22.
「おー戻ってきたか!お前たち!」
荘厳な滝をバッグに玉座に座る皇帝はあいも変わらぬ様子で、足を組んだ姿勢でかんらと笑っていたが、ふいに真面目な顔になって、ん?と身を乗り出した。
「ジェイドの報告で、ルークとアッシュも同行していると聞いていたんだが・・・。」
「ええ。なにも嘘をついていませんよ?私は。」
「でも、こいつら。」
まるで親に不満を言いつける子供のように唇を尖らし、皇帝はルークとアッシュのふたりを指さした。
「どっちがどっちだか、一見じゃわからないようになってるじゃないか!」
「・・と、私に言われましても。」
え?とルークはそれを聞いて首を傾げたが・・・。
「前は可愛い方がルークで、美人にできてた方がアッシュだった!」
「・・・その表現はいかだなものかと・・・。」
というつっこみは、ルークの心情をそのまま代表したガイだったが、しかし当の皇帝は別段気にした風もない。それで?とまるで何事もなかったかのように、ジェイドに報告の続きを催促した。
「アッシュが見つかったことは、見ればわかるがな。その他の捜査はどうなってる?特に、ウィザードの第3施設に関してだ。」
「・・報告書にまとめてお送りしてますが?」
「ほ?そうなのか?」
とジェイドの返答を聞いた皇帝は不思議顔だ。
もしや途中で事故でも・・と心配顔になったルークだったが、皇帝の脇に控えるゼーゼマンが、こほん!と咳払いをした。
「・・・失礼ながら・・・2日ほど前、カーティス大佐からの報告書が届いたとご報告申しあげましたぞ?」
その途端、全員がピオニー皇帝を顔を見る。
どうやら忘れていたらしい皇帝は、大勢の視線を受けても、そうだったか?と悪びれもせず、
「2日前は俺のルークの一大事だったからなー。いちいちそんなことは覚えてないぜ。」
「え?」
「俺の?」
「ルーク?」
大げさなほどの反応した一同の態度に笑いをこらえ(絶対にわざとである)、満足そうに皇帝は玉座の上で頷いた。
「そうさ。可愛い方のルークだ。最近、子供を産んでな。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「5人も産んだんだが、それがもう、どいつもこいつも可愛くってな!食べちまいたいくらいだぜ!」
相好を崩す皇帝に、側近とも呼ばれる親友は冷たく言い放つ。
「召し上がったらいかがですか?ブウサギは食材の一種ですよ?」
「あー・・・。」
「ブウサギですか・・・。」
合点のいった一同だったが。
「えーでも、赤ちゃん産んだってことは・・・ルークってメスだったんだー・・・。」
「メスにルークって・・・。」
「何故止めなかったんですの?ガイ。」
「いや、俺がブウサギ係になった時には、すでにルークって名前がつけられてたんだ・・・。」
理不尽にも女性陣に責められ、半ば涙目でガイが説明をすると、あら、そうでしたの?と責めた方は悪びれもしない。
「なんでも良いんだけど、ルークと誰の赤ちゃんなの?生まれたのって。」
どうでも良いならほっとけば良いのでは?とジェイドに呆れ顔で指摘され、でも気になるんですよー大佐、とアニスが答える。
「だって・・・やっぱ"サフィール"との子供、とか嫌じゃないですか。」
「なんだ、俺のネーミングセンスが気に入らないのか?」
「気に入らないのは、名前じゃなくって名前の元となった人物の方です。」
と、今はマルクトに捕らわれているかつての六神将を示していえば、なんだサフィールのやつはお前さんのことを気に入っているみたいなのに、冷たいなアニスは、と溜息交じりに皇帝が言い、アニスはぞっとします!と速攻で答えた。
「んー。まぁ、現場見た訳じゃないから、はっきりしないんだが・・・たぶん、アッシュとの子供だと思うんだが・・・。」
「え!?」
「まぁ、アッシュ!?・・・・なんてブウサギ、以前にいましたかしら?」
「皆の知らない間に増えたんだよー・・・。」
「そうそう。ちょっと赤っぽい毛色の子でな。そのうえ、目つきが他のやつらより鋭いときてる。」
「・・・あ。それでアッシュ・・・。」
などと会話は続き、和やかな(?)ブウサギ会話がいつまで続くのかと呆れたジェイドの咳払いによって、やっと全員が我に返った。
「・・まあ、そういう訳だ。報告書は未だに目を通してないから、この場で説明しろ。」
切り替えの早さを褒めるべきか迷うところだが、ピオニー皇帝は玉座の上で姿勢を正すと、そう言いながらガイを見た。
どうせジェイドは説明しないと思っているところが、流石は旧知の仲である。
「我々の知った・・・ルークとアッシュの帰還の経緯も交えて説明しますと・・・。」
とこちらも慣れたもので、ガイが簡潔かつ重要度を間違えずに話を始めると、今までの一同の行動は、説明が終わるまでおよそ15分ほどかかった。
「・・なるほどな。」
すべてを聞き終え、玉座の上で片足を組んだ皇帝は、頬杖姿のままで頷いたが・・・その目は、疑わしそうに細められている。明らかに、ガイの報告に納得していない顔だ。
「"ローレライ"を造る、か。まったく科学者というやつはとんでもない事を思いつくもんだな。」
その口調には、呆れるというよりも、若干の怒りが含まれている。
「それで研究所を爆破させたなど・・・正気の沙汰とは思えん。」
かつてスピノザの裏切りが仲間を死に至らしめたように、科学者という人種は研究こそに最上の価値を置く傾向にある。
だが、それは時には容易に暴走し、他者が価値を置くものを凌駕するのだ。
「陛下、第3施設の被害はどれほどですか?」
ジェイドが聞くと、ピオニーは眉を顰めたまま、首を振った。
「・・・どうにもこうにも。木端微塵になっている・・・というのは目にしたお前たちが一番よくわかっているな?こちらもジェイドからの要請があって、直ちに救助隊を派遣したんだが・・・建物も研究資料も跡形もない。所属していて研究員たちも大方が行方不明だ。・・・その一件があるから、発覚を恐れて逃げている者もいるだろうな。」
「・・・でしょうね。」
そのことにあからさまな嫌悪を示しながら皇帝は、ちらり、とルークたちの方を見た。視界に捕らえたのはたぶん、ルークではなく傍らに佇むアッシュの方だろう。
「・・・それで、その"ローレライ"と呼ばれる存在と、アッシュが同一であるという根拠はどこにある?」
「・・それにつきましては、確かに推測の域をでませんが。」
ジェイドが答えた。
「・・・そもそも、"ローレライ"と呼ばれるような存在が・・・第七音素の集合体である本家のローレライの完全同位体が、あちらこちらにいるという方が不自然なのです。ルークと・・・ここにいるハレルヤ・・・改めアッシュのふたりがいる上に更にもうひとりいるなど。」
「ありえん、か?」
「・・というよりも、そもそもご存知のようにレプリカはすでに作れない。完全同位体も同様です。ならば、もし彼らの他にローレライの完全同位体が存在するならば、それはアッシュのように・・・偶然この世に生まれ出でる他にありえないでしょう。」
その偶然があったなら、それは宇宙ができた時と同じような確立に等しい。
「・・・そう考えれば、やはりどちらかが・・・このルークとアッシュのどちらかが、第3施設で"ローレライ"と呼ばれていたのだと考えるべきでしょう。ですが・・・。」
「俺、第3施設になんかいなかったぞ?」
とルークが割り込むように口を挟んだ。
「・・・という訳です。ルークには確かな記憶があり、アッシュには曖昧な記憶しかない。故に、第3施設にいたのはアッシュである、とそういう結論になる。そうは言っても、アッシュが戻ってきた経緯にはまだわからない事が多いですが・・・。」
「あー、わかったわかった。」
もういいや、というように皇帝はジェイドにひらひらと手を振った。
「確かに確立的な問題を考えたら、それしかないな。未だ確証を得られてないってのは気に入らないが、それはお前も同じ気持ちで結論出したんだろうしな。・・またなにか分かったら知らせてくれ。」
「ええ、それは当然の責務ですから。・・・鳩でお送りした報告書は、きちんと開封を願いたいものですね。」
「悪かった悪かった。まったくお前は昔からねちっこいよな?」
「恐れ入ります。」
「それにしても・・・なぁ。」
ジェイドと幼馴染の会話を交わし、一同に笑みを浮かばせた後、皇帝は玉座を下りて、アッシュに近づいた。
なにかされる訳はないと知りながらも、ルークは思わず間に割って入りたい衝動に駆られたが、そこは流石に耐えた。
そのアッシュは、無言のまま、自分を見つめる皇帝を静かに見返している。
警戒すらみせずに堂々としている様は、昔のアッシュそのもので、ルークは、俺になにか用か?と不遜に言い放つアッシュの姿をその上に重ねて見た。
「髪の色が変わったよなぁ・・・。」
しみじみと言って、ピオニーはアッシュの髪を一房、掬い上げた。
アッシュの肩がぴくりと揺れたが、何も言わない。
それを良いことに、皇帝はアッシュの髪を指先でねじるようにもてあそんでいたが、
「やっぱり訂正するぜ。一瞬、どっちがどっちかわからないと言ったが・・・やっぱり、お前はアッシュで、あっちがルークだな。」
と言った。
そして、にんまりと笑い、
「やっぱりお前は、綺麗だな。」
と、アッシュの翡翠のような瞳を覗き込む。
「ピ・・・ピオニー陛下!!」
ぎゃ!と悲鳴をあげんばかりにして、ルークがわたわたとアッシュに寄り添う。
皇帝相手では、アッシュから手を離させたくてもできない為、せめてもの自分の存在アピールにそっとアッシュの手を握ると、条件反射なのかもしれなかったがアッシュからも、ぎゅっと握り返してくる感触があって、ルークの内心は落ち着きを取り戻した。
目の前で百面相をしているルークにピオニー陛下は満足そうで、からかいたくて堪らない!というようにウズウズと口元に笑みを浮かべていたが、
「なんだー?ルーク、やきもちかー?相変わらずわかりやすくって、可愛いな!」
と、とうとう我慢できないというように、ルークの真っ赤な髪をぐしぐしと強く撫で繰り回した。
ルークはというと上から頭を抑え付けられて、されるがままだ。
「陛下、痛い!痛いです!」
「そうかー。お前も嬉しいか。やっぱ嬉しいよなっ!」
無理矢理喜びを強制され、下を向かされたまま頭を揺さぶられ、ルークの足元がぐらぐらとおぼつかなくなる。
「それでこそルークだ!うん、アッシュは綺麗だが、お前は可愛い・・・。・・・お?」
「・・・アッシュ?」
頭を抑えていた手の重みがいきなり消え、ルークはきょとんとして顔を上げた。
目に飛び込んできたのは、陛下とアッシュが手を握っている図だった。
正確には、アッシュがピオニー陛下の手首を掴んでいる。
「ふ・・・・。」
いきなり皇帝は、爆発したかのような大声で笑いだした。
「へ・・陛下?」
しかし、その後ろに助けを求めるようにして見てみれば、ジェイドはあからさまにルークから目を逸らし、ガイまであからさまに笑いをこらえている。
「そうか!お前も俺がルークを構うのは気に入らないのか!」
そうして笑い続けるピオニーに、アッシュは表情も変えず、不遜とも言える態度で、あんたは・・・と言った。
「あんたの、冗談は過ぎる。」
「おー!前も言われたぞ、それを!」
あんた呼ばわりされた事も気にせず嬉しそうに皇帝は笑い、あれは新しいブウサギが来た時のことだったな!とアッシュに話しかけた。
「赤毛の、毛並の綺麗な子だったからな。"アッシュ"って名前にしたぞ、と言ったら・・・お前、俺を斬り殺さんばかりだったなぁ!」
まったくつれない奴だぜ!と、ピオニーは言い、なぁ?とジェイドを振り返る。
一部始終を知っているジェイドは、苦虫を噛み潰したような顔になり、
「あの時ほど、自分が貴方を守る立場であることを面白くないと思ったことはありませんでした。」
と言った。
「そうでなかったら、私はアッシュを援護していたでしょう。」
ブウサギに人の名前をつけないでくださいと何度も申し上げていますでしょうに、とジェイドは軽く眼鏡を直す仕草をしながら、そのレンズの奥から皇帝を睨んだ。
相変わらず皇帝は笑い続けている。
ジェイドはその視線を横にずらし、憮然とした表情で傍らに立つアッシュを見た。
宿に泊まるなら城に泊まれ、と皇帝が言い出したが、それは辞退とあいなった。
なぜなら彼らの今日の宿は、ガルディオス伯爵邸と決まっていたからだ。
「本当は城の客室の方が広いんだけどな。悪いな皆。俺の家じゃ城ほどのもてなしもできないし。」
ガイが恐縮して言うのを、皆は気にしないよ、と笑って答えた。
グランコクマに向かうアルビオールの中で、ガイが、ついでに自宅に寄りたいと言い出したことがきっかけだった。
なんでも新しい家族が増えたことで、家が気になって仕方ないとのことで・・・そう言いながら、早速そわそわするガイに、そういえばガイの家を見たことがない、という話になったのだ。
グランコクマにあるというガルディオス邸は、もちろん貴族の邸宅とあって少しは見栄えがするよ、というのはガイの言葉で、訪ねたことのあるジェイドも同意をしていたことから内心で期待をしていた一同だったが・・・実際目にしてみて、おお!と誰もが一種の感動を覚えた。
華美なところがどこにもない家だった。
静かな佇まいと言い、品の良い調度品と言い、それはガイのイメージにぴったりで、彼が自分の趣味を生かして、インテリアを決めたのであろうことが一目見ただけでわかる。
「・・・まぁ、ルークの家に比べればどこでもしょぼいもんだ。広さは勘弁してくれよ?」
そう苦笑しながら言うガイは、そのまま自分で一同を応接間へと案内し、自分で上着を脱いで、コート掛けにかけた。
そして、扉を開けて外になにやら支持を出したのだが・・・。
「・・なんか・・・この家、静かすぎじゃね?」
「というか〜・・人が少ない・・・。」
「そうね。なんだか使用人の姿をあまりお見かけしないような・・・。」
不思議がって首を傾げる一同に、ますますガイの苦笑が深くなる。
「どうにも・・・使用人気質が抜けないっていうか。あれやこれやの全部を人にやられるのが、落ち着かないんだよ。」
という彼は、最低限の人間しか家に置いてないのだという。
聞けば、ペールと、料理人と、2人のメイドだけで、それは普通の貴族の邸宅に比べたら、考えられないくらいの少なさだ。
思わず、この広さにそれだけの人数しかいないと寂しくないのか、とルークが余計なお世話を口にすれば、
「だから、家族を増やしたって言ったろ?」
と、少し照れたように言う。
「あ、それそれ〜。早く見してよ!」
アニスが急かすとガイは照れたように笑い、ちょっと待ってろ、と言いおいて部屋を出て行こうとして・・・調度良くそこにペールが顔を出した。
その手には、ふわふわっとした黒い子犬が抱かれている。
子犬はガイを見るなり、ちぎれんばかりにしっぽを振りながら、首を伸ばして匂いを嗅ごうとし、届かないとなると甘えた甲高い声で鼻を鳴らす。
『か・・・可愛い・・・。』
途端に、ぽーっとなるティアはいつものことなので、誰も気にせず・・・ガイは、手を伸ばしてペールから子犬を受け取った。
「よしよし。いい子にしてたか?アル?」
「・・・ふむ。」
腕の中で、すんすん匂いを嗅いでいる子犬の顎あたりを撫でているガイの姿は、まるで立派な父親のようで、その姿を見ながらジェイドが残念そうに言った。
「家を気にするほど可愛がっているようでしたから・・・てっきり見られないほど相好崩すかと思ったのですが・・・普通です。あまり面白くないですねぇ。」
「・・・どこに注目してるんですか、大佐。」
「俺にいわせりゃ、あれでも十分デレデレしてるよ・・・。」
「そうでしょうか?わたくし、ガイのデレている顔を言うと、音機関を目にしている時の彼を思い出してしまって・・・。」
「・・・た、確かにあれこそデレデレした顔だと思うわ。」
と、かつてのことを思い出しながらこそこそ呟いていると、
「ところで、わんちゃんの名前、アルっていうの?」
「ああ。アルビオールから取ったんだ!」
「・・・・・。」
胸を張って言う姿に、やっぱりガイはガイだったと改めて認識する一同であった。
ガイが直々に雇ったという料理人の腕は確かなもので、食事を堪能した一同は食後のお茶を頂いているところだった。
リビングには暖炉がたかれ、経度的に寒い地方であるグランコクマの夜を温めている。
火の一番近くにはアッシュが座り、うつらうつらとしているようで、背の高さと比較すると小さな頭は、ソファーの背もたれが支えていた。
それを見ていて、ふと、昔の光景が脳裏によみがえり、ジェイドはひとり目を細めた。
かつて。
同じメンバーで同じように暖炉を囲む時、いつでも火の近くには、幼くして世界に影響力を持たされていた少年が座っていたものだ。
彼の緑色の髪をアッシュの朱い髪に重ね・・・そうだった、と思い出した。
アッシュはもしかしたら、次期導師となる筈の人物だった。
「・・・そうでしたね。」
「は?」
「なんだジェイド?」
いきなり脈絡もなくひとりごとを言い始めたジェイドを、ルークとガイがぎょっとして見る。
「いえ・・・これからのことを考えていたんですがね?」
それに対して、軽く首を振って答え、ジェイドはアッシュを見た。
「すっかりあやふやになってしまいましたが・・・そもそも、この旅の目的のひとつは、ダアトから依頼された『ハレルヤ』奪還だったな、と。」
「うん?」
「そうだったな・・・。」
ここでルークとガイの反応がずれる。
もとより初めからジェイドたちと行動を同じくしていたガイと違い、ルークは途中参加の為に、彼らのそもそもを知らないのだ。
「あれ?初めはそういう話だったのかよ?」
「ええ・・・。教会で貴方とアッシュ・・・ハレルヤが斬り合いをした後、彼はいなくなってしまってたんですよ。それで当事者であるアムラジェを第六師団のカンタビレが、ハレルヤを我々が追うように頼まれていたのです。」
「カンタビレって・・・あのどこかリグレットに似た人?」
「・・・似てるかしら?でも、そうよ。今は私の上官にあたるの。」
「ティアの上官か〜・・・。あの人、なんか苦手だな、俺。」
自分がアッシュだと思い込んでいた時は、散々つっかかっていたというのに、ゲンキンな発言だな、とガイが笑う。
「それにしても・・・もう少し、あの教会でのことをお聞きしても?アムラジェに近づこうとした途端、アッシュが斬りかかってきたのでしたね?」
ジェイドが言うと、ルークは首を振って、
「いや・・。アッシュだったかどうかは。顔を覚えてないって言ったじゃん?俺。」
「したな。」
割り込むようにはっきりとした声に、一同は暖炉の方を見た。
眠っているとばかり思っていたアッシュは背筋を伸ばし、ぱっちりと目を開けている。
「アッシュ。教会で、ルークと・・・このルークと斬り合ったのですか?」
「ああ。」
では、とジェイドはアッシュに改まる。
「その時のことをお聞きしても?貴方はアムラジェと、聖堂で祈りを捧げていたのですよね?」
「習慣だったから。」
「教会では、アムラジェとなにか会話をしたとか、もめたとかは?」
「別に・・・普段通りだった。」
「それなのに、いきなり剣を持ち出して彼に、」
と言ってジェイドはルークを示した。
「彼に斬りかかったのはなぜなのです?彼が貴方になにかをしたのですか?」
してねーよ!!とまるで濡れ衣を着せられたと言わんばかりにルークは叫んだが、それは無視された。
アッシュは、その時のことを思い出しているように首を傾げていたが、
「なにか・・・大きな力を持つ、得体の知れない者が近づいてくる、と感じた。」
と発言した。
「大きな・・・力?」
アッシュがこくんと頷く。
「なにか・・・抗いがたいもの。それが近づくと、磁場が狂って、今までのものが台無しになる。そういうものだ。」
「アッシュ・・・。」
愕然とした様子でルークがアッシュを見る。
アッシュにそう思われたことがショックだったのだろう。ルークはアッシュの傍にひざますき、俺はアッシュに危害を加えたりしない!と訴えた。
アッシュは大きく頷くと、
「・・・わかってる。ルークが、そんな気持ちで近づいてきたんじゃないってことは。でもあの時は、俺が俺である為に近づいてくるヤツを排除しなければ、と思った。」
「・・・・・そもそも、剣はどこから?」
導師に選抜されようというアッシュが剣を持っていたというのも妙な話なのだ。
まさか祈りの習慣に剣など必要ないし、たとえ教団内にハレルヤを良く思わない連中がいたとしても、それまでだって公の場で危害を加えたりはしなかっただろう。念の為というにもつじつまがあわない。
むしろその点があったから、ハレルヤが斬り合いをしたのだとは、ただひとりも思わなかったに違いない。
ところが、不思議そうに首を傾げたのはアッシュの方だった。なにを言っているんだ、と言わんばかりに。
「剣ならいつも持っているが?」
「・・・・・。」
「・・・・・そ、それって・・・。」
ティアとアニスは言葉を失う。
すでに周知の事実として、アッシュはハレルヤだ。
次期導師と目されていた彼は、身体を覆うローブの中に、常に帯刀していた、ということなのだろうか。
「・・"いつも"と言っても、今は持っていませんよね?」
ティアたちと違うところに興味があるジェイドはアッシュに言う。
常に帯刀していたというのなら、その剣はどこで失われたのか。
どこでアムラジェとはぐれたにしろ、丸腰の状態でレムの塔にひとりでいたなど・・・無防備すぎるという疑問からだったのだが。
再びアッシュの返してきたのは、なにを言っているという言葉だった。
「今だって、持っているぞ?」
「どこに?」
今の彼は、長いローブをまとっている訳ではなく、旅をしている者にしても完全な軽装備だ。
近くに剣など持っていない状態で、そんな事を言うアッシュにジェイドがつっこめば、
「ここに。」
アッシュはすっと右手を出すと。
その手の中に集中した光が、いきなり剣を形作って現れた。
「・・・・!」
「おいおい、これは・・・。」
「大佐のと、同じ―?」
「これは・・・コンミニネーション現象・・・ですね?」
驚愕している一同の中で、ひとりだけジェイドが冷静に分析すると、そんなこと知らない、とアッシュは首を振った。
しかし、ジェイドはそんなアッシュの返事すらどうでも良いと思っている様子で、アッシュがどこからか取り出した剣を見つめる。
そして遅ればせながら、一同もその事に気がついた。
それは、ローレライの剣だった。
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