ふたりが帰ってきて、国務に関わるようになってからというもの、夕食時の父の口数が多くなった。
それが固い仕事の話でも、今までの厳粛にしんとした食卓よりも断然花があると母は言うし、ルークとアッシュにしても、長い間の親子の溝が埋められるような気がしているのも確かだ。
それまでのクリムゾンといえば、しかめっ面しかしていなかった人なので、思うに、帰ってきた息子たちとの絆を取り戻そうという、彼なりの家族サービスのつもりなのだろう。
もちろん父の話は甘言ばかりとは限らない。
時には至らぬ息子たちへの助言だったりするのだが、それでも息子が可愛くてしかたのない母は、ふたりの話を聞けば喜ぶ。
父の話に時には照れたり、怒られてしゅんとしたりするが・・・なにしろ、アッシュもルークもまだまだ勉強中の身だ。しかも、ひとりは軍属、ひとりは箱入り&放蕩息子であった訳で、そのふたりを導こうとする父には、それなりの苦労もあるに違いない。
それでも仕事に関しては、伸び伸びとやらせてもらっていると自覚はある。父の器というものを見せられているようで、本当に頭が下がる思いだ。
今日の夕食のメニューはルークの好きなエビのグリルがメインで、父がアッシュの仕事ぶりを褒めているのを聞きながら、ルークは、エビの身にフォークをつきたてた。
横ではアッシュが礼儀正しく父に礼を言っている。
アッシュが褒められると、いつでもルークは、自分のことのように誇らしくなる。
もしかして、兄弟の情というものなのかもしれないとは思うが、もしも本当にアッシュと兄弟だったなら、この胸に最初に灯るのは誇りよりも競争相手への嫉妬のような気がする。
だから、たぶんこれは、優秀な被験者を持つ、レプリカのものなのだ。
そんな事を考えていた時のことだ。
「ときにルーク。先日の開拓事業の案件。よく領民と地主との理解を得られたな。陛下がお褒めの言葉をくださったぞ。」
父の思わぬ言葉にルークはフォークに刺していたエビをポロリと落とし、
「は・・・はいっ!」
とエビを落としたことにも気がつかない様子で、ルークは真っ赤になって返事をした。
政府側の利権と領民の意見が食い違い、長い間放置されていた案件を、ルークがまとめあげたのはつい先日だ。
政府と領民と主張は対立しているようにみえて、実はそこに思わぬ共通点があり、双方の意見をよくよく聞いたうえで、その点に気がついたルークが政府からの援助を盛り込んだカタチで領民を説得したのだ。
もともと民と近しくしているルークなら、と聞く耳を持ってもらえたことも影響が大きかった。
父は、よく勉強したなと言って、再度ルークとアッシュを褒めた。
ありがとうございます、と嬉しくて叫びたい気分を抑えながらルークが礼を言い、ちらりと横目でアッシュを見ると、同じようにちらりと視線を投げて寄越す。
その目には、よくやったな、という労いの色が浮かんでいて、更にルークの気分は高揚した。
すると父は、自分が行く予定だった視察のひとつをお前たちに任せたいが良いか、と言う。
「ついでに、数日の休暇も取ってくると良い。視察の場所はシェリダンだが、そこからどこか好きなところへ移動するのも許そう。アルビオールは手配しておく。」
「え!?本当ですか?父上!」
目を輝かせるルークに、現金な奴だな、というアッシュの苦笑が聞こえてきた。
「休暇だぜ休暇!ひゃっほう!」
「・・・本当に、"ひゃっほう"とか言うやつがこの世にいたとは、驚きだな。」
自室に帰るなり、靴を脱ぎ捨て、ベッドの上で浮かれるルークにアッシュは呆れ顔だ。
ふたりの部屋は大きくしつらえた離れで、廊下を挟んで向かい側に用意されているが、夕食後は片方がどちらかの部屋に入り込むのが常だ。
そこで、同じ仕事を任されることが多いふたりは、翌日の予定や難しい案件に意見を出し合うなどして過ごす。
時には目的を忘れて雑談にふけることもあるが、ルークにとっては、一日のうちにもっとも寛げる時間であり、その分貴重で大事な時間で、アッシュだけが外の公務で帰りが遅くなることがあっても、寝ないで待っているほどだ。
「あー、もうアッシュってば、嬉しくないのかよ!?」
しかし、今日に限っては公務の話どころではない。
ルークははしゃぎまくって、まるで遠足にいく前日のような状態だ。休暇はまだ先の話だと言うのに。
「なー、どこに行く?アッシュは行きたいとこないのか?」
「・・・・・どこに行くも、休暇の期間次第だな。父上も視察のついでにとは言ったが、何日も休めとはおっしゃってない。今後のスケジュールによっては、1日になる場合もある。そうなったら遠出はできないだろうが。」
「えー・・・。」
出鼻を挫かれたように思うルークだが、アッシュの言うことはもっともで、密かに1日でも長い休暇が取れないかな、と思う。
ルークが不満そうにしながらも黙ったことで、理解したことを察したアッシュは、少しだけ口元を綻ばせてみせて、
「俺はシェリダンの滞在でも、一向に構わないがな。」
と、ルークに話を合わせた。
「え?そうなのか?」
別段、アッシュはガイのように音機関好きというのでもないのだから、退屈しそうなのにとルークが思っていると、その視線でなにを考えたのか察したのか、アッシュは笑って、
「ギンジがいるから、退屈はしねぇ。」
と言った。
「・・・・・。」
「帰還した後は、好きな時に会うことさえ儘ならなかったからな。ゆっくり話をするのも久しぶりだ。酒でも酌み交わしてみるかと思えば、それも楽しみだ。」
「へえ・・・。」
ぱちぱちと瞬きをする、意外なことを聞いた時のルークの癖が出て、それからゆっくりとルークの顔に笑みが浮かぶ。
その一部始終を見守ることとなったアッシュは、少し不気味そうに眉間に皺を寄せて、なんだ・・?と訝しげに聞き返した。
「いや・・・アッシュがそんなこと言うなんて思ってなくって。ギンジとは仲良いんだな。」
「仲が良い・・・か?」
アッシュは少しだけ首を傾げた。アッシュが、こういう穏やかな仕草をすることをルークは最近になって知った。
「まあ、悪くはねぇだろうが・・・。旅の途中は必然的に同行してた訳だからな。仲が良いとか悪いとか考えたこともないが。」
「でもでも!」
食いつくようにして、ルークはベッドの上でがばっと起き上がる。
「その口ぶりじゃ、前にも一緒にお酒飲んだりはしたんだろ?」
「街に入りゃ、一緒に飯くらい食うこともあったからな。」
「ふうん・・・。」
なんだか煮え切らないなぁ、とルークは少し不満げな顔をして、俺のことで口を尖らせてんじゃねぇよ、と笑われた。
「お前のとこは、大所帯でいつもがやがやうるさかったな。」
と、昔のルークたちの事を思い出したのか、あの頃は暇そうに見えたもんだぜ、と酷い事を言う。
暇そうに見えるかどうかはさておき、確かにそうだな、とルークも思う。
あの頃、自分自身の存在意義と、世界救出と、師匠打倒と。
すべてが一度に覆いかぶさり、ルークの世界は暗転してしまった。
それでも・・・あの旅のすべてが辛かったとは、微塵も思わない。
ジェイドは辛辣だし、アニスはシビアだし、ナタリアは天然だし、ティアは厳しかった・・・ガイはいつも通りだった・・・が、彼らがもしもいなかったら、ルークなどとっくに、風に飛ばされる木の葉の如く、絶望に飲み込まれてしまっていただろう。
その淵ぎりぎりで踏ん張れたのは・・・仲間たちという存在のおかげだと思う。
ルークの告白をアッシュは目を細めて見つめていたが、
「そういえば、お前のとこの操縦士は妹の方だったな。」
と笑みを見せた。
だったらお前は妹に会いに行けば良い、と言う。
「それで、お前だけ妹の操縦するアルビオールで、昔の仲間のところに行ったら良いんじゃねぇか?・・・まぁ、休日の日程次第だが。」
「え?」
かつての仲間との旅に思いを馳せていたルークは、そのアッシュの言葉で我に返った。
「え?え?なんだって?」
「仲間に会いに行ったらどうだ、と言ったんだ。」
アッシュは言った。
「俺がギンジと久しぶりなように、お前もお前の仲間とは久しぶりだろう?ナタリアとは、しょっちゅう城で顔を合わせているにしても。グランコクマでもダアトでも、好きな方に行って来いよ。」
「それって・・・アッシュも一緒?」
ルークが言うと、アッシュは心底呆れたような顔になって、お前人の話聞いてないだろ、と軽く睨まれた。
「なんで俺が、お前の仲間に会いに行くんだよ。お前だけ行って来いって言っただろうが。それとも、ひとりじゃどこにも行けないのか?」
まるで子供をからかうような意地悪な物言いに、(実際、ルークは実年齢をアッシュにからかわれることが多い)ルークは、ぷくぅ、と膨れ、
「そんなの行けるに決まってるだろっ!」
と拗ねたように吠えるルークに、アッシュは、相変わらずガキだな、と笑った。
待ちに待ったシェリダン行きの日は、朝から雲一つなく晴れていて、空を飛ぶのにもってこいだった。
アルビオールのことを考えている為に、ついついそんな発想になってしまう。
あらかじめ訪ねていくと連絡してあったおかげで、シェリダン港についた途端、ギンジの満面の笑みが待っていた。
それはまだ着岸していない船の上からでも確認できるほど、派手な出迎えで、長身のどう見ても大人の男が、ぴょんぴょんと飛び跳ねながら船に向かって手を振っている。
「・・・アッシュ、あれって・・・。」
「言うな。」
ギンジだよな、というルークの言葉は、アッシュに阻まれて続けられなかった。
「アッシュさん!ルークさんっ!お久しぶりです!」
港から降り立つと抱きつかんばかりにして、ギンジが走り寄ってくる。
アッシュとルークのシェリダン滞在は、一応視察の名目であったし、シェリダンを統治している役職方も出迎えてはいるのだが・・・なんせ、ギンジの目立ちぶりは彼らをも引かせるほどだ。
しかし、見ればギンジは目に涙まで溜めている。
再会をこれほどまでに喜んでくれていると思えば、恥ずかしさなどどこかへ飛んで行ってしまう。
ルークは、出迎えのお偉いさんよりも先にギンジに抱き着きそうになって・・・アッシュに小突かれて思いとどまり、シェリダン駐在者に形式の挨拶を交わした。
「さっきはごめんなさい。つい嬉しくって・・・オイラ、明らかに浮いてましたよね?」
ご迷惑かけちゃって・・・と申し訳なさそうに言うギンジに、気にすんな、とルークは笑った。
俺も嬉しかったしさ、と付け加える。
挨拶も無事終わり、ふたりはギンジの待つ、め組の工房にやってきていた。
ここには・・・忘れられない苦い思い出もあるが、さらにそれ以上に、温かい思い出もある。
ルークは、足を踏み入れたとたん、階段の上から手を振る老人の姿を見た。
それは記憶の作り出した幻に違いなかったが、古くからの友人にふいに会った時のように、ルークの目頭を熱くさせたのだ。
ルークの返答を聞くと、ギンジは嬉しそうに笑い、それから、
「今、ノエルは仕事で出かけてますけど・・・調度おふたりの休暇に間に合うように帰ってきますよ。好きなところへ飛べと支持してくださいね?」
と柔和な口調で言った。
「うん・・・。」
返事をしながら、ルークは思った。
ギンジはいつも笑みも話し方も優しく、およそ揉め事や喧嘩などとは縁遠く見える。
もしかしたら、この柔和さが、アッシュとは相性が良いのだろうか。
温かみのあるものに触れると、アッシュでも心を許し、親しみを感じるものなのだろうか。
それが、ギンジ・・・?
「それで、アッシュさんは?」
そんな事を考えていたルークの目の前で、ギンジはアッシュに向き合う。
オイラはアッシュさんを連れてどこへ飛べば良いんですか?と言いながら輝く瞳に、ルークはあれ?と思った。
さっきから思っているように、ギンジは誰にでも優しそうだ。
だが・・・さきほどルークに見せていた顔と、アッシュに向けている笑顔は・・・どこか違わないか?
違うといっても、とても微妙で、はっきりとどことはいえない程の違いだが。
「俺はどこにも行かん。」
アッシュの声で、ルークは、はっと我に返った。
「え?どこにも行かないんですかー?」
そんなぁ、オイラはりきってたのに!とギンジが嘆いている。
それをうっとうしそうに眺めながらアッシュは、
「・・・休みだからな。ゆっくりさせて貰う。」
と言う。
そんなのつまんないじゃん!とルークが言おうとすると、ギンジは、あ、わかった!とぱちん、と手を打った。
「さては、一日中ごろごろしたいんでしょー。昔もよくそんなところを見ましたよ!」
ルークの、え!?という驚きの声と、アッシュの、黙れ、という制止の声は一緒だった。
「え・・・。よくって・・・アッシュって、ごろごろとか、するの・・・か?」
「ええー。」
「うるせぇ!」
にこにことルークに笑いながら答えるギンジと、思いっきり不機嫌になったアッシュの顔を交互に見比べながら、ルークは呆然と、嘘だろ・・・とつぶやいていた。
「本当ですよー。」
「だから、黙れってんだろうが。」
「この人はねー、本当は物ぐさなところがあるんですよ。服とか荷物とか、部屋に放り投げて頓着しない。ひとりの時はきちんとするんでしょうけど、オイラとか漆黒の翼さんみたいな身の回りの世話をする人がいると一向に片付けないんです。放っておいたら食事までベッドの上でしかねないんだから。」
「アッシュが・・・。」
「だから、うるせぇってんだよ!」
怒鳴るアッシュに、俺なにも言ってないじゃん!とルークが噛みつくと、その視線がうるさい、とめちゃくちゃを言う始末。
よほど気まずい話題だったらしいが・・・ルークは、それどころではない。
彼の中のアッシュは。
完璧で、なにもかもひとりでできて・・・。
「よく破れた服の
縫い合わせとか、ヨークさんがやってましたよね?」
まるで追い打ちをかけるギンジは、満面の笑みを浮かべている。
「オイラ・・・裁縫だけはダメで。だから、そこは漆黒の翼さんが。」
楽しそうな声とその笑みは、アッシュとのかつての旅が楽しいものであったことを証明している。
確かにルークとて、剣呑な雰囲気で彼らが行動を共にしていたとは思わない。
だが、ここに来る前、アッシュはふたりの関係を、別に仲が悪くも良くもない、と称していなかっただろうか。
でも今のギンジを見ていると・・・嘘なのは、アッシュの言葉の方だと思われる。
「・・・・・。」
ルークは無言でふたりを見る。
やいのやいのと余計な事を言ってギンジは怒られているが・・・浮かぶ笑みはまるで、はしゃいでいるようで、怯えていたりというそぶりは一切ない。
かつて、怒鳴られてばかりで萎縮していた自分とのあまりの違いに、ルークの胸に、複雑で形容しがたいなにかが、燃え広がっていく、そんな感じを受けた。
「あ。でも、たしかにアッシュってそういうとこあるよなーこのあいだだって書庫いったまま仕事ほうり出して帰ってこなかったし!時間を忘れちゃうっていうかぬけてるっていうか自分だけの世界に入っちゃうとまわりがみえなくなっちゃうっていうか!!」
「・・・なんだ、そのいきなりの捲し立ては。」
突然、一息に話だしたルークに、舞台の長ゼリフを聞いているようだとアッシュは目を丸くする。
ルークの方は、あー・・といきなり我に返ったような顔になって、えへへと照れた。なんだかアッシュには理解できない類のことがルークの中で起こったらしいが・・・それは自分には関係ないものだとアッシュは勝手に判断した。
元よりルークの考えていることで、アッシュが理解できることはほとんどない。完全同位体だというのに、なんてことだ。
・・・などと思っていると、いきなりルークがぱたりと口を閉ざした。
その顔はなにやら不満げであり、失敗をしてがっかりしているようでもなり・・・やはりアッシュにはルークの考えが読めない。
「ところで、ルークさん。」
そんなふたりの間に割り込むように、にこにこしながらギンジが言った。
「アルビオール、あれから新しい機能が加わったんですよー。」
「え?マジ?」
「そうなんですよ。前よりも格段とエンジンの威力が増して、猛吹雪の中も飛べるようになったんです。練成飛譜石っていうのを使って・・・。」
「あ、その話・・・。」
言いかけてルークはしまった!と思った。
だが、口から出てしまったものはもう取り戻せない。
ギンジは、え?と少し首を傾げてから、ルークが知っているという事実に気がつき、
「え?なんでルークさん、知ってるんですか?」
と問いただしてきた。
「う・・・。」
ルークはつまる。
ギンジが、あんなに嬉しそうに話していたのに、以前の旅で・・・ノエルの乗るアルビオール2号機にはそれがとっくに取り付けてあったとは、言えない・・・。
「おーい、ギンジ。」
ルークが答えに困っていると、ちょうど良いタイミングで、救いの主が現れた。
さきほどルークの再会の挨拶に、顔をくしゃくしゃにして何度も頷いていたアストンが、ちょいちょいという感じで指を動かし、ギンジを呼びつける。
ギンジは、なんだろう?と首を傾げながら、ちょっと失礼しますね!と言いながら、ルークたちから離れていって、ルークはほっと胸を撫で下ろした。
「・・・それで、なんでお前が知ってるんだ?」
しかし、どうもアッシュも練成飛譜石の話に興味を持ったらしい。
後になってギンジの話から推察したのだが、アッシュも、案外アルビオールが気に入っていたらしく、旅をしていた頃は、よく機体や計器のあちこちをもの珍しそうに眺めている姿を見かけたそうだ。
そういう面もあって、ギンジと気が合ったのかもしれないが・・・ともかくアッシュは、ルークの話の続きを聞きたがった。
ギンジがいない今のうちなら良いかと思い、ルークは手短に説明をする。
アッシュはそれを聞くと、難しげに眉を顰め、
「・・・確かに、ギンジの耳には入れない方が良さそうな話だな・・。」
と言った。
「やっぱ、そう思う?」
「ああ。そもそも、ギンジの妹は、すでに自分の乗る機に練成飛譜石が積んであることを黙っていた訳だろう?あの兄妹は仲が良いから、それしきのことで仲たがいをするとは思えないが、妹も気まずくて、言い出せなかったというのはありえる。」
ギンジは、アルビオール馬鹿だからな、とアッシュは言った。
自分の大事な機が、妹のそれよりも劣っていたとなれば、たとえ顔に出さずともがっかりするに違いない。
「まぁ、ギンジが戻ってきた時、今の話は忘れているかもしれん。」
「・・忘れてなかったら?」
「そっちに話が向くのを、全力で阻止しろ。」
えぇ〜そんなー!?と思わぬ荷の重さにルークが嘆くと、そもそも迂闊に失言を漏らしたお前が悪い、とアッシュはにべもない。
そんなこんなをしているうちに、ギンジが戻ってきた。
「・・・?どうした?」
「あれ?ギンジ、どうしたんだ?」
幸いと言うべきか、戻ってきたギンジは難しそうな顔をして、特にルークの顔を見ると、いきなり頭をぴょこんと下げた。
「ごめんなさい、ルークさん!」
「え?どうした?」
「ノエル、出かけた先で他の急用を託されて、シェリダンに戻ってこれなくなったみたいなんです!」
聞けばそれは、キムラスカ経由で依頼されたマルクトからの要請らしい。
「どうも結構、お偉い方の依頼らしくって。」
「・・・キムラスカは今、外交面からマルクトには好意的だからな。」
「そうそう!そうなんです!ぜひとも頼むって言われて・・・断れないらしくって。ルークさんが来るの知ってたから、ノエルも楽しみにしてたんですけど・・・。」
「うん・・・。」
仕方ないよな、と言いながらもルークも、少し寂しい。
アッシュがギンジに会えるのを楽しみにしていたように、ルークもノエルに会うのを楽しみにしていたからだ。
それは表情豊かなルークの顔に表れていたらしく、自分のせいでもないのに恐縮するギンジに、おまえのせいじゃねぇだろ、と言いながら、アッシュは手を伸ばして、ぽんぽんとルークの頭を叩いた。
それは軽く、撫で叩いたとでもいうような仕草で、ルークを慰めてくれている。
それがわかると、ルークは気持ちを切り替えて、大丈夫だよーとアッシュに笑った。
「・・・どこかに行くなら。」
聞き分けの良い子を褒めるように、アッシュは、少し微笑んでみせた。
「ギンジに運んで貰うと良い。妹の操縦でなくて残念だが、腕は俺が保障する。」
だから安心して行ってこい、と言うアッシュに、
「オイラで良ければ喜んで!」
とギンジは胸を張る。
「え?いいよ、いいよ!」
慌てて、胸の前でルークはぱたぱたと手を振った。
「ギンジだって、アッシュとひさしぶりじゃん!俺の為に時間使っちゃったら、ふたりでゆっくりできないだろ!」
言いながら、なにやってんだ、と思わないでもない。
これではまるで・・・恋人の逢瀬に遠慮しているみたいではないか。
そんなルークの心情に気がつかず、アッシュは、そうか・・・?と首を傾げ、
「お前がそれで良いなら良いが・・・。」
「う・・・うん。」
「あ!でも、ルークさんひとりとかなしですからね!」
ギンジが言う。
「オイラとだって、知らぬ仲じゃないじゃないですか!良ければ、オイラとも仲良くしてくださいよぅ。」
その口調はまるで子供で、ルークは本当に裏表のない人だなぁ、と微笑ましくギンジを見つめた。
本来は10歳という年齢のルークから、そんなことを思われているとはつゆ知らず、ギンジは、
「シェリダンには美味しいクレープ屋さんがあるんですよ!」
と逆にルークを子供扱いするのだった。
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