How many miles to Babylon?

 Three score miles and ten.

 Can I get there by candle-light?

 Yes, and back again.

 If your heels are nimble and light,

 You may get there by candle-light.

 

 

20.

 

 

 


「OZという法名は、『オズの魔法使い』という子供向けの話から取られたものです。」
 
 アルビオールで、レムの塔に向かう間に、ジェイドが話す内容に、全員が黙ったまま聞き入っていた。
 空は乱れた気流もなく、アルビオールは安定した飛行を続けている。

「レプリカの『教育』『労働』『人権と自由』。その権利を保護する為の法律ですが、由縁は、かのジュブナイルに出てくる主人公の3人の同行人が、それぞれ『知恵』、『勇気』、『心』を求めていたことから、それをなぞったとも言われています。・・どこまでが、OZ法成立の立役者であるマーベランス伯爵の意図したものだったかはわかりませんが。」
 すでに承知のことだったらしく、全員からは質問の類はなかったが・・・ルークのみは、初耳だった。
 わが身に関係することでもある彼は、目をぱちぱちと瞬かせ、そうなのか?と横のガイにつぶやく。
 ガイは頷き、
「ああ・・・。それによって、レプリカを害する者に対して、司法で処罰を下せるようになった。かつて、オールドラントの瘴気を消したのもレプリカたちの功績だということも、広く知れ渡っているから・・・当時は、当然だという動きもあって、成立を後押しした。」
 けれど、レプリカに対する偏見や拘りや個人の恨みは、今でもなくなりはしない。
「・・・・・。」
 ルークは、それに対して黙って頷く。
 レプリカを、すべての被験者に理解してもらえないのは悲しいことだが・・・ルークとて、アクゼリュスで亡くなった人たちの遺族に許して貰えるとは思っていない。
 レプリカとて同じことだ。
 生まれた事になんの罪も彼らにはなかったが・・・レプリカ情報を抜かれた後遺症で家族を失った者がレプリカを恨むのを、やめさせることはできない。法律の保護はレプリカの人権を守りはするが、彼らに向けられた恨みまで肩代わりはできない。
 たとえ罪を償っても、人と人とが関わりをもつ以上、そういう暗い面を削除することはできないのだ。
 あったとしたら・・・それは、楽園のみで成立する。

「・・・それは、どのレプリカにとっても永遠のテーマなのでしょうね。」
 複雑な顔をして、ジェイドが言った。
 どんなに立派な理想を掲げても、それが難しいことだとわかっている、ずる賢い大人の顔だ。
 理想を単なる理想と諦める術を知ることが大人だという一方で、理想の世界を成立させるのも諦めの悪い大人がすることだ。
 どちらがどちらというのではなく・・・世の中はどうしても、黒と白のように、善と悪のはっきりとした線引きができない。もしくは線引きをしたとしても・・・個人の利益が関わると、従わない。
 だから人はたまに言う。
 成立したものが・・・あるいは戦争に勝ったほうが、正義だ、と。
「・・・レプリカというのは、新しい人種だとトリトハイム氏が言っていましたが・・・旧型の人種が新しい人種に向ける保護の手は、あるいはおせっかいなのかもしれない、と思うことがあります。」
 ジェイドが言った。
「おせっかい?」
 ルークはきょとん、となる。
「・・・ってことはないんじゃないか?OZ法にしたって、レプリカにとっては重要なことだと俺は思う。」
「そうですか?」
「そうだよって・・・なんだよ、ジェイド。」
 ルークは唇を尖らせた。
「OZ法が無駄だとかって話じゃないだろうな?」
「いえ?、まさか。」
 ジェイドは答えた。
「OZ法がレプリカの救済になっているのは確かでしょう。・・・確かでなければならない。しかし・・・たとえば、彼らの教育の場を国が管理するというのは、どうなんでしょうね?」
「どうって?」
「たとえば・・・今現在、レプリカは国が運営する教育機関で、生活する術や歴史などの世界の仕組みを教えられています。しかし、知識とはなにも国に管理されなければ得られないものではない。」
「けれど・・・国の教育機関なら、より多くのレプリカに、生きていく術を効率よく教えられますわ。」
 ナタリアが胸の前で手を組んで言った。
「それが、彼らにとって無用の経験だとは思えません。」
「無論、無用とは思ってませんよ?」
 ジェイドは答えた。
「ただ、それはたとえば民間の・・・子供が通うような学校でもできる話ですし、わざわざそのような場所に通わなくても、個人から教わることもできるのです。どこででも、誰からでも知識は得ることができる。私は国に管理されている、という状況こそをレプリカたちを不自由にしているのではないかと思うことがあるのです。」
「不自由・・・。」
「ええ。たとえば、今現在、レプリカたちは選択ができません。強制的に国の教育機関に入っている。無論、喜んで入ってくれている者が多数ですが、本来ならば・・・彼らの意志で、拒否する権利もある筈です。国はそれを認めてこその国でしょう。」
 与えたおもちゃが気に入らないからと言って、子供を叱る親はいません、とジェイドは言った。
 この話もそれと同じではないか、と。
「それで、私は・・・いえ。そう思うようになったのは、それこそ理想郷の事が、レプリカの間で口に出されるようになったからでしょうね。」
 と、ジェイドは自嘲気味にも見える薄い笑いを浮かべる。


「バビロンとは、この地上にかつてあったと伝えられるバビロニアという国の都市の名です。」
 それは創世記時代よりも遥かに昔の話だ、という。
 へぇ、と目を丸くしたルークは、この話は自分しか知らないものだと思っていたのだが、意外にも、そうなんだ?というアニスの声と、そういえば昔、習ったような・・というガイの思案顔を見て、更に目を丸くした。
 ユリアの伝記と違い、誰もが知っている話、という訳でもなさそうだった。
 知らなくても生活に支障はないですからねぇ、とジェイドはどうでも良さそうに言うと、続ける。
「バビロニアはかつて未曾有の繁栄を誇り、首都バビロンでは手に入れられないものはなにもない、と謳われていたと言います、それゆえに、退廃的とも楽園とも呼ばれていますね。そして・・・天に届くほどの塔を築こうとして神の怒りに触れ、建設中だったその塔は雷によって崩れ落ちた・・・という伝説もあります。」
「天に届くほどの塔?」
「ええ。さながら、レムの塔ですね。」
 ジェイドは言い、そして藪から棒に続けた。
「私はレプリカではありません。」
 ふぅ、と息をつくようにしてジェイドは眼鏡をあげ、
「・・・ですから、彼らの気持ちを推し量ることはできない。現状を鑑みて、想像するだけです。レプリカはどうも、人に対して・・・被験者に対して献身的な者が多い。そんな彼らだからでしょうか。いつの頃からか、レプリカたちの間で、レプリカも被験者も一緒になって笑って暮らしていける理想郷を語る者が出始めた。」
「理想郷・・・。」
「ええ。誰も差別されることも、区別されることもない。そんな夢物語の中にしか存在しない場所です。」
「・・・・・。」
 なぜかその時、ルークの頭には、イオンの顔が浮かんだ。
 イオン。
 レプリカで、ほんの2年しか生きなかったが、その間に齎した数々の功績は大きい。
 あるいは・・・もしかしたら、イオンなら、その話を単なる夢物語とさせない力を持っていたかもしれない。

「今では、その理想郷の成立こそを理想と掲げるレプリカたちは数多い。そして、その輪はレプリカ支持派の被験者たちの間でも広まっていて、彼らのことを『バビロニスト』と言います。ところで、童話や寓話のように伝わる古い歌に『バビロンまでは何マイル?』というものがあるのをご存じですか?」
 彼らのなかで、いいや、と首を振った者と、聞いたことがある、と言う者とが調度、半分に分かれた。
「歌詞は・・・まるでバビロンには関係ないんですがねぇ。意味が不明で。しかし、それは人間の一生を例えたものという説があります。・・その歌はレプリカたちの教育機関で教えられるものなのですが・・・。何故か彼らはこの歌を好むんですよ。言葉遊びの意味合いもあるのが面白いのか、教えると必ず喜ばれる。古代都市バビロンと彼らの理想郷の姿を重ねて見ているのですかねぇ。」
「あ。それで・・・。」
「ええ。いくつかの符号を掛け合わせただけの"勘"に過ぎませんが。レムの塔と、ホドは今でもレプリカたちにとっては一種の聖地です。もしかしたら、と思った訳です。」
 間違っていたら、アルビオールを飛ばしてくれているノエルには申し訳ないんですがね、とジェイドは言ったが、その目には半ば、確信しているような光があって、それはいつものことだったから、ルークはなんだかほっとした。
 確かに、勘なのだろうが・・・ジェイドの勘は、説得力のある勘だ。

 

 ジェイドの説明が一通り終わり、納得した一同の間に沈黙が落ちた。
 それは、長い話を聞き終えた後の沈黙であり、重いものではない。
 ルークは、アルビオールの窓から空を見る。
 ぽん、と放り出されたら落ちてしまうのは目に見えているのに、それでも吸い込まれたくなるような澄んだ美しい青い空だ。
 かつては紫に染まったこともあるその空を見つめ、紫というのは、青と赤とが交わった色だと思いつく。
 赤の部分を消し去ってしまったら、こんな青になるのだとしたら、瘴気の本当の色は赤だったのかもしれない・・・などと考えて、すぐにその考えが間違っていることに気が付く。
 空の青さに関係して、瘴気は紫色をしていた訳ではない。
 瘴気は瘴気として紫色なのだ。

 レムの塔・・・。

 今、向かっている場所を思えば、ルークは平静でいられない。
 こんなくだらなく思考が彷徨っているのは、実はそれが原因だった。


 アルビオールは段々と下降をしている。
 目的地が近い証拠だ。
 やがて、行く先にうっすらと天に届こうというほどの高い塔のシルエットが見え出すと、ルークの背中に緊張が走った。

 もうすぐジェイドの説が正しかったかどうかが証明される。
 そして、ルークが抱いている不安への答えも。
 
 ルークは手に浮かぶ汗を服の裾で拭うと、ふぅ、と溜息をついて目を閉じた。
 そうして神経を研ぎ澄ませ・・・レムの塔の上を思った。
 そこにいるのは、果たして、ルークにとって天使か悪魔か。
 

 
 その時、雲の間から一条の光が差し込み、レムの塔の頂上が見えた。
 ルークの目に飛び込んできたのは・・・風にたなびく、燃えるような赤い髪。
 

 
「・・・アッシュ!!」


 思わず叫ぶようにして呼んだルークの声に応えるように、赤い髪の主は顔をあげ・・・この時、間違いなく、ルークと視線が交わった。
 後に、その距離で見えた訳がないと誰もが言ったが、それでもルークには、見えたのだ。

 
「ノエル!着陸してくれ!」
「は・・はい!」
「・・・ルーク。」
 操縦席のノエルの横で身を乗り出すようにしているルークを、咎めるようにジェイドが名前を呼んだが、ルークはそれを聞き分けようとはしなかった。
 レムの塔の周りを旋回するアルビオールを、早く下ろせと急かせる。
 他の仲間は皆、呆れているというよりも唖然としているといった様子で、豹変した態度のルークを見ていた。


 


 以前とは違い、押し寄せるレプリカたちもいない為、容易に使えるようになったエレベーターで、最上階へと向かう。
 高い塔を制覇する長い長いエレベーターの箱の中で、ルークはまんじりともせず、天井付近を睨みつけていた。
 その姿に、どこか鬼気迫るものを感じて誰も声をかけられなかったが・・・ジェイドだけは、大きく溜息をつき、ルーク、と少しだけ声を尖らせて、友人を呼んだ。
 ルークは、ジェイドに顔を向ける。
 その顔には、きょとんとした、いつもの彼独特の表情が浮かんでいて、ジェイドはそれに密やかな溜息を押し殺し、
「・・・確認しますが。」
 と、前置きを口にした。
「・・・我々が今、向かっているところにいるのは、貴方の被験者のアッシュとも、彼のもうひとりのレプリカともつかない人物がいる、かもしれない。・・そこを間違えてはいませんね?」
 ルークは頷いた。
 だが、それはジェイドの言葉に同意をした訳ではなかった。
「大丈夫。」
 ルークは答えた。
「間違えてもいないし、思い込んでもいないよ。でも・・・この上にアッシュがいるんだ。」
「・・・・・。」
 ジェイドは、冷淡にも見える無表情のまま、眼鏡をあげる。
「ですから、それは・・・これから、確かめることでは?」
「うん。それはわかってる。でも、アッシュだと思うんだ。」
「何故、断言できます?」
「わからない。」
 きっぱりと矛盾したことを言うルークに、おいおい、とガイが苦笑した。
 なにを言われるかわかっているというように、ルークはガイを見て少し笑いかけ、そして視線をジェイドに戻し、
「理由はわからない・・・。でも、わかるんだ。」
 と独立宣言をするかのように、きっぱりと言い放った。
 しばらくは、じっとジェイドはルークを見ていた。
 そしてその後、そうですか・・と返事をして、何も言わなくなった。


 わからないが、わかる。
 
 よく考えれば、不思議な感覚であることは間違いはない。
 けれどルークには、確信があった。
 ルークにはきっと、どこにいようとアッシュの位置を把握できる機能が備わっている。
 必ず北を指す羅針盤と同じように。


 ガコン、という音とともに、床が揺れ、目の前の扉がスライドした。
 明るく差し込む日差しの中に足を踏み出し、さらに上へと進む。
 かつてここを訪れた時と同じく、内部には魔物がいて、いや更に数は増えている気がした。
 それらをものともせずになぎ散らしながら、果たしてアッシュは・・・ここにひとりでいて、大丈夫なのだろうか、と思った。
 かつて、鮮血と恐れられた彼ならなんの問題もない。
 しかし、今は・・・生まれて間もないレプリカと同じで、ただ不吉な預言を詠む力を持つだけの人だ。
 そう考えると、不快感と不安とが胸元までせりあがってきて、ルークはそれを無視するように嚥下した。

 

「・・・・アッシュ!!」

 
 駆け上がった先で、目印の赤い髪を見つけ、叫ぶ。


 そこには、大きな人形が転がっていた。
 顔色は白く、その周りを覆う長い髪は白い床の上に垂れ、その先で力なく、だらんと床の上に置かれている白い指先が、天に向かって丸まっていた。
 足を投げ出して壁に凭れかけられ、その場所に長いこと放置されていたかように、誰の意志もそこには感じられない。
 緑色の宝石のような瞳は、髪と同じ赤いまつげに縁どられて濡れていたが、虚空を見つめたままで、機械仕掛けの動きのように、時折瞬きをしているだけだった。
 顔色をなくしている中にも尚、赤い唇がかすかに動いて、歌を紡いでいた。
 直にルークの耳にも届く。
 それは、確かに「バビロン」と口ずさんでいた。

「アッシュ!」
 走るルークに続き、立ち止まったジェイドを追い越して、ナタリアも走っていった。
「アッシュ!」
 床に投げ出された人形のように力のない彼の肩を掴み、ルークが揺さぶるが、彼からはなんの反応も返ってはこなかった。

 その様子を少し離れた位置で見ながら、ジェイドは素早く、周囲を確認した。
「・・・アムラジェは、いないみたいだな?」
 同じく、周囲の気配を探るガイが言い、ジェイドと顔を見合わせた後、ゆっくりと赤毛の人物に近づく。
 それに気づいて振り返ったアニスとティアが、意味ありげに視線を寄越した。
 それはどこか、助けを求めているような、なんともいいがたい表情で、それに対してなにも応えないまま、ルークとナタリアの背中越しに観察をすれば、たしかにそれは・・・彼らがよく知るアッシュと、一分の違いもないように見えた。
 おや、とジェイドは、誰も気が付かないほどかすかに、目を凝らす。
 肩を揺さぶられている彼の髪は・・・色が薄い。
 ちょうど、今は紅くなっている、かつてのルークと同じ朱い髪だ。

「ルーク、落ち着きなさい。」
 ポン、とジェイドが肩を叩くと、ルークは、まるで熱した鉄でも押し付けられたかのように飛び上がり、素早く振り返った。ジェイド!と叫ぶ。
「ジェイド!アッシュの様子がおかしいんだ!」
「見ればわかりますよ。まずは、落ち着きなさい。」
 ジェイドは言って、赤い髪の彼の横にかがみ、白い腕を掴んで脈を取る。
 とくんとくん、と血液を送りだすポンプが安定しているのを確かめると、見開いたままの瞳を覗き込む。
「な、ジェイド。大丈夫なのか?なんで、こんな・・・様子がおかしいんだよ!?」
 後ろで、落ち着きなく右へ左へとゆらゆら体を揺らしているルークに、ジェイドは溜息を吐き出しながら、言った。
「ルーク。思い出してください。彼はもともと、生まれて間もないレプリカだと思われていたのです。以前と違って・・・コミュニケーション能力が欠けていた筈です。今の彼はこの状態が普通なんです。少し衰弱はしているようですが、別にそれ以外の異常は見受けられません。」

 それを聞くと、ぺたんとルークは床に座り込んだ。
「そ・・・。」
 言いかけ、その後は言葉が見つからないように空を仰ぎ・・・がくりと首を折った後、今度はゆっくりと自分の肩を掴む。
 ガイは、自分の肩を掴むルークの手を見た。
 指先は白くなり、ぷるぷると震えている。
 がりがりと頭を掻いた後、ジェイドを振り返って言った。
「ところで、いつまでもここにいる訳にもいかないよな?」
 疑問形で促せば、ジェイドはそうですね、と同意を示した。
「とりあえず、安全なところに移動しましょうか。」
 なにしろここには魔物が多いですからね、とジェイドが言うと、でもどこへ行きますぅ?とアニスが言った。
「アルビオールの中って言っても・・・そこまでじゃ、本当にとりあえず、ですよね?」
「マルクトへ戻りましょう。」
 ジェイドは言った。
「第3施設の調査と、ハレルヤ・・・と思しき人物の確保。アムラジェを捕まえることはできませんでしたが、まぁ、まずまずの結果を出せたと思いますが?」
 ガイは、そうだな、と頷き、赤毛の親友と、命のない作り物のような人物とを、複雑な顔で見た。
「ハレルヤ・・・か。」
「ええ。・・どうやらアッシュのレプリカではないようで、その点は安心しました。これ以上、状況がややこしくなるのは勘弁して欲しいですからね。」
 え!とガイは、目を見開いた。
「どうして、わかるんだ?」
 先ほど、ガイはこう思っていた。
 姿かたちは、ほぼ同じ。
 しかし、まるで精神はからっぽであるかのように、揺さぶられても呼ばれても、微動だにしない。
 これでは・・・アッシュなのか、彼のレプリカなのか判別のしようがない、と。
 それは、アニスも思ったらしく、どういうことですか、大佐?とジェイドを見上げる。
 声をあげないまでもティアも同じ気持ちらしく、不満そうな顔をしている。

「見るまでは確信がなかったのですがね。」
 ジェイドが言った。
「リグロ氏によると・・・"ローレライ"と呼ばれたレプリカは、多少の第七音素以外の音素も保有していた。それを氏は、レプリカ情報が長く保管されていた間に他の音素が混じったからではないかという説を唱えていました。・・・ですから、もしかしたら"ローレライ"は、10歳時にアッシュから採取された情報を元にして作られていて、ルークよりも幼い姿をしているのではと考えていたのですが・・・ご覧の通り、彼は今のルークと変わりがない。」
「それなら、リグロ氏の説が間違いなだけって可能性もあるよな?」
 それだけでは、彼がレプリカではないと断定できる根拠にならない、とガイが言った。
「やっぱり、あいつはアッシュのレプリカで、リグロ氏の説とは別の、なんらしかと原因で第七音素以外の音素を保有しているのかもしれない。」
「いえ、それはないでしょう。」
 それに対して、ジェイドはきっぱりと返答した。
「レプリカは2年前から作れなくなっています。10歳のアッシュから採取した情報であっても、17歳のアッシュから採取したものであっても、2年前に誕生している筈です。その彼が、今のルークとほとんど同じ姿なのは可笑しい。幼いどころか、彼は成長した姿ですらない。ルークは17歳の姿で帰ってきましたが、成長期の青年のレプリカがその間に、まるで変化がないなどありえない。もっとも彼がアッシュだとしても・・・。」
 ジェイドが言って、ルークに手を引かれ、ナタリアに支えられてようやく立ち上がった赤毛の彼を見た。
「・・・どうして彼まで17歳の姿のままなのか、という疑問は残りますが。」
 考え込んで沈黙するガイの横で、そんなの私たちにはわかりませんよ、とアニスが怒ったような声をあげた。
「そういうことは、大佐の担当でしょうに!」
 ジェイドは、少し目を見開くと・・・やれやれ、といつもの嫌味たらしい笑みを浮かべて、肩をすくめた。

 

 

 

 

 

 

 

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 以前、きちんと無事に書いてあったにも関わらず、つじつまが合わないことを書いてしまった!と勘違いするという妙な間違いをしました・・・。
 余計にややこしくなってしまった・・・。



 

(’11 2.08)