横谷リーダー観察日記 4
巌が横谷の心の傷の原因であるコマンダーを殴り飛ばして三日が過ぎていた。
破滅将来体は相変わらず出没し、チームマーリンの忙しさは相も変わらずだった。
「?横谷さん、何やってるんですか?」
巌が一週間謹慎のため、いつもさぼっていた横谷までデスクにくくりつけられるように
仕事をさせられていたのだ。
「うるせー、んなもんやってられるかっ」
我慢も限界に達したようだ…
ほんの少ーしは責任を感じていたのか、この三日間真面目にびっちり仕事をこなしていたので、
今井も感心していたところだった。
おかげでかなり残りの仕事も少なくなっている。また新たな怪獣が出没しない限りは…
さっきまで必死にパソコンにデータを打ち込んでいた横谷が、いきなり電源を落とし、ばたばたと
書類の束を紙袋に詰めだした。
「ようは、部屋からでなきゃいいんだろう!あいつはっ!」
限界ですかね、と、今井が内心一人ごちる。
エリアルベースに来てから毎日のように、相手をとっかえひっかえしていた横谷が、今井が見た限り
この三日間誰とも会っていなかったようなのだから、すごい変わり様だと驚いていた。
「もとはと言えば、あいつが原因じゃねーか、根元にやらせてやる!」
いやいや、根元は、あなたです。とは言えない今井であったが止めることはせず、むしろ苦笑いをして
送り出してやった。
横谷がそろそろ巌の部屋の前に着いた頃、今井が巌のナビを呼ぶ。
「巌さん、元気ですか?」
「あ、今井さん、申し訳ないっす、仕事大変っすよね。」
「そりゃもう!ま、それは仕方ないとして、そろそろそちらの部屋のドアのモニターに、
誰か映ってませんか?」
嫌みたっぷりな今井の声にどっぷりと落ち込みながら、モニターに視線を向ける。
「え?あっ」
「しばらく見てたら面白いかもね。」
意地悪そうな声とは裏腹に、にっこりと笑ってナビを切った今井に思わず何度か目をしばたかせて、
その後モニターに視線を戻した。
「おもしろいもの?」
今井の言わんとしていることを確かめようとして、ドアの前でうろうろしている横谷を観察する。
「なにやってんだ?」
部屋の呼び鈴を鳴らそうか、ドアをノックしようか、けりを入れようか、手に持っている荷物を
黙って置いていこうか、じたばた迷っている横谷が映っていた。
その様をしばらく見ていたが、我慢できなくなって巌はドアを開けた。
呼んでもいないのに開いたドアに、横谷がびっくりして目をむいている。
巌は、有無を言わさず横谷の腕を捕まえると、部屋の中へ引っ張り込んだ。
「な、何を!」
抗議の声を上げるまもなく横谷の細い体は巌の腕にすっぽりと抱き込まれる。
「すみませんっした。勝手なことやっちまって。」
耳元でぼそりと呟く声は三日ぶりに聞く巌の声で、横谷は何故かほっとした。
ぎゅーっと力を込めてくる巌に 横谷の体から力が抜けていく。
抗うこともせず、しばらくそのままにしておいた。
「まったく。おまえはチームマーリンのことをどう考えてるんだ。今井一人にすべて押しつける気
だったのか?」
「自殺しようとした人に言われても説得力ないっす。」
腕の中で横谷が、あ、と小さく声を上げ、まったくだと含み笑いをこぼしている。
「…ところで、いい加減放せ、」
「俺もそう思うんですけど、この手が、俺の意志とは関係なく、」
横谷の後ろに回している手が、背中を通り越して脇の下あたりをさまよっている。
びくりと横谷の体が動いた。
「そんな反応されると、もっと言うことを聞かなくなりますけど…」
「っ〜〜〜」
かなりたくさんの言葉をまくし立てたいのだが、頭の中でまとまらないのでカッと顔が熱くなる。
その間にも、数回触れただけで知り得た横谷の弱いところをコンバーツの上から確実に攻め始めた巌を
奥歯を噛みしめて睨み付ける。が、慣れない禁欲生活を送っていた体が待っていたように反応し始めた。
横谷の首筋に巌が無精ひげのある顎をすりつけ、耳の後ろに顔を埋める。
「あー、いいにおい、」
すうーっと、音を立てて何度も息を吸い込む。
そのたびに冷たい空気の感触と巌のひげが首筋に触れて、背筋に電流が走った気がした。
自然に声が漏れる。
「あっ…」
理性を飛ばすのは、簡単だった。
かくかくと足が震えだし、追い上げてくる快感に意識を集中させると、もう何も考えられない。
「い…わお、」
体が沈みそうで、横谷は巌の頭に腕を回してしがみついた。
「俺、リーダーのにおい、だいっ好き。」
巌が口にした一言でぴくりと横谷の体が動く。一瞬で体が緊張し、こわばるのが分かった。
そう《好き》は禁句。
知っていて、こわばる体を優しく撫でながら巌はわざと言う。
「この髪、つるつるで、冷たくて、柔らかくて、すっげー好き」
背けようとし始めた頭をグローブのような両手でつかんで、髪を首筋からすくい上げ、
かき回すように撫で回す。
「や、め」
「彫刻のようにすべすべの肌が、気持ちいくて、好きだ。」
ざらざらとひげ面を横谷の頬にこすりつける。
「い、いて、…はっ…」
唇を頬に滑らせ、そのまま喉元まで下がり、喉のふくらみの下にある柔らかいくぼみに食らいつき、
舐めながらきつく吸い上げた。
「んっぁっ」
がくりと横谷の膝から力が抜けて、床に跪いた。
「あんたの体、何でこんなに感じやすいんだろ、たまんねーよ、すっげー好きだ」
力の抜けた腰を ともすれば折ってしまいそうなほど力強く 巌の腕が巻き付いて抱きしめる。
「や、」
「やめない。だって、俺、あの人よりも、あんたのこと、好きだもん。」
あの人、に力を込めて、横谷の瞳をのぞき込む。
苦しそうに横谷の瞳が歪んだ。
「全部が、あの人のことを考えて脆くなってちまってる心ごと全部が好きだ。」
泣き叫ぶのかと思うほどに、顔を歪めて口を大きく開けた。
力一杯瞑った瞼から涙があふれてくるのに、声が出ない。
きつく抱きしめる巌の胸を力一杯押しのけて、頭を振り回す。流れる涙が、あちこちに飛び散った。
「あの人のことを考えるときは、いつもそうやって声を殺して泣くんですか?!」
いまだに、横谷の心を握りしめて放さない男に 激しい嫉妬がわき上がる。
「なんで!なにがそんなにいいんですか!あの人は、もう、あんたを愛してはくれないっ!!」
すぅっ!と息を吸い込む音がした。
「っあああああぁっ!」
巌の胸に額をぶつけると、聞いている方まで胸が締め付けられるような声を上げた。
慟哭とは、こういうのかも知れないと巌は感じていた。
握りしめて震えている手から、血が滲んできている。その腕を自分に絡ませると、かなりの力で
爪を立てた。
「そんなに苦しいなら、あんたがあの人から聞いた言葉を全部消すほど言ってやる。
俺はあんたが好きだ。誰よりも好きだ。愛している。」
巌の声を聞きたくないと、耳を両手でふさぎ必死に首を振る。
その手首を両手でつかんで力任せに耳から引きはがした。
「聞いて!好きです」
「いやだぁ!」
怯える瞳で巌を見つめ、必死に首を振ってあとずさる。
「好きです」
過去の記憶が、巌の言葉に一つずつ消されていくような気がして、横谷は必死で抗った。
「消える。消えてしまう!」
「好きです、」
引き寄せて耳元に口を寄せて言う。
耳の中が巌の言葉でいっぱいになる。
横谷は、ひぃぃ、と小さく悲鳴を上げた。
「あなたが好きです。まだ、足りませんか?」
焦点の合わなくなった瞳が宙をさまよう。
このまま、壊れてしまうのではないかという恐怖に巌は歯を食いしばった。
「あなたが好きです。」
「やぁぁ、」
「あなただけを 俺は、愛し続けます。」
しばらくして、抵抗していた両腕から急に力が抜けた。
だらりとぶら下がった体を巌が大切に大切に抱きしめると、悲鳴のような泣き声は
しゃくり上げに変わり、まるで子供のような声を上げて巌の胸で泣き続けた。

こんなとこ、見てくれる人いないだろうけど、ガイアシリーズは大好きな話なので、書き上げます。
こっちのが終わったら、もう一組のガイアシリーズに取りかからねば。
へたれ巌、がんばれ!(誰も応援してくれないから、自分で応援する。;;) |