正しい休日の取り方と遊び方 9
「私の次にはアルフォンス君でお願いします。」
ご指名は、弟のアルフォンスだった。
何のご指名かというと、二階から三階へと続く梯子を登る順番である。
何はともあれ、一番初めは大佐に登らせた。その直後にハボックを。
これは三階に何かあっても、火葬させないための手段だ。
三番目が中尉なのだが、四番目に誰がなるかともめたのだ。
(白だよな、きっと)(僕としては、レースなどついているのではないかと、)(意外に黒かもしれないですね。)
ブレダを筆頭に部下達がきししと笑っていたのを聞いた時には本気で射殺しても良いかと思ったほどだった。
だったら一番最後に登ればよいのだが、最後の一人は怖いらしい。
「彼は、信用に充分答えてくれると思います。アルフォンス君、登り切るまで、こちらを見ないでくださいね。」
「わかりました!」
信用されて嬉々とする弟だった。
「なんだよ、俺は信用されてねーのかよ。」
少しばかり不本意な兄の顔を中尉が見つめた。
「・・・身長の問題です。」
確かに、兄が階段の下に立ったとしても、その上から梯子をのぞき込まれれば意味がない。
その点弟なら頭上がすぐ天井なので、のぞき込むスペースもないだろう。
「悪かったな!!ミジンコどちびで!!!」
まぁまぁと押さえられ、梯子問題は丸く収まった。
三階は古ぼけた石造りの部屋だった。埃っぽく窓もない。
部屋の中央に等間隔で六つのこちらも石で作られた棺が置いてある。蓋のある物と無いものがあった。
壁にある明かりはたいまつが燃えており、その側にはいくつか立っている棺もある。
壁一面には古代文字がびっしりと書き込まれていた。
見たところ、ここは古代王家の墓らしい。
「これもイヤな感じがするところだな。」
「何か仕掛けがありそうですね。」
人一倍怖がりのフュリーが震える声で言った。
とりあえず、人影はない。
一行は、ひとかたまりとなって、そろりそろりと部屋の中に足を踏み入れた。
見回したところ、部屋にドアらしき物が見あたらないのだ。登るか降りる手段を探さなくてはならない。
「な、なんか、静かすぎて、不気味だね。」
皆一様に首だけで頷いた。棺をさけて壁際を移動していくのだが、壁に立っている棺のすぐ前を通りたくないのだ。
ちょい、ちょい、と、中央よりに避けながら通った。が、立っている棺の前を通り過ぎようとした瞬間、いきなり棺の蓋が開いた!
「うわあ!!」
怖いと言うよりは、衝撃に驚いたという感じで全員が飛び上がる。
「どわわわわっ」
いっこ団体がバランスをくずし、一番外側にいたフュリー曹長を押しつぶそうかとした時、フュリー曹長の悲鳴が長く響きながら
遠のいていった。
「えっ?」
皆フュリーの姿を探す。が、彼はどこにもいなかった。と同時にガコンと何かがはまる音がした。
「彼は一体どこに行ったのかしら?」
震える声で中尉がささやく。
「ここじゃないですか?」
弟が指さしたのは中央に置いてある棺の一つ。先ほど、音を立てて何かがはまったところだ。
「床が抜けていたんじゃないですか?」
「落ちた後に底が塞がったというわけか。」
「ドアがないんだから、どこかに隠し通路なり、扉があるってわけだな。こんなような。」
皆が落ち着いたところで、先ほど開いた、立っている棺から、古く汚い布を全身に巻いた、俗にいう、「ミイラ」という物が一歩
踏み出してきた。
「きゃぁぁぁぁぁ!!」
耳をつんざく悲鳴と共に、中尉はスカートの裾をめくり上げた。
「あんた、一体何丁もってるんですか!!」
見事な太ももに巻かれたホルダー。取り出したのは、細身だが銃身の長いリボルバー。
「だぁーから、アルバイトだっつーの!!」
中尉を必死で羽交い締めにしている横で、弟は大佐の両手を握りしめ、力比べをしていた。
「ぼろ布に火がついたら、全身大やけどですよ!落ち着いてくださいっ大佐っ!!」
腰を抜かしたブレダとファルマンが一緒に後ずさった瞬間、手のついた床の一部がガコンとへこんだ。
「へっ?」
一瞬顔を見合わせる二人。
「うわぁぁぁ」
座り込んでいた床がいきなり斜めに沈み込み、バランスを崩した二人が抱き合いながら床下に滑り落ちていった。
「うおいっ!」
どこ行くんだよ!!と追いかけたが、ダストシューターの蓋みたいな部分は、バコンとすぐに元通りになってしまい、
何度そこら辺を叩いても、びくともしなかった。
「なんなんだよ、ここって、懲り過ぎだろっ!!」
ふと気づくと、さっきまで出てきていたミイラが、ゆっくりと元の棺にもどっていき、ばたんと扉が閉まった。
「しつけのできたミイラさんっスね」
ははは、と脱力していた時に、いきなり部屋が重低音を鳴らして振動しはじめた。
「こ、今度は何だ、一体!!」
身構えるが、何も出てきはしない。しかし、腹に響くような振動は続いている。
「上よっ!天井が落ちてきているわっ!!」
「なんだって!!ちくしょう、まだ、出口も見つかってねえじゃねーか!!」
どこかに出口があるはずと、皆てんでんばらばらにあちこち探り出した。
「うわっ!」
ハボックが壁を探そうと踏み出したとたん足下の床がすぽんと抜けて、そのまま姿を消してしまった。
「くそっ、俺たちも早く抜けでないと!!」
天井がどんどん下がってくる。
そろそろ腰を曲げないと頭がぶつかるという頃、大佐が壁際の足下のブロックを横にスライドさせた。
「こっちだ!!早く来いっ」
ここは自力で開けたため、すぐに閉まりはしなかった。
そこはシューターのようになっていて、初めに中尉を通させた、すぐに大佐も続いた。
天井はかなり降りてきていて、兄ですらもかがまなきゃならなかった。
「にいさんも、はやく、」
「ああ、」
兄が穴に入ろうとして、気がついた。
この穴の大きさでは、弟のアルフォンスは通れない・・・
「・・・僕は、いいよ。」
諦めた口調で弟が言う。
「ばかやろー!!」
両手をパンと合わせた後、シューターの両側に手をつき、自分の降りる勢いで、弟の腕を引っ張った。
「うわぁ!!」
勢いで弟はバランスを崩し、兄の後ろを頭から滑り降りてゆく。
「いっけえぇぇ」
兄弟の滑り降りるスピードよりも少しだけ速くシューターの壁は兄の錬成で幅広くなっていった。
中尉と大佐が出たのはホラーハウスの入り口のすぐ横だった。
入る時は気づかなかったのだが、ちゃんと、怪我防止のため、シューターの出口には柔らかいマットがカモフラージュしておいてあったのだ。
「あのこたち、大丈夫かしら?」
どう見ても、このシューターの幅ではアルフォンスは通れないだろう。それに気づいたのは、滑り降りている最中で、もはやどうすることもできなかったのだ。
ふむ、と二人で出口を見ていると、地鳴りと共に、シューターの出口の形がみるみる変型し、大きく形が固定したとたん、兄弟が一緒に滑り降りてきた。
「むぎゅ、痛ってー、アル、早くどけろぉ、」
勢いよく飛び出した兄はこれまた勢いよく飛び出してきた弟に押しつぶされていたのだ。
「間に合ったみたいだな。鋼の」
「ああ、しっかし、すげー所だったな。文句いってやる!!」
「改善せねばならないところがあることは確かだな。」
ふうっと息をついた時、遠くで何かのはじける音がした。
一瞬緊張が走る。中尉の手がかかと横についていた留め金を外し、ブーツのそこから手のひらサイズの小型拳銃を取り出した。
「おいおい、ほんとに、いくつ持ってんだよ。」
「マジシャンになれそうですね。」
明るく答えた弟を見上げてから、兄はがくっとうなだれた。
「大佐ー、大将!みんな、無事に出られたみたいっすねー」
先に降りた連中は別の出口だったらしく、一緒に走ってきた。
「今日のイベントの締めくくりに、花火が上がってますよ!見やすいところへ行きましょう」
フュリーのめがねに高いところまで上がった花火が反射していた。
バラバラバラっと火薬のはじける音がする。
「花火だったのか。」
「珍しいね。」
リゼンブールに花火はなかった。ワクワクしながら兄弟と一行は花火の見える場所まで移動することにした。
「きれいねー」
「火の粉がふってきてるよ」
すぐ側で打ち上げられている花火は、頭上で大輪の花を咲かせ、花びらが長く降り注ぐ。
一同ほぉーーっと声もなく見とれた。
鷹の目と呼ばれる鬼のお目付役も年相応の女性にもどり、うっとりと空を眺めていた。
その肩を大佐がそっと抱き寄せる。
「このくらいの花火なら、いつでも私が見せてあげよう。」
「ありがとうございます」
にっこりと微笑む中尉の髪に頬を乗せ、大佐はしっとりと空を見上げた。
「綺麗だね、にいさん。」
「あぁ、大佐の炎も、これくらい綺麗に役立てればいいのにな。アルバイトの兄ちゃん方を焼くためにあるんじゃねーだろが。」
うんうん、と後ろで一同が頷く。
「何を言う、私が連れてきてやらなければ、みな、見逃していたのだぞ。花火は今日が最終日なのだからな。良い休日を過ごせただろう?」
「えー!!これ、任務のうちじゃないですか!!大佐のおもりなんですから!!」
「そうです。休日扱いは大佐のみです、私たちは、別に夏休みを取らせて頂きますから。大佐は明日締め切りの書類も残っておりますので、
これから東方司令部にもどり、ため込んだ仕事をきっちり片づけて頂きますよ。」
「なんだ、それはっ!!は、鋼の、鋼のも一緒に遊んだのだから手伝いたまえっ」
「すみません、にいさん、寝ちゃってます。」
「なっ!!」
弟の腕の中で気持ちよさそうにすぅすぅと寝息を立てている兄がいた。
「さすが、お子様、寝付きが早いっすね。」
「ぅん、アルぅ」
「はいはい、風邪引かないうちに早く帰ろうね。」
大切に大切に兄を抱える。
「じゃ、大佐、みなさん、今日はありがとうございました。お先に失礼します。」
「あ、ああぁ、」
宝物の兄を抱き抱えて、元気よく去っていく弟アルフォンスを止める術はなかった・・・
「さ、私たちも戻りましょう?」
「ええぇ、俺たちもっすか?」
「一連託生です。大佐の仕事が終わるまでは、夏休みはありません。そういう決まりですので。」
容赦のない中尉の言葉に一同肩を落とし帰路へ付いた。
はい、長かった見切り発車のシリーズが、やっと終わりです。書いてて結構たのしかったです。感想いただけるとうれしいなぁ、
ちょっと付け足し。降りてきた天井は、部屋の中央にある六つの棺に当たるとセンサーが働いて、上へともどっていく様な仕組みになっています。シューターより降りられなかったとしても、危険はありませんでした。
書き残したことや、表現の仕方に、不満の残るところは多々ありますが、なにぶん、打ち上がったと同時にサイトへアップしていますので、
ほとんど直しや読み返しをしておりません。誤字脱字は、解る範囲でしたら、見逃してください。意味がわからない所など、連絡くださると助かります。
兄弟でいるのに、あまりしつこいいちゃつきがありませんでしたね。寂しいです。それは、また、別の機会にやりたいと(何を?)思います。
最後まで読んでくださった方、本当にありがとうございましたm(__)m |