上に肉を並べるが、あっという間に姿を消していく、
「まだまだありますから、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。」
 神山のセリフが聞こえているのかいないのか、みんなの箸はとどまる事を知らない。
 こんな激しい争いに入っていけるはずの無い千葉参謀とコマンダーは小さいコンロに火をつけて、
二人で麦酒を飲みながらちびちびとやっている。

「そういえば、今日は来てないのかな。」
「はれふぁ?」
 口に入れたまま、誰が?と聞いたらしい。肉を並べ続けるジョジーを見もしないで我夢が答える。
「あの、藤宮って人。」
「ぐっ」
「後ろ向いて!」
「ぐっぐふっ、」
 無理やり後ろを向かせる敦子が見たものは…かなり咽て、涙ぐんでいるのにもかかわらず、
口を手で押さえて、意地でも肉を出さない、がめつい我夢だった。
「あの人、いっつも我夢の行くところにシュツボツしてるじゃない?もしかして、ハッキングされテンのかな?
我夢盗聴器とか、つけられてないの?」
「んなわけないだろ。」
「あー、我夢あんた、パソコンに日記なんかつけてないでしょうね」
 敦子の勢いに、みなの手が止まる。
「…付けてるけど、それが何か?」
「そんなもん付けてんですかー、いやいや、かわいいですな、我夢さんは」
 志摩が箸を持ったまま、我夢の頭を撫で回した。
「毎日の記録として、一応、残してあるんです!」
「ばっかねーそれならノートに残しておきなさいよ。そんなもの、読んでくださいって言っているようなものじゃない。」
「そんな、だって、一応パスワードが何重にも」
 はぁ、と溜息を付かれてむっとする。
「相手は、あのガードのメインコンピューターに、簡単にハッキングする人よ、あんたのパスワードなんて、
あってないようなものじゃないの」
「って事は、まさか、全部、読まれて…」
 蒼くなったかと思うと、いきなり火を噴いたように真っ赤になった。
「だって、だって、」
「そんなまずいことでも書いてたのか?」
 一同全員が、不安になる。我夢は一応最重要機密を知っているのだ。
みんなの危惧に気がついて、ぶんぶんと頭をふった我夢の頭の中に、突然声が聞こえた。


『我夢』
「!」
みなの注目される中、どうしようかと一瞬躊躇する。
「あ、あれ、なに?」
 我夢が指差す白い雲を一同が見あげる。遠くから様子をうかがっていたコマンダーや
千葉参謀までが上を見上げた。
 その隙に、食べるのを忘れられていた網の上の肉を全て自分の皿に乗せ、そぉーっと席を抜け出した。
「なんだ?」
「なんなのよ、我夢?あっ、ちょっと!我夢!どこ行くのよ!」
 気がつくと必死に走り去る我夢の後姿が小さくなっていった。
「たまに、理解不能の行動をしますよね。高山さんって。」
 神山が楽しそうに言った。
「天才の考えていることはよく解からねーな」
 吉田のつぶやきに、一同が頷くが、
「行かせてもいいのかな?きっと、あの人のところだよ」
 ジョジーがそっとコマンダーに視線を向けた。
「ま、いいだろう、一応休暇扱いだし。我夢にも休息が必要だ。年相応のな。
そのためにライトニングはおいて来たんだし。」
 ライトニングというより梶尾をといった方が適切だろう。皆が皆、この親父は…と、溜息をつく
 
 
「藤宮ー」
 海岸をまわって、結構離れたところまで来てから声を出して呼ぶ。
「藤宮、おーい、」
 砂浜が終わり、海岸線は岩肌がずーっと続いている。
 周りをきょろきょろ見回しながら走っていたら海草が付着していた岩に上がってしまい見事にすっ転んだ。
「いってててて、」
 一番初めに心配したのが手に持っていた山盛りの焼肉である
「よかった、無事だった。」
「なにをやっている」
 背後から声がかかって、あ、と振り向く。
「なに笑ってんだよ、いるなら返事くらいしてくれてもいいだろ」
 ブーと膨れる我夢に藤宮は苦しそうに笑いをこらえている。
「いや、転ぶ瞬間にも皿を庇う辺りが凄いなと感心しただけだ。」
 片手で腹を抑えて笑いをかみ締めながら、いまだに岩の上に座り込んでいる我夢の手を引いて、起こしてやる。
「ありがとう、食べない?」
「ああ」
 手近な平たい岩に座ると、隣に我夢も座る。
「よくわかったな。来ていることが」
「え、だって、藤宮が呼んだから。」
 そうか?と少し考え込んでから差し出された皿から焼肉を取って、口に入れる。我夢はそれを嬉しそうに眺めた。
「なんだ?」
「いや、藤宮って、あんまり食べてなさそうだから、なんか、不思議だなって」
「生きるため食事は摂らなければならない。それだけだ。それにしても我夢、野菜も食べないとバランスが悪いぞ。」
「普段は食べてるよ、今は持ってくる都合上こうなっちゃったけど…、それより藤宮は何でこの島にいるのさ、
まさか、やっぱりハッキングしてるの?」
 肉をもう一切れ口に放り込んでまっすぐ海を見たままに、にやりと笑った。
「やっぱり、まさか、ぼ、僕の日記見たりなんて、」
 我夢の顔が見る見る赤くなる。
「初めは偶然だった。まさか、お前のだって知らずに繋いでしまったら、俺宛の内容のようだから、読んでみた。」
「なっ、そんな、いつからだよ!」
「さあな、もう忘れた。」
「忘れるほど前からぁー?」
 藤宮は仰け反る様に上をむき、後ろに両手をついた。髪がながれるように後ろになびく姿に
思わず見とれそうになって、我夢は慌てて目をそらした。
「毎日読んでいるうちに、すっかり口説かれていた。」
「く、口説くなんて、そんな…」
「会いたい。一緒にいたい。もっと傍にいたむぐっ」
「いうなぁー」
 顔から火を噴きそうに真っ赤になっていた我夢は藤宮の口を両手で塞ぎそのままの勢いで
岩肌に押しつぶしていた。もちろん肉の残っている皿を安全なところに置いてからだが。
「くっくっくっ」
 笑われても我夢はヴーと、唸ったまま何も言えない。
「見ていなければ、多分こうしてお前とわかりあう事も無かったはずだ。その方が良かったか?」
「それは…良くないけど、良くないけど、良くないけどぉ、やっぱり、良くない…」
 笑っている藤宮を見て、キレイだと思った。もう2度と最初の頃のような、感情を無理やり押し殺して
人間は敵だと自分に言い聞かせている藤宮を見たくないと思う。自分を敵視する彼を見たくないと思う。
 じっと見つめている我夢の頬に藤宮が手をかけた。
「我夢」
 柔らかく重なった唇からは、焼肉の香りがする。
「焼肉!」
 思い出すと、すっかり冷めきっていた。
「硬くなる前に食った方がいいぞ」
「うん、解かってる。藤宮も、早ふたへら。」
 最後のほうは言葉になっていない。笑いながら藤宮は、最後の一切れを口に入れた。

ガイアはたくさんの人が出てきて、たくさん妄想ができるので、
とっても楽しいです


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