ガイが気配を感じて振り返るとジェイドが立っていた。
無言のままガイの目の前の彼と視線を交わし、無言のまま眼鏡をあげる。
その一瞬が、ガイはいたたまれず、思わず何か言ってくれと催促しようとした時、
「ジェイド。アッシュの様子が変なのです。来てくれませんこと?」
天声のように割り込んできた王女に、全員が注目した。
すると、場の空気を読んだのか、ナタリアの顔に、不安が浮かぶ。 それに答えたのは、赤毛の彼だった。
「アッシュ?」
怪訝そうな表情に、ガイはあぁやはり、とやるせない気持ちになった。
もしも彼がルークならば、ナタリアの言葉を聞いた途端に、ガラスの奥へと走り出していただろう。
だが、目の前にいる彼は、佇んだままだ。
まるで今までの全ての状況がわからないとばかりに。
「・・・俺はここだが?」
「え?」
「俺の様子が、なんだって?」
え、とナタリアは瞠目してしまい、動かない。
その代わりに、ジェイドが動いた。
「貴方は・・・。」
そして、もう一度眼鏡をあげる。彼を観察するように。
「アッシュ、なのですね?」
またその質問か、というように、彼は片眉をあげた。
27.
とりあえず、目を覚まさないもう一方の赤毛の彼を放っておくわけにもいかず、一同は彼を抱えてソファーのある部屋へと移動した。
気を失ったままの彼をその上に横たえ、ジェイドはその部屋で報告を受け、その都度兵士への指示をする。
その合間に、一同はなにが起きたのかの状況を確認しなければならなかった。
「彼はアッシュだと名乗っていますが、それが本当だとして、三通り考えられます。まず、以前のようにルークがアッシュだと思いこんでいる場合。これは、正体はルークですね。次に今まで我々と行動を共にしていたハレルヤである場合。そして、完全につい先ほど登場したルークでもハレルヤでもないアッシュである場合。」
目の前にいるのは、実はルークだというのもありえない話ではないのだが・・・。
ガイはまいったなと頭を掻いた。
「アッシュだと思っていたら実はルークで、ルークだと思っていたら本当はアッシュ。なんてごめんだな。」
同感ですね、とジェイドは表情も変えずに言った。
「そんな事になったら、本当に面倒だ。それに・・・どうにも、前回ルークが自分をアッシュだと思っていた時の彼とは様子が違う。"アッシュ"としての違和感がない、と言うべきですかね。・・・ですので、彼はルークではなく、アッシュで間違いないのではと私は思っています。」
あとはハレルヤかどうかですが・・とジェイドが話を進めようとしたが、腑に落ちないという顔でナタリアが割り込んできた。
「ですが・・・彼がアッシュだと・・ルークではないというのならば、髪の色が・・・。」
ナタリアだけではなく、アニスとティアの視線も不安げにアッシュの髪に注がれる。
ついさきほどまで彼女らの前にいた"ルーク"は真っ赤な髪をしていた。
その同じ髪色で彼が"アッシュ"であるというならば。
「ええ。反対です。というよりも完全に被験者の真紅、それに戻っている。ならば、やはり彼は先ほどまで私たちがルークと呼んでいた人物だと考えるべきでしょう。それならば、ルークは今どこにいるのか。」
その質問は、その場にいる全員を少なからず傷つけた。
「・・ルーク、は・・・。」
「どこにいるか・・・?」
それは考えられる最悪の事態を呼び込む言葉であると同時に、すでに事はとりかえしがつかない部分まで進んでしまったかもしれないという現実を彼らにつきつけた。
なぜなら、彼らはすでに『大爆発』という現象を知っているからだ。
自分が不幸を呼び込む役割になるのを避けるように、全員が言葉を発せないでいる中、ジェイドだけがひょうひょうと、アッシュに対して向き直る。
事実のみを確認する役目は、自分のものだと弁えている軍人は、まずここからだ、というように口を開いた。
「これを聞かなければなりません。アッシュ、貴方にはどれくらいの記憶がありますか?」
「・・どれだけ、というのはどういう意味だ?」
アッシュは答えた。
それに対して、では順を踏みましょうか、とジェイドは言って、
「・・・まず、エルドラント以降の、貴方の記憶はどこから始まってますか?」
「・・・・・。」
アッシュは一瞬だけ、考えたように間をおいて、
「・・・それに関しては、ぼんやりとしたものが最初だな。」
と答えた。
「ぼんやり、ですか・・・。」
「ああ・・・。どこか森だか砂漠だか。それもはっきりしないが・・・そこを彷徨っていた。不思議なことにそれに関してなんの感想も抱かなかった。言葉も頭に浮かんでこなかったし、寒いだの痛いだのを感じていたかの記憶もない。」
「意識が混濁していた、とそういう事ですか?」
「ああ・・・。そうだな。きっとそうなんだろう。」
「・・・それで?意識がはっきりしたのはいつ頃ですか?」
それに関してアッシュは左目を眇め、ジェイドを値踏みするようにして見た後、まぁいいだろうというように話し出した。
「はっきりしたというよりも・・・これは、そういうもんなんだと理解して欲しいんだが、俺が"俺"として意識を持ったのは、ついさきほどだ。それまでの意識は・・・俺の、というよりも誰か別人のもののような、そんな感覚だな。」
「他の誰か・・・?」
「ああ。俺であって俺でなく・・・つまりは"アッシュ"ではなかった。そういう感じだ。」
「今のいままで、"アッシュ"としての貴方は空っぽだった。・・・そういうことですか?」
するとアッシュはジェイドに向かい、ひゅー、と口笛を吹いてみせた。
彼のそんな仕草は初めて目にするもので、全員が一瞬、違和感を覚えたが・・・それは、彼らがあまりアッシュの日常的な仕草を知らない、というだけのことのようだった。
「まさに、それだ。ぴったりな事を言うじゃねぇか、死霊使い。」
「・・・それは、どうも。」
ジェイドは面白くもなさそうにそう言って、ではその意識のはっきりしていなかった頃の話を聞きたいのですが、と前置きをした。
「どこにいたか・・・具体的な名前でなくても良いのですが、思い出せるものはありますか?それから、アムラジェ、という名前に心当たりは?」
「心当たりもなにも、教団で俺の面倒を見ていた女だろ?黒い髪で黒い目の。」
あっさりと言うアッシュに、全員が驚き、息を飲んで彼の顔を見る。
奇妙なことに、それは初めて、アムラジェが彼らの持ち場に・・・舞台に登場したようなそんな感覚だったのだ。
それまでアムラジェは追えば逃げる幻のような存在であって、確かに関係している筈なのに、どこか彼らのこととは遠くにいた。
それが今初めて、彼らと繋がっているというその実感を伴った。
「では貴方は・・・。」
ジェイドがもっと踏み込んだ質問を試みる。
その目の奥には、初めて手がかりを得たような、そんな期待をにじませてもいたが、それに気づく者はいなかった。
「・・・ローレライ教団にいたという記憶があるのですね?そして、そこで・・・。」
「"ハレルヤ"と名前をつけられたな。なんだか、導師の真似事みたいなことをその他のヤツラと一緒にやらされていた。」
「そうですか。」
間違いない、とジェイドは全員に目配せをした。
彼はアッシュであり、そして初めて自我を持って彼らの前に現れた"ハレルヤ"なのだ。
「ええっと・・・あんたが、ハレルヤ・・様ってことはぁ・・・。」
アニスが口を開いたが、アッシュを前にして一瞬、ハレルヤに様をつけるのに抵抗があったようで言いよどむ。
「アッシュは、預言を詠めるってことぉ?あの、とんでもなく面倒臭い、不吉なやつを・・・。」
モロに嫌そうな顔を隠しもしないアニスにガイは苦笑をしたが、ティアの顔を見ると頑なに締まっている。
性格上、アニスほどあからさまではないにしろ・・・彼女も同じ気持ちなのが見て取れて、ガイはやれやれと肩を竦める。
「・・・詠める、かもしれんが・・・。」
こちらも嫌そうに顔を顰めて、アッシュが答える。
「やれ、と言われてもできる気がしねぇな。あれは、俺であって俺でない時にできた芸当だという気がする。なによりも・・・あれは気分の良いものじゃねぇ。」
口にする度に、目の前にいる人間が顔色を変えたのを覚えている、とアッシュは言った。
そこまで聞くと、アニスもティアも彼がハレルヤであるということを認めたようで、そうですかというように、口をつぐむ。
教団内では、ハレルヤの預言を嫌っていた者がいたと聞いていたが・・・事実は、相当根深いものがあったようだ。
「今は、できない?」
しかし、ジェイドは追及をやめず、アッシュの顔を不思議そうというよりも睨んでいるに近い顔で覗き込んでいた。
納得がいかないのだろう。
「できるとは思うぜ?けれど・・・"ハレルヤ" として詠んでいた時のように・・正確なものはでてこない気がする。そもそも預言士ってのは・・・。」
そこまで言ってアッシュは一瞬黙り、その後はいきなり、まぁいいや、というように切り上げようとする。
「そもそも預言士ってのは、の後なんだよ?気になるなぁ。」
おいおい、とつっこんだのはガイで、アッシュはその顔をちらりと見ると、がしがしと頭を掻いて嫌そうに口を開いた。
こいつ面倒臭がっているな、とガイは感じる。
なぜなら・・・ルークが面倒臭いと思った時も、同じような仕草、同じような表情を浮かべるからだ。
こいつら変なところで似ているな、とガイは内心で、変な感心をしてしまった。
「・・・預言士ってのは、そんなに我の強い奴がいないんだ。」
「は?」
「お前たちの知っている預言士を・・誰でも良い・・思い浮かべて考えてくれ。そいつは、あれは嫌だこいつは嫌いだ、と口にするような奴か?どうも・・・預言の性質なのかもしれんが、詠む奴の好き嫌いが反映しないような、性格の穏やかなのが預言士には多い気がする。」
「・・・・・。」
オールドラントに生きている以上、多かれ少なかれ全員が当然、預言を賜っている。
しかし、彼らの中に飛来した預言士の影は、儚く幼い姿で、それは確かにアッシュの言うように、あれが嫌だこれは嫌いだ、と口にするような人ではなかった。そもそも、彼は否定の中に生きていない人だった。すべての人間を受け入れ、そして・・・ある意味では受け流す、柔らかい人となりの、白く丸い円球のような・・・たとえるなら白い真珠のようなそういう内面を持つ人だった。
だから、ある意味でアッシュの意見には同感を抱く。
「・・・つまり、我を張らない・・・穏やかな性格の人でなければ、正確な預言は詠めない。そういうことですか?」
彼らの中には預言を詠めるものがいない。
いかに博識のジェイドでも、自分が経験しなけれと理解できないものがあることを承知している。
アッシュが、そんな気がすると答えると、なるほど、とジェイドは頷いて、
「では、もう貴方には預言を詠むことは不可能でしょうねぇ・・・。」
と、あからさまにアッシュに嫌味を言った。
結局、夜になっても入り込んだ賊は発見することができず、第三師団の兵士たちはジェイドの多大なる叱責に怯えながらの一晩となりそうだった。
とはいえ、決して顔には出せないが・・・実のところ賊が見つかるかどうかに関しては、ジェイドは懐疑的だ。
そもそも入り込んできた者が軍事施設内にいつまでもいる訳もなく・・・そのうえ、ディストの目撃情報から、賊の正体がおおよその見当がついたからという理由もある。
本当の目的は謎ではあったが、皇帝に危害を加えようというものではないらしいというのがジェイドの見解だった。
気を失ったままの赤毛の彼は、未だに目を覚まさない。
一度、本格的に医者に診せた方が良いとの意見が一同の間でもでていたが、それも明日になりそうだった。
施設そのものが、混乱の中にあるということと・・・なぜ目を覚まさないのか原因がわからない以上、ただ眠っているだけ、もう少ししたら目を覚まして詳しい話を本人から聞けるかもしれないという希望的観測があったのもあった。
「・・・それにしても。」
この際、大爆発を危惧してふたりの接触を断っていたという事実は一旦破棄にして(ジェイド曰く、念の為の措置でしたから、まぁ仕方ないでしょう、とのことだ)全員はジェイドの執務室へ戻ってきていた。
執務室にベッドを持ち込み、彼はそこに寝かされている。
ベッドの中を覗き込んでいるのはガイとアニスで、客用のテーブルとソファーには人数分の紅茶がおかれ、ティアとナタリア、そしてジェイドはけっして和やかではない雰囲気の中で、それを口にしていた。
「・・・なんで目を覚まさないんだろうなぁ・・・。」
ガイのつぶやきはため息交じりで、その横でアニスは眉を顰める。
「目を覚ましたら覚ましたで・・・なんか複雑そうだけど。」
彼が目を覚ましたらその時に待っている状況を考えると、けっして楽観視もできないと思う。
「・・とはいえ、やっぱり目を覚まして貰わないと、困るっていうか・・。」
あえて、心配という言葉を使わず、うー、と唸り声をあげる。
子猫みたいだね君は、とうっかり口にしそうになって、それを飲み込み、少しだけアニスから距離を開けると、ちらりと壁際のアッシュを見る。
アッシュはひとり、ベッドから最も遠い位置で腕を組んだまま目をつぶって壁に寄り掛かっていた。
この距離間は、かつての彼と自分たちのものであることは間違いなく。
また、目をつぶって世界を遮断していても尚、眉間に皺を寄せている表情は、ガイの記憶にあるアッシュそのものだ。
・・・彼が、自分の言うように本当にアッシュだったとしたら、だが。
『もしも、あいつがアッシュなのだとしたら。』
ガイは窓際から、ベッドの上に視線を戻す。
『ここに寝ているのは・・・誰だ?』
彼がアッシュなのだとしたら"ルーク"なのかもしれない。
だが・・・本当にそうだろうか?
つい半日前まで、ガイたちが"ルーク"と認識していたのは・・・あの真紅の髪の主なのだ。
以前、ルークかアッシュかという話をした時に、すでに論議がなされているが、彼らがどちらかであるには・・・魂が核であることは間違いない。
たとえ、アッシュの体に入っていてもその魂がルークならばルークだし、逆もまたしかりだ。
ルークの魂は、あの真紅の髪の体に入っていた。
それが、アッシュの魂に入れ替わり・・・ならばルークの魂はどこだろう?
アッシュの魂に弾けだされた挙句、もうひとつの―ガイが今朝までアッシュと思っていた―朱赤の髪の体に入った、などありえるのだろうか。
もしもなかったとしたら・・・ルークの魂は未だにあの、真紅の、被験者そのものの体に宿っているのだろうか。
ふとガイの焦点が定まり、気がつけばアッシュの鋭い双眸が、自分に向けられていた。
考え事をしていたら、あまりにも不自然に長くアッシュの顔を見つめていたらしく、それは彼にとってうっとうしい以外のなにものでもないだろう。
「・・・なんだ?」
不機嫌そのものの低い声に、ガイがぱちぱちと瞬きをすると、アッシュは、ちっと舌打ちをして、
「言いたいことがあるなら、はっきり言えっ・・!」
と吐き捨てた。
アッシュに文句があった訳ではないガイとしては、当然返答に困り、
「あ・・・いや・・・。」
「では、遠慮なく。」
なんと取り繕ったら良いものかと頭を悩ませていると、救いの神というほどではないが、まぁタイミング良く、割り込んできた声がある。
ジェイドのこういう・・・計算に基づいた空気の読めなさには、時々感謝したくなる。
「さきほど、話を伺っただけでは、まだ納得できないところがありまして。」
「まぁ、そうだろうな。」
アッシュのジェイドを見る目は、うさん臭いと思っている以外のなにものでもなかったから、なんでも聞いて良いぜ、と言うアッシュに、ガイはちょっと驚いてしまった。
だが、すぐに状況が読み込めず、質問をしたいのはアッシュも同じなのだろうと納得する。
アッシュから口を開かないのは、性格もあるだろうが・・・どこから聞いたら良いかわからないせいもあるのだろう。
アッシュにしてみたら、いきなり現在進行形の事件のただ中に、ぽんと放り込まれたようなものだ。
アムラジェの件、ウィザードの第三施設の件、そこで行われていた実験の件、そして"ローレライ"と呼ばれる存在のこと。
まずは、アッシュにもその全てを説明しなければならない。
そう思いガイは、質問の前に、それらをアッシュに説明する時間が欲しい、とジェイドに申し出た。
いつもの役割からというのではなく。
その全てを話しながら反芻することで、自分の考えを頭の中で整理したいという希望もあったからだった。
ところが。
「・・・それは少し、待って貰って良いですか?」
とジェイドは言う。
無表情を装っているその顔の下に、何故だかいつも違う雰囲気が見てとれて、ガイは、なんでだ?と聞き返そうとした言葉を飲み込んだ。
ジェイドは、ガイが引いたことを感じて、ひとつ溜息をついてから、アッシュに向き合った。
「質問・・・とは言っても貴方に聞けることは、限られていると思います。ひとつは・・・貴方の記憶に関することをもう少し深くですが。」
「ああ。」
「我々はつい今朝まで、"ルーク"と"アッシュ"のふたりと行動していました。・・・貴方には、その時の記憶がありますか?」
ガイの視線は、ベッドの上に眠っている人物の上に落ちる。
顔をあげると、それはジェイドも、そしてアッシュも同じで、彼らの視線はそろってベッドの上にあった。
「・・・ああ・・・。」
アッシュは答えた。
「・・・我々と一緒にいた記憶がある、のですね?」
「ああ・・・。全てじゃねぇが。前にも言ったが、記憶が混濁しているからな。だが、お前たちと・・・レプリカと一緒にいたという記憶は、ある。なんだか見覚えのない犬のいる屋敷にいた・・・間違いねぇか?」
犬とはガルディオス邸のアルのことだろう。
ガイは、間違いないよ、と頷いた。
そうですか、とジェイドは眼鏡をあげ、では、というように次の質問を口にする。
その時、少しだけ空気の流れが変わったようにガイには感じられた。
「ルークは、"ルーク"と"アッシュ"のふたり分の記憶を持っていました。今の、貴方は?」
そこでガイは、はっとする。
さきほど、ジェイドに説明を待たされた理由が分かったからだ。
アッシュは一瞬黙った。
ジェイドの顔を一度見てから、目をつぶり・・・少し―しばらく?それは、何分にも感じられる間だった―してから目を開け、そして、部屋の中で、自分を凝視している一同の顔を見回して、
「ああ・・・。」
答えた。
「・・・どちらの記憶も、ある。」
部屋の中に、誰のものかわからない、息を飲む音が響いた。
「ある。」
ジェイドがその答えを反芻する。
「・・・つまり、貴方の中には、"ルーク"と"アッシュ"、ふたり分の記憶がある。・・そういうことで、間違いないですね?」
「ああ。」
アッシュは言い・・・嫌そうに鼻の上に皺を寄せる。
「同じ場面を違う角度から見ている記憶がある。"アッシュ"が"ルーク"を見ていたり、"ルーク"が"アッシュ"を見ていたりな。別々に行動して・・・片方の記憶ってやつの、その両方を俺は持っている。・・・お前が確認したいのは、そういうことだろう?」
アッシュがどこか吐き捨てるように言うと、ジェイドはうつむき加減になって眼鏡に手をかけ、
「ええ・・・。」
と憎たらしいほど冷静な口調で、そう答えた。
「・・・私が確かめたかったのは、そういうことです。よくわかりました。ありがとうございます。」
それがやつあたりだとわかっていてもジェイドに、否定してくれよ、と言いたくなったのは、きっとガイだけではない。
だが、ジェイドはあたり前のように否定などせず、それと・・とそのまま話を進める。
「もうひとつ・・・貴方がたが襲われた時の状況なのですが・・・。一体どうなったのですか?」
「どうもこうも。」
アッシュの眉間の皺が深くなる。
その顔には、屈辱がにじみ出ていて、元特務師団師団長という肩書をもつ彼からしたら、いきなりとはいえ侵入者に後れを取ったなど、到底仕方なかったですまされる問題ではないのだろうと推測できた。
「・・・なにしろヤツは、襲撃者にしては意外すぎた。なんでこんなところにいるんだ?と思っていたら、いきなり、だ。なんだか変なものを投げつけられたが・・・。」
「その侵入者ですが。」
ジェイドが確かめる為に口を挟む。
「ウィザード第三施設の管理責任者、リグロ・・・で間違いありませんか?」
「ああ。」
アッシュは即答した。
「ヤツで間違いない。そもそもあいつが、グランコクマにいるなんて聞いてねぇぞ?第三施設を吹っ飛ばした報告で訪れてでもいたのか?」
「いえ。」
ジェイドは眼鏡をあげる。
「そのような報告は受けていません。問い合わせたところによれば、軍の人間は誰も彼の顔を知らなかった。事前に宮廷内に滞在していたということもなさそうです。」
「・・・ふぅん?」
アッシュは気に入らないな、というように鼻を鳴らした。
「だったら、なんでヤツは軍施設内をうろうろしてたんだろうな?それに・・・。」
アッシュの指がそれ、というように小動物を指さした。
「そいつが、ここにいるのも変な話だ。シェリダンからひとりで来た訳でもねぇだろうし、リグロが連れてきたのか?」
黄色いチーグルは自分が話題にのぼっていることがわかるらしく、ゆらゆらと丸い耳を揺らす。
「それに関しては、たぶんそうでしょう、としか言えませんねぇ・・・。」
ジェイドはため息をついた。
「スターがソーサラーリングを持っていれば話せたかもしれませんが・・・。シェリダンにはリグロが目撃されていないか問い合わせているところです。」
「ヤツのシェリダン行の目的がわかれば、この馬鹿げた襲撃の目的もわかる、ということか?」
「・・・そう望んでいます。あまり期待しない方が良いかもしれませんが。」
アッシュが、ジェイドを探るように睨んだが、ジェイドはその視線に気がつかないかのように、ガイたちに顔を向ける。
ディストの目撃情報から、リグロの人相と似ているとあたりをつけていたが・・・アッシュの証言により、これで襲撃者がリグロであることが確定された。
それはわかったところで、喜ばしいことでは全然ないし、ましてやわからないことが増えたという印象しかない。
なぜに、リグロが。
科学者がこんな極端で大胆な方法をとってまで宮廷内に押し入ってきた意味がわからない。
そして、それよりも頭を悩ますのは・・・。
以前、アッシュは・・・リグロに会ったことがなかった。それならば、なぜここにと思ったのは、アッシュではない筈だ。思ったのは、きっと・・・。
そう思い、ガイは頭を振った。
ここにきて、本当にアッシュがルークの記憶を持っているのだと確信せざる負えなくなって・・・とたんに、やるせなくなった。
back/next
|