14.

 

 

 

 
「で、これからどうするんだ?」
 夕食の席で、アッシュが切り出すと、同じテーブルを囲む3人から不満の声が返って来た。
「え〜。そういうのって、なんか味気ないんですけど〜。」
「食事の時間は、優雅に取るものですわ。」
「・・つうか。なにも今じゃなくっても、後でできる話じゃないか?」
 それに対して、おい!と一瞬唇を尖らせたアッシュだったが、しれっと表情を崩さないジェイドと、なにか言いたげだが口を開かないティアを見て、
「・・・わかったよ。」
 と渋々納得した様子で、そのまま口を閉じる。
 それに対して、あれ?意外とアニスは目を丸くした。
 いつも怒鳴り散らしているイメージのアッシュだったから、絶対に怒ると思ったのに!と余計なことを言って、うるせぇガキ!と流石に怒られた。
 
 しかし、アニスではないが、再会したアッシュは少し、彼らの抱いていたイメージよりも大人しい気がしていた。
 いつも激昂していた姿しか見ていないが、もしかしたら、普段はこんなくだらない(と言うと自分たちで虚しいが)言い争いには参加もせず、好きなようにさせておけば良いという冷めた一面を持っていたのかもしれない。
 それは、意外な顔を発見したという喜びよりも、なんだかつまらないという印象を彼らに抱かせた。

 落ち着かない様子で、ガイはがしがしと頭を欠いて、アッシュも大人になったなぁ、とご本人様には意味がわからない言葉を述べた後、出されたコーンポタージュにスプーンをつっこむ。
 そういえば、2年前は逃避行やら追い詰められたりやら時間に限りがあった為、路銀の心配をしながらの旅だったが、今回はピオニー陛下に先立つものをたんまりと預かっている。
 そのうえ、アルビオールですぐにグランコクマに戻ることもできるようになった為、お金の心配をする必要がない。相変わらずうるさいアニスさえ同意してしまえば・・・フルコースと言わないまでも、お茶つきのメニューを頼むことも可能になった。
 追っているものが違うと、こんなにも余裕が生まれる。
 そんなことを思いながら、ガイはスープを口に入れた。
 もっとも、ローレライが本当に関わっているとしたら・・・こんなに悠長にしていられるのも、今のうちだけかもしれないが。

 


 食事が終わり、お茶が運ばれてきた頃、では次の話をしましょうか、とジェイドが切り出した。
 アッシュは、やっとかというように軽く溜息をついたが、それ以外の一同は、そこは阿吽の呼吸というべきか、すでに引き締まった表情に変わってジェイドを見ている。

「・・・まずは、ローレライの件ですね。果たして、どういう状況が起きているのか、それを把握しなければならない。」
「そうだな。」
 なによりも、それが重要な課題だ。
 アッシュの主張は、それはそれで筋が通っているが、憶測の域をでないのも確かだ。そのことに関しては、アッシュ自身も自覚しているので、人手が増えた今、はっきりとした確証を得たかった。
「そういうことですので、アムラジェの捜索は第六師団に任せて、我々はなにが起きているのかを探る。この方向でいこうと思います。異論は?」
 全員がそれに沈黙でもって、同意を唱える。
 
「・・・とはいっても、実際になにが起きているかをどうやって確かめる?」
 物証などを得るにしても、どこをつつけば出てくるのかわからない。
「とりあえず・・・俺はローレライの剣がなぜ消えたのか、を知りたい。」
 アッシュが言った。
 一同がいっせいにアッシュの顔を見る。
「・・・あの女が持ってないとわかった以上、どこに消えたのか、なぜ消えたのかが謎のままだ。そして何故、あの女と俺の通信が繋がるのか、もだ。」
 正確には、アッシュはハレルヤと通信しているのだろう、という曖昧な状態だ。
 ジェイドもそれに対して頷く。
「・・・実際に、ハレルヤがローレライの化身だったとしても・・・何故、今になってそんなものが現れたのかも謎です。そして、それにどのようにしてアムラジェが関わっているのか。」
「うーん・・・偶然ってことはないですよね?」
「そりゃ、ないだろう。」
 いくらなんでもな、とガイは肩を竦めた。
「けれど・・・なんだか色々な違和感を感じます。」
 ティアが言った。
「・・・私の知っているかぎり、アムラジェはなにも変わった能力のない人でした。完全同位体であるアッシュやルークならともかく、そんな人のところにローレライの化身が遣わされてるとは思えません。」
「ですから、なにかアムラジェには秘密があるのではありませんこと?」
 ナタリアが言った。
「実際に・・・アムラジェは、人間かレプリカかの区別がつかないようですし。そのことに関してもなにか。」
「?」
 ナタリアの言葉を、事情がつかめないアッシュだけが不思議そうにしていたが、一同はそれに気がつかなかった。

「それにそれに!」
 これも忘れないでよ!とアニスが言った。
「ウィザードの第3施設のことも、調べは終わってないよ?資金を出して貰っている以上、ピオニー陛下の依頼にも応えなきゃ・・・。」
「待て。」
 そこで、アッシュが口を挟んだ。
「ウィザードの第3施設ってのは、なんのことだ?」
「うー・・だからぁ・・。」
 アニスは説明をする。
 
 ウィザードの第3施設に、現在疑わしい動きがあることを、マルクト皇帝から直々に調査するよう依頼されているのももちろんだが・・・アムラジェによく似たこどもがそこにいた、という話に及ぶとアッシュは眉を顰め、ふぅん?と相槌を打った。
 そして、そのまま指を唇にあてたまま・・・考えている。

「アッシュ?」
 どうかしましたの?とその様子を見てナタリアが聞くと、
「その第3施設ってのは、どの辺にあるんだ?」
 とアッシュが聞いてきた。
「位置的には、エルドランド跡とユリアシティの間、というところでしょうかね。」
 ジェイドの答えを聞いて、アッシュの眉がますます深く寄せられる。
「なにか気に入らないことでもあるのかい?」
 代表してガイが訊ねると、アッシュはがしがしと髪の毛を掻いた。
「気にいらねぇっちゃ、気にいらねぇんだが・・・。その施設ってのは、壁も屋根も白い半円系の建物か?」
「・・あ、ああ・・・。」
 第3施設の外見は確かにそんな感じだったのだが、それがどうしたというのか。
 そう問われると、アッシュは唸るような声で、あの女と関係があるかもしれん、と言った。
「あの女って、アムラジェか?」
「そうだ。」
 見た事がある気がする、とアッシュは言った。
「気がするって・・・。」
 おいおい、とガイが呆れたような声を出すと、うるせぇ、はっきりとしないもんは仕方ないだろうが!と怒鳴られた。
「・・・俺に通信で、あの女の姿が見えるようになった当初は、まだはっきりとしてなくってな。その時に見た・・・気がするんだ。」
 それはあなたとハレルヤ(おそらく)のフォンスロットがはっきりと繋がっていなかったからでしょうね、とジェイドが解説をした後、
「ハレルヤとアムラジェが第3施設に関わっている・・・。」
 と考え深げな顔をした。

「俺の素人考えなんだが、旦那?」
 とガイが言った。
「第3施設に、もしもアムラジェとハレルヤが関わっているとしたなら・・・アムラジェは、ローラ博士のレプリカってことはないのか?アムラジェに似たドロシーもあそこにはいたし、ローラ博士は彼女の母親だ。」
「ええ・・・ありえなくはないですよ。」
 ジェイドは頷いた。
「ローラ博士の顔写真が残っていないのが残念ですが・・・アムラジェが、ローラ博士本人のでなくとも、血縁者のレプリカである可能性はあると思います。ただ、」
「本当に、アムラジェがレプリカだったら〜でしょ?大佐?」
 ジェイドの後を引き継ぐようにして、アニスが言った。
「今現在、アムラジェがレプリカだと決定した訳じゃないっていうのは、もちろん分かっているけど・・・第3施設で、アムラジェに関して秘密裏になにか研究されてたってことは、ありえませんかぁ?」
「たとえば?」
「・・・トリトハイム様のいうような新しいレプリカ、とか。」
「着目点は良いと思うのですが・・・物理的にそれは、ありえないと思うのですがねぇ。」
 溜息をつくようにジェイドが言った。
「レプリカといえど、要するに人間ですからね。人間を構成する音素は複雑に絡み合い、その設計図はあまりにも緻密です。人によってそれぞれ配置されている元素と音素の配列は違う。だが、材料として全ての音素が含まれているということは間違いないのです。レプリカをつくる場合、その音素の配置が同じものをつくることはできなかった。それゆえに、第一から第六の音素の要素を含み、独立している第七音素で補っているのです。・・・第一から第六の音素を保有しているのなら・・・それはレプリカではなく、人間だ。」
「んー、じゃあアムラジェは人間?」
「いえ、それだと元素を結合させているすべてが第七音素というのはありえない。」
 はぁ、とアニスは溜息をつき、ガイは諸手をあげた。
 ジェイドに分からないことが、元より自分たちにわかるわけもないという諦めの空気のなか、ふいに、発言をしたのはアッシュだった。
「・・・もしも。」
「はい?」
「もしも・・・偶然にそういう"人間"が生まれてくることはないのか?ジェイドが、ありえないと思うのは、第七音素の同じ役割を担っているという点で、意図的なものを感じる、そういうことだろう?」
「ええ、そうですね。さきほども言った通り、人間を構成する音素の配列は複雑なのです。綺麗に、ある部分だけを選んだかのように第七音素が存在する。・・・人の意思の介入があると疑いたくもなる。」
「だが、現実にはそれは無理、だと。」
「ええ・・・。そこまで、現代の音素研究は進んでいないのですよ。」
「・・・・・。」
 アッシュが黙ったことで、ナタリアが心配そうに彼を見る。
「アッシュ?それがどうかなさいまして?」
「いや・・・。」
 アッシュは首を振った。
「なんでもないよ。ナタリア。」
 そう言って、笑みを浮かべる姿に、ナタリアは密かに驚いた。
 本人は、無意識でやっているようだから、本当に性格も丸くなったようだ。
 以前は、確かに自分に対しては優しく接してくれていたとは思うが、こんな風に柔らかく笑みを浮かべてくれることなどなかった。

「まぁ・・・アムラジェがレプリカかどうかは別として。これからの方向性は探らないとな。・・・俺たちはどこへ行く?」
 しかし、ガイのその口調は、当然第3施設に向かうよな、と言っていた。
 もとより、ジェイドもそのつもりだったが・・・問題は今度の理由づけだった。
 前回は、ユリアシティの建造物をフォミクリーするための調査という名目があったが、今度はそうはいかない。
「はーい、はーい!お尋ね者のレプリカが、この施設に逃げ込んだ可能性がある、っていうのは?」
 暗にアムラジェのことを匂わせて、相手の反応を見るという手を提案したアニスに、ジェイドは良い線ですね、と笑みを返したが・・・潔癖なところがあるアッシュは眉を顰めた。
 それに気がついたガイが苦笑しつつ、それだけの理由で施設に再び入れてくれるかねぇ、と現実的な発言をした。
「まぁ、その時はその時だよ。」
 懲りずにアニスは言う。
「その時は今度こそ、緊急事態ってやつで・・・。」
「何度も言いますが、私の譜歌はそんなことの為にあるのじゃありません。」
 ティアが嫌そうに、きっぱりと言いきった。
「第3施設に行くのでしたら、正面から正々堂々と行きましょう。後ろめたいことがあるのは、むしろあちらなのですし。」
「正々堂々には賛成ですわ。」
 ナタリアが言った。
「けれど、それでこちらの欲しい答えがみつかるかが、問題なのですわ。」
 にっこりと笑って言う姿に、ガイはあははと苦笑したが、アッシュは眉を顰める。
 そして、相変わらず過激なことを言う姫さまだぜ、とひとりごとをつぶやいた。

 

 

 

 

 当たって砕けろという言葉があるが、一同はそれを実行することにした。
 こんなことをしてても埒が明かねぇ!と話の途中でアッシュがキレて、なし崩しにそうなってしまったが、別にこれといった案があった訳でもないので、全員が反対もしなかったのも事実だ。(ナタリアなど明らかに面白がっていた)

 アルビオールの助手席にはアッシュが座り、空を眺めている。
 乗り込んですぐに誰にも断らずにそこに陣取り、その後は口もきかなかった。
 別段怒っているという訳でもないのだから、普段からそんな感じなのかもしれないと誰も気にしなかったが、隣にいるノエルは気になるようだった。
「アッシュさん、私の操縦では安心できませんか?」
「え?」
 アッシュは頬杖をついて窓に向けていた顔をあげて、ノエルを振り返った。
 ノエルはアッシュと目があうとにっこりと笑った。
「兄から色々とアッシュさんのこと聞いているんですけど・・・。アッシュさんは助手席に座るとよく寝てしまうって。」
「・・・・・。」
「私の操縦じゃ心もとないかもしれませんが、兄と同じ訓練を受けてきているので大丈夫ですよ。」
 ノエルが言うと、アッシュは気まずそうに目を逸らした。
 そしてしばらくすると、別に心配をしている訳じゃない、と小声で言った。
「・・・今は眠くないだけだ。」
「・・・・・。」
 その会話はすぐ後ろに座っていたジェイドにも聞こえていたが、なにげなく見ると背もたれに手を置いて立っているアニスも、それを聞いていた。なんでもないことではあったが、ジェイドと目があうと、てへっと笑い、ティアたちのほうに戻ってしまう。

 やがて第3施設が見えてくると、アッシュがあれか、とつぶやいた。
 それを聞いて後部座席にいたジェイドが身を乗り出して確認し、そうです、と返した。
「貴方が通信で見たのは、あれと同じ建物ですか?」
「・・・ああ。」
 睨むようにしてアッシュは第3施設を見下ろしている。
 そして、何事かを言おうとジェイドを振り返った。
 しかし。
「どうしました?」
 振り向いた後、なにも言ってこないことを怪訝に思い、ジェイドが顔をあげると、なにかに気がついて驚いているような焦っているような表情を浮かべたアッシュの姿が目に入った。
「・・・伏せろ。」
「は?」
「良いから!皆、伏せろ!ノエル!方向を変えろ!ここから離れるんだ!」
 アッシュの最後の言葉がノエルに届く前に、凄まじい爆音と爆風がアルビオールを襲った。


「きゃあーーーーー!」
「うわ!」
「・・・これは!」

 銘々が叫ぶなか、アルビオールが平行を保てなくなる。
 急激に旋回したことで、壁に叩きつけられ、ティアの長い髪が宙に孤を描いた。そのままぐったりと倒れこむ。
「ティア!」
 目の前でそれを見たガイだったが、自分も座席にしがみついたまま、助けたくとも身動きが取れない。
 座席に座っていたジェイドも同様で、アニスとナタリアは座席に強く体を押し付け、反動に耐えようとしていた。その4人の上に、アルビオールの室内からこぼれ落ちた様々な備品が降ってくる。
 ガン!という音とともにガイの左肩を直撃したのは救急箱で、反動でフタが空き、中に収められていた包帯やら薬やらが散乱する。

 やがてぐるぐるとコマの様に宙を舞ったアルビオールは、そのまま急速に落下を始めた。
 一瞬、気を失っていたノエルが気がついて、慌てて操縦桿を引いたが急激な角度で落ちていくアルビオールはいうことを利かなかった。
 このままでは、地面に激突する!
 

 その時、シールドが貼られるように、アルビオールを柔らかい光が包んだ。
 ふわりと浮く感覚とともに平衡感覚を取り戻し、ノエルはなにが起きたのかと、救いの手の主を探した。
 それは、聞いたことのある旋律で、しかし聞いたこともない歌声だった。

「・・・これは・・・。」
 カチリ、と音をたてジェイドが衝撃でも無事だった眼鏡をかけなおす。
 いてて、と頭を抱えながらガイが身を起こし、未だにやまない歌声に、彼もやっと気がついた。
「・・・これは、譜歌?」
 戦闘になった時、彼らの身が危うくなった時、何度となく聞いてきた旋律だ。
 歌えなくとも、フレーズは忘れようもない。

「アッシュ?」
 譜歌を歌っているのは、まぎれもなくアッシュで、その時ガイは、そうかと頷いた。
 今の彼にはルークの記憶がある。譜歌の旋律を覚えていても不思議ではない。

「ティア?ティア、しっかりしてくださいまし!」
 ナタリアの声に、アッシュの歌声がふっと消える。
 それを合図にしたように、全員がふらつく体をたて直しながら、床に倒れているティアを取り囲んだ。
 明らかに気を失っているティアはナタリアの声にも目を覚まさない。
 ティアだけでなく、ガイは左肩を、アニスは右腕をそれぞれさすっている。深手ではなさそうだったが、応急処置は必要だろう。
「着陸します!」
 機転を利かせたノエルの声が響き、アルビオールは近くの平地を目指した。

 

 

 


 
 第3施設は、なにかに爆撃でもされたかのように吹き飛んでいた。

 安全な場所にアルビオールを着陸させ、気を失っているティアを介抱しながら一同は、呆然とまだ燃えている施設を見つめる。

「・・・実験の失敗・・・だよね?当然。」
「なにかの証拠隠滅って可能性もあるけどな。」
「そんな!だってあそこには、ドロシーだっていたんだよ!?」
 幼い子供を巻き込んでまで、隠すほどの実験なの?とアニスは騒いだが、事実はどうあれ研究所が爆破されたのは紛れもない。
 どうか死者がでてないようにと祈りながら、ガイは炎を見つめた。
 しかし、ジェイドの見解はどちらでもなかった。
 しばし無言で、遠巻きに燃える施設を眺めていた一同だったが、おもむろにジェイドが口を開く。
「・・・アッシュ。さきほど、貴方はアルビオールの中で、この爆発を予感したようでしたね?」
 それは、ある確信を持って、アッシュに同意を求める声だった。
 え?と全員がアッシュを振り返る。
「・・・ああ。」
「それは、どうしてかとお聞きしても?」
 カチリ、と眼鏡をあげるジェイドの冷静な顔を一瞥し、
「あんたも気がついたんだろう?」
 と、アッシュは答えた。
「ここに、蠢くように第七音素の残滓が漂っている。これは、まぎれもなく超振動が起こった証拠だ。」
「・・・ええ。」

「え?超振動!?」
 思いもかけない言葉が出た、というようにアニスが目を丸くした。
 ああ、とこくんとアッシュは頷き、
「・・・第3施設に近づいた時・・・超振動独特の渦巻く第七音素の気配を感じた。」
 と話す。
 その説明に対して、ジェイドは
「"感じられた"のは、貴方だったからでしょうけどね。」
 と上からかぶせるように言う。
「どういうことだ?」
「普通、第七音素は消費される時にしか視界に捕らえることができない。第七音素が集まる気配など・・・よほどの素養を持つ第七音譜術士にしか感じることはできません。・・・ましてや、超振動が起こる予兆となると、ローレライの完全同位体である貴方にしかわからないでしょうね。」
「ふぅん?」
 アッシュは、そういうもんなのか、と相槌を打ったがあまり興味もなさそうだった。
 どうにも、事実としてあるものに対しては、論じようという気が起きないらしい。

「しかし・・・超振動か・・・。」
 まいったな、というようにガイが顔を顰める。
 ジェイドではないが、その危険性は彼もよく知っているし・・・前日の会話を思い出したからだ。
「もしかして、第3施設を吹き飛ばしたのは。」
「・・・ここにいるアッシュでなければ、可能性としては・・・ハレルヤ、でしょうね。」
 もしもハレルヤが本当に、ローレライの化身だったとしたならば、超振動が使えるかもしれない。
 その危険性に身震いをしたばかりだったではないか。
「じゃあじゃあ、もしかしたら、アムラジェが爆破するようにハレルヤ様を操ったってこと?」
「それも、ありえます。」

「・・・・・。」
 アニスが、そんな!と声を高くして叫び、ガイも無言でどこにいるかわからない張本人に批難の目を向けるようにして、第3施設を睨んだ。
 どんな目的や恨みがあったにしろ・・・第3施設には大勢の人間がいた。
 その中には、ドロシーのような幼いこどもも含まれていたというのに、それを一瞬にして破壊するなど、到底許されるものではない。

「ところで、まだ質問があるのですが。アッシュ。」
 ジェイドが、ガイと同じように第3施設を睨んでいたアッシュに近寄る。
「・・・なんだ?」
「貴方は先ほど、譜歌を歌いましたね?」
「・・それが、どうした?」
「貴方は譜歌が、シールドになるほどの防護壁を作れることを知っていた。・・つまりは譜歌の効力に対しての知識がある。そうですね?」
「ああ。」
 ふたりのやりとりに、聞こえていた者は首を傾げる。
 アッシュは確かに、前回の旅では一緒にいなかったが、今の彼のなかにはルークの記憶がある。ルークの記憶を通して、ユリアの譜歌に対する知識があるのは当然のことのように思える。
「けれど、あれは・・・ユリアの譜歌は、他の第七音譜術士が操るものとは大きく違う点があります。」
「それで?」
「つまり、私が聞きたいのは。」
 アッシュが、はっとある種の身の危険を感じた時には、遅かった。
 ジェイドの腕は、アッシュが動くよりも早く、彼の左手を掴んでいた。
 まるで逃げるのを許さないというように、その手に力が篭る。

「改めてお聞きします。貴方は、誰ですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

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(’10 9.06)