唯一無二の存在

「何か、空の具合が悪くなってきたんじゃない?次の町まで、結構あるんだよね。兄さん。」
 
僕たちは都市開発の一環で水路を引くための水質調査に行くよう指令を言い渡された。
水脈は北の方の山脈にあって、どうやら山の麓の村には独自で引いた水路があるらしい。
水質及び、地質の調査をしてくるようにマスタング大佐にじきじきに言いつけられたのだ。
これも、物質などに詳しい錬金術師には適任だとか…国家錬金術師って、
雑用係?のようなものなのかも知れない…
 

「ん、あぁ、」
兄さんに、覇気がない?
「兄さん?どうかした?」
「いや、さっきの坂道で張り切りすぎたみたいだ、ただの息切れだから
すぐになおるさ、それより、やばそうだな、」
「え?」
「ありゃあ、雷雲だぜ、」
「ほんとだ、どうりでまだお昼過ぎなのに暗くなってきたわけだ。うわっ」
噂をすれば何とやらってな感じでいきなり空が光って、ガラガラガラッと凄い音を立てて雷がどこかに落ちた。
「雨、ふるかな?」
「雨ならましだろ、ここはリゼンブールよりもかなり北に位置しているし、標高も高い、
ましてや、雷雲と言えば霰や雹だろ?」
喋っているそばから、目に刺さるような稲光と轟音が響き渡る。


「アル!お前走れっ」
「何で?兄さんは?」
「ばか、鎧のお前は雷が落ちやすいんだ、一緒にいたらこっちまで巻き添えになるだろ?先に森に入ってろっ」
「あ、雨」
しかも、突然の土砂降り!始めの数滴のあと、バラバラと凄い音を立てて降ってきた。
「いや、霰だ。早く行けっ」
「兄さんは?」
走りながら叫ぶ
「近場に避難して、小降りになってから森に入る」
「わかった、あまり深くないところにいるからっ」

ひきりなしに雷がひかる。洒落にならないから、僕は気になるけど兄さんから離れた。
昨日までいた町よりも気温はかなり低いみたい。僕には解らないけど兄さんの吐いていた息が白いことから、
少なくても気温は10度以下だろう。

兄さん、すぐに何かの下に入れたかな?この寒さで濡れちゃったら、風邪を引いてしまうよ…
 

霙と霰がまじった雨は道ばたの草の葉に穴を開けるほどの勢いで落ちてくる。
「ちくしょう、痛てーよ!」

ばしばしと顔や手にひどい勢いで当たる。何とか近場の木の下に入り込むが上着はすっかり濡れ、
フードは走ったために脱げた。
霙が溶けて濡れた髪から水滴が首筋を通って、体を濡らす。
雷は相変わらず轟音と閃光をまき散らし、雨が強くなったり弱くなったりしながら降り続いている。
逃げ込んだ木はさほど込み入った枝をしていなかったために半分ほどの雨も防げてはいなかった。

「うわっ、寒みっ」
少しの風でも体温が奪われていく。
実を言うと、今朝から体調が優れなかったのだ。
ただ、普段病気とは無縁の生活をしていたために、体の不調に気付かず、バスも通らない山道に入った頃、
尋常じゃない疲れと、突然の雷雨にみまわれたのだった。

「早く止まねーかなぁ、さみぃー、」
がたがたと全身の震えが止まらない、かちかちと歯がぶつかる音が耳にこだまする。
濡れた機械鎧がさらに体温を奪っているようだ。別の木のしたに移ろうとも思ったが、
すでに体も気力も悴んで思うように動けず、なるべく小さく木の根本に蹲った。
 

「兄さん、大丈夫?!」
「あ、アル?」
「どうしたのさ、いつまでたっても来ないから、探しに来たんだよ、」
「おま…え、雷、」
「大丈夫、もう随分遠くなったから、それより、ずぶ濡れだよ、脱がないと、」
「寒…くて、」
「兄さん、まさか、熱があるんじゃないの?」
顔が赤いし、呼吸が荒い、

今の僕には兄さんの体温を感じることが出来ないから、気付くのが遅れたんだ!
さっき、様子がおかしかったのはすでに熱があったんじゃないんだろうか?
「何で黙ってたの!具合が悪いのに、雨にあたったら余計に悪くなるじゃない!!」
怒っている場合じゃない!!なんとかしないと!
「僕の中に入って!!」
「いいよ、大丈夫…だって、小降りになったから」
「でも、こんなに濡れてる!さっき走れなかったのなら、何で言ってくれなかったのさ!!
兄さん一人くらい、運ぶのわけないのに!」
「雷にあたったら、いくらお前でも印が焦げて、死んじまうよ。」
「ばかっ!いいから上着を脱いで、」
鎧の前面を外して、無理矢理兄さんの体を中に押し込んで入れる。
「いいって言ってるのに、」
「うるさいよ!」
無理矢理蓋を閉めた。
脱がせた赤の外套をまとめて絞ったら、結構な水が落ちる。
皺になるのを覚悟してしっかり絞り、もう一度蓋を開けて兄さんに被せてやった。


「アル…、覚えてっか?」
「なにを?」
フードで、濡れた髪を拭いてやる。
「前に、雨降りの中、子猫を拾って腹に入れていたことあったじゃん」
「うん、」
「あんとき俺、捨ててこいなんて言って猫に悪い事したなぁ」
そっと蓋を閉じると、僕の体の中で兄さんの声がする…不思議な感じがした。
「濡れて、こんなに寒かったんだな…」
「まだ、寒いの?」
「…いや、…そんなでもない、」
ウソだ。たぶん強がっているだけ。だって、僕の体の中に、兄さんの震えが伝わってくる。
まだ、息も荒いし…どうしよう…
「アルは…あったかいなぁ…」
そんなはずない、僕には体温がないんだから…
「それは兄さんの体温だよ、だって…、!!」
…に、兄さんが、僕の魂の印に…触れている…
「ご…めんな、アル…」
「あ、…」
泣いている…兄さんが、僕の魂に触れながら。
熱いものが、僕の体の内壁を伝って落ちていく、
「ごめん…ほん…とに、ごめ…」
「に、兄さん?兄さん!!」
 
 
「ん、んぁ?」
エドが目を開けると見なれない天井が目に入った。
「どこだ?ここ」
「兄さん、気が付いた?」
アルの優しい声がする。ベットのすぐ脇に置いてあるイスに座っていた。
「俺、」
「僕の中で気を失っちゃったから、兄さんには悪いけど、走ってもとの町まで戻ってきたんだよ。」
昨日まで泊まっていた宿だった。
「どおりで、体中あちこち痛いはずだ。」
「たんこぶはそうかも知れないけど、他の痛みは熱の所為だよきっと。
ここに着いたときには40度近い熱があったんだから。もう、子供じゃないんだから、
体調くらい自分で管理しなくちゃだめだよ、兄さん」

目が覚めた途端に辛口の兄に、ついつい反撃をしてしまう。
「ホント、びっくりしたんだから。鎧の僕にまで兄さんの熱さが分かるほどだったんだよ。
…死んでしまうかと思った…」
とっても怖かったと小声で付け足した。
「…った。」
「えっ?」
「悪かったっつってんだ、」
アルを見るときの、癖になってしまったような少し困ったような苦笑いを向ける。
「解るから、そん時の、気持ち」
 
必死に助けを求めて伸ばしてくる手をつかんでやることも出来ず
目の前から崩れ去られる恐怖
耳にこだまする自分を呼ぶ叫び声
何物にも代えても構わないほどの懇願
 
何度も繰り返す悪夢は目覚めた瞬間、そばにいる存在に癒される
ここにある存在
たとえ魂だけでも、確かにここにある
それだけで、自分が存在することを許してもいいのかも知れないと思える
自分にとって、唯一無二の存在
 

「もう、どこにも行くな…」
「それはこっちの台詞でしょ?」

病気の時は気弱になると聞くが、病気なれしない兄はそれがまとめて来るのかも知れない。
と、アルは思う。
「俺は、お前以外、何もいらないから…」
「!!、兄さん!?」
な?と見上げてくる顔を見たら堪らなくなって、病気なのも忘れ、思わず抱きしめていた
「兄さん!兄さん!」


その時、コンコンと部屋のドアが鳴った。
「気が付いたのね、よかった。具合はどう?お腹すいてない?良かったら食べてね。」
宿屋の女将が優しく笑う。
暖かい湯気を立てて、机にお粥が置かれた。

「ありがとうございます。だいぶ良いみたいです。」
「くすっ、ホント仲がいいのね。」
「わっ」
気が付くと、まだ抱きついたままで、アルは慌てて兄から離れた。
「だめよ、弟さんにあんまり心配かけちゃ、おにいちゃんなんだから」
「はい、気をつけます。」
「わー、今日の兄さん、別人みたいに素直だー、あたっ!」
事実を言っただけなのにーと、衝撃を喰らった頭ををさする。
「くすくすくすっ、何か欲しいものがあったら、言ってね。」
ドアを出ていく後ろ姿に、二人して「はぁ〜と」ため息を付いた。
「いいなぁ、何か、お母さんみたい、」
「この、マザコン」
「何だよ、兄さんだって和んでいたじゃんか、やけに素直でさ、」
「うるさい、」
「あれ?、何?もしかしてやきもち?」
「誰がだ!」
「兄さん、可愛すぎー!!」
「だー!懐くな!暑苦しい!!」
 
 
 
 
 
   なんか、一人称と、三人称が、ごちゃ混ぜになってしまった。
   直すのも面倒なのでそのままアップ(おい)
   読みづらくてすみません