横谷リーダー観察日記 5
「巌さん、何したんですか?」
巌の謹慎が解け、持ち込まれた仕事もすべて仕上げた。仕事の方は一段落着いていたのが、あの日以来横谷は
誰とも口をきいていなかった。
今井が話しかけられるような雰囲気でもなく、じれったそうに巌に聞いてきたのだ。
「…傷を広げただけだったんだろうか。」
はぁー、とため息を付く巌に、今井もため息を付いた。
そんなとき、海から謎の発光体が関東上空に飛来し、アナライザーの高山我夢が対策を練るため今井を訪ねてきた。
「海に怪獣が出たんだなっ!チームマーリンの出撃だなっ!そうなんだなっ!」
興奮した巌が今井の首を締め上げる。
「く、苦し、巌、さん」
この出撃で、横谷の気分転換になればと巌の気がはやる。
「巌さん、やめてください!死んじゃいますよぉ、」
いきなり今井の首を締め上げた巌に、訳も分からず、我夢は必死に縋り付いて止めようとしているが、体格の差は著しく、
まるで大木にくっついている蝉のようである。
横谷は最高に、不機嫌だった。
二人とも、任務に私情を挟むような人間ではないことは分かっていたが、コマンダーに呼び出されたときは、かなり
冷や汗ものだった。
任務を命令するコマンダーの視線は横谷を見ていたが横谷は、まっすぐ前を見据えたまま、コマンダーに
視線を絡ませない。
出撃した後、コマンダーが横谷の後ろ姿の消えたドアを見つめ、ぎゅっと目を瞑っていたことは、誰も気が付かなかった。
沈黙の中セイレーンは慎重に海底を進んでいく。
任務遂行のため、最初に口を開いたのは横谷だった。
抑揚のない会話が今井と交わされる。
目的地である無酸素生命体のいる岩棚の裂け目に船体がゆっくりと入ってゆく。
「横谷!気を付けていけ!」
モニターに必死の顔のコマンダーが映った。
巌が横目で見ると、横谷も小さく唇を噛みコマンダーを見つめている。
確か海に怪獣が出たのは、初めてではない。が、今までチームマーリンの出撃がなかったのは、
横谷を極力危険な目に遭わせたくないコマンダーの配慮だったのではないのだろうか、
巌は自分のしたことが間違っていたのではないかという想いに打ちのめされた。
この二人は、まだ…
いきなり目の前に金属音のようなとどろきを上げて、無酸素生命体が立ちふさがる。
攻撃を交わし、横谷の指示で上昇しながらも怪獣に攻撃を加える。
怒った怪獣がさらに激しい攻撃を仕返ししてきた。
巌は必死で攻撃を避けるが狭い岩棚の中ではどうにもならず船体後方に着弾した。
激しい振動と警報が鳴る中、まるっきり操縦が効かなくなり、セイレーンは海底に沈んでゆく。
深海での故障は、即、死につながる。
全員が焦った。
コマンダーが見つめていたモニターは、衝撃の大きさと、警報音を映し出していた。
その映像もノイズに邪魔をされ、巌の だめだっ!と言う叫び声を最後に切れた。
「チームマーリン!応答しろ!チームマーリン!!」
返答がない、焦りに立ち上がる。
「勝歳っ!!」
「コマンダー!」
堤チーフがパニックを起こしかけるコマンダーを呼びいさめる。
「出ます。」
の一言にあぁと頷き、二人はピースキャリーで、出撃した。
「出力最大!くそう、動けー」
海底は底なし沼のようにセイレーンを飲み込んでいく。もがけばもがく程に…
「…だめか…」
呟いた横谷の声音に諦めと安堵の色を見つけて、巌は力任せに梶を殴りつけた。
何故、自分はこの人を助けることが出来ないんだ。
自分の無力さが情けなくて、悔しかった。
セイレーンのほぼ全体が砂に飲み込まれたそのとき、わずかな隙間からまぶしい光が差し込んだ。
暗闇になれていた目にその光は眩しすぎて、全員が目を細めて光に集中する。
激しい揺れが船体を襲い、皆、必死で周りにしがみついた。
視界が解放されると、目の前にウルトラマンガイアが立っていた。
頷いたガイアの手からそおっと放されたとき、初めて助かったことに気が付いて、巌はセイレーンの動力を起動した。
助かったと、今井が微笑む中、巌はガイアを睨み付ける横谷を見つけた。
無酸素生命体がウルトラマンガイアによって倒されるのを確認してセイレーンは海上に浮上する。
そこにはピースキャリーが待機していた。
「全員無事で本当に良かった。」
回収されたセイレーンからピースキャリーのコクピットへと移動すると、堤チーフが心底安心したように出向かえてくれた。
堤チーフの隣には、コマンダーの姿がある。
巌の中で何かがはじけた。
「何故あなたが来るんですか?コマンダー。」
巌が一歩前に出る。その声には威嚇のような怒りを含んでいた。
コックピット内全員がギョッとする。
「あなたは、総指揮官のはずです。持ち場を離れて、何故ここに来るんですか?!」
これは八つ当たりだと、巌は自覚していた。
自覚していながらも、それを止めることが出来なかった。
「巌」
巌の勢いに堤チーフが慌てる。その言葉もまるで無視して、巌は続けた。
「あんたは、横谷さんを捨てたんだろう?だったら!」
横谷が巌をきつく引っ張り、止めようとしたが、にらみ返すだけで何も言い返さない相手に巌の怒りは頂点に達していた。
「自分の立場もわきまえずに、何でのこのこ迎えになんて来るんだ!そんな事するから、この人だって諦めがつかな…」
この場にいる全員が息を飲んだ。
まくし立てる巌の首にぶら下がるようにして、横谷が巌に口付けていた。
あまりのことに全員が硬直してしまった。
パイロットの神山だけが、エリアルベースへの帰還進路を確認しながら操縦している。
「いいかげんにしろっ、」
沈黙の中、横谷が巌に低く唸ると、失礼します、と踵を返しセイレーンに戻っていった。
まだなにか言いたげな巌の腕を引き、今井が一礼すると、その後に続いた。
ここにいる全員が横谷の古くからの友人であるため、事情は全て飲み込めてはいたが、コックピット内には
気まずい空気が流れていた。
「もう、かまうな」
セイレーンに戻った横谷が、視線を向けずに操縦席に座りながら呟いた。
「そうはいきません。俺は、横谷さんが、好きですから。」
巌が言い切って、操縦席から横谷の横顔を見つめた。
禁句を口にする巌に今井がはらはらして見つめている。
ふう、とため息を付くと、知っていると、横谷が呟いた。
今井が目を見開く。横谷の変化に…
《巌さん、あなたって人は…いったいどんな魔法をかけたんですか?》
次回やっと最終回、ここまで読んでくれた人がいらっしゃいましたら、感想なんか欲しいなぁ
こんな妄想私だけ?私だけ?ぐすん;; |