16.

 

 

 ひとしきり泣くと、ルークはふいに顔をあげて、
「あ。俺、飯だって呼びにきたんだった。」
 と、涙がたまった目をまんまるくして言うものだから、ティアは笑ってしまった。

 ふたりしてアルビオールを降りていくと、すでに夕餉の用意は整っていて、もう、おっそーい!などと言いながらも、アニスがにこにこしながら手を振る。 
 一同も口々に遅かった、なにをしていたと言うものの、決して非難をしているような声ではない。
 ルークはにっこり笑い、悪い悪いと言いながら、その輪に加わっていく。
 昔、よくあった彼らの風景。
 そのことに、目頭が熱くなる気がして、ティアはそっと髪の毛を直すフリをして下を向いた。

 

 今日の夕食はアニスがつくったチキンサンドだった。
 特製のしょうゆベースの甘辛いタレが絶妙で、誰もが美味しいと感想を口にする一品なのだが、それがアニスの数あるレパートリーの中から、最もルークの好物なことや、とりわけ大きくって、ぷりぷりとしているチキンが挟まっているサンドイッチを、アニスがさりげなくルークに渡すのを、全員が気が付いていたがしらんぷりしていた。
 チキンサンドにかぶりつきながら、ルークは、相変わらずアニスのサンドイッチはうめーなぁ、と嬉しそうに感想を漏らす。
 では、私はお茶でも入れましょう、と珍しくジェイドが自ら言ってお湯を用意し出し、瓦礫と化した第三施設の傍だというのに、剣呑な色など少しも感じられないその空間をじっくりと全員が味わっていた。


 しばらくふざけあっているような日常会話が続いた後、しかしなぁ、と複雑そうな声をガイがあげた。
「・・・ハレルヤが、アッシュねぇ。旦那の言葉を疑う訳じゃないんだが、なんだか都合が良すぎる気がするな。」
「都合が良い、とはどういうことなのです?ガイ。」
 拗ねたように声を尖らせ、ナタリアが言った。
「ハレルヤがアッシュでは、いけませんの?」
「いけないってことはないさ。むしろ、望むところだ。・・・だからこそ、都合が良いってことだ。」
 諦めていたルークが帰ってきて。
 死んだ筈のアッシュが生きている。
 こんなに彼らにとって、最高の結末はない。
 しかし、現実は物語のハッピーエンドのように、そう上手くはいかない。
 ガイが言っているのは、そういうことだ。

「確かに、それは思うんだけどね。」
 私たちにとって都合が良いことだらけってことはね、とアニスが言った。
「けど、ハレルヤ様がアッシュっていう大佐の意見には、私も賛成なんだ。いっつも顔を隠していたからハレルヤ様の姿を直接見た訳じゃないけど・・・布越しでもわかるほど静謐で・・悪い言い方をすれば冷たい雰囲気を纏っていた。そこが、アッシュ、そっくり。」
 だから、ふたりが同一人物って言われた時、違和感を感じなかったんだよね、とアニスもティアと同じようなことを言った。
「だけど・・・アッシュは預言士では、なかった筈よね?」
 そのティアが、アニスに語りかける。
「ハレルヤ様は、預言士だった・・・だから、ハレルヤ様のうえに"アッシュ"を思い浮かべることはできなかったのだけど。」
「まあ、第七音譜術士なら・・・訓練すれば預言を詠めるらしいけど。」
「けれど、それなりに素養も必要な筈だわ。」
 たとえば、ティアのような譜歌を操る音律士は珍しく、とくに素養が必要とされている。
 うーん、とアニスは首を傾げた。
「ハレルヤ様の預言に第七音素の痕跡がないことと、なにか関係があるのかなぁ?」
 そう言ってジェイドを見るが、聞いているのかいないのか(間違いなく聞いている)アニスの問いかけには答えなかった。

 その反応に、アニスが唇を尖らせた後、なにかに気が付いたように、あ、そうか、と指を立てた。
「治癒術もそうじゃん!って言おうと思ったんだけど・・・ほら、ルークは第七音譜術士でも、治癒術使えなかったからね。譜歌を発動できるってことは・・・これからは治癒術も使えるってことなんじゃない?」
「俺が?」
 きょとん、としながらルークが自分の手を見る。
「そうね・・・。譜歌と治癒術はまた違う発動方法なのだけど、きっと使えるようになると思うわ。」
 ティアが言った。
「貴方がそうしたいなら・・・また訓練を手伝うけど、どう?」
「うん、頼むよ。ティア。」
 かつて第七音素の制御の仕方を習った、ティアはルークの師匠だ。
 その気安さもあって、ルークはにこりと笑って、答える。
 それに対して、ジェイドが、
「パーティに3人も治癒師がいたら、楽ですねぇ。」
 と言い、一見褒めているようにみえて、実は疑っての発言であることに気が付いたルークは、おおいに拗ねた。

 炎を囲んで食事が終わり、ジェイドの淹れたお茶を飲みほし、そのおかわりをガイが淹れなおした頃、ナタリアが言った。
「それにしても、どうしてルークがアッシュの記憶を持っていますの?」
「・・・・・。」
 ジェイドが口を開くまでには、間があった。
 ジェイドはガイの入れた紅茶を口に入れ、こくんと飲みくだすと、ため息が混じったような声で、それは、と言った。
「・・・考えられる可能性は、色々とあるのですが。」
 ちらり、とルークを見る。
「なにしろ・・・大爆発そのものが、理論上の現象だったのも事実です。それが証明されたからと言って、それで終わりという訳でもない。」
 もってまわった言い方、というよりもジェイド自身、判断がつきかねている、という印象を受ける。
「もしかしたら・・・。」
「?」
「ジェイド?」
「いえ・・・。」
 言葉を濁し、ジェイドは頭を軽く振る。
「今、他の可能性が頭を掠めたのですがね。上手く考えが纏まりません。少し時間をいただけますか?」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
 ジェイドが言いよどむなどめったにあることではなく、また複雑な心情を口にするなどは、皆無に等しい。
 その事をよく知っている一同は、驚きを飲み込み、承諾するしかなかった。
 それでも良いぜ、と答えたガイの言葉すら、ジェイドの耳に届いたかどうか。
 ルークはそんな姿を見て、嫌な気分に見舞われたのだが・・・。
「大丈夫です。私なりの答えが見つかったら、必ずお話すると約束しますよ。」
 とルークを見て、ジェイドが言った。
「私なり、か。珍しいな。確信が持てないと言わないってのが、旦那のスタンスじゃなかったっけか?」
 ガイがからかうように言うと、
「2年前、それで痛い目をみましたからね。当事者に内緒で物事を進める傲慢さは、理解したつもりです。」
 と、ルークを見つめたままで、ジェイドは言った。

 

 

 

 


 結局、その日はその場でキャンプということになった。
 
 仲間たちの野営の輪から離れ、ルークはひとり、暗闇に浮かぶ海を見ていた。
 そこは高台になっているから、月の光に反射する海面を遥か下に眺めることができる。
 ここはタタル渓谷に似ている、と思う。
 静かで、密やかな気配が満ち、近くに水場もある。

 ルークの世界の扉を開いた場所。
 ある意味でも運命の場所。

 だけど。

 いったい『ルーク』とは誰だろう?
 いったい自分は『誰』なのだろう。

 初めにジェイドに言った。
 自分はもう『ルーク』でも『アッシュ』でもない、と。

 ふたりの記憶をあわせもつ彼は、そのどちらとも自分では決められず、どちらでもないとも言い難い。

 『自分』とは、なんなのだろう?

 ジェイドは『自分』は『ルーク』だと言った。
 なにかが決定されることに恐怖を感じたあの時、しかし、同時にすとんと腑に落ちるものがあって、その指摘は間違っていないのだろうと思う。
 しかし、ならば・・・この記憶は、どう考えれば良い?

 昔、『ルーク』には、『アッシュ』を嫌っていた時期があった。
 嫌っていたというよりも・・・恐れていた。
 自分の存在を根底から覆し、なおかつ、ルークがルークとして生きる為に、立ちふさがる重い影。
 それがアッシュであり、ルークにとって紛れもない絶対者だった。
 それは今でもある。
 ルークは、アッシュの存在を恐れている。
 と、同時に、なににも代えがたく抗いがたい、むきだしのなにかが絶えず彼には向いていて、その正体が、レプリカの被験者への思慕の憐だということも、ルークは知っている。

 だが、今それを向ける相手は・・・いない。
 いるにはいる。
 ジェイドの言うことが正しければ、それはハレルヤということになる。

 けれど、それがルークには遠い。
 ルークにとって、ハレルヤという人物は、見たことも聞いたこともない人物であり、アッシュとは重ならない。

 ルークがアッシュの記憶を持っている以上。
 この世界のどこにも、アッシュはいないのだ。


「・・・・・アッシュ・・・。」

 知らずにひとりごとをこぼすと、後ろから、カサリと草を踏む音がした。


「・・ティア・・。」
「眠れないの?」
 振り向くと、そこにいたのはティアで、暗闇のなかであまりはっきりと表情を読むことはできなかったが、心配をしてくれていることが気配で感じられた。
「ティアこそ・・・。」
 ルークは言った。
「頭打って気を失ってたんだ。休んだほうが良いぜ?」
「私は大丈夫。」
 ティアは言って、ルークの隣に立つ。
「・・・また、考え事をしていたのね?」
「うん・・・。」
 ルークは言って、海に視線を向けた。
「・・考えたって、どうにもならないってわかってるんだけど・・・焦ってるんだ、俺。」
「そう・・・。」
「そのクセ、考えは纏まらないし。なにやってんだか。」
「そんなことないわ。・・人として、考えることをやめてしまうほうが、よっぽど怖いことだと思う。」

 思うに、レプリカへの偏見もその一環だと思う。
 未知なるものに対しての恐れは、同時に思慮を求められる。
 考えることを面倒だと放棄した者にとっては、差別してしまったほうが楽なのだろう。
 レプリカは、ほとんど人間と変わらない。
 もしかしたら、隣にいる人間が、と考えだしたらキリがない。
 だから、考えることを放棄して、見ないふりをして・・・そういう無責任をするくせに、赤の他人に答えを出して貰おうとする。
 各国の要人の辛抱強い国民への説得のおかげで、レプリカに対する偏見は徐々になくなりつつはあるが・・・やはり根底における未知なるものへの恐怖は、それを知ろうとしない限りはなくならないのだ。

 
 そんなことを考え、ふぅ、とため息をついて、ティアは、そうだ、とルークの顔を見た。
「私、貴方にお願いしたいことがあるの。」
「頼みたいこと?」
 なんだ、改まって?とルークがティアのほうを向いた。
「貴方がユリアの譜歌を歌ったって聞いているけど・・・大佐の話だけで、私は自分の耳で聞いてないから。」
「あ、そうか。」
 ティアが気を失っていた時の話だ。
「ユリアの譜歌は・・・ローレライに捧げられたものと言われているわ。ユリアの譜歌は基本的に意味を解釈できないと発動しない・・・私の譜歌は発動するけれど、もしかしたら、貴方の歌う譜歌は、よりローレライに近いものなのではないかと思ったの。」
 捧げものということは、贈り手と受け取り手のふたりがいて成立する。
 ティアの譜歌が贈り手側のものであるのは間違いないのだから、受け取り手側のローレライに近い解釈があっても良い。
 ティアは、ふとそんな事を思ったのだ。
「ルーク。貴方の譜歌を、聞かせてもらえない・・?」
「う・・うん。いいけど・・・。」
「?嫌かしら?」
 嫌ではない。
 と、ルークは首を振った。
 けっして嫌ではないが・・・なにしろ、ティアの歌声は綺麗だ。かつて戦闘中に何度も助けられた聞き惚れるような透明感のある声だ。
 そのティアに歌って聞かせるには、かなり照れる。
 ルークがそう言うと、ティアはそんなこと、と微笑んだ。
 まるで、だだを捏ねる子供を笑っているような視線に、ルークは大いに不満気だったが・・・実際は、ティアはそんなことを思っていた訳ではない。
 以前は一緒に旅をしていたのだ。
 その間に、ルークが鼻歌を歌うことだってあった。そして、それを聞く度にティアは、歌が上手い、と感想を持ったものだった。
 ルークの歌声は、少しだけ話している時よりも高くなり・・・凛凛としていて、そのくせ・・どこか甘くもあるのだ。
 そんなティアの心情には気が付かず、ルークはしばらくごにょごにょと独り言のような言い訳をした後・・・すう、と息を吸い込んで歌いだした。
 ティアが歌っているのと同じ歌詞の譜歌だ。
 ルークは、ティアの歌っているものを覚えたのだから当たり前だが、それでもルークが歌うとティアの歌うものとは、違って聞こえた。

 ティアは目を閉じた。
 ルークの歌声を体中に沁みわたらせようとするかのように、耳にだけ集中する。

 ティアの歌う譜歌が川のせせらぎのような清らかな癒しだとしたら、ルークの譜歌は瞬く星のように煌びやかだが儚い。
 あっという間にすり抜けてしまうのを追って、手を伸ばしたくなる。


 ルークの譜歌は第2章まで進んでいた。
 どこまで覚えているのかわからないが、もしかしたら大譜歌もわかっているかもしれない。
 そんなことをティアが考えていた時だった。
「あ。」
 突然、ルークの歌声が止んだ。
 ティアが目を開け、どうしたの?とルークの顔を見ると、驚いたように目を丸くし、ティアの頭を通り越した向こう側を見ていた。
 ティアが振り向くと、そこにいたのは・・・小さな少女。

 見たことがある顔。
 最近、不似合いな白い無機質な部屋で、対面した時と変わらない姿。
 一見、怪我をしているように見えないが、あの事故で無事だったのだろうか?

「ドロシー・・・。」
 ティアが、名前を呼ぶと、少女の体がびくり、と震えた。

 

 

 

 


 ルークたちは、ティアが眠っていた間も、ただ第3施設の瓦礫を眺めていた訳ではない。
 生存者や負傷者の確認を近くの村人と行って対応をし、怪我人はアルビオールで病院のある町まで搬送もした。
 そのなかは、知った顔はなかった。見知らぬ科学者たちに尋ねたが、リグロやドロシーの安否を知る者はいなかった。
 だが、今目の前にいるのは、まぎれもなく第3施設で会ったドロシーで、彼らは安心するとともに状況を把握するのに、少しの間、時間をかけなければならなかった。
 なにしろ、説明を求めようにも、ドロシーは話せない。
 結局、その後わかったことは、彼女は村のはずれにある農家で保護されていたとのことだった。


 一同は詳しい経緯を聞こうと、農家を訪れ、出てきたおかみさんの顔を見て、目を丸くした。
 彼女は、第3施設を訪ねた時、一同にお茶を出してくれた女性だった。
 彼女もやはり第3施設が爆発されたと聞き、知人たち(研究員)の安否を気遣い、駆け付けたのだという。

「そしたら、煙のなかから、ひょっこりとドロシーちゃんが現れたもんだから。怪我の状態も心配だったし、医者に診せようと思ってね。」
 そして、彼女は家にドロシーを連れて帰ってきたのだ、という。
 そのドロシーは、おかみさんの膝の上に座り、大人しく大人たちの輪に混ざっている。
 話題が自分のことだと知っているのかいないのか、表情も変えずに、出されたココアをこくこくと飲んでいた。

 おかみさんの家に通されて、一同は再び、彼女の淹れたお茶を飲んでいた。
 そこは居間というよりも、広い土間と続いている部屋で、一同は足を折って床に座り、丸いテーブルを取り囲んでいた。
 ここには、おかみさんと旦那さんと息子2人と、義母の4人で暮らしているとのことで、義母にあたるその人は、おかみさんが農家の作業だけではつまらなからろう、と近くの第3施設に働くことを勧めてくれたのだそうだ。
 話を聞く限り、少し離れたところに座っている白髪のおばあさんがその人らしいが、あまり好印象を受けない。会話に交らないまでも客人が珍しいのか、じろじろと不躾にこちらを見ていた。


「それで、リグロ氏は?」
 ジェイドが訊ねると、今は客間で眠っている、とのことだった。
「どこで聞いてきたのか、あたしの家にドロシーちゃんがいることを知って、尋ねてきたんですよ。だけど、まぁ。その姿を見たらびっくり!リグロさんったら血だらけで。ドロシーちゃんの心配をしている場合じゃないよって、言ったんですよ。」
 そして、ドロシーと一緒に医者に診せたのだという。
 幸いなことに怪我は大したことはなく、何針かは縫ったが後遺症などもないだろう、というのが医者の診察結果だった。だが、問題は怪我ではなく・・・リグロは爆発で受けた心理的な衝撃から、診察中に倒れてしまったのだそうだ。
「それで、うちで。」
「ああ・・・。」
 どこまでも面倒見の良いおかみさんである。
「では・・・意識が戻ったら、リグロ氏から詳しい事故の原因についてなどは聞けそうですね。」
「ええ。それは大丈夫だと思いますよ。お医者様も単に心労で倒れたんだろうとおっしゃってましたからね。ただ・・・。」
「?ただ・・・。」
「いえ、ね・・・。リグロさんは良いだけど・・・。」
 おかみさんが言葉を濁し、膝の上のドロシーを見る。
 その視線を合図にしたかのように、いきなりおばあさんが立ち上がった。いきなりの動きにドロシーを含む一同がそれを見上げると、おばあさんはおかみさんの膝の上を一瞥すると・・・そそくさと隣の部屋に移動してしまう。
 まるで、気味が悪いというように。

「なに、あれ?」
 感じ悪い、とこそっとアニスがティアに耳打ちしたのだが・・・おかみさんには聞こえてしまったらしい。
 すみませんねぇ、と溜息交じりに誤られる。
「い、いえ・・・そんな。」
「お義母さんも、別に貴方がたが悪いとかじゃなくって・・・その、ドロシーちゃんの傍にいるのが、ちょっと怖いというか、嫌なんだと思うんですよ。」
「え?」
 一同は、意味が分からず、おかみさんの顔を見返した。
 おかみさんは、ゆっくりとドロシーの髪を撫でる。
 そして、この子が悪いんじゃないと思うんだけどねぇ・・とつぶやいた。

「あ、あの?ドロシーがなにか?」
 事情が呑み込めないティアが、ためらいがちに聞き返すと、おかみさんは複雑そうな顔をした。
 どう表現したら本人を傷つけないか、言葉を選ぼうとしているようだった。
「ちょっと、この子・・・変なんですよ。普通の子、じゃあない。」
 その言葉に、一同はドロシーを見る。
 大人しくココアを飲んでいる姿は、普通のこどもで、おかみさんの言うことがなにを指しているのかは計り知れなかった。
 しばしの間が空き・・・ジェイドがどこがどう変なのかを問いただそうとした時、同じタイミングで、おかみさんも口を開いた。

「この子・・・なんていうか。時々、透けるんですよ。」

「え!!?」
「・・・・・!」
 ルークが、周囲にわかるほど、はっきりと息を飲んだ。
 一同も言葉を失い、顔を見合わせる。
 おかみさんは驚く一同の反応を勘違いしたのか、比喩じゃなくってね、と付け加える。
「よく影が薄いっていうじゃないですか。ああいうんじゃなくって、本当にふわっと・・・向こう側が見えるほどに透けてしまうんですよ。お義母さんなんか、気味悪がって・・・不吉だって、そう言うんです。でも、あたしもこんなの、初めて見たんでお医者様にもどう説明したものか・・・。」
 おかみさんは心底悩んでいるようだった。
「・・・・・。」
「・・・・・。」
 全員が、無言でドロシーを見る。
 今は、しっかりとおかみさんの膝の上にいて、透けても光ってもいないが・・・その症状に当てはまるものを、一同はひとつしか知らなかった。
「そうですか・・・。」
 ジェイドが、カチリと眼鏡をあげた。
「その症状ならば・・・我々には専門の医者に心当たりがあります。」
「え?本当ですか?」
 ええ、と答えてジェイドはドロシーを見た。
「少し遠いのですがね。検査をする為に・・・この子をお預かりしても?」
 お願いします、とおかみさんが安堵の表情を浮かべるのに対して、ジェイドの表情はまるで冷たく、無機質な機械でも見つめるかのような視線をドロシーに向けていた。

 

 

 

 

 

 

 



 

 

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(’10 11.02)