横谷リーダー観察日記 1

 
「失礼しますっ!!今日からこちらに配属されました、巌といいます!!よろしくおねがいしますっ!!」
 第一印象が大切だと思い、力いっぱい挨拶をした。が、部屋の中は薄暗く、明るい廊下から入った巌の目には、中にいる人物を確認出来なかった。
 こちらからは見えないにしても、中からはこちらの様子が見えるはずなのに返答がない。
 巌は目がなれるのを待ちきれずに、ぎゅーっと目を細めて中を見回してみた。人の気配はある。
「あのぉ!」
「うるさい!」
 声をかけようとして、怒鳴られた。
 明らかに、不機嫌そうな声に、びくりと体がすくむ。
「体育館じゃないんだ、でかい声じゃなくても、聞こえてる」
「これはまた、随分元気がいい人がきましたね。」
 ようやく目が暗がりに慣れてきたころ、二種類の声と部屋の全貌が見て取れた。
 本当にあまり広くない、というか、部屋というより、通路といった方がいいのかもしれない。
 人の歩くスペース以外は、水槽やそれにつながっているボンベの類がビッチリと置いてあるし、ホースやコードが床から壁から、いたるところを這いまわっている。低いブーンと唸るようなモーター音と、ブクブクという音が、耳鳴りのように続いていた。
「コマンダーの差し金だろう。」
「あははは」
 不機嫌な声の主は、こちらに背中を向けたまま、机に組んだ両足を乗せて仰け反っている。
 もう一人は、資料を抱えて棚に入れていた。
「ようこそ、チームマーリンへ、私は今井です。彼がチームリーダーの横谷さんです。」
 呆然としている巌に、資料を片づけ終わった長身の男が片手を出した。
「よ、よろしく。」
 目の前の男と握手しながらも、巌の意識は奥の机に両足を乗せてふんぞり返っている横谷という男に向いていた。
 リーダー?リーダーなのか?
 …まるで自分に興味を示さないリーダーに巌は一抹の不安を覚えた。
 
 
 チームマーリンははっきり言って、暇じゃない。ただ、幸か不幸か水中での怪獣が出現していないため、表立った出動がないだけで、文字通り水面下の仕事は、山ほどあった。
 怪獣が通った後の水質調査。放射能汚染や、その他化学物質の汚染などのほか、怪獣出現時の海底地震による地形の調査、水温変化による生態系への影響。
ここまでやるか、というほどにいろいろあった。が、怪獣出現の可能性や危険性がある限り、全てこちらに仕事が回ってくる。
 はじめの一週間で、巌は悲鳴を上げていた。
「今まで、今井さん一人でこれをやっていたんですか?」
 書類の山にひーと、顎を出す。 
「いいえ、今までは、横谷さんが手伝っていてくれたんですよ。巌さんほどじゃないですけど。あなたが入ってきてくれて、ホントに助かってます。」
「巌って、呼んでください、みんなそう呼ぶんで、急にさん付けされると、なんか、こう、尻の辺りがむずむずするから。」
 しかし、リーダーなんだから手伝うって表現もおかしいよな、と思いつつも、とりあえず仕事に没頭しようと両肩をぐるぐる回した。
 
 
「どうです?進み具合は。」
 どうぞと、コーヒーカップが、部屋の隅においてある巌のデスクに置かれた。
「あ、どうも。もうすぐ終るんですけどね。この表が出来れば、と、ヨッシャーいったぁ」
 エンターキーを押したところでパソコンが起動し、ディスプレイに、きれいなグラフが映し出された。
 カップを片手に今井がくすくすと笑っている。
 いぶかしんで、巌が見あげた。
「いやぁ、元気だなと思って、どっちかって言うと体育会系のように見えるのに、コンピューター関係にやけに詳しいし、それでいて野生児みたいだしね」
「そおかなぁ、あ、俺、根本的に機械とか好きなんですよ。だから、車や船なんかも好きで、いじっていると必然的にコンピューター関係もやらなきゃなくて、で、完成した物を操縦したりするのも好きなんですよ。」
「いいですね、好きなものだらけで、」
「そうでもないっすよ、開発したものを原稿用紙にまとめて何枚以上にして提出しろ、なんて言われたらお手上げです。まとめを今井さんがやってくれてなきゃ終れませんって、」
 トホホな顔でデータをCDに保存すると、それを今井に渡した。
「お疲れさん、今日のデスクワークはこれで終りですが、巌…さんは、泳ぐのは得意ですか?」
「得意って言うか、好きだな。結構。」
 言って自分で、うんと頷いている。今井は、巌を素直で前向きな性格なんだと認識した。
「これから、トレーニングが入っているんで、リーダー拾っていきますか。」
「トレーニング?」
 チームマーリンになってから、初めてだった。
「本業は、水中ですからね。週に、何度かは、筋力保持のため、トレーニングをしているんです。エリアルベース(ここ)には、本格的な施設がないので、ジオベースまで行かなければなりません。今週のように仕事が立て込んでいるときは、難しいですが、」
 トレーニングルームなら、あったはずでは?と疑問に思う。
 今井は、XIGナビを開けると、横谷を呼び出した。
「リーダーは、いつもどこに行ってるんですか?」
 素朴な疑問を口に出してみる。
「さぁ」
 簡素な答えが返ってきた。
 さぁ?
 ナビの呼び出し音が鳴る間、巌は、さぁの意味をしばらく考えていた。
 ピッとなって、横谷が応答した。
「横谷さん、こちらは終りましたのでこれから下へ行きます。これますか?」
「あぁ…」
 ちらりと巌がのぞき見て、目を見張った。
 ナビに映っていたのは確かに横谷だったが、上半身、裸だったように見えた。しかも、けだるげに前髪を掻き揚げて…
 ほんの一瞬だった。
 今井が慌ててナビを閉じたように思える。
 首をかしげながら、さっきの、さぁ、の意味とつなげて良いものか、考えた。
 ダブライナー搭乗口で待っていると、程なくして横谷が来た。今井と、軽く何か話した後、巌には何の関心も示さずにダブライナーに乗り込んだ。 
 先程の表情が、巌の脳裏から消えない。が、勤務中だぞ、と、横谷への妄想を全てを否定してみる。
 じゃあ、どこで、何をしていたのだろう…
 否定と妄想の繰り返しで、頭の中がぐるぐるしてきた。
 横谷はといえば、巌の無遠慮な視線をまるで気にする事もなく、まるで何事もないように行動していた。
 
 
「すっげー、なんじゃこりゃ」
 はじめて来たのだから、きょろきょろ見回すのも無理はない。
 ジオベース内の訓練施設には、海での作業訓練などのため、プール内に本物の海水を引き、海底も作り、魚までもが回遊していた。
 海水パンツ以外の道具は全て用意してあり、水深三十メートルのところではスキューバーダイビングの訓練もできるようになっている。
 まるで海をそのまま切り取って持ってきたような空間に、巌の口があんぐりと開いたまましばらく閉じない。
 立ち尽くしている巌を無視して横谷は、屈伸やら柔軟を数回行い、本物の海岸のようなところから、水へ入っていった。
 自分達のほかにも、訓練しているものはかなりいるので、本当に、海水浴にでも来ているみたいだったが、遊んでいる姿はなく(あたり前だ)誰もがみんな真剣な顔で泳いでいる
「まずはストレッチ、十分に行ってください。市民プールではないので海流もあります。油断は禁物です。」
 二人は、横谷と違い、十分ほど黙々と準備運動をした。
「向こう岸まで、二百メートルあります。取り合えず、五往復してください。」
 二キロ…普通はじめてのトレーニングでそこまではやらせないだろうが、そこはそれ、水泳部ではないのだから。チームマーリンへ入隊してこれよう者なら、そんなものはなからウォーミングアップのようなものであろう。
「うっしゃー」
 …二キロ泳げといわれて巌はなぜか、嬉しそうである。
 豪快な泳ぎは、対岸に渡っても見えるほどの水しぶきをあげている。
「あはは、ほんっと元気な人だなぁ。」
 感心している隣に横谷が立っていた。
「あれじゃあ疲れるだけだ、直させとけ」
 おや?と今井が横谷に視線を向けると、横谷はもう一度水に入っていった。
 するりと何の抵抗もなく水に溶け込み、かなりはなれた所からスポンと顔を出した横谷はまるで巌の泳ぎとは正反対に、ほとんど水しぶきをあげず、すべるように泳いでいった。途中、巌とすれ違うが巌はその存在に気付くこともなく、どんどんこちらに近づいてくる。
「ぷはぁ」
 こちら岸に付くと、すぐに踵を返してまた飛び込もうとするので、今井が慌てて呼び止めた。
「ちょっとまってださい、」
「えっ」
「そんなに急がなくてもいいです。競争しているわけではないんだから、もっと力を抜いて、速筋ではなく遅筋で泳ぐようにしてください。」
「はぁ」
「確かに、救助の時などスピードが重要になりますが、海は広いんです。」
 のほほんとした今井の笑顔に、またしても、はぁ、と抜けた返事を返してしまう。
「海での遭難は人間の時間では測れないものです。人間がどんなに頑張っても、海の中ではもがく事も意味がありません。体の七割は水で出来ています。しかもそれは海水に非常に近い液体なんです。海に入ったら、それが一番の武器になるんですから、皮膚一枚を挟んで、海と同化してみて下さい。水に漂って、休む事も時には必要ですから。」
「はぁ、」
 今井が水に入っていく。その後を巌が続いた。
 ちゃぷん 
 巌の耳に水の音が聞こえる…
 それは、生まれて初めて聞いたような気がした…
 漁師の家庭に育ち、産湯も海の水だったのではないかと思われるほど朝から晩まで海に入っていた巌だが、海と同化しようとは思った事がなかった。
 水の中に入った途端に目をつぶったままリラックスして水中を漂う巌を、今井は本当に彼は素直な性格だなと感心した。
 この年齢になると人の意見を素直に聞き入れる事が難しくなるのが常である。特に、しっかりと自分の意見を持った成人男児なら余計に人の意見には少なからずも無意識に反発を持つものであるのだが、巌にそれは見えなかった。かといって、人の意見に左右されるような意志薄弱な性格でないことは、ここ一週間のデスクワークをみていて十分に理解していた。
 巌は、自分の知らないもの、未知なるものを全て吸収しようとしているのだ。 まるで、少年のように純粋なその心で…
「ふぁーー、疲れたぁ、俺、いつもバシャバシャやってたから、ゆっくり泳ぐ筋肉なんてなかったんじゃないか?なんか、けだるい。」
 海岸に上がって、脱力している巌に、今井が上から笑いかける。
「二、三回やればすぐになれます、さすがに筋はいいみたいですから。」
 コマンダーの推薦で選ばれた人物だけある。
 いや、たぶん彼は、その性格ゆえに選ばれたのだろうと、今井は確信していた。
「さて、次は、潜水ですが、スキューバーの資格は、もちろん、」
「え、まだやるんすか?」
 資格があるかの問いに、まるで関心を示さないで大きく一つ溜息をつくと、再度、うっしゃーの掛け声と共に立ち上がった。
 場所を水深の一番深いところに移す。
「海底に、これ、が置いてあります、とりあえず、拾ってきてみてください。」
 茶目っ気なのか、冒険談に出てくるような、木製の宝箱を手にとって見せる今井に、巌は脱力した。
「ここは本当に入り組んだつくりになってますからとりあえず、ボンベを持って、」
「大丈夫っ!これくらいの水深じゃ素でいけます。一個拾ってくるだけっすよね。全部じゃないんなら、五分もかからずに戻りますんで。」
 ザブン!
「あっ、あーあ、ま、大丈夫でしょう。」
 先程の泳ぎを見ていて、それは確信していた。これくらいの課題、巌なら簡単すぎるというものである。
 今井は気にせずに、横谷の所在を探した。
 彼は本当に水がすきなのだ。何時間でも、下手をすると地上にいるよりも水中の方が、彼には棲みやすいのではないかと思えるくらいに…。無意識なのだろうが水の中の彼の表情はほかでは見られないほどに、優雅に楽しそうにしているのだ。たった一人で泳いでいるにもかかわらず、イルカのように泡で遊んでいるように見える。
 ふいに、横谷が今井の視線に振り返った。
 
 
 巌は水に飛び込んで、キレイに澄んでいる海水を海底に向かって泳ぎ始める。
 本当に入り組んでいた。珊瑚の生えた岩や、いたるところに生えている昆布は海面にまで届くほど長いものもある。水温は低めだが、多分それも訓練のために低く調整してあるのだろう。
 海底の砂は、白くキメが細かい。日本の海はこんなにきれいじゃないぞ、と思いながらも、巌は宝箱を探して見回した。
 それはすぐに見つかった。何の障害もなくあまりに簡単すぎたので、もう少し探検しようとあたりを見回す。
 少し先の岩場の隙間に光るものを見つけて寄ってみた。
 宝箱を片手に抱えているためか、そんな気になって、そこに落ちているものが宝物のような錯覚を見せたのだ。
 岩場に腕を入れてみる。
 目的のものは半分砂に埋まって見えないが、取ってみてたいした物でなければ捨てればいい、くらいの好奇心だった。
 岩の隙間が狭くて、ちょっと強引に手を入れてみる。スポッと向こう側に手が抜けた。指先で砂をあさってみる。そろそろ息が苦しくなって来た頃、指先をかすめるものを捕まえた。
〔よっしゃー〕
 後は戻るだけ、と、ご機嫌で腕を抜こうとして、岩に阻まれた。
 入れるときはただきつかっただけなのに、抜こうとしたら、手首の関節がしっかりと岩の端にぶつかっていて、どう角度を変えても、手の中のものを指先にやっても抜ける気配がない。ここに来て、巌にあせりが見え始めた。
 素潜りでも、五分は余裕で大丈夫なのたが、すでにその時間はすぎていた。
 
 
「今井、」
「どうしました?」
「やつはどうした。」
 やつ…ふと考え、我に返った。ついつい横谷に見とれて、巌の存在を忘れていたのである。
 腕時計を見つめた今井の顔から血の気が引いた。
「素潜りで、すでに八分経過しています。」
「ちっ」
 横谷は、大きく息を吸い込むと、一気に海底を目指して潜っていった。今井が素早くボンベを背負い、もう一つを手に後を追う。
 苦しい…巌の肺が、悲鳴を上げていた。すでに、自分の限界は超えている。何度も引かれた手首から、鮮血が煙のように流れ出していた。
 ガボリと、口と鼻から大きく溢れ出る泡を狭まる視界の中にみていた。その泡を押しのけるように、影がどんどん下りてくる。
〔イルカ?〕
 近づいてくるそれが、かなりの形相で怒っていた。
 それでも、なんか不思議な感覚でそれを見つめる。 
「このぶぁか!」
 水中をくぐもった音が伝わってきた。
 そして、その口が巌の口を塞ぐ。
 鼻をつままれて、とっさに口の中の海水をゴクリと飲みほすと、口移しで気体が口の中におしこまれた。
 意図を理解して、必死でそれを吸い込むが、残っていた海水も吸ってしまい、激しく咽た。
 もう一度、風船のように、息を吹き込まれる。そのままそれを吸い込んだ。
 その時、ようやく今井が追いつき、一本のボンベの吸い口を巌の口に押し込み、自分が咥えていたものを横谷の口に押し込んだ。
 しばらく二人は必死に酸素を貪った。
 横谷は自分にかしていた吸い口を今井に返すと、巌のそれを取り上げ、手首を挟んでいる岩に叩きつけた。ごん、ごん、と、鈍い音が響く中、何度も何度も横谷はボンベのそこの固い部分を叩きつけている。今井が、酸素をかわるがわる三人の口に入れた。
 がいん、と激しい音がして、小さいが硬い岩は巌の腕を解放した。息を吐き出しながら、三人は水面へと向かう。
「げほっげほっげほっ」
 顔を水面に出すと同時に巌が咳き込んだ。今井が先に海岸に上がり、巌を引っ張り上げ、横谷を受け止めた。
 はぁはぁと荒い息をつき、横谷が仰向けに仰け反る。
「す、すみませ、した。」
「こ、の、ばかがぁ!!」
 息も絶え絶えに、しかし、かなりの迫力で、巌は怒鳴りつけられた。
「海をなめるなっ!何をやってたんだっ」
「あ、」
 今になって、握り締めていたものを思い出した。
 巌の右手が差し出され、横谷と今井の視線が自然とそれに向けられる。
「海賊の財宝の一部かと思って、つい」
 手の平はソッと開かれた。
 そこには、細めのシルバーのリングがあった。
「誰かの落し物かな?」
 名前が付いているかも、と見回す巌に横谷が声を荒げた。
「誰かが捨てたものだろうっ!そんなもののために、きさまは死にかけたんだぞっ、自分の行動に責任をもてっ!」
 おやおや?と今井が目を丸くして横谷を見つめる。
 巌は、その剣幕に首を竦めて小さくなった。
 その姿に横谷は見下すような視線を落とすと、ぷいと、背を向けて帰ってしまった。
「すみませんした。あんまりきれいだったんで、トレーニングだって事も忘れちまってました。以後気をつけます。」
「大丈夫でしょう。ま、久しぶりに俺たちまで、本格的なトレーニングをさせられたようなもので、」
 今井は苦笑いを見せるけど、巌ははぁーと溜息をついて、入隊初の失敗に十分反省しながらも、手の中のリングの裏側に視線を向けていた。
 
 
 マーリンの研究室を閉めると、三人はそれぞれの自室に足を向ける。どういうわけか、三人のプライベートルームは棟が違っている。近すぎると良くない理由があるのかわからないが、一つの分岐点まで来ると三人はバラバラの通路に入っていくのだ。が、横谷は、いつも戻る場所が違うことに巌は疑問を感じていた。
「今井さん。横谷リーダーの部屋って、どの棟なんですか?いつも、あちこちに行ってますよね。」
「うーん、自室はB棟なんだけど、ま、いっぱい友達が居ますから、あちこち行ってるんでしょ、あまり気にしない方がいいですよ。」
 友達がいっぱい?あの性格で?
 巌は激しく違和感を覚えた。どう考えても自分には接しにくいタイプだと思うのだが、もしかしたら自分にだけなのだろうか?他では朗らかに笑っていたりして。
「可愛いだろうな…」
「えっ?」
 思わず声にしてしまった呟きを今井が聞きとめた。
「や、なんでもないっす。お疲れ様した。」
 足早に自室に戻ると、まだ一度も見た事がない横谷の笑顔をもう一度思い浮かべて、机に顎を乗せて溜息をついた。
 ポケットに手を入れて、キーホルダーを引っ張り出す。先日死にかけながら手に入れたシルバーのリング。それをキーホルダとして持っていたのだ。
 あの時、横谷はこのリングを見つめて、目をむいた。
「横谷さん、下の名前、なんていうんだろう…」
 きっと何か関わりがあるはずである。あのときの一瞬の表情が巌の脳裏から離れない。
「これ、リーダーのだったのかなぁ?」
 この頃の巌は、前の彼を知っているものに会えば、別人じゃないだろうか言われるだろうほどに、腑抜けになっていた。
 いつも心に横谷を抱えている。思い出すのは、遠のきそうになる意識の中、必死に息を分けてくれたあの唇の感触。
 噛み付くようなそれは、色事っぽさの欠片もなかったのに、思い出すたびに巌の心臓はフル回転はじめるのだ。
 人間死を目前にしたとき、目の前にいるものに恋をすると聞いた事があるが、自分もそれなのだろうかと思っても見る。
 どちらにしても、恋わずらいにへろへろになっているのだ。横谷の交友関係が気になって仕方がない。
「いっぱいいるって言ってたよなぁ、」
 いいなぁ…
 




観察日記シリーズが始まりました。こちらもかなり大人向けとなっております。
これから先は18歳以上になってから見てくださいね。