績 罪 4
弟が部屋のドアの前にたどり着いた時、部屋の中から何かが壁にぶつかるような激しい音がした。
「にいさん!にいさん!どうしたの?開けてよ!にいさん!!」
ドアには中からしっかりと鍵がかけられている。
弟はドアに手早く錬成陣を書き記し、鎧の両手をそこに押し当てるとまぶしい光がドアをつつみ、
消えた時にはドアは別の形に変わっていた。
ウエスタン風の 押せば開くドアからあわてて部屋の中にはいると、いつか見た黒髪の少年が壁際から立ち上がり、
兄の元に歩み寄って、その勢いのまま、裏拳で兄の顔を殴り飛ばした。
「なにするんだ!!」
見事に吹っ飛ばされた兄は壁に頭をぶつけて、ベットの上に崩れた。
「にいさん!」
「ぺっ」
エンヴィーが血のつばを吐き出す。
「まったく、弟の気配がしたとたん、これだよ、」
兄が弟の気配に気づいたのは、ほとんど野性的な感だった。
乗りかかってきたエンヴィーのあごを右の膝で蹴り上げ、左足の機械鎧で腹を力一杯蹴り飛ばしたのだ。
兄も殴り飛ばされた衝撃で巻かれていたタオルがはずれ、唇の端が切れて血が滲んでいた。
「ひどいよ、にいさんになんてことするんだ!!」
「ひどいのはそっちだろ?また、じゃましてくれてさぁ、あげくに力一杯蹴られたんだよ。」
「にいさんにひどいことしたからだろ!」
「ひどいこと?冗談じゃないよ、おちびちゃんが本気で抵抗したらどんなことになるか、
一番よく知っているのはあんただろ?弟さん」
思わず兄を見下ろす。
弟の視線に耐えきれず、兄は口を噛みしめて目をつむる。
嘘をつけない兄が否定もいいわけもしないのは肯定の意味なのだろう。
しかし、今のこの状況が好まれているとは思えない。
いまだに戒められている兄の両手首に手を伸ばした。
弟の手が触れた瞬間、ビクリと兄の体が硬直したが、ベルトをはずしてくれているのだと理解して落ち着いた。
「…にいさん、僕は」
「わり、…ちょっと待ってくれ」
弟を制して兄はベットをおりた。
微動だにしないエンヴィーの横をすり抜けて向かった先は部屋の入口。弟が錬成して見通しの良くなったドアだった。
いつのまにか、入口の周りには数人の人だかりが出来ている。物音に集まった宿泊客とその主人だった。
「あの、お客さん?騒ぎは、困るんですが、」
まるで手品のようにあっという間にドアを作り替えられて、下手をすると宿屋全体が壊されるのではないかと
危惧した主人が、気丈に抗議する。
「すまねぇ、すぐに直すから、」
ぱん!
青白い錬成の光がドアをつつみ、新品のドアに変わる。ついでに薄汚かった廊下の床と壁が宮殿使用に変えられた。
おおぉーと何とも言えない感嘆の声が上がる。
「悪いようにはしない。こっちはまだ話しがあるから、人払いをたのむよ。」
「は、はい、おねがいしますよぉ」
そのお願いの中には、壊すな、騒ぐな、問題を起こすな、が入っている。
後ろ髪を引かれながらも、宿屋の主人は集まった野次馬たちの背を押してその場を離れる。
「ほらほら、錬金術師のごたごたに巻き込まれたくなけりゃ、近寄らないこった。」
「まずは、アルフォンス、」
「……なに?」
ドアを閉めて兄は部屋の中にももう一枚壁を作ってから弟を振り向いた。
「悪かった、こいつとはもう会わないって言っておきながら、」
「…にいさんが呼んだの?」
「…追い出さなかったんだから…一緒だ。悪かった。」
視線を下げて謝罪の言葉を口にするのは本当に悪かったと思っている証拠。
それをされると、いつも弟は何も言えなくなる。
「それから、こいつとはしっかり話しをつけるから、口を挟まないでくれ」
にやりとエンヴィーの口角が上がる。
「だって、にいさん!」
「これは俺の責任だから、」
「責任?まるで、大罪を犯した犯罪者みたいな言い分だね。」
エンヴィーがばかにしたような口調でしゃべる。
「俺にとっては、大罪なんだよ。」
「へぇー」
ふん、と鼻でせせら笑われて、弟が反応したのを兄が左腕で制する。
「もう、…来ないでくれ、」
「いやだね。だって、おちびちゃん、拒まないじゃん。いや、拒めないの間違いだったかな?」
「だから!!」
それ以上喋られたくなくて、強く言葉を遮る
「たのんでいる。」
「…へぇ〜、」
「にいさん?」
兄のセリフに驚いた。拒めない?何故?よもや兄が肯定するとは思えなかった。
何か弱みでも握られているのだろうか?ならば、なんとしても助けなければいけない。
「どうして、にいさん、何でこんなやつに、」
「ふぅ〜ん、いいよ、そのかわり、こっちの頼みは聞いてくれるのかな?物事すべて等価交換ってやつでしょ?」
「そっちの要望は何だよ、」
「にいさん!!」
何度声をかけても兄は弟に耳を貸さない。なぜ?
「にいさんっ!!」
「そうだなぁ、今まで全部未遂で終わらせられたから、一度くらい最後までさせてよ。」
「まさか!ありえないよ、そんなの!」
「…………、それは無理だ」
「ふん、それって、弟の許可がないから無理だってこと?だいたいさぁ、そこの弟、何で兄貴に自由恋愛くらい
させてやらないわけ?」
「!」
「あいつは関係ない!!」
慌てる兄に、エンヴィーがにやりと笑う。
「関係ないわけないじゃん。ていうか、一番の当事者じゃないの?」
「アルッ!部屋から出ててくれ!」
背中を向けたままの兄を見つめる。
「…どういうこと?」
弟の声がやけに低く聞こえた。
「あんたのにいさんは、」
「やめろー!!」
パンッ!右腕の機械鎧を刃に変え、一気に踏み込んだ。
「おぉっと、あっぶないなぁ、マジだよ、おちびちゃん、」
身軽に跳ねよけ、次に備えて身構えた。
兄が執拗にエンヴィーを追う。
「自分の弟が」
よっと!バク転してベットにおり、反動でもう一度跳ねて距離を開ける。
すかさず兄が着地したところを見計らってパンッ、と床に手をつき、錬成を走らせる。
「制御出来ないほど好きなんだよ。うわっ」
直撃は何とかさけたものの、衝撃で吹き飛ばされて、しりもちをついた。
「なっ、えっ?」
言葉の意味を理解しかねて兄をみれば、肩で息をつきながら、兄はエンヴィーののど元に鋼の刃を突きつけていた。
「ねぇ、にいさん」
エンヴィの輪郭がぶれて、治まった時には金色の短髪の少年に姿を変えていた。
「この姿になれば、にいさんは僕に手出し出来ないんだ、貫いてごらんよ。ほら、」
兄の腕を捕まえて、その刃を白く柔らかい喉に押しつける。
尖った先が喉にへこみを作り、そこからぷつりと深紅の赤い液体が滲み出てきた。
「や、めろ、」
引き戻そうとする腕に更に力を込めて喉を押しつける。
「やめろー!!」
慌てて兄は両手を合わせ、機械鎧を元の形に戻した。
「ほらね。…可哀想に、ふるえなくても大丈夫だよ。にいさん」
一瞬の出来事だった。弟アルフォンスには二人の行動を止めに入るひまもなく、
今行われている事の意味もよく理解できなくて、ただ呆然と見守るしかなかった。
「だからさっ」
捕まえていた兄の腕をひき、バランスを崩させると、放り投げるように兄をベットへ押し倒した。
「教えてあげるよ、にいさんの抱き方ってやつ!」
あっという間に兄に乗り上げた人型の弟はそのまま兄に口づけた。
「にいさ…」
はじめはもがいていた兄の手が、次第に人型の弟の衣服にすがりついて口づけを深くしていく。
「ん、はっ」
口が離されても兄は相手を放さない。
「に…いさん…」
「…アル、アル」
鎧の弟の声を目の前の弟の声と勘違いして、答える。
「呼んでるよ、いいのかい?」
「あ、だって、」
「見たくないなら、出てってくれよ。じゃまだよ。」
のど元に口づけられて、兄が首をそらす。
「は、ん、」
ゾクゾクとはい上がる快感にこらえきれず、更にきつく目の前の弟にすがりついていた。
「にいさん、違うよ、僕はこっちだよ、にいさん、」
大好きな兄が、自分を呼んでいる。なのに兄に口づけているのが自分じゃなくて。
それでも兄は弟に抱かれて感じているのだ。
「ア…ル、」
兄の右腕が目の前の弟の背中からはなれて、鎧の弟の方へのばされた。
「にいさん、にいさん!!」
のばされた右腕をしっかり握り返す。
鎧の指と鋼の指がキシキシと金属的な音を立ててきしませると兄が嬉しそうに微笑んだ。
「んっ、あ、」
「んじゃ、そっちは頼んだよ、」
「ッ、アルッ、ア、」
「にいさん、にいさん、僕も…愛してる」
鎧の顔を兄に近づけると、その顔を両手で挟んで兄が嬉しそうに口づけた。
「んー、なんか、むかつくなぁ」
元の姿にもどったエンヴィーが兄の足を抱え上げながらつぶやいた。
「んじゃ、またね。おちびちゃん!」
髪をかき上げて、エンヴィーが手を振る。
「次はありません。兄は僕の物です。」
座り込んだ弟の膝の上に兄がシーツにくるまれて安らかに寝息を立てている。
「鎧の弟で満足できなかったら、いつでも呼んでねーって、聞こえてないか。ま、
ちょくちょく顔を出すからねン。」
錬金術兄弟が動けない今、ドアを錬成出来るものがいない。
仕方なくエンヴィーは窓から出ていった。
さらさらと流れる金色の髪を鎧の指が絡めて遊ぶ。
こんなに安らかな兄を見るのはどれ程ぶりだろう。
「ごめんね。気づいてあげられなくて、もう、大丈夫だから。にいさん…」

3、3Pにしたつもり、えっ?甘いですか?いえ、どこまで書いていいのかなぁー、、なんて、へへっ
終わっちゃったんですが、なんか、書いている時は楽しかったのに、読み返してみたら、何じゃこりゃ、ですね。
うちのサイトのアルは鎧になる前から兄にぞっこんラブだったはずなのに、これだけはあっさり気味で、もしかして、別人?って感じです。
それと、二人を兄と弟という代名詞で書いていましたが、途中でしつこいなぁーなんて思い始めました。
まさか途中からエドは、とかアルはとか書き換えることも出来なくて、かき分けるのに苦労したりして・・・
このシリーズ作品は大好きなサイトの湯呑屋さんにささげるために書きました。こんなのでも、もらって頂けるかしら;;;; |