正しい休日の取り方と遊び方5
多重に重なる近次元
真実のあなたが見える『ミラーハウス!!』
「真実の俺?なんだそれ、」
みんなをまいて、一人優雅に歩いていたエドワードの興味を引いたのは一枚の大きな看板だった。
「いらっしゃいませーv」
お姉さんの笑顔が何とも嘘くさいなぁと思いつつ、立ち止まってみた。
「あなたを見直してみませんか?」
他に人の気配がないということは、あまり人気イベントでは無いのだろう。
「おもしれーのか?」
「楽しいかもしれません。人によっては、少々怖いかもしれませんね。」
クスリと小さく笑われたのが何とも癪にさわって、エドワードは促されるままに建物の中に入っていった。
「なんなの?!これ、」
アルフォンスは店の主人に連れられて、兄の尻ぬぐいをしに店までやってきた。
そこで思わず店の前で立ちつくしてしまったのだ。もし生身なアルなら、あんぐり口を開けたままになったであろう。
「やっぱり、にいさんのセンスって・・・・」
「でしょ?でしょ?あのあと、お客さんが遠巻きに見て逃げていくから、表に出て見りゃこれですもん、誰も来やしませんって。」
商売あがったりです、とほほと泣き崩れる店主に謝りながら、アルフォンスは本来の形がわからなくなってしまった店の周りを
ぐるりと錬成陣で囲った。
「普通の屋台でいいですからね。普通の!!」
店主は何度も「普通の」を繰り返した。ほとんど祈っている。
エドワードが親切心で作った物とは、首を絞められているニワトリ、背中にでっかい包丁を突き刺されたまま逃げまどう豚。
逆さづりにされた牛、真ん中にはデフォルメされ、目玉の飛び出した店主の顔。その口から出ている前歯でオレンジを搾り、
下のコップへジュースを注いでいる。そんなものが壁や屋根を埋め尽くしていた。
兄としては食材の新鮮さをアピールしたかったのかもしれないが、新鮮すぎて気持ち悪いだけだった・・・
店主が泣きたくなるのもわかる気がする。
アルフォンスが地面に両手をつくと、錬成反応の光が店全体を覆い、光が治まった頃 店の形はほぼ元通りに戻っていた。
ついでに内装もメルヘンチックで綺麗になっている。
ここら辺は、アルフォンスの好みだろうか?
「いやぁ、ありがとうございました、一時はどうなることかと思いましたよ。」
店主はよほど安心したのか、鎧の手を両手で握ってぶんぶん振り回した。
「いえ、こちらこそ、兄が大変ご迷惑をおかけしました。」
礼儀正しく頭を下げるアルフォンスに店主はエドワードがさきほど買ったものと同じものをおみやげだと言ってアルフォンスに手渡した。
もちろんいらないと断ったのだが、子供が遠慮するなと無理矢理頂いてしまった。さすがに氷菓子だけは辞退した。
「こまったなぁ、僕は食べられないのに」
両手に食料を持ってうろうろしていたら、フュリー曹長たちと合流したリザ中尉を見つけた。
「アルフォンス君、どうしたの?ずいぶんたくさん買い込んだのね?エドワード君とは一緒じゃなかったの?」
「これは、にいさんの後片づけをしたお礼に戴いた物です。よろしければみなさんで召し上がってください。足りなかったら、
にいさんがご迷惑をかけたお店の方から買ってくれると助かります。」
「あなたも、苦労するわね。」
中尉のため息とともに、みなで一斉にアルフォンスの手の中の食料をがっついた。
「僕はにいさんを探しに行きますね。これ以上まわりに迷惑をかけさせないためにも。」
「私たちもはやくあんのの野郎を捕まえなくては!!」
「う・・わぁ、なんだこりゃ」
中は鏡張りの迷路になっていた。
普通の鏡なら見たことがあるが、こんなにも周りじゅう囲まれたのは初めてである。
「どっちに行きゃいいんだよ?」
どちらを向いても延々と自分が互い違いに重なっている。後ろの鏡に映った自分が正面の鏡に映っているから、どの自分も自分
と向き合っている。
少し歩くと鏡の切れ目があった。
「こっちか?」
曲がり角から覗いた時、向かえに写る自分が半分しかなくて一瞬おどろいた。
ゆっくり角を曲がるとちゃんと全身がうつる。
まじまじと見ると、鏡の中に重なる自分は一番正面の自分以外顔が見えない・・・
正面で重なっているのだからあたりまえのことだが、そのことに気が付いたら薄ら寒くなった。
どんなに首を伸ばしても、跳ねても、体を曲げてみても、手や足は見えるのに表情は見えない・・・
ここに映っているのは本当に全部自分なのか?
全員が、今の自分と同じ表情をしているのか?
ここは別の次元の重なる場所・・他の次元の俺?
ここに重なっている俺は、俺であって俺じゃないのか?
恐る恐る右手の手袋に左手をかける。中には一人くらい生身のエドワード・エルリックがいるかもしれない。
ゆっくりと手袋を剥がしてゆく・・
「にいさーん、いるのぉ?」
いきなり近くで声がした。
「「うわぁ!!」」
ガション!ガション!と派手な音を鳴らせて角を曲がったアルフォンスは危うく兄を踏みつぶすところだった。
「っぶねーなぁ、こんな所で走るなよ!」
「びっくりしたぁー!だって、怖かったんだもん、鎧がいっぱいいて。」
そりゃ自分だろ!!と、つっこもうとして、あることに気が付いた。
「!!」
「え?なに?」
エドワードははじかれたように鏡の中のアルフォンスを凝視している。いや、わずかに瞳は奥へ動いていた。
自分の顔は正面のものしか見えなかったが、正面じゃないアルフォンスなら重なる姿がしっかり見える。
エドワードは重なる弟を一人一人確認していた。もしかしたら、生身の弟の姿があるかもしれない・・・
「にいさん?」
「・・・」
「ど、どうしたの?なんかいるの?」
鏡の中の弟がおろおろしだした。目をこらして限界まで見通しても、うろたえる大きな弟の姿しかみえない。
「にいさんっ!」
せっぱ詰まった弟の声に我に返った。
「ばっかだなぁ、何泣いてんだよ、まったく。いくつになっても怖がりだなぁ」
バカは自分だ。弟が来なかったら、自分も恐ろしさにパニックを起こしていたかもしれない。科学者の頂点にいるものが、
非現実に怯えてどうするんだ。
目の前で鎧をちぢこませている弟の胸を右の拳でこづくとガゴオォォンとからっぽな金属の音がする。
「これが、現実だ!」
「?」
見上げると疑問符だらけで首をかしげる弟がいる。
「トロトロしてると置いていくぞ。」
「やだよぉ、待ってよ、にぃさぁーん」
「お疲れ様でしたぁ」
にこやかなお姉さんの笑顔に迎えられ、どっと疲れが押し寄せた。
「どうでしたかぁ?怖くて泣いちゃいましたか?」
「泣くかよ!!こいつは泣いてたけどな。」
「ないてなんかないよぉ!!にいさんだって慌てて道を間違えてばかりだったじゃん!!」
「慌てねーと、お前に潰されんだよっ」
「額にたんこぶまで作ってさっ」
「これは!行き止まりだって言ってんのに、お前が押したんだろがっ!!」
「まったく、いくつになっても落ち着きがないんだから。」
ふーやれやれ、とため息をつく。
「おまえなぁ!!」
「くすくすくす、」
笑われて二人は我に返った。
「ん、まあ、確かに自分を再確認できた。楽しかったぜ。」
「また、遊びにいらしてくださいね。」
「ああ、サンキュー!」
元の自分たちを取り戻したら、もう一度来てみようと思う。そのときはまた、別の自分に会えるかもしれない。
「あ、にいさん、どこ行くのさ、待ってよ!まったく、落ちつきがないんだからー!!」
「うるせー!次はアレに決定だ!!」
「えぇぇっ!!やだっ、僕は出口で待ってるよぉ、」
「うるせー!!誰が怖がりか、思い知らせてやるよっ!」
「やだやだ!!絶対いやだぁーーーぁ!!!」
嫌がる弟を無理矢理引きずって向かった先は大きな洋風の三階建ての洋館で、正面には大きな看板にホラーハウスと書いてあった。
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