績 罪


「…アル…」
「にいさん、もっとこっちに来て、」
「や…め」
「いいから、」
 衣服をまとわない兄の内股に弟の冷たい鋼がここちよい
「気をつけて、僕の体はにいさんを傷つけちゃうから」
「ん、大丈夫…」
 のばした兄の両腕は拒まれることなく、弟アルフォンスの頭に絡まる。
「…アル、」
 聞いたこともないような柔らかい声が兄の口からこぼれる。
 とても愛おしそうに…
「にいさん、」
 それは弟も同じだった。
 そっと腰に手をあて、鋼の鎧に抱き寄せる。
 上気した頬を弟の体に押しつけ、噛みしめた唇からともすれば官能的な声をもらす兄。
「アル、アル、」
 兄の体を大切なもののように撫でていた弟の両手が慣れたように兄の感覚の鋭いところを的確に撫で上げた。
「もっと?」
「あ…うん、」
 じらしているのか、兄の一番触れて欲しいところに弟は触れようとしない
 自分から言うこともできず、自然と弟に腰を押しつける。
「そんなにくっついたら、何もできないよ、にいさん、」
 くすりと笑う声に恥ずかしさが頂点に達し、息を詰めて横を向く
「どうしてほしいの?」
 内股をなで上げられ、ひゅっと息をのむが、そこから弟の手のひらは下腹を滑り、腰骨までなめらかにすりあげるだけ。
「や、アルッ!」
「え?なに?」
 ゾクゾクと駆け上がる快感に兄の瞳に涙が浮かぶ。
「ここは触って欲しいって言っているけど、にいさんは触って欲しくないの?言わないと僕にはわかんないよ。」
 主張している根本にそっと触れるとすがりついていた兄の指先が弟の鎧をひっかいて、金属的な音がした。
「…ぃ、」
「え?」
「ほ…しぃ」
「聞こえないよ?」
「アルッ」
 涙目で叫ぶの兄に、これ以上はムリかな?と弟が先に折れた。
「ごめんね。意地悪して」
 すこし強引につかみ、緩急をつけてこすり上げ、すでに濡れている先端部分を指先で緩くこね回すと短い嬌声がいくつもあがった。
 



 
「あ、」
「にいさん、にいさん!」
「………!!」
「大丈夫?かなりうなされていたけど、」
 ゆうるりと現実に引き戻された意識が突然に覚醒した。
 眼前に鎧の弟。
 …たった今まで、みだらに欲望を押しつけていた…
「怖い夢、だったの?」
「!!」
 夢の余韻が体に残っている。
 口から飛び出そうな動悸を悟られないように視線をそらすしかなかった。
「…水をもらってくるね。ちょっとまってて、」
 部屋から出る弟の後ろ姿に詰めていた呼吸を解放する。
 この頃頻繁に見るようになった、弟を自分の欲望の犠牲にする夢。
 思い出すだけでも再び体がうずき出すほどの幸福な夢
 許されるはずもない、知られてはならない、罪の塊
 
 
 兄はこの頃頻繁にうなされるようになった。
 苦しそうな寝言の中に必ずといっていいほど自分の名が入っている。
 いまだに兄は自分の弟の肉体を失ったことの責任を許してはやれないのだろう。
 その重圧は無くしたものを取り戻すまで消し去ることは出来ないのだろうか?
「…にいさん」
 
 がたんと部屋の戸が開き、身支度を調えた兄が出てきた。
「にいさん、どこへ行くの?夜中だよ」
 弟の用意したコップの水をその手から取り、一気に飲み干してから、何か言いたそうな弟の手にコップを戻した。
「…ちょっと頭を冷やしてくる。すぐもどるから」
 な?と、兄独特のすまなそうな笑顔は暗についてくるなと言っている
 宿屋の階段を下りる兄の背を見送る肉体のない胸がツキンと痛みを訴えた。
 
 
 そろそろ限界が近いかもしれない。
 歩く足取りは重く、目的のない散歩は果てしなく続けられた。
 なぜこんな気持ちが芽生えてしまったのか、
 きっかけは再び弟を失うかもしれないという恐怖に引き吊った瞬間
 あの時、スカーに血印を壊されなかったのはただの偶然にすぎない
 ………自分の視界から、消えてしまうかもしれない………
 そう思った瞬間から、兄の体は変化したのだ…
 弟の肉体を奪ったこの自分が、その弟に欲情を持つなんて、許される話じゃないだろう…
 …だが、この肉体は毎夜弟を求めて悲鳴をあげる…
 普段の日常では制御できる感情も肉体も、夢の中までその想いを殺すことは無理だった



 夜中の人気のない公園のベンチに座り込み月を見上げる。
「まいったよなぁ」
 自分の愚かさにほとほと愛想が尽きる想いである。
「あれぇ、鋼のおちびちゃん」
 何の気配もなかった所から突然かけられた声に心臓が思い切り跳ね上がった。
「お、おまえはっ」
 緊張感のない喋りはどこかで聞いた様な気がして、声の主に視線を向けると
 前に一度、第五研究所でやり合ったホムンクルスの一人が突然目の前に降りてきた。
 瞬間的にベンチから飛び退り、右腕を刃に変える。
 やつは戦意をなくした48と名乗った肉体のない鎧を仲間なのにあっさりと殺した。
 しかも初対面だというのに、人のことをちびちびと気安く呼んで、ものすごく気に入らないやつだった。
「なにやってんの?こんなところで」
「おまえこそ、なにしにきた!」
 この前は、怪我もしていたし、右腕が動かない状態だったからぼこぼこにされたが、今日は万全。やり合うことも可能だ。
 しかし、アルの話では崩れ落ちる第五研究所から自分を救い出してくれたのもこいつだったらしい…
 一体何を考えてて、何がしたいのかよく判らない
「僕は…」
 嫌な顔を寄せてにやりと笑う
「この町にいる鋼のおちびちゃんに会いたくて、うろうろしていたんだよ」
 戦意を向けられれば即戦いになるのだが、その欠片もなければ対処に困る。
「…何のようだ!!」
 警戒を解かずに真意を測る。
「だから、会いたかったんだってばぁ」
「はぁ?」
…相変わらず緊張感に欠ける…
「ところで、今日は一緒じゃないんだね。鎧の大きい人。」
「あれは弟だ!」
 大きい人に反応してムカつき、つい正直に答えてしまう。
 目の前の男はふふんと小馬鹿にしたように笑ったから更にムカついた。
「あぁ、そういえば、魂だけで、中身がないんだったっけ?」
 訳知り顔に、更に警戒を増す。
「兄貴が小さいと威厳も何もあったもんじゃないよね。」
 内容のないおちょくりの真意よりも、小さい、に反応してしまう辺りが巧妙な罠だと気づく余裕がない。
「てめーだって、人のこと言えるほどデカくねーじゃねーか!」
「いやだなぁ、僕はおちびちゃんにコンプレックスを与えないためにこの姿になっているんだよ。お望みとあれば、」
「なに!」
 目の前の少年がみるみる形を変えてゆく。
「この姿なら、もっと警戒しなくてすむかもね。」
「ア、…ル」
 声までもが自分のよく知る弟の物になっている。
 目の前で変身するのを見ていなければ間違いなく見分けが付かないだろう。
 警戒心よりも驚愕の方が大きかった。
「どうしたの?いつまでもこんなところにいたら、風邪を引いてしまうよ。帰ろうよ」
 セリフまで心配性の弟と一緒だ。
 歩み寄る姿に思わず数歩退いた。
「にいさん?」
「やめろ!アルの声で喋るなっ!」
「ひどいなぁ、にいさんがぼくをこんな姿にしたんじゃないか」
 本当の弟に言われたような気がして心臓がすくみ上がった。
「やっぱり、弟がおちびちゃんの弱点なんだ。」
「やめろっなんのつもりだ!!ふざけるなっ!!」
 刃をニセの弟に向ける。
「ひどいなぁ、んじゃ、生身の弟ならどう?」
 鎧の体がみるみる肉体に変わっていく。
「な…んで」
 そこには、自分よりも見慣れた顔があった。
 少し癖のある淡い金の短髪、瞳が自分よりも少し濃い金茶
「ある人に昔の写真を見せてもらったことがあるんだよね。で、成長したらこんな感じかなって。
そんな物で傷つけたらちゃんと血が出るよ。痛いからやめてね。にいさん」
 身動きできない兄の体に温かい弟の腕がまわされた。
「なんかね、気に入っちゃったんだよね。あの跳ねっ返りぶりなんかが」
「や、」
「こうでもしないと、おちびちゃんに近づけないからさ」
 弟の声で、兄を後ろの木に押しつけ、体を密着させる。
 全身から伝わる弟の体温にめまいがした。
 
それは夢よりもいっそ鮮やかに…

「すきだよ」
「ア、」
 そっと口が重なる。
 その吐息も、ぬくもりも夢か現実か判別できぬほどにあたたくて…
「へぇ、」
 唇が離れた瞬間に兄は我に返った。
 眼前のアルがにやりと笑う
「おちびちゃん、弟が好きなんだ。」
 キス一つでばれるほど、今、兄は弟に飢えていた。
「だったら、都合がいいや、」
「やめ、放せっ!」
「いいじゃん、お互い都合が良くてさ、ね、にいさん、」
「ん、」
 再度、口が塞がれる。
 目の前にある懐かしい弟の瞳から目が離せなくなる…
 
 抵抗することも忘れて兄は弟のぬくもりにすがりついた。
 






大好きなサイトさんのエンエドにしっかり影響されました
でも、やっぱりアルエド嗜好(笑)この先は、これから書きます。どうなることやら…


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