12.
「・・・・・アッシュ?」
肩を揺り起こされ、うっすらと目を開いたナタリアは、起こした相手を見てつぶやいた。
「・・・ルーク?」
そしてまた、ことん、と眠ってしまった。
ガイはその様子を見ながら、自分で自分のこめかみあたりを叩いた。
ぼーっとする。
まるで、何時間も深い眠りについていたかのように、体が重かったが、実際はそれほどの時間はたっていないだろう。
こんな風に気を失わせられたことなど、今まで一度もないから、どうやったのかは分からないが・・・誰一人漏れず、一瞬で眠らされたらしい。
ジェイドが珍しく、落ち着きなく首元を治している仕草が目に入って、ガイはそう確信した。
アニスも、まだ頭がはっきりしないらしく、床に膝を抱えてペタンと座り、とろんとした目でなにやら考えているようだった。
ティアは複雑な顔をしていた。
考え深げに、アッシュの姿を目で追った後・・・ちらりと動いたその視線が、偶然にもガイと絡んだ。
それだけで、言いたいことを、共有する。
胸に飛来した、喜びと虚しさも。
やはり、眠らされるという醜態を演じた、カンタビレの機嫌は相当悪かった。
今も、元凶はおまえだと言わんばかりに、アムラジェの代わりにやってきた侵入者を睨みつけている。
睨まれているほうは、そんなことは対して気にした風もなく(気がついていないのでは絶対にない)眠ってしまったナタリアの頭の下に、柔らかい毛布を差し込んでいた。
どこから出てきたものかといえば、たぶん、自分が持ってきたものなのだろう。
赤毛の侵入者が毛布を差し込み、体を起こしたのを確認すると、さて、というようにジェイドが眼鏡を直した。
まるでそれが、戦闘の合図であるかのように、ジェイドよりも早く、「おい、おまえ!」とカンタビレが声を出す。
敵愾心むき出しの声で呼ばれ、赤毛の侵入者は、無表情で振り返った。
「・・・なんだ。」
ああ、とガイは思う。
そうだ、こいつはこういう声だった。
忘れたわけではけっしてないのに、月日は現実感をどんどん失わせる。
あったものがそこにあったという証拠は霞み、記憶のなかにあった彼らは、半分はガイが捏造したものではないかと思えることすらあった。
今、再び声を聞いて、ガイの記憶のなかのその薄くなった現実感が、新しく上書きされた。
「アムラジェをどこにやった。」
カンタビレが言うと、なんだと?と彼は首を傾げた。
アムラジェだ、とカンタビレは念を押した。
「おまえがどこかに隠したのだろう?」
「・・・・・。」
しばらく、彼は考えた。
そして、あの女か、と言う。
「・・・アムラジェ、というのか。あの、黒い女は。」
「そうだ。どこにやった。」
あくまでも、目の前の彼が犯人だと決め付けてかかるカンタビレに、初めて面倒くさそうに彼は舌打した。
「知らねぇよ。こっちが知りたいくらいだ。・・・俺が来た時には、もういなかった。」
そうか、とカンタビレは答えて目を眇める。そして、大きく息を吸ったかと思うと、
「この男を捕らえろ!」
と兵士に号令を浴びせた。
「ちょ・・・ちょっと!!」
「おいおい・・・。」
いきなりのことで驚くアニスと呆れるガイの目の前で、わらわらと第六師団の兵士たちが男を取り囲んだが、中心にいる人物は四方を睨みながら、左手はすでに剣の柄を握っていた。
一発触発の緊迫した状態のなかで、それを押し留めたのは、トリトハイムだった。
「待ちなさい、カンタビレ。ここをどこだと思っているのです。」
カンタビレは、不満そうに礼拝堂の真ん中に立つ大詠師を見る。
「しかし・・・。」
「兵を引かせなさい。まだ、状況も把握できていないのに、捕縛劇を演じるなど、行き過ぎな行動ではないですか?」
思うに、トリトハイムはカンタビレがいきなりアムラジェを捕らえて、尋問したことに多少の憤りを感じていたのではないだろうか。兵を・・・ある種の圧力を・・持つ者は冷静で公平でなければならない。一方的な決め付けは公平さを欠いている。
「しかし、この男は今や部外者です。関係者でないものが教会に入り込んで任侠沙汰を起こした時点で、捕らえられて当然では?」
そうだろう?鮮血、とカンタビレが言うと、さぁな、と男は答えた。
「確かに、特務師団からは2年前に外されたがな。兵士でなくとも、教団所属であることには違いない。」
「お前は死んだことになっている。その時点で教団員としての地位はなくなっているのでは?」
「"詠師"というのは、導師にしか選ぶことも退任させることもできない。その導師が2年前から教団に不在であることを考えれば、鬼籍に入ってたとしても、今でも俺は詠師の筈だが?」
その言葉で、トリトハイムは、やはり、あなたが・・・とつぶやいた。
むむっと不満そうにカンタビレは、口を噤む。
そこへ、ちょっと良いですかね、と割り込んだのはジェイドだった。
「とりあえず・・・状況を把握することから初めませんか?どうせ彼は逃げる気がないようですし。」
逃げる気があっても我々が逃がさん、とカンタビレは息巻いたが、それもそうだと渋々ながら納得した。
激昂しやすい性質ではあるが、頭に上った血を冷ますのも早いらしい。
カンタビレは承諾の意味も込めて、質問者の位置をジェイドに譲り、その合図にくいっと鼻先で男を差した。
了解、というようにジェイドが前に進み出る。
そして、
「質問させてください。」
と相手に話しかけた。
「とりあえず・・・貴方がアムラジェをどこかに逃がした訳ではない。これは、本当ですか?」
「ああ。」
男は答えた。
「しかし・・・貴方がここに来た目的はアムラジェだった。それは間違いないですか?」
「ああ。」
それに対して、カンタビレの肩が動いたが・・・黙っていた。
ジェイドは質問を続ける。
「理由をお伺いしても?」
「正確には、あの女ではなく、あの女が持っていた・・・もしくは連れていた"モノ"が目的だ。」
男は間髪いれずに答えた。
あっさりとしたそれは、しかし、それなりの驚愕と困惑を齎した。
アムラジェが連れていた存在となれば・・・。
「それは、ハレルヤ様、ということ?」
ティアが、声を高くして口を挟んだ。
もしもそうなら、アッシュは確かに、教団に弓なす者として糾弾しなければならない。
対する侵入者は、軽く首を傾げ、
「ハレルヤ・・・そういう名前をつけたのか?」
と誰ともなくに、聞き返した。
「答えて。」
ティアの厳しい声に、アッシュは眉を顰め、
「そうなのかもしれんが・・・断言はできん。俺は、あの女を目印に追っていた。お前たちのいうハレルヤとやらと、俺の追っていたモノと同じであるという保証はない。」
確かにその通りですねぇ、とジェイドは同意したが、でもでも!と明らかに不満そうにアニスが言った。
「それって、言葉遊びの域をでないんじゃない?アムラジェが一緒にいたのは、いっつもハレルヤ様なんだから、それ以外考えられないじゃん?」
こっちからも聞くが、と男が逆に質問をしてきた。
「ハレルヤってのは・・・人間なんだな?」
「そうだよ!」
あたりまえじゃん!というアニスに、それなら、と男は言った。
「あの女は、他になにか持ってなかったか?」
「なにかって?」
「・・・たとえば・・・いや、いい。」
男は言葉を切って、気を取り直したように続けた。
とりあえず、お前ら、と言う。
「ハレルヤがどんな人間かを俺に話せ。髪だの顔だのどういう声だったのか、どんな行動を取っていたのかをだ。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
ところが、アニスとティアは、沈黙で答える。
「?どうした?」
「ハ・・ハレルヤ様は・・・。」
ティアが答える。
「・・・あまり、アムラジェ以外と接触しない方だったの。だから・・・私たちはあまり・・。」
う〜と唸ってアニスが頭を抱えた。
「それに・・・太陽の光があまり目に良くないからって、いっつも外に出るときはフード付きの外套を纏ってたし。だから、容姿と言われても・・・。」
「お前らは、馬鹿か!?」
盛大に呆れた顔になって、アッシュは叫んだ。
「お前らは、どこの誰とも知らない・・・顔も知らない人間を、中央の近くに入れていて、それでなにも感じなかったのか!?」
「そ・・それ、あんたに言われたくないし!」
アニスが叫ぶ。
「あんただって、教団にいた時、他の人間に顔を見せなかったじゃん!あの頃、『鮮血のアッシュ』を知っている人間なんてほとんどいなかったんだからね!」
「俺の時とは訳が違うんだよ!ヴァンのやつがそうなるように仕組んでいやがったんだからな!」
「同じだよ!」
「違う!」
おいおい、と呆れたようにガイが笑った。こどもの喧嘩か。
「ハレルヤのことなら・・・私がわかりますよ。」
唐突に、口を開いたのは、トリトハイムだった。
え、と一同は振り返り・・・
「あ、そうか。」
とアニスは手を打つ。
「トリトハイム様は、アムラジェと一緒に初めてハレルヤ様に会った方ですもんね。」
「ええ・・・。」
そして、トリトハイムは、本当に済まなさそうな、なんと言い訳しようというような、そんな複雑な顔になった。
「その事で私は・・・黙っていたことがあります。わざとではなく、確証を持てなかったことがあるのです。」
え?と皆は目を丸くした。
一瞬だけ、神妙な面持ちが揃って、トリトハイムを見つめる。
まず、ハレルヤの容姿についてお話しましょう、とトリトハイムは言った。
「髪は、アムラジェと同じような漆黒です。肌も白く、黙っていれば女性のようにも見えます。・・・もっとも教団に来た当初は黙っているしかなかったのですが。」
さきほど、お話した通りですよ、とトリトハイムは言った。
「しかし・・・面差しは、私のよく知る人物に、非常に似ていた。」
「え?」
きょとんとした一同の中で、ジェイドだけが、すでにその意味を正確に掴み取っていた。
しかし、意味がわからずとも、勘は鋭い彼らはどうしてだか、トリトハイムの話が教団のみに関わるものではないという予感がしていた。
なにか、秘密が。
自分たちに関係のある秘密が、解き明かされようとしている。
そう思い、息を飲んでトリトハイムの言葉を待った。
「ハレルヤは碧の瞳をしていました。」
「・・・・!」
「私も、もしやと思ったのです。初めて、ハレルヤを見た時に。なぜなら、黒い髪ならば染めることができる・・・。」
ある意味で、私がアムラジェとハレルヤを教団に招き入れた理由は、そこにありました、とトリトハイムは言った。
「そして今、貴方の顔を見て思う。やはりハレルヤは"彼"だったのではないか、と・・・。」
貴方と示された男は、片目を細めた。
その相手を確認して一同は、
「それって・・・!」
色めきたった。
どうしても我慢ができないというように。
「つまり、ハレルヤ様の正体は・・・!」
「・・・ルーク、なの!?」
「違うな。」
鋭い否定の声が、この場の高揚した気分を叩き落した。
失速して落ちた鳥のような気分になって、一同は発言者を見た。
不機嫌そうに眉を寄せ、眼光も鋭い。
明らかに不愉快そうな顔で腕を組んで、しかし視線は誰でもなく、礼拝堂のユリアのステンドグラスを睨んでいた。
「違うって・・・。」
ガイは眉を顰めた。
「どうして、そう言えるんだ?ルークは今、どこにいるかわからないんだ。なのに、どうしてお前に、ハレルヤではないと断言できるんだ!?」
最後は食ってかかるような口調になったガイを、待ちなさいと制したのはジェイドだった。
「その前に確かめなければならないことがあります。」
そして、目の前に立つ赤毛の青年に向けて言った。
「貴方は・・・アッシュですか?それとも、ルークですか?」
「あ・・・。」
ジェイドの言葉に、その事を思い出したように全員が息を飲み、答えを求めるように男を見た。
青年の眉があがる。
それは、不愉快そうでもあり、今更聞くのかと呆れているようでもあり、なんと答えたものかと迷っているようでもあった。
「俺は。」
男は答えた。
「そのどちらでもあり、どちらでもない。・・・今やそういう存在だ。」
「つまり・・・アッシュとルーク。どちらの記憶もある。・・そういうことですか?」
男は少しだけ逡巡した様子を見せたあと、こくん、と頷いた。
「あの戦いから2年たっています。その間はどこに?」
「・・・そもそも、俺はあれから2年も経っているとは、思っていなかった。」
その時のことを思い出すように男が話し出す。
「気がついたら、タタル渓谷にいて。どうしてここにいるのか、訳がわからなかった。俺は、エルドラントで死んだ筈だったからな。」
「アッシュが?」
「『ルーク』もだ。」
ジェイドは一瞬だけ沈黙して、
「・・・続けてください。」
「しばらくは、街を目指して歩いていた。幸いなことに剣もあったしな。だが、その道すがら、だんだんと・・・自分の中にある記憶が、ふたり分である事に気がついた。タタル渓谷に対しても、まったく別の感想を持つ、と。」
「ああ・・・。」
話の途中で、ティアが両手に顔を埋めた。
それは、以前ジェイドが語ったのと同じ現象で、彼女らは悟ってしまったのだ。
それが、『大爆発』が起きた証だと。
つまり、この目の前にいる人物は・・・大爆発の果てにレプリカである『ルーク』の記憶を引き継いだ被験者の『アッシュ』なのだ。
大爆発という名前について知らなくとも、それでアッシュは彼らが事の次第を理解したことに気がついたのだろう。
顔を埋めてしまったティアを複雑そうに見てから、話を続けた。
「それから・・・数日間、旅をした。そこで、すでに2年の歳月が過ぎていたことを知り・・逆に不思議に思った。何故、この時期なのか、と。」
「・・それには色々と考えられますが。」
ジェイドがふ、と息をつきながら答えた。
「しかし・・・まぁ同じ音素が引き合ってひとつになるには・・・時間がかかるのかもしれませんね。人間を構成する音素はあまりにも複雑で・・・情報となる元素も無数ですから。」
ふうん、とアッシュはあまり興味もなさそうに相槌を打って続けた。
「そして、そんな時だ。俺の持っていたローレライの剣が唐突に・・・消えた。」
「・・・ローレライの剣?」
え、と一同は息を飲み、ティアも顔をあげた。
「貴方は、ローレライの剣を持って、帰還したのですか?」
「ああ。そうだ。」
アッシュは答えた。
「目が覚めた時、ローレライの剣を握っていた。消える時・・・『ルーク』が消える時、直前まで握っていた時の感触そのままだった。それが、いきなり・・・まるで霧散するかのように手元から消え失せた。そして、その瞬間、まるで・・・ハレーションが起こったように目の前が白くなって・・・見た事もない、黒い髪と黒い目の女の顔が、目の前に浮かんだんだ。」
「それが・・・。」
「アムラジェ!」
「たぶん・・・その女なんだろうな。」
アッシュは答えた。
「しかし・・・。」
ジェイドが困惑したように言う。
「それでしたら、どうしてアムラジェに辿り着けたのです?貴方は、アムラジェなど知らないと言った。それなのに、正確にアムラジェのいる場所を掴んでいる・・・。」
「それが、俺があの女を追っている理由だ。」
アッシュは答えた。
「俺は、あの女を知らなかった。だが、時々・・激しい頭痛がして、様々な風景がふいに頭に飛び込んでくることがある。それは・・・『ルーク』が『アッシュ』から通信を受けた時のものと似通っていた。しかし、俺はあの女のことは感知することなどできないし、どこにいるかなどわかりもしない。『ルーク』も『アッシュ』もいない今、それはもうひとつの完全同位体からの通信ではないのか、と俺は考えた。」
「もうひとつの完全同位体・・・つまりは。」
「「ローレライ!」」
いっせいに叫んだ声が、幾重にもなって礼拝堂にこだました。
アッシュとルークの完全同位体にして、第七音素の集合体。
ガイは昔、まだアッシュとのフォンスロットを開く前のルークを思い出していた。
長きに渡り彼を苦しめた頭痛の原因は、ローレライであったはずだ。
「なるほど、貴方は。」
ジェイドが言う。
眼鏡を押し上げた仕草は、一定の納得を得たことを示していた。
「・・・ローレライからの通信と考えて、アムラジェを追っていたのですね?」
「何度も言うが、俺が追っていたのはあの女が持っていた"モノ"だ。」
アッシュは答えた。
「頭痛と一緒の交信は、その後何度もあった。そして、その全てにあの女の姿が映りこんでいた。だから、あの女のすぐ傍から通信を送ってきているモノがある。そう考えたのは、的外れではないと思うが?」
「それが・・・ハレルヤ?」
「・・・俺はてっきり、あの女がローレライの剣を持ち歩いているんだと思っていたんだがな。」
だが、余計に面倒なことになったな、とアッシュは言った。
そうですね、とジェイドも同意する。
「本当に"モノ"で・・・物体であったのなら、取り返せば良い。しかし、それが意思を持った"人間"のカタチをしていたとなると・・・。」
「ああ。」
「「ローレライ、もしくはローレライの一部である可能性が高い。」」
ジェイドは眼鏡を直し、重々しい声で、危険ですね、と言った。
「・・・非常に危険で・・・やっかいな事態です。」
「え?どうして、そうなるんですか?」
と不思議そうな顔をしたアニスに、考えてもみなさい、とジェイドは答えた。
「これは確かに推察ですが・・・ローレライの剣は、本来はローレライの完全同位体であるアッシュに預けられたものです。それが、彼の手から逃れた・・・。つまり、よりローレライに近い存在が生まれ、アッシュからそちらに主導権が移ったと考えられるのです。そして、万が一『ローレライ』がこの世界に、人の姿で現れたとなったら・・・。」
「おそらく、超振動も使える。」
「そして・・・かつて、『ルーク』が使えた『第二超振動』も使える可能性だってある。ハレルヤは、話せるようになっていたとは言え、幼いレプリカだ。知った誰かが、利用しようとしても可笑しくない。」
「それが、アムラジェだって言うんですか?」
「彼女がどこまで知っているかは知りませんが・・・なにも知らないということは、もはや、ないでしょう。やっかいなのは、この場合『人』であったということなのですよ。もしも、ローレライの剣そのものだったとしたら・・・『物質』だったのだとしたら、その素要のある者、ローレライの完全同位体である、アッシュにしか使えない。しかし、それが意思のある『人間』として現れたのだとしたら、その者をたぶらかすことも、操ることもできる。」
言うなれば、ローレライが人の手に落ちたようなものです、とジェイドは言った。
かつて、我々はその危機に面したではないですか、と。
2年前、預言を憎んだ男は一時期、ローレライをその体のなかに取り込んでいた。
初めてその攻撃を受けた時、あまりの凄まじさに、思わず恐怖すら感じた。
『冗談じゃないぞ』と叫ぶほどに。
「あれは、あまりにもやっかいな存在だ。」
アッシュは言った。
(俺なら)
「俺なら」
(あの存在を消す)
「あの存在を、消す。」
「・・・道理、ですね。」
ジェイドが同意をする。
しん、と一瞬、礼拝堂が静まり返った。
話の展開のあまりの急さに、驚愕を隠せないのも確かだが、難しすぎて理解できないという者も確かにいただろう。
しかし、アムラジェとハレルヤが、かつてのヴァンと同じような脅威になりえるということ。
それは、たがえようもない事実だ。
「ちょ・・・ちょっと待ってくれ!」
ガイが、声をあげた。
「消すって言うが!"ハレルヤ"はルークじゃないのか?そう考えるのが自然だろう?」
はっと息を飲み、ティアとアニスはガイを見た。
しかし、
「違いますね。」
とジェイドは一蹴する。
「なんでだ!?だって、ローレライの完全同位体ならルークだってそうだろう?アッシュが帰ってきたように、ルークも帰ってきてたんだ!そして、ローレライの剣は同じ完全同位体のルークに移った。それで辻褄があうじゃないか!」
「違う、と言っただろう?ガイ。」
アッシュが言った。
「なんでだ!?」
「・・・それを、今更おまえが俺に問うのか?」
「その通りです。」
ジェイドが言った。
「かつて我々は・・・完全同位体であろうとも、『アッシュ』と『ルーク』は別人であると断じた筈です。ルークはルーク、アッシュはアッシュ。そして、ローレライはローレライなのです。人は魂と・・・記憶とで人間の芯の部分を築き、それはけっして、同じものはふたつとない。その個人差を我々はアッシュとルークとに分けた。」
かつて、同じだと頑なに認めなかったアッシュに、それを説いたのは、他ならぬガイたちであった。
「彼の魂は・・・今どこにあるかはわかりませんが。」
ジェイドは、アッシュを指差した。
「ルークの記憶は、彼の中にある。」
「・・・それでも、ハレルヤが『ルーク』だなどと、言えますか?」
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