催眠術やきもち


「みんな、俺の目を怖いって言うけど、俺は結構この目を好き」

「は?」
 ほたるの突拍子もない発言はいつものことだが、本当に脈絡もなく言い出すと、思考がついて行けなくて、
頭の中が真っ白になる。
「だって、たまーに、辰伶が見とれてくれるから。」
「ば、誰が、きさまなんぞの目にみとれるか!」
 今の今まで考えていたこともすべてが消え去り、一瞬にして、辰伶の思考がすべてほたるの発言にとらわれる。
「みんな、俺のこと怖いとか、キモイとか言うけど、辰伶だけは怖がらないんだよね。」
「あたりまえだろっ、きさまの何を見て怖がれと言うんだ、」
 どんなに凶暴な動物でも、小さい頃から手なづけていると、怖い対象には見ることが出来なくなる。
猛獣を飼い慣らす調教師のように。
「冷徹だとか、感情がないとか、何を考えているかわからないとか、」
「感情がないんじゃなくて、本当に何も考えていないだけだろう、」
 くだらない、とため息をつく。
「俺が通った後には草木一本残っていないとか、」
 たしかに、ほたるは火を技として使うから、闘った後はすべて焼き尽くされているが、それを言ったら、辰伶の通った後は水害だ。
 干ばつの村には必要な人物かもしれない。とほたるはいつも思っている…わけではない…

「だから、お前が何時までも四聖天などとふざけたものにに入っているからだ」
 眉間にしわを寄せる辰伶のまねをして、ほたるがしゃがんで両手で自分の眉間にしわを寄せ、辰伶を見上げる。
「だって、俺は狂が好きだもん、」
「きさまは、まだそんなふざけたことを言っているのか!」
「ふざけてないよ。」
 口をとがらせてバカにしたように喋るほたるに辰伶のこめかみが引きつる。
「確かに、外の世界に行けと言った、だが、そこで飼い慣らされろとは言ってないだろ!」
「誰も飼ってなんか、くれないよ。俺って、キモイらしいから、」
 いきなり声がまじめになって、すっくとたちあがった。
 立てばほとんど辰伶と同じ目線だが、態度がでかい分、辰伶は見下ろされているような感覚になって、少し身構える。

「だから、なんなんだ?そのキモイってのは」
「キモイの意味もわかんないの?やっぱ辰伶ってバカだよね。」
 ふー、やれやれと、ため息をつかれては、本当に自分がバカみたいに思えてくる。
「意味くらいわかる!バカはおまえだっ!!」
「んじゃ、証明して見せてよ、辰伶がバカじゃないって言う」
 時折見せる、刺すようなまなざしは、瞳の大きな辰伶には到底出来ない代物で、確かに、このまなざしにはほんの少し
憧れがある。
「っ、」
「知ってる?ばかって、催眠術にかかりやすいんだって、」
「何?そんな話、聞いたこともないぞ、」
 飛び回る話題について行くのがやっとだ。
「だから、試してみようってば」
「…どうやって、」
「俺の目を見て。辰伶が、バカならきっと動けなくなるから、」
 ほたるが瞳術を使うなどと聞いたことがない。しかし、この瞳ならあり得るのかも、と辰伶は心の片隅で思っていた。
「あり得ないだろ、くだらな・・・」
「動いてみなよ、」
「なっ、」

 ほんの一歩でほたるは辰伶の懐まで踏み込んできた。
 気が付くと、息も触れそうなほど眼前にほたるの瞳がある。
「俺ね、バカな辰伶が好き、・・ほら、動けない、」
「は、はなせっ」
 無意識に動かした辰伶の左腕がほたるにしっかり捕まれている。
 体格もほぼ同格だというのに、捕まれた腕はびくともしない。
「動けるなら、刺してみなよ、右腕空いてるよ、何のための帯剣なの?」
 ほたるの左手が辰伶の左の脇差しをスラリと抜いた。
「やめっ」
 空いている辰伶の右腕に抜いた剣を無理矢理持たせようとする。
 小競り合いの末、はじかれた剣は足下を滑り落ちた。
「ほんっと単純バカだよね、辰伶って。可愛すぎだよ。それに、俺のこと好きでしょ?」
 のぞき込む、刺さるような瞳に辰伶の喉がひきつった。
「ば、か言うな、何を根拠に、」        
「そんなにあわてなくても大丈夫だよ、これも俺の催眠術だから。辰伶はバカだから、催眠術にかかっているだけ。
俺も辰伶大好きだし。」
 ほたるはまじめな辰伶に逃げ道を作っているのだ。
 それには辰伶も気が付いた。あえてそれを無視してやる。

「………お前の好きはあてにならん………」

「なんで?」
 まるで小さい頃と変わらない、邪気のないほたる。
 自由とは、こいつのことだ。
 たくさんのしがらみに巻き付かれて、身動きの取れない自分が、心の一番そこで憧れていたもの、
手に入れたいと望んだこと…

「お前は、毛虫もきつねも熊も、全部が好きだろう。あげくに、敵である鬼目の狂まで好きだと言っている。
………重みのない言葉だ。」
 何度目かのため息をつくほたる。その瞳がまっすぐに辰伶をとらえる時、やはり辰伶の鼓動は引きつる。
 辰伶がその瞳を放せなくなることを知っててほたるは見つめる。
「やっぱり、ほんっと救いようのないバカだね、辰伶」
 吐息が唇の先をかすめる。
「俺が熊にキスしたいと思う?」
「きさまなら…やりかねん。」
 言葉がほたるの口に吸い込まれる。
「んー、熊は歯磨きしてないから、キスしたくなぁい」
 離れた唇の端をほたるの舌がするりと舐めた。それだけで目眩がする。
「狂とは、死合いたいだけ。あれは、あの瞬間だけはゾクゾクする。何物にも変えられない。あ、そっか、辰伶、
それってもしかして、やきもち?」
「ちがっ…」
 一瞬にして、辰伶の顔に朱がともる。
「ほぉんと、ばか、」
 今までの中で、一番最高にとろけそうな声を出し、ほたるは優しく深く口づけた。






鋼より先に転んでいたのに、歴史物苦手で、書くことをためらっていたS.D.KYOに挑戦。
ほたるん、激かわゆいvあんなにかわゆいのに、攻めも受けも両方OKなとこが凄い!!
ほんっとに、おにいちゃん大好きっ子ですよね、やっぱ、兄弟カプ好きv年下攻め万歳!