33.

 

 

 

 

 検査が終わり、いよいよジェイドがグランコクマに戻ってしまった後、一同は宿屋に向かおうとしたのだが・・・意外にもそこでナタリアの反対があった。

「ベルケンドの知事は、2年前と変わらず未だにビリジアンですの。」
「?なにかまずいの?」
 ビリジアンとは、前回の騒乱の時にも内密に協力して貰った仲であり、今更なにかの不都合がある訳はない。
 そう思っていた一同に対し、ナタリアはきっぱりと首を振った。
「ビリジアンはファブレ公爵の片腕とも言われる人物です。彼に会えば・・・わたくしたちの動向もアッシュたちのことも、ファブレ侯爵の耳に入ってしまう可能性がありますわ。」
「え?」
 その声は、ファブレ侯爵に彼らの動向が知れることへの驚きではなく、ナタリアもキムラスカへの連絡をためらっているということが知れたからだ。確かに今までナタリアは、ふたりの事を伏せていたが、それはどうやらファブレ家に戻るのを嫌がっているアッシュへの気遣いであって、ナタリアは本心では、キムラスカに一刻も早くふたりの事を知らせたいと思っているに違いないと、誰もが勝手に思っていた。

「今のこの状況では、報告しても混乱を齎すだけですもの・・・。」
 本当なら、マルクトにも伏せておきたかったが、それは叶わなかったので仕方ないとして・・・。
 そういう訳でナタリアは、キムラスカ王の父はもとより、ファブレ侯爵にもふたりの事は知られたくないのだ、という。
 もっともナタリアは、ファブレ侯爵と夫人は、アッシュとルークの両親であり、本来ならば一番初めに報告をしなければならない人物であるということも自覚してる。
 けれどこの・・・ふたりが入れ替わったり、大爆発の危機を抱えていたりという状況は、とても鳩で説明できるものでもないし、したらしたで・・・悪い憶測が飛び交う結果になりかねないという危惧があった。
 シュザンヌは息子を失って以来、気をふさいでいることも多く、だからこそ彼らの帰還はこれ以上にない喜びだろうが・・・逆に諸刃の剣でもある。喜びが大きければ大きいほど、深刻な状況に一転した時の落胆はそれ以上だ。ぬか喜びにならないとも限らない今、この一件が落ち着くまでは、キムラスカに彼らのことを知られないようにしてほしいとナタリアは言った。

「・・・わたくし、卑怯でしょうか・・・。」
 本来、全ての理において知る権利は誰にでもあり、それを知るか拒否するかは個人の選択にゆだねられるべきだ。
 それがわかっていても尚、国の・・特に政に関わる・・・一大事に発展する可能性を思うと、混乱を招いても報告すべきだ、という決断ができない。
 蒼い瞳を曇らせたナタリアに、ガイは、そうだなぁ、と相槌を打った。
「確かに、奥様にはふたりが帰ってきたことを知らせるほうが良いんだろうが・・・。けどナタリアのいう事ももっともだな。第一、今の俺たちはアッシュとルーク・・・か、どうかはまだはっきりしないが、このふたりをファブレ邸に連れ戻されると動きが取れなくなるのも事実だ。」
 なにしろ、この全てはアッシュとルーク、ふたりを中心にして起こっている事は間違いがない。
 今、このふたりに抜けられるのは、航海のまっただなかでコンパスが壊れてしまうようなものだ。
「・・・だから、俺はナタリアの意見に賛成だ。奥様には申し訳ないが・・・それでも、ルークとアッシュ、ふたりが揃って無事に帰還しましたっていう知らせの鳩を受け取ったほうが、奥様の体調には良いに決まっている。」
「・・けど・・・それができなかったら・・・?」
 なにしろ・・・本当はルークがどこにいるのか・・・最悪は消えたのかもしれない・・・すらはっきりとしない今だ。この先、この一件がどこまで長引くかわかったものではない。
 地雷を踏むのをためらうように、アニスがおずおずっと言うと、不安が滲むその口調を感じて、ガイは、大丈夫だって、と胸を張ってみせる。
「だから、そういう報告ができるように俺たちもがんばるんだよ!」
 自分たちががんばってどうなるものなのか、と誰でも(たぶんガイですら)不安を覚えたが、それは誰も口にしなかった。

「ということは、やっぱりダアトも駄目だよね。」
 さきほどの不安な顔から一転、笑みを浮かべながら、そう言ったのはアニスだ。
 実は、グランコクマを出立する時、ベルケンドでの検査が終わったら、改めてダアトへ向かおうかという話も出ていた。
 そもそも彼らが、報告をする為にダアトへ行こうとしていた矢先に、リグロの襲撃があり・・・その後状況が一変した為にそのままうやむやになっているのだが・・・ことが複雑化していく一方の中、トリトハイム大詠師にいつまでも報告しないのもどうなのだろう?という流れだったのだが。
 あからさまな反対の意を唱えこそしなかったが、アニスは嫌そうだった。
 
 彼女とティアの仕事は、鮮血のアッシュの捜索だったから、これは達成されたとみなして良いだろう。
 だが、そうなると・・・一緒にいるルークの存在がやっかいなのだ。
 もともと"ハレルヤ"は教団所属なのだから、ダアトに戻ることになるに決まっていた。では・・・ダアトは誰を"ハレルヤ"とするのだろう。
 以前ならいざ知らず、"ハレルヤ"は実はアッシュで、そのアッシュは今は鮮血のアッシュに戻っていて、ルークと思しき人物は今は"ハレルヤ"と同じように預言を詠む・・・・などと説明しても納得してはもらえまい。事実を報告すれば、理解されるされないに関わらず、ルークと思われる今の彼の方が"ハレルヤ"として教団に"保護"されてしまうに違いないというのだ。

「それは。ちょっと困っちゃうでしょ。」 
 ふたりがファブレ邸に連れ戻されるのも困るが、ダアトで保護されるのも困る。
 しかも、ルークは"ハレルヤ"ではないのだ。
 どちらにしろ状況は同じなので、ダアトにも知られないように行動することを肝に銘じて行動しなければならない・・・アニスとティアは命令違反すれすれの気もするが、無理を通す方が賢明に思える。

 

 

 そういう経緯があり、一同はルーク橋を挟んだ向こう側、シェリダンに宿を取ることにした。キムラスカにもダアトにも知られにくく近いからである。


 調度良かった、とアッシュが言う。
「調度良い?なにが?」
「シェリダンにはもうひとり、話を聞かなければいけないヤツがいるからな。」
 そして、ギンジは今どこにいる?とノエルに聞く。
 それで一同は、以前自分たちが持ち帰ったアムラジェの目撃情報のことを思い出した。
 ギンジは、今や要人ご用達のアルビオールのパイロットであるからシェリダンにいない可能性もあるが、もっと詳しい話を聞きたいところである。
「それならば、良いタイミングですよ!」
 ギンジは午後からアルビオールで出なければならないが、それまでは格納庫で整備を行っている筈だという。
 今がチャンスとばかりに、一同は格納庫を目指す。
 シェリダンの道は舗装されているところがほとんどだが・・・格納庫へ坂は砂利道だったので、全員がその上を歩くと、ざっざっと大きな音がした。それは2年前、神託の盾騎士団に攻め入られた後、技術者たちがわざとここに砂利を敷いたのだそうだ。貴重な音機関であるアルビオールが収まっている格納庫に、万が一にも賊が押し入らないよう警護の目的があるという。


「あぁあ!!!アッシュさん!!!」

 格納庫の扉を開けた途端、いきなりギンジと正面衝突しそうになって驚いた一同だったが、ギンジのほうは他の者には目もくれず、一目散に赤い髪に飛びつく。(飛びつく前にアッシュに避けられたが)
 なんでも、一同が来たことはもう噂になっているらしく、しかもその中に赤い髪の人物がいると聞いていてもたってもいられず、駆けつけようとしていたところなのだそうだ。
「アッシュさん、アッシュさん・・・。あぁ、おかえりなさい・・!よくぞご無事で・・・!!」
 ギンジは大の大人であることなどになりふり構わず、大号泣だ。
 さめざめと泣く姿に、アッシュはうんざりとした表情を浮かべたが、自分よりも長身の男が自分の服の裾を掴んでいても、振り払おうとはしなかった。
 


「あの姉妹のことですか?覚えてますよ。なんてったって、スターの誘拐犯ですから。」
 ちーん!と鼻を咬みつつ、ギンジが言う。
「誘拐犯っておおげさな・・・。」
 ぷっとアニスが笑いかけたが、
「誘拐ですよ!!スターの意志を無視して連れて行ったんですから!!」
 いつも穏やかなギンジのあまりの剣幕に、全員が言葉を失ってギンジから視線を逸らす。その視線の先にはガイがいて、お前言え、という空気をひしひしと感じたガイは、ひきつりながらギンジに向き合った。
「あー・・・でも、その姉妹が連れて行ったかどうか、証拠がない訳で・・・。現に、スターは姉妹のいない場所で見つかった訳だし・・・。」
「そんなのあの姉妹が誰かに売渡したんですよ!チーグルは密猟の絶えない生き物だし。」

 確かにチーグルは、魔物のとはいえその可愛らしい姿と、ローレライ教団のマスコットという立場から子供にも人気がある生き物だ。捕獲を禁じられているが、その人気を商売に転じようと密猟を企む者の後を絶たない。

 ギンジは、あの姉妹もスターでお金を儲けようとしたに決まっている!と息巻いている。
 うーん、とガイは頭を掻いた。ギンジのいう事は全否定できないが、こちらが想像している経緯とは違う気がするのだ。
 と、ここでギンジの話が一向に進まないことが面倒臭くなったのか、いかにもそういう態度で、アッシュが会話に割り込んだ。
「・・・誘拐かどうかはさておき。」
「はい。」
 流石にギンジもアッシュ相手に、誘拐にきまってます!とは言い返さなかった。だったら、初めからアッシュが話してくれよ、と泣きそうになるガイである。
「その姉妹だが・・・スターを可愛がっていたという以外に、なにか覚えていることはないか?些細なことで構わない。」
「覚えていることですか・・・。」
 うーん、とギンジは首を傾げる。
「そうだ。お前の印象でもなんでも良い。そもそも、その姉妹はシェリダンに何をしにきたんだ?」
 それにはギンジより先に、答える声が上がった。ノエルだ。
「そのふたりって・・・最初は、ベルケンドへ行こうとしていた筈ですよ?」
「ベルケンド?」
 そもそもずっと一同と行動を共にしていたノエルがどうして知っているのだと不思議に思っていると、ノエルは街の人たちの噂話から情報を得たのだという。
「そもそも・・・このシェリダンに若い女性が訊ねてくること事態が珍しいので、目立つんですよ。だから、宿屋の主人もたいした意味もなく、なにしに来たのか聞いたらしいんです。チェックインの時の余談で。そうしたら・・・2、3日中には橋を渡って、ベルケンドに行く気だって答えた、と。」
「ベルケンド?その姉妹はベルケンドにも現れてたのか?」
 だとしたら、前回ベルケンドを訪ねた時に、スピノザから聞かされそうなものだ。だが、スピノザはリグロに会ったとしか言っていない。それに。
「いえー。それがそう言ってたくせに、結局ベルケンドへは行かなかったっぽいんです。」
 とギンジが答える。
「行かなかったのか。」
「はいー。いきなりスター連れて消えちゃって・・・。」
 初めはベルケンドへ行くつもりだった。けれど結局は行かなかった。その間になにがあったのか。

「・・・もしかしたら、そのベルケンド行きって・・・リグロと合流するって事だったんじゃない?」
 それが一番打倒と思われるが、それにしても妙である。
「しかし、リグロは面会を申し出たスピノザにも会ってないんだぞ?スピノザにも会わず、合流する筈の姉妹も待たずにベルケンドを発ったっていうのか?」
「だからそれは・・何か不測の事態に遭遇して、変更を余儀なくされたとか・・・。」
「不測の事態にあたるとしたら・・・ドロシーのデータを手に入れた事が、考えられるけど・・・。」
「それだろうな。」
 アッシュがきっぱりと肯定したが、もはやそれしか考えられないというのが一同の共通の見解だ。
「それにしても・・・なんなんだろうなぁ・・。」
 ドロシーのデータを手に入れたとしても、それが急を要する理由にはならないように思う。本来はスピノザを訪ねたのだから、データを手に入れたことは目的とは別の予想外の幸運だった筈だ。それで訪ねた行った本来の目的が達成されないのは・・・本末転倒も良いところだ。
 
「リグロは・・・もしかして急いでいる?」
「って、なにを?」
 ガイの思いつきに、懐疑的な声で答えたのはアニスだ。
「いや・・・なにかってそこまでは。だけど、どうにも・・・リグロの行動って一貫性がない気がするんだよ。グランコクマを襲ったことといい、スピノザを訪ねたくせして会わずに帰ったことといい・・・。」
「どちらかと言えば、スピノザを訪ねたからこそ、行動に一貫性を失ったのだと思うがな。」
 アッシュはそうは言ったものの、ガイに同意の意を示す。
「・・・だが、奴が急いでいる、というのは俺も同感だ。どうにも・・・焦りのようなものを感じる。」
「もしやドロシーになにか?」
「断定はできないが、それしか考えられないな。シュウ医師の検査ではなんの異常もみつからなかったけど、その後症状に変化が現れたのじゃないか?」
 ガイにひとつ頷くと、アッシュはギンジに向き直った。
「その姉妹の妹の方だが、なにか具合が悪そうといった感じはあったか?」
「うーん・・・いえー。気がつかなかったですー。」
 そんなこんなで話し合っていると。

「おや?お前さんたち、また来ておったのか?」
 聞き覚えのある声がして一同が振り向くと、そこにはアストンがいた。
 少しだけびっくりしたようなその顔を見て、一同は挨拶も禄にしていないことを思い出す。
「あー・・お邪魔してます。」
「ギンジが出かける前に、ちょっと話を聞きたくって急いでいたもので・・・。」
 言い訳じみたことを口にし出した一同だったが、アストンは別にそんなことに腹を立てたりはしておらず、むしろ来るなら事前に言ってくれれば茶菓子の用意をしているものを・・とそちらの方が気になるようだった。
「それにしてもなんじゃ?ギンジに緊急に聞きたい話ってのは。」
 アストンがギンジを指さす。
「こいつは、単なる飛行艇乗りじゃ。アルビオールの操縦の腕は確かじゃが、それだけの頭しか持っておらん。なにかの相談なら、ワシの方がアテになるぞ。」
 ギンジは、えー?と眉をハの字にして情けない表情をつくったが、全員は笑った。
「いやー、そんな難しい話じゃなく。スターを連れ去った姉妹のことを聞きたいだけなんで。」
 ガイが人の良い笑みを浮かべて言うと、アストンは、おや、という顔になった。
「あの娘っ子たちのことか?」
「ええ。アストンさんも会ったんですか?」
「うむ。よく覚えておる。」
 その口調に単にみかけたというものとは違う意味合いを感じて、一同は顔を見合わせた。
「覚えてるってことは・・・なにか印象に残るようなことでも?」
「ああ・・・細かいことといえばそうなんじゃが・・。」
 そこで、アストンは、はっとなにかを思い出したようで、
「そうじゃ!アルビオールで移動を依頼してきたベルケンドのお偉いさんが、もうすぐ到着するという連絡をお前に知らせに来たんじゃった!」
「ええ!!」
 ギンジは、飛び上がるようにして驚いて、
「そんなー!!出発は午後からだったじゃないですか!まだ整備が終わってないのに!」
「だから、急げ。準備が整うまでは、こっちで待って貰うから。」
 はい〜〜〜と情けない声を出して、ギンジが工具を抱き上げたのを確認してから、アストンは一同を振り返った。
「ま、そういう訳じゃ。ギンジは手が離せないんで、お前さんとは茶でも飲みながら、あの娘っ子たちの話をしようじゃないか。」
「そういうことでしたら、ぜひ。」
「やったー!調度、喉も乾いてたし!」
 喜んで早くも格納庫の出口へと向かう一同の後ろからは、ギンジの恨みに満ちた呻き声が聞こえた。


 


 研究の主は間違いなくアストンだが、部屋の中の顔ぶれは変わってきている。
 以前は、イエモンたちがいた場所には今や誰も座っておらず、一同はアストンに促された一瞬、腰を下ろすことにためらいを覚えたのだが、ほどなくして眼鏡に髪をひとつ結びにした若い女性が、紅茶を用意してきたことで、そのままテーブルに落ち着いた。
 こちらの人数が多い為、紅茶の用意に何度も行き来しなければならないことを察したガイが、すばやく女性を手伝いにまわる。聞けば、彼女はあの事件以降、ひとりで研究をすすめるアストンの助手になりたいと、自ら志願してきたのだという。
 
 ガイが手伝いをしているのを見て、面白そうだと思ったのか朱赤の彼も混ざりたがった。
 ガイについて、ひょこひょことついて回る様子は可愛いが、手元はまだ覚束ない。
「じゃあ、これを頼むよ。落とさないように、ゆっくりとな。」
 とガイに注意され、うん、とひとつ頷いた朱赤の彼は、言われた通りに手の中のカップの紅茶がこぼれないように凝視しながら、しずしずと体を揺らさぬようにして歩いてくる。その姿は一同の笑みを誘った。
 昔。
 ルークを育てたというガイに、ルークに甘いと散々文句を言ったものだったが、今ならガイの気持ちもわからないではない。・・・今後、彼の動向が度を越したものになったとしても、なんやかやと許してしまいそうな気がする。
 その朱赤の彼は、テーブルまで到達すると、ティアの前にカップを置く。
「あ・・ありがとう。」
 お礼を言うティアに、にかっと笑い返すと、すぐに踵を返し、またひとつ、紅茶を取りに行く。

「ああやって・・・色々な事を学習し出しているのね。」
「そうだ。人間の子供のとなんら変わりはしない。」
 返事をしたのはアッシュだった。
 ティアが振り向くとアッシュはガイが運んできたミルクティーに無表情のまま口をつけているところで、その発言の真意がどこにあるのか図りかねた。


 

 全員に紅茶が行き渡り、ひと息ついた頃、
「そうじゃ。あの娘たちの話だったな。」
 もくもくと頬を膨らませながらクッキーを食べている朱赤の彼に目を細めたアストンが、思い出したように言った。
「そうなんだ。訳があって、ちょっと調べてるんだが・・・。アストンさん、確かなにか気になることがあるって言ってたよな?」
 ガイが言うと、アストンは、うむと頷き、それを取ってくれとアニスの後ろの棚を示す。
「これ?」
 アニスが手を伸ばしたのは、データディスクで、なぜかケースに可愛い花のシールがつけてある。他のものと混じらないように、目印だろうか。
 アストンは、そうそうこれじゃ、とアニスからディスクを受け取った。

「そもそも、あの姉妹の・・・妹の方が、えらくスターを気にいっての。毎日のように通ってきては、スターと遊んでおった。」
「ええ。それはギンジから聞きましたわ。」
 全員が頷くと、そこは知っておったか、とアストンは満足そうに笑った。
「スターも喜んでいたようだし、まぁ、よい遊び相手ができたわい、と思っておったんじゃが。」
「・・だけどそれが原因で、連れ去られたってことだよな?」
 ガイが言うと、まぁ待て、とアストンは言う。
「ワシはどうにも・・・妹がスターと離れがたくて連れ去ったばかりではないのでは、と思っておる。」
「と、いうと?」
「そこで、そのディスクの出番じゃ。」
 アストンは言って、アニスの目の前のディスクを指した。

「それは、スターの記録なんじゃがな・・・。あの姉妹の姉が見たがっての。」
 姉。アムラジェ(らしき人)の方だ。
「それで見せたのかい?」
「ああ。別に秘密にせねばならないようなことはないしな。・・しかし、スターの記録を見たがるなぞ、普通の娘にしては酔狂だろう?」
 たとえば、ミュウがいくら可愛いからと言って、ティアがミュウの詳細なデータまで把握したいかといえばそうではない。
 アストンの疑問ももっともだ。
「それで・・・そもそも何故にあの姉は、記録なんぞに興味を持ったのか、そのきっかけを思い出そうとしたんじゃ。」
「なんでだったか、思い出したの?」
「ああ。きっかけは・・・レプリカの話からじゃった。」
「レプリカ?」
 そう聞いてガイは、アニスに目配せをする。
 ドロシーの件にしろ、アムラジェが被験者、レプリカどっちつかずの体質をしていることにしろ、彼女たちにはその問題がついて回る。
 だから、アムラジェがレプリカに関する事柄に興味を示すのも納得できる話だ。

「妹がスタート遊んでいる間、姉の方がワシらと茶を飲んでいることもあったんだが・・その時に、あの子がレプリカだ、という話になっての。」
 あの子、というのは先ほど全員に紅茶を振る舞ってくれた彼女のことだ。
 え?あの子がレプリカ?と一同は口に出さずに、目を丸くする。
「お前さんたちも知っての通り、プラネットストームが停止して以降、大気の音素が減ってきている・・・。研究には、薄くなった音素・・・とりわけ第七音素を上手く取り出せる人間が重宝されているんじゃよ。レプリカは、第七音素と相性が良いから、彼女に手伝って貰って助かっている、とこういう説明をしたんだが。」
 するとアムラジェは、さも納得したという顔で、頷きながら聞いていたという。
「・・・だから、ふとこの娘ももしやレプリカではないのか、と思った。直接聞こうかと思ったが・・・世の中、レプリカに好意的な被験者ばかりではないからの。余計な警戒心を抱かせては可哀想だと思って、スターがレプリカである話をした。」
「それで、アストンさんの感触ではどうだい?」
「感触、とは?」
「お姉さんは、レプリカだと思うかい?」
 ガイが興味を持って、アストンの感想を伺うのは、至極あたり前のことに思えた。
 アムラジェがレプリカか否かは、結局のところ、この件には大きく関係のないことかもしれないが・・・どうしても無視できないのも確かだ。
「いや。」
 アストンの答えは、彼らの意見と反対だった。
「あの娘は、レプリカではないと思うぞ。」

「え!?」
「どうしてそう思うのです!?」
 答えたことに大げさなほどの反応をされて、アストンの方が驚いたようだった。
 びっくりしたように目を見開き一同を見渡して、明確な言葉を失ったようだったが、すぐに持ち前の冷静さを取り戻し、彼なりの分析を披露する。
「なぜ、というのなら、答えは簡単じゃ。彼女はレプリカにしては、色々な知識を持ち過ぎている。」
「知識って・・・だって、それは。」
「そうじゃな。今ではレプリカは、施設でしっかりとした知識を得てから世の中に出てきている。それによって、一見では被験者とレプリカの違いなど、普通の人間ではなかなか見抜けないものじゃ。ワシのいう知識とはそういう類のことではなく・・・彼女はどこかで長きに渡り勤勉が必要なほどの、けっしてレプリカが誕生してからの2年では習得できないような知識を持ち合わせている。という意味なんじゃ。」
「勤勉?」
「2年では習得できないような?」
「それは、どういう意味だ?」
 それまで黙って聞いていたアッシュが、眉を顰めてアストンの話を促した。

 

 

 

 

 

 


 

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話がぶちと切れて申し訳ないっすー。
長くなったので続きますー。
 


 

(’13.02.27)