大河原さんの恋
「大河原さん、このごろお一人ですね、」
「高山さん…ハァー…」
カフェテラスに一人でいる大河原に我夢が声をかける。
「どうしたんですか?」
まるで生気のない顔に尋常でない物を感じて我夢は向かえ側に座った。
腰を下ろした我夢をちらりと見ては、またしてもはぁー、とため息を漏らす。
この動作に我夢はピンと来た。
「大河原さん、ズバリ恋してるでしょ!」
ぴっと鼻先に人差し指を指す。
「わかりますか?さすが高山さんですね、」
気の抜けそうなほど元気がない。転けそうになりながらも我夢は気を取り直した。
「相手は誰なんですか?エリアルベース(こ こ)の人なんですか?僕でよければ相談に乗りますよ?」
ニコニコと笑う我夢に大河原は情けない顔をする。
「うーん、いいんですか?高山さん忙しいのに」
「大丈夫ですって、そんな元気のない大河原さんほっとけないですよ。で、誰なんですか?」
テーブルの上に身を乗り出す。
「…じーさん」
「えっ?」
聞き取れなくてもう一度身を乗り出して、耳を向ける。
「ジョジーさんって、かわいいですよね。」
「は?えっ!えぇぇぇぇぇぇっ!?」
あまりのことに思いっきり後ずさってイスから落ちた。
「大丈夫っすか、高山さん!」
何とかテーブルにつかまってよじ登ってくる。
「かわいいじゃないですか。キュートで明るくてとっても元気いっぱいで、食べてる姿なんかしあわせそのものって感じで、
見ててこっちまでしあわせな気持ちにしてくれるでしょ?」
「ま、確かにかわいい…かな、かわいい…けどさぁ」
上を見ながら首を傾け、見た目は結構かわいいと思う…けど、見た目と中身が一致しているなんて人はそうそういるもの
ではない。
彼女はその筆頭に立っているのではないか?と、我夢は思う。そのことを今までいやと言うほど身をもって味わわされて
きたのだから。
「あれだけかわいいんだから、とっくに彼氏とかいるんだろうなぁ、はぁー」
大きく溜息をつく大河原に、いや、いないと思う!と強く首を振ろうとして、それじゃあまりにもジョジーに失礼かなと思い寸前で
言いとどまった。
「…聞いておきますか?」
「いいんですか?!ありがとうございます!!」
即答!
あまりの落胆ぶりの大河原につい言ってしまった一言に我に返って後悔しても後の祭りである。
思いっきり身を乗り出した大河原は我夢の両手をがっちりと握って、カフェテラス中に響き渡るほどの大声で言った。
「お、大河原さん、みんな見てますってば!」
恥ずかしさに顔を赤らめる我夢と身を乗り出して興奮しながら我夢の両手を握りしめている大河原は端から見れば
誤解するなと言う方が無理である。全員が一歩引いたような気がしたのは我夢の気のせいではないだろう。
「聞いたヨ、我夢。告白されたんだって?」
コマンドルームに入り、アナライザーとしての仕事をしようと席に着いたところで腹に一物も二物も隠していそうな声の
ジョジーが近づいてきた。思わず首を竦める。
彼女が近づくだけで、つい身構えてしまうのは常日頃からの条件反射。蛇に睨まれた蛙状態で果たして大河原の希望に
そえることが聞き出せるのかどうか、とてつもなく不安である。
「ち、違うよ、事の成り行き上そう見えただけで、全然まるっきり正反対!」
力一杯否定してもジョジーは訝しげに片眉を上げるだけである。
「それより、ジョジーに聞きたいことあるんだ、後で、いいかな?」
今度は反対側の眉を上げ、腕組みをする。
「情報料は高いわョ」
ひぇーと思いつつも頷くと、話を聞いていた敦子が首を挟んだ、
「面白そうね、あたしも入れて!」
ガックリ肩を落として波乱の予感、である。
「梶尾さん、」
「北田、大河原はいたか?」
新しいフォーメーションの開発に訓練を開始しようとしていたのだが大河原に連絡が取れず、いそうな場所を手分けして
探していたのである。
北田は梶尾の問いに首を振って見せた。
「いくら待機中だとはいえ、ナビのスイッチを切るとは何事だ。何かあったらどうする気なんだ。まったく」
憤然として、走り回った息を整えていて、北田の視線に気がついた。
「なんだ?」
「い、いえ」
この頃、気が付けば北田の視線にぶつかる。その視線の意味に気づいてはいるが、わざと正面から向き直ってやる。
北田と【まずはおともだちから】の関係を始めるに至って、梶尾の方からたくさんの条件が言い渡されていた。そのひとつに、
梶尾が望まないのなら二度と無理矢理な行為はしない、が入っている。どうも、二人っきりになると、北田の熱い思いは暴走
しそうになる。そのこともあって、このごろの大河原の単独行動は二人にとって、非常に具合が悪い。
「シャワールームは探したか?」
「いえ、まだです。」
待機中とはいえ、まだ勤務中なのだから、よもや行くはずがないと探すリストには、はなから入れてなかった。が、
ナビを外すとしたら、トレーニングルームか、シャワールームだろう。まさかと思いながらも、二人はシャワールームに向かった。
「大河原、いるか、返事しろ、大河原」
やはり勤務時間のまだ日も高い時間帯に、シャワーを浴びる不届き物などいるはずもなく、誰一人として、使用した形跡は
見当たらなかった。
「くそっ、便所にでも籠もってるのか?」
きびすを返したところで、すぐ後ろに立っていた北田と正面衝突をしてよろめいた。
「大丈夫ですか?」
とっさに抱き留めた北田と間近で目が合う。
《まずいんだってば》
とっさに視線をそらす北田の声が聞こえそうだ。
人気のないところにわざわざ連れ込んだともとれるのに、
「北田、」
「えっ?」
とっさに、起こった事態を飲み込めなかった。あり得るはずのないことが起きたとき、人の脳はそれをまず
否定するのかもしれない。
《そんな、馬鹿な》
押しつけるだけの口づけ…永遠に続くかと思ったそれは、あっさりと終わり、その姿は、捕まえることもできぬ間に、
横を擦り抜けていってしまった。
とくん…とくん…とっくん、とっくん、とっくん
今頃思い出したように心臓が早鐘を打ってくる。
「か、梶尾さん!」
胸の奥底がぎゅーっと締め付けられて、北田は一気に飛び上がった、
「ぃよっしやぁー!!」
「我夢、大河原見なかったか?」
「梶尾さん、午前中には見ましたけど今は…どうかしたんですか?」
「訓練しようにもあいつが捕まらない」
「いろいろあるんですよ、大河原さんにも。」
「何だ?なんか知ってるのか?」
「いいえ」
にっこりほほえむ我夢に鼻白む。
「よかったですね。梶尾さん」
「は?」
ま、座って、と席を勧められるままに梶尾がテーブルの向かえ側に座るとニコニコと笑う我夢に何事かと少し引いた。
「何なんだよ。この前から人の顔を見ればにたにたにたにた気色悪い笑い浮かべやがって。」
「えーだって、梶尾さんすごく幸せそうなんだもん。今も、顔赤かったですよ。」
ぐっと詰まって、視線をあちこちに泳がせる。
「誰かから必要とさてるって、すごいことですよね。」
「は?」
突飛な我夢の台詞は、真剣に聞いていないと何を言いたいのかよく分からない。
「僕は今まで、何のために生きてるんだろうなぁって、ずーっと疑問だったんです。僕はもともと地球が自己防衛のために作った
鬼っ子だから、その任務が終わったら、僕はどうなるんだろうなって。存在理由なんてあるのかなって」
さっきまで笑ってたのに今は泣きそうになっている。感情の起伏が激しくてちょっと心配になってきた。
「梶尾さんはこの前まで命がけで戦っているって言ってましたよね。今もそうですか?」
「えっ?」
「今も、任務のために、命かけて戦えますか?」
試すような口調の我夢に、梶尾の視線が睨むよう向けられる。
「誰かに必要とされると世界が変わりますよね。こんな所で簡単に死ねない。僕を必要としてくれる人がいる限り、今はまだ
消えることが出来ない、って。残された人の悲しみが痛いほど解っちゃうから」
台詞とは反対に我夢がとても嬉しそうに笑った。
「藤宮博也…か、」
「彼は僕を必要としてくてます。アルケミースターズの僕ではなくて、ドジで、鈍くさくて、意地っ張りな僕を」
「…そうか、よかったな」
少し間をおいて、まるで憑き物が落ちたような声の台詞に我夢の顔がひまわりのように輝いて、大きく頷いた。
「はい!」
立ち上がった我夢が、梶尾の少し後ろの方に視線を向けてもう一度にっこり笑って立ち去った。まさかと思うが、
ゆっくり梶尾が振り向いて、思いっきり赤面した。
「リーダーまでサボってて、どうするんですか」
セリフほど口調は梶尾を攻めていない。どこから聞かれていたのか、内心あわあわと動揺するが、途中で立ち止まって、
嬉しそうに困ったように笑っている北田に、咳払いをして、ごまかした。
「見つかりましたよ、大河原。トレーニングルームの一番奥で、必死に筋トレしてました。」
「筋トレ?」
「理想の男に近づくんだって、それはもう一心不乱に」
「はぁ?」
「訓練、どうしますか?」
少し考え込んでから、
「やるに決まってるだろ」
立ったままの北田の腕を手の甲でぽんと叩きながら通り過ぎる。
「早く大河原呼んで来い!」
「はい!」
時間を少しさかのぼって、我夢の必死の質問タイム
「ナァに、ききたい事って、」
情報料として一週間ここのデラックスパフェを奢る約束をさせられた。まずその一杯目をおいしそうに口に含みながら
ジョジーが我夢に質問した。隣にはやはりデラックスパフェを奢ってもらっている敦子がいる。
(なんであっ子にまで奢らなくちゃいけないんだろう?)
「毎日そんなに食べたら、太るよ」
「我夢に言われたくないわね。ところで、いいの?ききたい事、時間切れになるわよ。」
「え?あ、や、その、えーと、」
「何よ、はっきりしないわね」
敦子までも偉そうにせかせる。
「いや、その、ジョジーって、どんなタイプが…好みなのかなぁ…なんて、」
「はぁ?」
二人の声が重なる。
「ちょっ、ちょっと、やだ我夢、あんた、ジョジーの事」
目を丸くした敦子にジョジーが肘で小突く
「んなわけあるわけないよ、いるじゃん、我夢には。」
あ、そうか、と落ち着いて、改めて、何?と我夢を見る。
「私のタイプ?そぉねー、かっこいいひと、かな」
「ど、どんなふうに?」
「そぉネ、まずはぁ頭がよくって、背が高くって、細身で、ワイルドで、口数が少なくってぇ、ちょっと影があって、
一匹狼って感じかな?」
「そ、それって、それって、まんま藤宮じゃん!!」
「あ、そうかも、彼見たとき、実際いいなぁって思ったもん!」
蒼くなって立ち上がった我夢に、ふふん、と笑って見せる。
「だっだめー!!」
「そんなのあたしの勝手ジャン」
「ダメだよ、絶対に、ダメダメダメ、ダ…」
あ、と視線を上げると、入り口に大河原が立っていた。
「え?」
その視線に誘われて女子二人も振り返る
「あ、大河原さん、」
敦子が声をかけた時、にこっと引き攣った笑いを浮かべて、片手を上げかけ、その手をポケットに入れてその場を立ち去った。
「どしたの?かれ」
二人が我夢を見る。
あちゃー、傷ついたかなぁ、タイプぜんぜんちがうもんなぁ、
顔を歪めて、首をかしげている我夢に、二人も首を傾げるが、溶けかかっているパフェを思い出して、二人は一気に食べ上げた。
「ところで、聞きたい事ってそれだけ?」
「あ、うん、」
「なぁんだ、ご馳走さまぁ、明日もよろしくねー」
我夢はご機嫌で去っていく二人の後姿に、はぁーと溜息をついた。

梶尾さんが暴走しました…
あっこ&ジョジーペアは書いていてとても楽しいですvとくに我夢いじめはやめられませんvvv
我夢ファンの皆様ごめんなさい。ムフフv