舞い降りた翼


「なんか、うちのリーダーこの頃変なんです。いつもイライラしているみたいだし、たまにぼーっとしたりして、」
「梶尾さんが?」
 うん、と心配そうにチームライトニングの大河原が大きく頷く
「それって、もしかして、恋デモしてるんじゃないの?」
『こい〜?』
 我夢と大河原が同時に素っ頓狂な声を上げる
 食堂の隅に隠れるようにして話していた二人を目ざとくジョジーが見つけた。
「それらしい噂、知ってるよ!」
 勝手に自分の分の食事をテーブルに置くとジョジーが得意そうに話し出した。
「あ、相手は誰?」
 ゴクリと二人が息を飲む
「はい、」
「えっ?」
 二人の間に手が出される。
「情報料、あたりまえデショ」
「なんだよ、そんなもん取るならいいよ、」
 膨れて我夢は横を向いたが大河原はすっくと立ち上がるといきなりかけていき、
手にもってきたものをドン、とジョジーの前に置く
「ありがとぉー」
 イチゴクリームソーダが、シューっとおいしそうに弾けている。
「誰なんすか?」
「あっ子のおねいさんよ」
「おねいさん、じゃなくて、おねえさん…だろ?」
 すかさず突っ込みを入れる我夢にそうだっけ?と、すっとぼけたまま食事もそのままで
イチゴクリームソーダを幸せそうに飲んでいる。
「って、ウソだろ?」
「あら、あっ子のお姉さん、すっごい美人なのよ、何かと、縁があるみたいで、ちょこちょこ
あっちゃっテンだな、これが」
「すっごい美人、すか?」
 ごくっと大河原の喉がなる。
「ま、だんなさんが亡くなって、まだ日も浅いから今すぐどうこうって事も無いんだろうけど
ゴキグモンの事件以来浮き足立ってるのよね。梶尾さん」
「未、未亡人っすか、」
「そ、なんでも、一番初めの破滅招来体に殺されちゃったらしいよ。」
「梶尾さんじゃぁ役不足じゃないの?」
「誰が役不足だって?」
 げっと、三人が首を竦めた。いつのまにか、我夢の後ろに、仁王立ちした梶尾がいる。
「じゃ、私はこれで」
 イチゴクリームソーダを飲み終わったジョジーは食事を手に、そそくさと退散した。
 空のコップを見ながら梶尾の眉毛がぴくっとあがる。
「じゃ、自分も…」
「そんな、大河原さん、」
「がぁむぅー」
「ひぃぃぃ」
「何を聞き出していたんだ、」
「な、何も、何も聞いてません」
「俺のどこが、何に、役不足なんだ?お前の口から出たんだからな!解からないなんて言わせないぞ」
 座ればいいものを我夢の後ろに立ったまま、身動きしやしない
「ぼ、僕、用事思い出したんで、また今度」
 腰を浮かした途端両肩を力任せに押さえつけられて、イスに座らされた。そのためにここにいたのだ。
 そぉーっと見上げれば、にたぁーと笑っている梶尾がいる。我夢は涙が出そうになった。
(大河原さん、恨みますよぉ!)
「い、いや、この頃の梶尾さん、楽しそうかなー?なんて、」
「!」
 いきなり黙り込んだ梶尾を不思議に思って、そっと上を見る。が、その表情までは見れなかった。
「聞きましたよ、ジョジーに。あっ子のお姉さんと、この頃いい雰囲気だって、って、あれ?梶尾さん?」
 我夢が振り向いたときには梶尾の姿はすでになかった。
「?うまく行ってないのかなぁ」
 
 
「あれ、梶尾リーダー、珍しいですね。お一人なんて。」
「神山さん」
 どこにともあても無く通路を歩いていて神山に声をかけられるまでぼーっとしていた。
「どうかしたんですか?」
「いえ、別に」
 さりげなく視線を合わせない梶尾に、ふーんと一息ついてじっと梶尾を見つめる。
「すみません。」
 通路の中央から除けようとしない神山の横をすり抜けようとしたが、梶尾の視界を
神山のコンバーツがふさぐ。
「なにもない、という表情ではないのですが。さしつかえなければ話し相手くらいにはなれますけど?」
 専門医の少ないエリアルベース内ではレスキューが専門のシーガルが隊員の
メンタルな部分のメンテナンスも請け負っていた。
「…、別に」
 神山は梶尾が音が漏れそうなくらい奥歯をかみしめているのに気がついた。
「お、神山、こんなところにいたのか、」
 大きな声とともに吉田が通路のドアから現れたとき、神山はさりげなく体をずらし、梶尾を隠した。
 小柄な梶尾は、ちょうど良く神山の後ろに隠れてしまう。
「どうかしましたか?」
「いや、朝から見かけなかったから、その」
 いつもの吉田に似合わないもじもじした声音に梶尾は違和感を覚えた。
「夕べ、無理、させすぎたかと思ってな、」
「大丈夫ですよ。」
 他には見せない神山の極上の笑顔に吉田は場をわきまえずに誘われる。
無意識に柔らかい髪に手を滑り込ませ、頭を抱え込むようにして髪にくちづけ、
柔らかい香りを楽しんだ。が、下からの視線を感じて目を開けると、梶尾の瞳とかち合って、硬直した。
「か、梶尾?」
 いるはずのない人物に吉田が硬直した。
 次の瞬間吉田の顔に火がついたのかと梶尾は思った。
 見た事もないうろたえた吉田を見て目をむいている梶尾の視線に、
慌てて吉田は神山からとびのいた。
「いるなら、いると」
 コミュニケーション好きの吉田には、人目があるところでは必ず先に合図する神山が
吉田にしか見せない笑顔を見せたので、よもや人がいるとは思いもしなかったのである。
それは神山の計算内であったのだが。
「大丈夫ですよ。彼は、ね」
 ね、といわれても、いつもは強面の吉田が見せたデレデレの顔に、見てはならないものを
見てしまったような気がした梶尾は、はとに豆鉄砲の顔で呆けている。
 梶尾が反応がないのをいいことに吉田はとっとと退散した。
「あとで謝っとかないといけないですね。」
「あ、えーと、いまのは、その」
「ええ、彼とは、そういう関係です」
 からっと答えた神山に、何か言おうとして力が抜けた。
「彼にとったら、ここにいる間の一時凌ぎなのかもしれないですけどね」
「一時凌ぎって、神山さん!」
「結構多いんですよ。軍隊とか、特別部隊とか、海兵隊とかそういう方面に不自由している場合は。
けっこうみんな割り切っていますよ。」
「あなたはそれでいいんですか?」
 睨みつける梶尾に背の高い美丈夫はちょっと屈んでにっこり笑った。
「私は嬉しいですよ。」
 ま、あの様子の吉田を見れは、どう見ても神山にメロメロなのは一目瞭然なのだが。
「もう少し、柔らかく相手の方と話し合ってみた方がいいと思いますよ。」
 くっ、と梶尾が下を向くと神山の溜息が聞こえた。
「ありがとうございました。」
 自分の秘密までも暴露して心配してくれたことには心から感謝している。が、北田の行為を
簡単に受け入れれるとは梶尾は思えなかった。
 
 
「北田、」
 クリスマスの夜以降、任務以外では梶尾は北田をまるっきり無視していた。ハタから見てても一目瞭然なくらいに。
 年も越え、正月もすぎた頃にはいろいろと噂していたXIGのメンバー達も
成り行きを見守るしかないか、と諦めていた。
「休みはいつからだ」
「えっ?」
 今日の任務を終えて交代した後、部屋へ戻る途中に、大河原がシャワールームへ消えた。そこで
いきなり声をかけてきた梶尾に北田は面食らった。今まで絶対に二人っきりにはなろうとしなかったのに、
今日はどうしたのかと、危ぶんでいたため、北田は聞かれた内容にすぐ答えることができなかった。
「年末年始の分の休暇、いつとるんだ?」
 梶尾が、あのあと、初めて北田を見た。ただ、それだけのことが信じられなくて、瞬きをするのも忘れて
北田は梶尾を見つめていた。
「ちっ、」
 かなりの覚悟を持って話し掛けた梶尾は反応もなく黙って見つめて来る北田に居たたまれなくなって舌打ちをし、
視線をそらす。
 会話が成り立たなくて、諦めてきびすを返す梶尾にやっと北田が我に返った。
「あ、えっと、休暇は、明日から取ってます。が」
 背を向けたまま立ち止まった梶尾はナビを開けると敦子に連絡を入れた。
「申請してなかった休暇、明日から取れるか?」
《明日…ですか?…》
 敦子がコマンダーから指示を受けていた。
《大丈夫…みたいです、一週間でいいですか?》
「よろしく頼む」
 多分コマンダーが融通をきかせてくれたのだろう。
 一体何事かと、あっけに取られて梶尾を見つめていた北田に意を決して梶尾がふりかえる。
「予定はあるのか?」
「…一度家に顔を出してきます。一泊の予定で」
 真意が読めない北田は、梶尾から視線を離さず様子をうかがう
「明日、付き合わないか、」
 いろいろ説明をしたかったのだが、結局梶尾の口から出たのはその一言だった。
 次から次へと信じられないことばかりで北田は口をぽかんと開けたままだった。
「どうなんだ!」
「も、もちろん、いいです」
 しびれを切らせた梶尾に慌てて答えるがやっぱり半信半疑だった。
「じゃあ、明日の最終便で降りるぞ。」
「最終…ですか?」
「…あぁ」
 必要な事だけ言い終わると早く立ち去ろうとする梶尾に北田が食い下がる。にじり寄る北田に後ずさった
梶尾の腕を北田は捕まえていた。
「…、はなせ」
 感情を押さえた声で訴える。梶尾の動揺は見て取れた。
「俺は、梶尾さんに無視されている間、ずっと考えていました。あなたは俺がXIGをやめることも、
この想いも否定しました。でも、俺には両方とも否定する事は無理なんです。どちらかを決めてしまえば、
あなたは許してくれない。どっちを選んでも許してもらえないなら俺に都合の良いほうを選ぼうと思ったんです。」
 梶尾は焦っていた。いつ誰が通ってもおかしくないこの通路で、北田の瞳の色はこの前の時と同じだったから…
 慌ててつかまれている腕を引き剥がそうとしたが反対の腕もつかまれて、そこで力比べとなった。
「…ばかやろう、はなせよ」
 歯をくいしばったまま、力を入れる。関節がギギギと音を立てそうだった。
「!」
 あの時は酒が入っていたから力が出なかったのだ、素面の時なら負けるものかと腕に力を入れて
意識をそちらに集中していたため北田の行動に反応が遅れた。
 北田の唇が、梶尾の口を塞いでいた。顔を引いてもそのまま付いてくる。
 梶尾はとうとう壁に後頭部をぶつけ、体ごと押さえつけられた。
 梶尾の頭の中はすでにパニクッている。誰か来たら、その思いばかりで、喋ろうとして北田の舌の侵入を
許してしまった。
 もう苦しくて、声すらろくに出せない。動き回る舌に噛み付いたところで一向に引いてくれようともしない。
不覚にも涙が滲んできた。胸と耳の奥で心臓か破裂しそうな勢いで波打っている。
《くる…しい》
 全身から力が抜けそうになったそのとき、話し声が聞こえた気がした。ここは、エリアルベース内で、プライベート
ルームへと続く通路であるため、人通りが切れている方が少ないのだ。
「あれ、まだ戻ってなかったんですか?」
 扉が開いて出てきたのは我夢とハーキュリーズの面々である。梶尾は何とか壁に寄りかかって、
崩れ落ちるのを耐えていたが顔を上げることができなかった。
「えぇ、梶尾リーダーが、休みをあわせてくれたんで、予定を話し合っていたところです。」
「そういえば、あっ子がそんなこと言ってたな。そっか、仲直り出来たんですね」
 能天気に喜ぶ我夢に、いつもの反応を見せない梶尾の様子をいぶかしんで 我夢は梶尾に近づこうとした。
「そーだ、我夢!トレーニング忘れていたぞ、ほら!」
「えっ?ちょっ、吉田さん?僕はもういいですって、吉田さぁーん!」
 我夢を軽々と肩に担ぎ上げると、もときた道を走って戻って行く吉田に 残されたハーキュリーズのメンバー
二人も首をかしげながらその後を追った。
「くっ、はぁはぁはぁはぁ」
 途端に梶尾がその場に膝をついて激しく呼吸した。
「あの分じゃ吉田さんは気がついてますね。それとも、相談でもしたんですか?経験者に」
 息が荒いまま、北田を睨み上げるとにっこりと笑っていた。
「神山リーダーでしょ、一部の人には公認ですよ。」
「もっやめろっ」
 屈みこんでいる梶尾の目の前に北田がしゃがみこむと、両腕で顔を隠すようにして、北田を拒んだ。
その声が、あまりにも悲痛な泣き声のようで、北田の動きが一瞬止まる。
「…いいですよ。明日、楽しみにてますから。」
 思いのほかあっさりと北田は去っていったが、梶尾はしばらく立ち上がる気力もなかった。
 
 
「神山、休み取れたか?」
「お疲れ様です、吉田リーダー。今日も無事でなによりですね。」
「なんか、じじくさいぞ」
「失礼ですね。あなたがそうさせるんじゃないですか」
「じじくさくか?」
「心配させるって事です。ここの使用頻度はハーキュリーズが一番なんですからね」
 医務室は保険医と、神山二人が使用責任者となっている。神山は任務と器具の手入れのほかは
控え室よりこちらにつめている方が多いのだ。
「じゃあ、私はこれで。あとよろしくおねがいしますね。」
 勤務時間も終わり、残務整理をしていたもう一人の責任者が吉田の来訪を合図に奥から出てくる。
「あ、お疲れ様でした」
 ども、と吉田も頭を下げる。くすっと赤い唇を上げて、微笑んでゆくのはコマンドルームのオペレーター二人
より少し年上の美女なのだが吉田の目にはただの看護婦さんにしか見えない。
「休み!」
 力を入れる吉田に神山はひとつ溜息をつくと、困ったように吉田を見つめる
「長くは取れませんよ」
「いつからいつまでだ?」
 稼動椅子に反対向きにのったまま、ズリズリにじり寄ってくる。
「連続しては無理ですね。せいぜい二、三日ですよ。」
「十分じゃねーか、よっしゃー!」
 無邪気に喜ぶ吉田に小さく声を上げて神山が笑う。
「?、どうかしました?」
 吉田にちょっとした違和感がうかがえる。
「いや、神山はあいつらのこと、知ってたんだよな。」
「相談されたわけではありませんが、隊員の観察も私の仕事のうちですから。」
 あいつらとは言わずと知れた二人のことであろう
「…大丈夫かな?」
 巨体を丸くしている姿を見てかわいいと思うのは神山だけなのだろうか。 
「かなり煮詰まってる様に見えるが」
「こういうのは周りがとやかく言う問題でもありませんし、あんまり無茶しないことを祈りますね。
あなただって、身に覚えがあるんじゃないですか?」
「いや、まぁ、」
 ボッと赤くなる顔を見て神山はさらに苛めたくなる。
「まさか、いきなりああくるとは思っても見ませんでしかたらね」
「いや、あのときは、お前の色香に、フラフラ〜っと」
「色香って、こんな大男捕まえて、そんな風に感じるのはあなたくらいなものでしょう」
「そんなことねーよ、違うだろ、ぜんぜん他のやつらとは…仕事、まだ終らないのか?」
 最後のほうは なぜか小声になっている。
「誰かさんが邪魔しなければもう終わりです。」
 つけていたファイルを閉じて片づけたその背中がズシッと重くなる。
「ここで、ですか?」
「おまえが煽るからだろう、」
「はぁ、表に閉室の札下げて、鍵かけてからにしてください」
 なついてくる吉田の顔を溜息混じりに押しやると、かまわずその手を捕まえて、神山の項に顔を埋める。
「入ってくるときに下げといた。鍵も看護婦さんがかけて行ってくれたぞ」
 おいおい!と思いながらも、動く唇にゾクリとしたものを感じてあきらめた。
 
 
 我夢に普段着も硬すぎると注意を受けたことを思い出し、持っている服の中で、一番カジュアルな
ものを着てきた梶尾を見て、北田は目を丸くした。
「なんだ、気色悪い笑い方をするな」
「いやぁ、若く見えますって、ほんと」
 それはほめてるのか、ばかにしてるのか理解できずに眉間にしわを寄せたまま梶尾はダブライナーに乗り込んだ。
 
「なんか、閑散としてますね」
 みな正月疲れなのか、繁華街は静かなものだった。道行く者もなく、寒さも相まってか、
客引きのお姉ちゃんズすら道には出ていない。
 そんなこともかまわずに、梶尾はどんどん先へ進んでいく。
「梶尾リーダー、待ってくださいよ、一体どこに行くんですか?」
 ともすればはぐれそうになる北田が慌てて後を追いかける。
 返事もしないで歩き続けていた梶尾が、いきなり立ち止まった。
「は?」
 止まったのは飲み屋街も抜けた、いわゆる風俗営業ばかりが集まっている所だった。
「来い」
 ガシッと北田の腕をつかむと梶尾はいっ気に横にあったピンク色のネオンがチカチカする店の中に入った。
 そこは壁一面にいろいろなコスプレの衣装をまとった妖しい微笑を浮かべた女性の写真が
たくさん張ってある所だった。
 あっけに取られていた北田から表情が消える。
「お前はあんな男ばっかりのところで命張っているから、おかしくなっているんだ。たまにはこういうところで
発散してみろ。一人じゃ来づらいだろうから、つきあってやる。」
 写真のほうを向いたままの梶尾は、どれがいいんだ?と言ったまま振り向きもしない。
 次第に目が据わっていくのを北田は自覚した。
「いいですよ、もう、決めましたから。」
 可愛さあまって憎さ百倍とはこのことだろう。振り向いた梶尾の腹に、懇親の力をこめて一撃をくらわした。
「ぐっ、ぇっ」
 思っても見なかった衝撃に息が詰まって声も出ない、引き攣った胃が口から出そうな苦しさに、
体を二つ折りにして崩れ落ちた。
 その体を乱暴に引き上げると苦しみに歪む梶尾の顔を覗き込みながら腕の下に肩を入れ、
引きずるように抱えて店を出た。
 呼吸もままならない梶尾は抗うことも出来ずに、一軒おいたこちらもネオンが華やかなビルに連れて行かれた。
 駐車場から入り、梶尾が我に返ったときには個室のドアをあけて、先に中に投げ飛ばされていた。
 カチリと後ろ手で鍵が回される。
「昨日誘われた時には 最悪、敦子さんのお姉さんでも紹介されるのかと思いましたよ。でも、
結果はそれ以上に最悪でしたね。」
 北田の顔は笑っていた。
「…、」
 まだ引き攣る腹を庇いながら梶尾が立ち上がる。
 狭い部屋の中は入り口付近にユニットバスがあり、奥には大きめのベットが一つ、窓際に小さなテレビデオが
あるだけだった。ここはワンルームマンションを改造したモーテルらしい。
「俺はあの店の中で、一番可愛げのない梶尾克巳っていうオンナを選んだんです。」
「!!」
「いくらですか?ちゃんと払いますから、サービスお願いしますよ。」
 オンナ呼ばわりされて、怒りが頂点に達し、とっさに言葉が出てこない。ばかにしたように値段まで聞いてくる。
唇をかみ締めても涙が滲んできた。
「泣かなくたっていいじゃないですか。俺はあの中で、あんたが一番好きなんだから。」
 怒鳴るのかと思った梶尾の口が、悲痛に歪む
「俺には…チームライトニングは何より誇りだった。選りすぐりのトップガンたちの中でも最強で最高のチームだ。
そいつらの命を預かって共に戦って地球を守る。俺は何よりも…お前らが一番大切だったんだ!」
 梶尾の涙が止まらなく流れ出る。両手そでぐりで何度もぬぐいながら喋り続ける姿はまるで子供のようで、
かすれる声は切なさを感じさせる。
 北田は、黙ってそれを見つめていた。   
「こんな形で、裏切られるなんて、思ってもみなかった…」
 最後の語尾は声になっていなかった。
「俺も、梶尾さんがこんな酷い仕打ちをするとは思ってもみませんでした。」
「酷いだと?きさまは俺に何をした!強姦だぞ、しかも同性に!百歩譲って、おおめに見た。お前が、
俺を好きだといったから。こんな情勢だからそんなことも有りかとも思った。けど、この状況は、もう理解できない!」
「…だから!もう、降りさせてください…」
 …溜息をついた。初めから狂いっぱなしの歯車は外さなければ治らない
「…いやだ…」
「梶尾さん」
 理解が出来ない。
「それだけはダメだ」
 目と鼻を真っ赤にしながら、きつく横を向く。
「そんなに、地球が大事ですか?俺個人の意思も関係ないくらいに」
「ああ、大切だ。だか、お前と飛べない地球なんて意味がない!」
「え?」
 北田の頭の中に?マークが重なり合う
「よく、わかんないんですけど…」
「わかんなくていい!俺は帰る!!」
 大きく溜息をつくと呆けてる北田を押しのけてドアに向かう。
「ちょっ、待ってください、梶尾さん」
 慌てて腕を捕まえて後ろから抱きしめた。顔を埋めた髪からシャンプーの香りがする。
「はなせ、」
「なんで梶尾さんが俺を毛嫌いしないのか、傍に置いてくれるのか凄く不思議だ。」
「すぐに腕力に訴える男なんてのはサイテーだ!」
「雲より高いところにいるはずの梶尾さんが俺まで降りてきてくれるなんて思わなかったんです。反省してます。」
 プライドのことを言っているのだが、いまいち梶尾には通じてない。
「は・な・せ・っ」
「俺と、恋愛してください、」
「はっ、恥ずかしいやつだなっ、気持ち悪いこというな!」
「おねがいします、」
「放したら考えてやらないこともない」
「えーっ」
「なにがえーだ」
「だって、放したら帰っちゃうじゃないですか」
「あたりまえだっ!」
「せっかく入ったのに、何にもしないで帰るなんてもったいない」
「きさまが勝手に放り込んだんだろう。そんなに言うなら一人で時間までAVビデオでも見てろ!」
「梶尾さーん」
「初めはお友達からだ、ばか!」
 
 
「仲直りできてよかったですね。」
 うきうき顔で二、三人前の食事をトレイに持って、我夢が隣に座った。
「なんでおまえが楽しそうなんだ?」
「エー、だって、梶尾さんが機嫌悪いととばっちりが全部こっちにくるんだもの」
「そりゃぁ悪かったな」
 我夢の食事の量を見ながらうげっと思いつつ自分の分を口に運ぶ。 
「なに、ニヤニヤしてんだよ。」
「え、いえいえ、誰かが幸せだと、なんか僕まで幸せだなぁ、なんて。」
「誰の話をしているんだ?」
「決まってるじゃないですか。梶尾さんですよ。」
「ばかな事言ってないで早く食えっ」
 なんで俺が幸せなんだ?と眉をしかめながら我夢を見ると、これまた幸せそうに力いっぱい口に詰め込んで
食べている。その姿を見ているうちに自然に顔がほころんで、ま、いいか、と梶尾は食事を続けた。




裏要素がない…けど、一話目がめいっぱい裏なんで、これを表に置いても話がつながらない…やばい、どうしよう…
やっぱ裏だ