21.

 

 

 

「ガイ。」
「・・・ガイ。」
 といえば、金髪の背の高い彼。

「ジェイド。」
「ジェイド。」
 といえば、眼鏡の軍人。

「・・ナタリア。」
「ナタリア?」
 というのは、金髪のお姫様。

「アニス。」
「・・アニス。」
 というのは、金が好きなぬいぐるみ少女。

「ティア。」
「ティア。」 
 といえば、クールビューティの彼女。

 そして、目の前の赤毛の青年は。


「ル・・・ルーク!」
「ルルーク?」
「ちがーう!ルーク!俺、ルーク!」
「・・わかった。ルーク。」


 でもって、とルークは意味もなく(もちろん彼にとっては重要な意味はある)高揚して赤くなった顔で、赤毛の彼の顔を指さした。
「アッシュ!!」
「・・・・・。」
 自分に向けられた指先を、怪訝そうに見つめ・・・それから彼は、眉を顰める。
 その表情といえば、かつての彼そのものだった。

「アッシュ?・・・ハレルヤ、ではないのか?」
 不可解そうにルークの言葉を訊ね返しているのを見て、ジェイドは肩を竦めると、
「やはり彼は、ハレルヤで、アッシュなのですね。」
 まるでわかりきっていたことを今更、というような余裕のある笑みを浮かべ、失礼、と自分たちを紹介しているルークと、アッシュの会話に割り込んだ。
「・・・あなたは、ずっとローレライ教団で、『ハレルヤ』と呼ばれていた・・・。間違いありませんか?」
 今、紹介された相手の名前を頭のなかで反芻でもしているような間があって、こくん、とアッシュは頷いた。
 その仕草は、どこか幼い。
 かつて、出会って間もない時のルークに、時々見られた仕草だ。
 髪の色もあいまって、わかっている筈なのに、ジェイドですら混乱しそうになる。


 少しだけ状況の確認の話をジェイドとした後、ふ、とアッシュは(ハレルヤでもあるが、便利上彼らはアッシュと呼ぶことにした・・・本人も別に呼び名が変わることに異存がないらしい)、ティアの顔を見る。
 え?というように、ティアが首を傾げると、
「・・・どこかで会った顔だな。」
 と、静かな声で言う。
 それは、彼らの良く知るとげとげしい声とは別の、落ち着いた口調だった。
 だが、声の低さは、アッシュそのものだ。
 少しだけそのことに、フラッシュバックに似た混乱を感じながら、ティアは、ええ、と答えた。
「・・・教団で。貴方が、ハレルヤ様であったなら、何度かお目通りを願ったことがあるわ。」
 もっとも、言葉を交わしたのは、アムラジェとだけど、とティアが言う。
「そうだ、アムラジェ。」
 と今思い出しました、というようにアニスが声をあげ、アムラジェは?とアッシュに詰め寄った。
「あんたと一緒にずっと行動してたよね?アムラジェはどこに行ったの?」
 その質問にアッシュは首を傾げ・・・ただ黙っているだけだった。

 

 

 

 レムの塔の上で発見した時は、衰弱しているようにみえたアッシュだったが、その後ルークたちによって救出され、エレベーターで下りてきた時には、身体を支えていたルークの手から離れ、自力で歩けるようになっていた。

 なによりも、アッシュが自分の手を拒まなかったことにルークは心の底からの安堵を覚えた。
 記憶がないであろうことは、アッシュの記憶を持つルークが一番理解していたが、それでも己のレプリカに向けていたかつての憎しみ故に、本能的に拒絶されることを覚悟していないでもなかったからだ。
 しかし、その心配はまったくの危惧であった。どうやらアッシュはルークに対して、他の誰よりも自分に近しいと思っているのか、ふとした時に人の手を借りる必要があると、必ずルークをその相手に選ぶ。
 ルークの心には今までにない歓喜が飛来し、その度に『記憶がないアッシュ』に対して抱いていた悲しみが、薄らいでいくのを感じていた。

 エレベーターから降り、目の前にそびえるようにして停まっている白銀の機体を見た瞬間、アッシュの口から「アルビオール」というつぶやきが漏れた。
 それは本人も意味がわからないままに口から出てきたという感じだったが、むしろそれが証明になって、初めは懐疑的だったガイすらも、目の前にいるのがアッシュであると確証を得たようだ。
 そうとなると元使用人の血が騒ぐのか、ガイもルークがアッシュの世話を焼くのを手伝いだした。
 今アッシュは、レムの塔からそう離れていない街の宿で、ガイとルークによって風呂場で体を洗い流され、美しく整えられた身なりになって、ルークから全員の名前という講義を受けているところだった。


 以前はやたらと、ルークの仲間をうさん臭そうに見つめていたアッシュだったが、今回はそんなことはなさそうだ。
 なによりも彼の礼儀正しさが証明されたかのように、いちいちガイに礼を言い、同行する他の仲間にも感謝の意を伝えてくる。
 そうされると、昔の喧嘩上等のアッシュを見慣れている一同はなにやらこそばゆく、同時にあれよあれよという間に絆されてもいく。
 アッシュには色々と聞きたいこと、問いたださなければならないことがあるのだが、まだ待ってくれとルークに涙ながらに訴えられなくとも、事を急いで進められそうにないですね、とジェイドまでもが溜息交じりに納得している。

 
「でもって、俺とアッシュは被験者とレプリカの関係で・・・。」
 名前の紹介が終わり、一同とアッシュの関係性にまで説明が及んだ時、ルークはためらうこともなく自分たちの真実を口にした。

 それは、昔のルークからしてみれば、一歩前進しているように見える。
 かつて被験者であるアッシュに気後れするあまり、素直に自分の存在を認められないルークであったが、その時の姿はすでになく、彼は彼としての自我と人格をやっと確立できた証拠にも思える。
 ルークに接するとついつい芽生えてしまう親心にも似た気持ちを持つ一同は、それを安堵とともに聞いていた。

 ルークが言うとアッシュは頷き、
「そうか・・・お前が俺の被験者か。」
 などという。
「え?違う。」
「?レプリカと被験者ではないのか?」
「いや、レプリカと被験者だけど!そこは顔見ればわかるだろう!?アッシュと俺はそっくりなんだから!」
「顔?」
 アッシュは言い、怪訝そうに・・・自分の顔をさする。
 なんだかこの展開、かつてのアッシュの天然さんが復活しているようで懐かしいなーと笑って見ていたアニスたちだったが、アッシュが言った言葉でその笑いもひっこんだ。
「・・・俺は、そういう顔をしているのか?」
「ええ!?」
 驚愕の叫び声はルークのものだ。
「え、え!?ちょっと待ってくれよ、アッシュ!」
 ルークは慌てて前のめりになり、アッシュの両肩をがしりと掴んだ。
「お前、自分の顔の記憶すらなくしちまったのか!?」

「落ち着いて、ルーク。」
 とティアの声がかかり、アッシュとルークの間に手鏡が差し込まれる。
 アッシュの言葉を聞いた時点で、すぐに鏡を用意するあたりが、流石である。
「見て。これが貴方の顔よ?本当に忘れてしまっているの?」
 柔らかさも欠片もない言い方だったが、緊急事態に緊張している時のティアには言葉に余裕がない。
 それを知っている為、ルークは不安そうに、ティアとアッシュの顔の上で視線を往復させる。
「・・・忘れる、もなにも。」
 アッシュが言った。
 そっけなく聞こえる言葉には、困惑も混じっている。
「・・俺は、鏡を見たことがなかったから・・・。」
「えー!?なんで!?」
 びっくりしたのはアニスだ。
 この世で、鏡を見ないで生きてくるのは逆に難しい。
「顔洗う時とか!髪梳かす時とか!鏡の前に座るでしょうに!」
 だがそんなアニスの問いにもアッシュは首を傾げ、
「身支度もなにもかも・・・人任せだったからな。」 
 とこともなげに言った。
 そんなことあるのか、と顔を見合わせている一同を余所に、それ心当たりあるかも、と言ったのはルークである。
「え?貴方までなにを言うの?」
 と驚くティアに、ルークは照れたように頭を掻いた。
「いや・・・俺、生まれてすぐファブレの屋敷に戻されたんだけどさ。自分の顔を認識したのって、結構後だと思うんだ。屋敷には使用人がわんさかいて、ガイも面倒見てくれたし・・・あんまり鏡を見る機会もなかったし、不自由も感じなかった。アッシュもそれとおんなじかな?って。」
「・・・・・。」
「でも、今思えばそれってやっぱ良くない状況だったよな。俺はそういうのが普通で・・・自分ではなにもしないってことが。それが普通だって思い込んでた。なにも考えなくっても誰かがやってくれるってさ。傲慢だったと今なら思うけど、その時は傲慢ってことすらもわからなかった・・・。」
 それを聞いて、気まずそうに顔を見合わせる一同に気がつき、
「む、昔の話だって!」
 としっかりフォローを入れた後、ルークは、だからさ!と無理矢理という感じに話を戻した。
「アッシュもおんなじなんじゃないかなって。ほら、ハレルヤ時代は、全部アムラジェがやってくれてたんだろ?だから、鏡を見たりもしなかったのかなって・・・。」
「本人がそうだと言っている以上、あるかないかの議論をしていても、意味はないでしょうね。」
 そんなことではラチが開かない、という言い方をジェイドはして、ルークの話を遮り(当然ルークは不満そうに口を尖らせた)、
「それよりも・・・。」
 とアッシュを見る。

「?」
 自分の上にジェイドの視線が止まったことに対して、警戒もせず、アッシュは首を傾げる。
 それはルークがよくやるような素直と呼べる類の仕草で、かつての彼なら、人前でこんなマネはしないなとジェイドは思い・・・苦笑した。
 
 わずかな時間で得た印象は、彼がアッシュで間違いないと訴えているのに、やはりどこか違うという違和感もぬぐえない。
 人間とは不思議だ、と思う。
 彼ならこう言うであろう、こういう仕草をしない、こうしたら彼らしい。
 その中のどれを本当に選択するかなど、彼の勝手だというのに、人は自分が思い描いた虚像を本物だと思い込み、それと少しでも外れると・・・『らしくない』という言葉で表す。
 本当の彼をわかっていないのは、こちらであるのは筈なのに。

「アッシュ、貴方は教団にいる間ずっと、アムラジェの庇護のもとにいた・・・それは間違いないですね?」
 アッシュは頷き、
「俺の世話を一身にしていた女性と、あんたたちの言う『アムラジェ』が同じならば。」
 と"彼らしい"言い方をした。

「ダアトで?」
 再びアッシュは首を傾げ、
「ダアト、というのは・・・教団と呼ばれる全体的に白い建物のことか?」
 と聞いてきた。
「迷路みたいな?」
「・・・そうです。」
「そうだ。そこで、一緒だった。」
「・・・では、それ以前は?」
「その前も・・・一緒だった。」
 アッシュの仕草が、だんだんと、うーんと悩むようになり始める。
「いつから一緒だったというはっきりとした記憶はありますか?」
「・・・いつの間にか一緒にいた、という覚えしかない。」
「いつ、どこでというのが、はっきりしないのですね?」
「そもそもの・・・教団に行くまでの間の記憶がはっきりしなくて。時々、誰かに手を引かれていたこととか、石だらけの道を歩いていて足が痛かったとか、その程度は覚えがあるんだが・・・。」

 それは、ルークがアッシュからの通信を受け取っていた当初は、映像がはっきりしなかった、と称していたまさにその時期で、時間的にも彼が安定していなかったという推察ができる。

 そうですか、とつぶやいた後のジェイドの微妙な表情を見抜き、
「大佐?なにか、気になってますぅ?」
 と流石のアニスが、つっこみを入れる。
「いえ。」
 とジェイドは言い、
「アムラジェとアッシュがどこで知り合ったのか・・・そこになんらしかの鍵があると思うのですが。」
 と答えた。

 もしも第3施設で"ローレライ"と呼ばれていた存在と、目の前の青年が一緒だったとしたら、彼がトリトハイム詠師に会うまでのどこかで、アムラジェは登場しなければならないのだが・・・一体彼らはどこで知り合ったのだろう。
 アムラジェがローラ博士のレプリカだったという説も出ているが、そうだとしても、ローラ博士がアムラジェを知ってるというのも妙な話だ。
 大概の被験者は己のレプリカの存在を知らないのが常だ。この広い世界で、お互いが偶然にも出会う確率が非常に低いからだ。

 確かにありえなくはない。
 しかしそれだと、あまりにも偶然に頼りすぎている気がするのだ。
 色々と面白くない、と思うのはジェイドの考えすぎなのだろうか?


「しかし・・・現実に、ドロシーのレプリカは彼女の家族の元にたどり着いているぜ?」
 ドロシーはレプリカ情報を抜かれて死んだが・・・彼女のレプリカは、きちんとリグロやドロシーの母親であるローラの元にいた。
 ガイの指摘ももっともに思えたが、ジェイドは、いいえと首を振った。
「けれど、アムラジェの場合は、少し状況が違う筈ですよ?」

 たとえ、アムラジェがローラのレプリカであったとしても、17、8歳というアムラジェの年齢を思うと、ローラ博士が若い時に抜き出されたレプリカ情報で生まれたと思われる。
 情報を抜かれてから、あまりにも時間がたち過ぎているのに、すぐに被験者とレプリカが結びつくことがあるだろうか。

 そう言うとガイも納得したように、そうだったな、と言って思案しだす。
 その横で全員が一斉に唸るようにして考え出したものだから、取り残されたアッシュは不思議そうに変な空気になってしまった室内を見回していた。

 

 第一、アムラジェが被験者のローラの元に身を寄せていたとしたら、その事をリグロが口にしてないのもおかしい。
 リグロが知らなかったのかもしれないと見るよりも、初めからアムラジェは第3施設にはいなかったとした方がまだしも納得できる。
 だが、そうなると・・・"ローレライ"であるアッシュと、アムラジェが研究所内で知り合う可能性はますます低くなる。

 そして、不可解なローラ博士の失踪事件。
 忽然と姿を消したという博士の失踪に、果たして"ローレライ"とアムラジェは関係しているのだろうか。

 "ローレライ"は博士が造り出した存在だと第3施設の研究者たちは思っていたようだ。
 実のところ、その点の詳しいことは、アッシュに聞けばわかると踏んでいたが、彼に教団以前のはっきりした記憶がない以上、それは無理だろう。


『教団といえば・・・その点も気になるのですが。』
 思いながら、ジェイドはアッシュを見る。
 周囲が静かになったからか、いつの間にかうつらうつらしているようだ。
 時々、かくん、と首を落としそうになっているのにガイが気がつき、肩を叩いて起こしている。


 トリトハイムは、ハレルヤは完全に赤子同然のレプリカではなく、人の言葉を理解しているようだった、と話している。
 人と意志の疎通ができた、とまでは言っていない。
 しかし、アッシュはこの通り、ジェイドたちと普通に会話し、尚且つ内容も理解している。
 レムの塔で再会した時、アッシュはひとり虚空を見つめて歌を口ずさんでいたから、どの程度話せるかどうかなど気にしなかったが・・・彼がジェイドたちと合流した後、会話を交わした初めての相手は、ルークだった。
 その時すでに、受け答えは普通だったが・・・それがなにか関係あるということはあるだろうか。

 さらに細かいことを言うならば・・・彼の一人称は『俺』だ。
 生前の前導師イオンの一人称も『僕』であり、それが彼と民衆の隔たりを小さなものにするという役割を担っていたが・・・民衆と触れ合う機会も必要もなかったハレルヤが、兵士でもないのに『俺』という一人称を使うのには少し違和感を抱く。
 実際に、ジェイドの知る教団所属の聖職者たちの多くは自らを『私』と呼んでいた。
 時期導師と目されるような立場だったアッシュ・・・ハレルヤならば、尚更聖職者らしく『私』と話すように教育されるものではないのか?
 小さなことではあるがひっかかる。
 アッシュとしての習わしが、記憶がない今も彼に残ってるということなのか。
 それともなにか、見落としていることがあるのか。


「なあ、皆。そろそろ・・・。」
 さきほどから眠そうなアッシュに気がついて、落ち着かなくなっていたルークが、我慢しきれないというように全員を促す。

「ああ、そうですね。そろそろお開きにしましょうか。」
 この頃、皆夜更かしが過ぎますし、と全員に告げてジェイドが立ち上がった。 
「はーい。夜更かしはお肌の大敵でーす。」
 連れ立つようにアニスも立ち上がる。
「そ・・そうですわね!」
 アニスの言葉に、我に返ったようにキムラスカの花と誉れ高い王女は、慌てたように立ち上がり、それに倣ってティアも腰を浮かせた。
 解散の合図に、ほっとしたようにルークはアッシュの肩を叩いた。
「アッシュ・・・部屋で休もうぜ?」
「うん・・・。」
 こしこしと目を擦る仕草はどこか幼く、彼らの知るアッシュとはほど遠かったが、そのうちこんな違和感は払拭されてしまうのだろうか、とジェイドは思った。
 人の持つ印象というのは、つきあいが長くなれば、どんどん新しく塗り替えられるものだ。
 あんなにも身勝手で鼻持ちならないと思っていたルークが、どれほど心優しくひたむきな青年であったかを、後になって頬を殴られたかのように、はっきりと思い知らされたように。
 アッシュが立ち上がると、肩を支えるようにしてルークが手を伸ばす。
 その手になんの抵抗もなく掴まるアッシュと、ルークが並ぶと、髪の色合いの違いが際立って見えた。
 反対になってしまったその色。
 ジェイドは、眼鏡の位置を直し、ルークとアッシュの言う「おやすみ」に、おやすみなさい、と返した。

 

 

 

 


 


 グランコクマを初めて訪れる者は、まず豊かな水とそれを活用している高い生活水準に驚き、美しく威厳のある都市の姿の魅せられる。
 特に祭りなどある訳でもないのに、どこか人々が浮足立って見え、それが皇帝の住まう宮殿のある場所というものなのか、キムラスカもバチカルがそうであるように、独特の活気に満ち溢れていた。
 
 その頭上を旋回しているアルビオールの中から、身を乗り出すようにして下を眺めている、赤いふたつの並んだ頭に、忍び笑いを漏らす一同。

「まぁ、なんだ。仲良きことは美しきかなってな。」
「ガイってば、時々老人みたいだよね!」
 とガイにつっこみながら、アニスは心なしか胸を張ってルークとアッシュのふたりを見ている。
 そのふたりの髪の毛は、結ってあった。

 今朝のことだ。
 アッシュの面倒をみるには長い髪邪魔!などと一人前な口を叩くルークに、じゃあひとつに結んであげるよ、と申し出たのはアニスだった。
 メンバーの中で唯一髪を結っている彼女は、簡単にルークの髪をひとつに束ね・・・ちょっとしたいたずら心からなのか、それとも彼女の好みなのか、はたまた癖なのか、それをかなり高い位置で括り付けた。
 今のルークの髪は、俗にいうポニーテールである。
 それは、通常男性が結わくよりもかなり高い位置ではあったが、年相応の青年と比べても顔立ちが幼いルークにはよく似合っていて、ティアなど、一目見るなり顔を赤くして不自然に逸らしたくらいである。
 対してアッシュはというと、こちらも男性があまりしないひとつの三つ編みにされ、左肩に垂らしている。
 どこか女とも男とも断言しがたい淡い印象になるルークと違い、アッシュの場合はそんな髪型をしてもきちんと整った男性にみえる。凛とした気品のある風格は人懐っこいルークにはないものであったが、個人差の好みはあれ、どちらも人を惹きつけてやまないものであることは違いない。

 ジェイドは眼下によく知るグランコクマの風景を眺めながら、今からあの人が喜ぶ姿を目に浮かぶようですねぇ、と苦笑交じりに言った。
「あの人?」
「って、ピオニー陛下だよな?当然。」
 不思議顔のルークに、呆れ顔のガイのふたり組に、ええ、と頷き、
「特に、アッシュに会えて喜ぶかもしれませんねぇ。」 
 と窓の外を眺めているアッシュを見て言った。
「ルークじゃなくって、アッシュですかぁ?」
「まあ、どうしてですの?」
 首を傾げる、アニスとナタリアの疑問も当然で、彼女らはピオニー陛下はいたくルークをお気に入りだったと記憶している。
 それに対して、ジェイドは含み笑いをして続けた。
「あの人は、マルクト皇帝という立場の癖に、キムラスカ貴族特有の赤い髪と緑の瞳がお気に入りなんですよ。」
 とはいえ、それはなにもピオニーだけの嗜好ではない。
 キムラスカの赤い髪、緑の瞳という高貴な色合いは、敵国だったマルクトにおいても美しいと賞される。
「ルークは、初めから陛下に好意的だったでしょう?だから、かなり気を良くしていたらしいのですが・・・。ローレライの宝珠を探してマルクトを訪れた時のアッシュの態度といえば、それはもう・・・ルークと真逆でしたからねぇ。」
 俺はヴァン・グランツじゃねぇんだぞ!とアッシュとの面会を終えた皇帝が、嘆き悲しんだとかいないとか。
「確かにアッシュから見たら、好意的に接したくないような性格の人でしょうが、あそこまで頑なにしなくっても良かったのではないでしょうかねぇ?」
「って、あんたがそれを言うなよ・・・。」
 と小さなガイの呟きは無視され、
「今度はそこまでしないでくださいよ?」
 とルークに向かって言ったジェイドに、へー、とルークは目を丸くして、
「確かに、アッシュってピオニー陛下のこと苦手そうだよな!」
 と笑った。
「でも、あそこまでって?そこまで言われること、アッシュしたのか?」
「・・・・・?」
「ははは、まぁな。」
 その時の事を思い出したのか、声を出して笑うガイが説明を始めると、話の上手い彼の手腕が見事に発揮され、アッシュのつれなさと、ピオニー陛下の拗ね具合が目に見えるようだと、皆が笑った。
 その中において、ひとりジェイドだけが、怪訝そうにルークを見ていたのだが・・・それには誰も気がつかなかった。

 


 

 

 

 


 

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 アッシュはアッシュなのですが、要はからっぽなので、アッシュらしくなくなってます。
 こんなんアッシュじゃない!って方、ごめんなさい・・・。

 ルークのポニテは私の趣味です・・・一度やってみたかった。
 
 

(’11 6.23)