仮面の下の…

 
僕は、ゆっくり眼を閉じた…
 
「行くぞ、アル!」
 
昔、二人でおかした禁忌の時とは随分様子が違う。
 
錬成陣はない。構築式は全て兄さんの頭の中。
 
場所はロックベル家の物置小屋の中。
 
僕になる為の材料と、万が一なんてないけどそのための新しい鎧。
 
もうすぐ僕は、元の体にもどる。
 
 
視界が錬成反応に眩しく光る。痛みはないけど、激しい振動が僕の心を揺さぶる。
 
にいさん、にいさん、にいさん!
 
とても長く感じられる振動に、不安が押し寄せる。
楽しかったよ、鎧の体。
にいさんと一緒の旅。
なんの疑問もなく、にいさんといられた。
にいさんの隣にいることを誰にもとがめられなかった。
僕だけのことを考えてくれる兄さんの隣で、僕は幸せだった…
たとえそれがにいさんの罪の足かせだとしても…
ごめんね鎧。もうお別れだね。今までありがとう…
 
 
「…ル、アル!アルフォンス!!」
目を開けたら、泣きそうなにいさんの顔が目の前にあった…
「にい…さ、ん?」
「大丈夫か?わかるか?アル!!」
「うん、何か、変な感じ、体がふわふわしている」
腕を持ち上げてみる。自分の手じゃないみたい、
わぁ、肌色だぁ、しかも、ちっちゃーい、にいさんの手みたいだ…って、あたりまえか、
「アルッ!!」
「うわっ!」
いきなりにいさんが飛びついてきたから、バランスが取れなくて、後ろにひっくり返ってしまった。
にいさんって、結構重いんだね。
「いててててっ」
二人分の体重がもろにお尻と背中に当たってかなり痛い、こんな痛みも久しぶりだよ…
って、え?えっ?
「…にいさん…」
僕に馬乗りになったにいさんから、大量の透明なしずくが落ちてきた…
「…ルッ…ッルッ…アルッ!!」
「うん…、」
にいさんは、泣かない人だった…母さんが死んだその日を最期に僕はにいさんの涙を見てない。
がまんしてたんだよね、ずっと…
振るえる腕も唇も全てが愛おしくて、僕よりもひとまわり小さなにいさんの体をぎゅっと抱きしめた。
「ありがとう…にいさん、」
心配かけて、ごめんなさい
そのままにいさんは僕がくしゃみをするまで泣きやまなかった。
「わり、寒いよな」
そう、錬成された体は裸で…僕は裸のままにいさんに押し倒されたんだ。
「とりあえず、これを着ておけよ」
まっ赤な目元を僕に見せない様に腕だけで用意してあった服をくれる。
「んしょ、…小さいよ、これ」
「うっさい、風邪引くよりましだろ!」
にいさんの服は僕にはかなり小さい…
 
 
人間に戻れた僕を見て、ピナコばっちゃんもウィンリィも涙の大洪水で喜んでくれた。
にいさんの服じゃ可哀相と用意してくれたウィンリィのお父さんのパジャマはさすがに大きくて、
袖や裾を何度か折り返して着た。
ピナコばっちゃんの作ってくれたシチューは母さんの作ってくれたものとは少しだけ味が違ったけど、
久しぶりに口に入れた食べ物は涙が出るほどおいしかった。
「なれない体なんだから、早めに休んだ方がいい。」

ばっちゃんがにいさんと同じ部屋を用意してくれた。
隣に並ぶベットには同じサイズの布団がのっている。今までは僕の方が鎧用で大きかったのに。
「いやぁー、俺ってば、ホントに天才だよな。アルッ」
「ホントだね。ありがとう、にいさん!」
バフッとベットに倒れ込んだにいさんの目が、じっと僕を見る。
「な、なに?」
「いや…あんまり嬉しくないのかなと思って、」
じっと見つめてくるにいさんの目が正視出来ない…
「嬉しいよ、嬉しいに決まってるじゃないか。まだ、実感がわかないだけで…その」
「大丈夫だよな?明日の朝になったら、体が崩れてなくなっていました。なんて事ないよな?」
「それはないと思うよ、体はしっかりしているから。」
「じゃあ、何でそんな泣きそうな顔すんだよ。」
「え?え?」
僕は今、どんな顔をしていた?両手で顔をあちこち触ってみる。
やばいよ、今までずっと表情が動かなかったから、顔に表情が出るって言うことをすっかり忘れていたよ。
作り笑いも上手くできなくて、僕は思わず兄さんから顔を逸らしてしまった。
「何だよ! どこか具合が悪いのか?不具合があったら隠すなよ、ちょっとしたことでも、大変なことになりかねないんだからな。
アル、こっちむけよ、アルッ」
にいさんに腕を掴まれドクリと心臓が跳ねる
「…お願い、」
「?何?」
「僕を見ないで…」
「な、何でだよ、」
にいさんの動きが止まる。僕は両手で顔を隠した。こんな浅ましい顔を見せたくない。
「体はホントに何ともないよ。いろいろな感情が、ぐちゃぐちゃになっているだけ。明日になれば治るから、だから、今日は見ないで、」
今日中に、心の整理をつけなくちゃいけない、まさか、体が出来るとこんなにも余裕がなくなるなんて思いもしなかった…
「やだよ、」
「!」
「せっかく戻ったんだ。お前の鉄仮面もはずれたんだし、じっくり拝ませてもらう。だって久しぶりなんだぜ、なっ?」
子供みたいな事言ってんじゃないってのっ!
「ほらっ!」
引かれた指の隙間から僕の目が兄さんの目とかちあった。一瞬にしてにいさんの動きが止まる。
ほらね。僕は今、きっと獣の様な目をしているんだ。だから見ないでって言ってるのに!
「…アル…」
「ごめん、」
とっととベットに逃げ込んで、にいさんに背を向けて頭まで布団を被った。
「…にいさんさ、明日、中央にもどるの?」
「…」
「…手足が戻ったこと、報告しに行くんでしょ?」
「…」
「みんなに、よろしくね、」
「…」
「僕はもうしばらくここにお世話になるよ。」
「…」
「そっか、にいさんももう国家錬金術師を辞めてもいいんだよね。どうするの?リゼンブールに戻ってくるの?」
「アルッ!!」
がばっーって布団がめくられた。
「寒いよ、」
布団を取り返す。
「そんなに鎧の生活が気に入っていたのか?布団に籠もっていなきゃならないほど!」
「ううん、」
「だったら…どうすれば許してもらえるんだ…」
え?
「悪かったよ、体を戻したから許してもらえるなんて、虫が良すぎるよな。恨まれて当然なんだ。気付かなくて悪かった、ごめん、」
「ち、ちがうよ、恨んでなんかない!」
「じゃあ、なんで、」
僕の凶暴な表情はにいさんにそんな風に見えたんだ。だったら、そうしといたほうがいいのかな?
でも、にいさんを恨んでいるなんてありえないから…
「ごめん、にいさんが悪いんじゃないんだ。このままじゃ、僕は取り返しのつかかないことをしてしまいそうで…」
「?」


「…もどるなら、10才の時の僕に、戻れれば良かった……鎧でいたときの記憶も感情も想いもみんななくなれば良かったんだ!」
「な、なんで?なんでそんなこと言うんだ?それじゃあ、俺と一緒に旅をしたアルがどこにもいなくなるんだぞ!!わかって言ってるのか?!」
「それでも!にいさんをこんな思いのまま、手放すよりずっといい!!」
「な…んだよ、わかんねー、何言ってんだ?何で、手放すって?俺と離れるって事か?
体が戻ったから、俺は用なしだって?もう一緒にいるのもいやだってのか?」
「だから!!その逆なんだってば!!」
にいさんのわからず屋!
「鎧の時だって、毎日にいさんに触れたかったんだ、楽しそうに話しているにいさんを見てずっと嫉妬していたよ、軍の人たちに!
ボクだけのものにしたかった。にいさんをどこかに隠して誰にも見せたくないくらい独占していたかった。」
「ア…」
「体が出来てしまった今、その想いは何倍にも膨れあがって…ボクは今、やばいくらいにいさんに欲情しているんだ…」
もう、隠せない…
僕の目が、余程ギラついているんだろう、にいさんが凄く困った顔をした。
「ばかだよね。にいさんがボクの傍にいてくれるのは罪悪感があるからなのに…だから、もうボクに寄らないで!手の届く範囲に来ないで!!
明日にいさんが中央に戻らないなら、ボクが出ていくから!!」
もう一度布団を被る。
言ってしまった…にいさんを困らせるってわかっていたから、今までずっと我慢していたのに。
言わなければこんな恋心は、何年もしたら無かったものに出来たかもしれないのに…こんな感情かみ殺そうと思っていたのに!
「俺は…」
もういい、聞きたくない!…ずるいんだ、ボクはっ!にいさんから離れなきゃって思っているのに、
にいさんに三行半を叩きつけられるのが嫌なんだ…聞きたくないよ…


「初めて錬金術を使ったときにお前が見せてくれた喜んだ顔が忘れられない。」
………
「目をキラキラさせて、俺についてくるお前が凄い可愛かった。自分のことの様に喜んで、
自慢げに母さんに報告するお前を見るのが好きだった。」
「なのに、突然母さんが死んで、お前は毎日毎日泣いてばかりだった。
朝ご飯を作ってやれば、にいさんの手料理を母さんにも食べさせてやりたかったって言って泣くし、
夜は母さんに絵本を読んでもらいたいって言って泣く。暇があれば母さんの墓に行こうって泣いた。
それこそ、泣きすぎて、お前がどうにかなってしまうんじゃないかと思うほどに…」
…、そうだった、かも?
「唯一お前に笑顔を戻してやれたのが、母さんを錬金術で生き返らせようって言ったときだった。」
「!!」
「人体錬成の研究をしていると、お前は泣かないでいてくれた…お前が笑っていてくれるから、必死で研究した。」
そんな…
「母さんが生き返ったら、お前はどんなに喜ぶだろうって思うと、何でも出来た。なのに、まさか、あんなことになるなんて…」
…ボクの…せいだったんだ…


「お前がいなくなるなんて、許せなかった。何に変えても、おまえだけはなくせなかった。
もし、母さんが生き返って、お前がいなくなっていたとしたら俺は!…俺は母さんを犠牲にしていたかも知れない…」
「な…」
「あきれたか?…」
にいさんは、ゆっくりともう一度ボクの布団をはがした。
「体が戻ったから、俺はもう用なしだって?冗談じゃない!!」
「!!」
いきなり胸ぐらを掴まれて、持ち上げられた。相変わらず馬鹿ぢからだね。
「何の為に、こんなに苦労して来たと思っているんだ!ふざけるなっ!!」
こんこんっとドアが遠慮がちにノックされた。
「どうしたの?体が戻ったそうそうに兄弟げんか?」
ドア越しにウィンリィが言った。にいさんのあまりの剣幕に、いつものケンカと違うことに気付いたんだろう。
声がかなり心配している。たぶんばっちゃんもいるんだろう
「ごめん、ウィンリィ、なんでもないよ、大丈夫だから、」
兄さんの目は、まだボクを睨み付けて、キリキリとつり上がっている。
そんな風に怒り狂っているにいさんを見ても、かわいいって思ってしまうんだから終わっているよね。


「だったら、にいさんはボクにこんな事をされても、いいって言うの?」
ボクの胸ぐらをつかんでいて至近距離にあるにいさんの顔を両手で包み込む。
柔らかい、丸い頬は僕の手にすっぽり収まった。大好きだよ…
鼻息を荒くして、歯を食いしばっている唇に、そっとボクのそれを触れさせた。
やっと我に返ったにいさんは僕から離れようと頭を引いたけど、捕まえてしまったらもう放してやるもんか、
あんなに近づかないでって言ったのに、無防備に近づいてくるにいさんが悪いんだからね。
「ア…ル」
かなりの間、ただ唇を押しつけていた。ボクが何をしているのかにいさんに解らせる為に。
目を瞑ってムードを…なんてものじゃない、至近距離で、焦点が合わないくらい近づいているのに、にいさんの瞳を見つめ続ける。
にいさんの目が息苦しさに、戸惑い始めた。
一度放して息を吸わせてあげる。大きく息を吐き出し、吸った瞬間を見計らって、今度は唇を挟み込む様に口付ける。
何度も何度もボクの口でにいさんの唇を挟んでは撫でる。
にいさんの腕がボクを力一杯押し返すまで繰り返した。
「にいさんの告白を聞いて思った。もっと早く、こうしていれば良かったんだ、例え鎧であったって、
口づけが出来なくても、にいさんに想いを告げていれば良かった…」
「アル」


「苦しいんだ、にいさん!大好きだ。愛してるよ、もう、どうしようもないくらい!…お願い、ボクを拒まないで…」
「この、ばか、」
涙で滲んでよく見えないにいさんの顔が、笑った様な気がした。
口に触れた感触に、思わず瞬いたら、目の前ににいさんの顔が見えた。
「体を戻した途端、お前に捨てられるのかと思って、こっちがびびったよ。」
「にいさん」
「俺も、たぶん、お前と同じだ。好きだよ、アル。」
にいさんを力一杯抱き寄せた。ボクより一回り小さいその体は、すっぽりとボクの腕に収まってくれる。もう一度キスのし直し。
口付けたまま、舌で唇を舐めると、にいさんも小さくぺろりを舐め返してきた。
もう、堪らなかった…


噛みつく様ににいさんの舌にボクのをからみつけて、吸い上げる。苦しそうににいさんの喉の奥から声が漏れた。
逃げる舌を口の中まで追いかけるとまた、そっと答えてくる。舌の根本や裏側まで舐めて、
出来るだけ喉の奥まで舌を入れると苦しくて小さな声を上げて口を離した。息が荒い。
「お前、どこで、こんな事、覚えたんだよ、」
切れ切れに訴えてくる。
「たった今。にいさんが可愛いすぎて、いじめたくなった」
うーわー、まっ赤になった!
「もう一回しようよ、」
「ばか、やめろって、」
顔を近づけるとまっ赤のまま顔を背けるけど、それって本気で嫌がっている様には絶対に見えない。はずかしいだけ?
「こっちむいてよ、」
顔をつかんでこっちを向けた。
「うーーーっ」
視線だけ外して唸ってる。可愛い!可愛い!か〜わい〜い〜!!!
赤い目元をそっと舐めたら、跳ね上がってびっくりした。


ついで、頬にキス。そのまま唇を滑らせて、耳の横にキス。耳たぶの下にキス。
時折、にいさんの体が細かく震える。感じてくれているのかな?そっと耳たぶに歯を立てた。
「うぁっ!!」
こっちが驚くほどの反応が返ってきた!そんなに強く咬んでないのに…
「ア、アル、やばい、」
「え?」
何が?…って、うそっ!
「放せっ、」
よほど、せっぱ詰まっているんだろう、我慢している兄さんの目に、うっすらと涙が滲んでいる。
「いいよ、ボクが、」
「な、やめろって、触るなっ」
パジャマは脱がせやすくていいね。ウエストから手を入れて、一気に下着ごと引き下げた。
あわてて隠す腕を引き離して兄さん自身をボクは口のに中に入れた。その行為にボクはまるで抵抗を感じなかった。
だって、ずっと夢見ていた行為だったから…
瞬間、兄さんの口から短い悲鳴にも似た声が漏れた。
「アルッやめ、放せ!」
きちきちに張りつめた兄さんに舌を這わし、先端から滲み出たものをすくい取って嚥下する。
「や、あっあっ、めろって、たのむ、アルッ」
「いひゃいよ、ひっぱりゃないれ、」
「うあぁっ!!」
痛いよ、引っ張らないでって、言ったつもりだったんだけど、たぶん理解できなかっただろうな、
体を縮めてボクの髪を力一杯引っ張るんだもん。禿げたらどうするの?


しゃべった刺激でさらにきびしくなったみたい。
かまわないよ、にいさん、
「ん、あっあっるっ」
にいさんの口からよばれるボクの名前がこんなにうれしく聞こえることはない。
「アル!アルッ、アルッ!」
「にいさん」
ボクが答えた瞬間、にいさんの体がこわばった。
あふれ出てきたものをボクはすべて飲み干した。息づく先端をなめて綺麗にしてあげる。
顔を上げると、胸を大きく上下させ涙の浮かんでいる瞳を両腕でかくした。
「顔を見せてよ。」
「やめろ、ばか」
「にいさんバカなんだから、しょうがないよ。」
「おまえ、顔、とろけすぎ、」
「わぁ、表情があるってのも、大変だね。考えてること、全部ばれちゃう、にいさんと一緒に外を歩けないかも…」
「バカ面垂れ流しってか?」
「ひどいよ、それって!!」
怒って見せても、間近にあるにいさんの顔を見て、やっぱり垂れ流しかもと降参する。だって、幸せすぎるから…
「アル?」
「わっ、」
に、にいさん、どこをさわってるの!!
「おまえ、まだだろ?」
「わー、いいっ、いいってば、」
「おまえ、初めてでよく知らないだろうけど、こんなになっちまったら、収まらないんだぞ」
「わ、ぁっ、」
「なんだよ、さっきおまえがしてくれただろ?同じことをして、」
「あっ、」
にいさんの手がボクを包み込んだとたん、背中から腰のあたりが、ゾクゾクッてして、
がまんしきれなくて、かがみ込んだにいさんの顔に…かけてしまったっ!
「ご、ごめん、ごめんなさい、にいさん、」
「ん、いい、」
口の端に滴りおちてきたものをにいさんの舌が舐めた!!
「何してるのっ汚いよっ!」
「なんで?アルのだろ?」
さらに、手で掬い取って舐めとる仕草さにボクはめまいがした。
「もう、…勘弁して、」
にいさん、エロすぎ、ボクには刺激が強すぎるよぉ、
「にいさんが、悪いんだからね。」
両手首を捕まえて、かみつくようにキス!もう、ボクの思考は吹っ飛んだから!
何するか、わかんないから、覚悟してよ!
「んぁ、アルッ、あ、あぁっ」
 

次の日、動きの鈍いにいさんと、赤面したまま顔を合わせないウィンリイと、にやにやしているピナコばっちゃんの間で、
いたたまれなくなっているボクがいた…








アルは子供の頃、そんなに泣いてません。むしろ、兄の方が…
生身を手に入れたアル。初日にそんな、たいしたことはできません(涙)
いつものごとく読みづらい…