knock,knock,knocked on chocolate door



 ちぇっ、と小さく唇を尖らせれば、それに気がついたのか、逆に睨まれる始末。
 なんだよ、アッシュのやつ。
 
 アッシュがルークを好きでないことは知っている。
 憎くて溜まらないという態度も少しは軟化したけれど、それでも馴れ合うこともなく、今でも疎ましがられていることも。
 しかし、これから一緒の部屋で休まなくてはならないのだから、今日くらいは少し我慢してくれたって良いじゃないか。
 なにも全身で拒否しなくても。

 

 

 なにがどうしてこうなったかというと、そもそもが自分(とナタリア)のせいだ。
 街で目立つ赤が目に入った時、反射的に走ったのはルークだし、それにつられてついてきた仲間たち(よく考えたらついてくる必要はないと思う)を嫌そうに睥睨するアッシュを、なんとかかんとか繋ぎとめたのはナタリアだ。
 アッシュはナタリアに弱いから、頼まれたら無碍にもできない。
 それで一晩、情報交換の意味も込めて、宿を一緒にすることになったのだが・・・。
 あいにくと空いていたのは3人部屋ひとつとふたり部屋がふたつだった。
 男が4人いる以上、3人部屋に女性軍が泊まるのは当然だったし・・・組み合わせを考えたら、ジェイドとガイのどちらでも、アッシュと同室というのは不自然な気がした。
 ・・・確かにしたのだ。おかしい。なんで嫌いあっている筈の俺達が同じ部屋?とルークが我に返ったのはだいぶたって、そろそろ夕食に、と誘った声を無視された時だった。(遅っ!)
 アッシュは必要以上にルークと関わりたくない訳だから、夕食なぞ共にしたがる訳もなく・・・しかし、ナタリアとは一緒に食事をしても良いと思っているのも確かな訳で。そんな微妙な彼の心境の表れが、正面にナタリアが座った仲間内の一番端に陣取るということだったと思う。
 そして、食事が終わるやいなや、アッシュは部屋へと引き上げた。
 残ったメンバーは(というとまるでアッシュに見捨てられたかのような表現になってしまう)いつもの通りに、だらだらとお茶を飲み、無駄話に花を咲かせていた。
 別段、アッシュを追いかけて行かなかったのでナタリアも一緒だ。アッシュのことを好いている癖にアッシュバカでもないのがナタリアだと思う。(それとも男女の感覚の違いなんだろうか?)


 そんな一時を過ごし、ルークは部屋へと戻ってきた。
 先に戻ってきているアッシュに、内側から鍵でもかけられていたら、果たして開けてくれるだろうかと扉の前で数秒悩み、ルークは自室にも関わらずノックをするという無意味な行動にでる。
 案の定、中から返事はなく、しかしドアを引いてみると鍵が閉められているということもなく、ルークはほっとして、若干おっかなびっくりで中へと入って行った。
 
 部屋の中は夜だというのに灯りもつけられておらず、しかし明るい月の光が差し込んでいて、真っ暗ということもなかった。
 アッシュは、とルークが見ると、窓辺に腰掛けて眼下の、大通りを行き交う人々を眺めている。
 へぇ、とルークは一瞬、その姿に見惚れる。
 いつも猛々しく憤っている姿しか見せないが、そうしているアッシュは、静かで情緒ある雰囲気を纏っている。
 
 ぱりん、と軽い音がして、ルークは、ん、と目を凝らした。

 アッシュの動作を目で追うと、なにかを齧っているようだ。
 その薄い板状のものは、銀色の紙をまとっていて、月光がにぶく反射している。

「あ!チョコ!」
 思わずルークが声に出すと、アッシュはちらり、とルークを睨んだ。
 アッシュがチョコレートを食べているということに対する感嘆であって(それを初めて見たという驚きの)、けっしてチョコレートが羨ましかった訳ではなかったが、アッシュは嫌そうに顔を歪めると、うるせぇなと小さく呟き、そして。

 食べかけのチョコレートの半分を銀紙に包みなおすと、ぽいっとルークに投げて寄越した。
「え?」
 ルークがぱちぱちと瞬きをして、見返した時には、アッシュの顔は外を向いていた。
 だから、アッシュがどんな表情をしていたのかは、わからなかった。
 アッシュがどんなつもりで嫌いなレプリカに、自分のものを分け与えたのかも。
 しかしルークは、物を貰ったことに対して礼を言い、別段食べたくはなかったが、礼を言った手前、そのままチョコレートを口に運んだのだった。

 

 


 


 街について、宿へ向かう途中で、メインストリートに面した店のショーウィンドゥを覗き込み、ルークは足を止めた。
 小さく取り取りの色紙に包まれた固体は、それぞれを主張するように並べられ、ピラミッドのように積み上げられたオブジェに目を奪われる。
「なにしてるの?ルーク。」
 この街に着くまでの戦闘つづきで疲れ果てた体を少しでも早く休めたいと、ティアの声が立ち止まったままのルークを促す。
「う・・うん。」
 すぐ行く、と言いながらルークの目は店先から離れない。
 溜息をつく一同のなかから、援護射撃を打ったのは、意外なことにアニスだった。
 ルークが動かなくなった店まで戻ってきて中を覗き、しかたないなぁと肩を竦めた後、皆は先に行っててくださいアニスちゃんたちは後から行きますからぁ〜と人と食ったような声を出す。
 それに対して、はいはいとこれまた人を食ったような声で答え、さぁ先に行きますよ皆さん、と残りを引き連れて立ち去ったのはジェイドだった。
 
「アニス・・・。」
「まあ、たまにはいいんじゃん?宿なんていくつもないんだしさ。すぐに見つかるよ。」
 礼を言おうとするルークに、そこまでのことじゃないと笑い、アニスは店の扉を開く。
 とたんに、吸い込む空気に混じる甘い香り。
「お〜♪」
「めっちゃ美味しそうじゃん!やったね、ルーク!」
 アニスは良かったね、と肩を叩き、自分の分も買おうとルークから離れる。
 ルークは叩かれた肩と良かったねの意味がわからなかったが、とりあえず物色を始める。
 アーモンド、プラリネ、チェリーと色々なテイストの表示を見て、こんなに種類があるものかと感心していると、いらっしゃいませ、と黒い服の上に白いエプロンという店の制服を着たお姉さんが声をかけてきた。
「チョコレート、お好きなんですね。」
「え?・・・え、あぁ・・・うん。」
「ここはチョコレート専門店なんですよ。チョコレートは至高のお菓子と言われますからね。よく貴族の方とかもいらっしゃいますよ。」
「へぇ・・・。」
 少し後ろからアニスが、それでかぁとつぶやいている。
 だから、ルークチョコ好きなんだねぇ、と。
「え?」
 いや、決してチョコレートを嫌いではないが、特別好きという意識もなかったルークは、なんだか的外れなことを言われた気がしてアニスを見返した。
 聡いアニスはそれだけで、ルークが無自覚であったことに気がついたようだ。
 半分呆れたような笑い声をあげ、いっつもチョコ食べてるじゃん!と指を差す。
「・・・え?」
 そう言われた途端、ルークは最近の自分の行動が思い起こす。
 新しい街に着くたび、お菓子屋を覗き、チョコレートはかかさなかったし、めずらしいチョコがあると聞くと足を運んだ。
「俺・・・チョコ、好きなのか・・・?」
 私に聞かないでよ、とアニスは笑った。
 その笑い声に、ルークは、口の中の甘ったるさに気がつく。
 それは今に始まったことではない。この最近、ルークの口の中が常にこの味で占められていた。
 そして同時に、ぐわんと頭を殴られた衝撃を受けて、ルークはくらくらとめまいを起こした。
「ルーク?」
「な・・なんでも、ない!」
 結局ルークは店員に薦められるまま、それなりの値段の、バラの香りがするとかいうホワイトの板チョコを買った。


 

 


 何気なく買ってきたチョコレートは大変な人気だった。
 特に女性陣の反応といったら、今までここまで褒められたことがあるかと、ルークが疑問を持つほどだった。
 ホワイトチョコというものを、あまりルークは好きではなかったが、買ってきたチョコはたしかに格別だった。
 歯を入れた瞬間にチョコレートは得も言われぬ芳香を放ち、上品な甘さと細かく砕かれて入れられたストロベリーの感触とあいまって、まるで天上のもののようだった。
 ルークやナタリアですら、そんな類のチョコレートにお目にかかったことがなかったのだから、作り出した職人は天才だと思う。
 ルークが感心してそんなことを言っても、全員がなんの揶揄もなく頷いていたくらいだ。
 買った一枚は皆で分けた為にすぐになくなってしまって、惜しくなった一同は街を離れる前に、もう一度同じものを買いに行った。
 ただ、まあ、当然チョコレートにしてはそれなりの値段がするものでもあったから、一枚が限度というところだったのが。

 


 次の街について、すぐに出くわした影をルークは追っていった。
 ジェイドのまたですか〜という呆れた声も聞こえたが、とりあえずそんなことはどうでも良かった。
「待てっ!」
 追われたほうは、まさか自分が追われると思ってなかったので、必死で逃げながら、なんで追ってくるんでゲスか〜と独特の言いまわしで、情けない声をあげていた。
「アッシュはどこだ!?」
「・・し・・知らないでゲスよ!」
「嘘をつけっ!」
 なんでこんなことで責められるのかと思いながら、壁に追い詰められたウルシーは本当でゲスよ〜と自分たちは隠したりしてないと身の潔白を訴えた。
 漆黒の翼は確かにアッシュからの、仕事の依頼を受ける為にこの街に来たのだが、まだアッシュからの接触はない状態だった。つまりは彼らもアッシュを待っている状態で、今この街にいるのか、それともこれから来るのかまでは知らないのだ。
 しかしそれを目の前のルークが信じてくれるかどうか怪しい。
 
 いつも眉間に皺を寄せているアッシュと違い、同じ顔だというのに、ルークはいつでも朗らかだった。
 こどもがそうするように、白く光るように笑い、どこか暢気で、屈託がない。
 それが彼の評価だったというのに、今の目の前の形相といったら鬼のようだ。
 もしかしたら、アッシュと決闘でもするのだろうかと人事ながらに思いながら、ウルシーはもしかしたら、アッシュを差し出さないと自分がやられてしまうかもしれない、と本気で覚えていた。


 ルークはそれなりに焦っていた。
 少なくとも、なんの罪もない漆黒の翼を攻め立てるほどには。
 なぜなら、チョコレートの賞味期限が迫っている。
 実は密かにルークは自分のおこずかいから、例のチョコレートをもう1枚隠して買ってあった。(ちなみに皆で使うものを買うお金とは別におこずかい制もあるのである)
 賞味期限というのは、あの独特の香りが保たれる期間のことだ。
 切れたからといって食べられなくなる期限ではないが、しかしあの馥郁たる香りが少しでも失われてしまったなら、渡せたところで意味がない。
 だってアッシュのために買ったのだ。
 
 思えばこの行為は少しだけ、花束を渡すことに似ていると思う。

 

 

 

 


 ウルシーから己のレプリカが自分を探していると聞かされていたが、こちらは用もないのに、わざわざ連絡を取ってやる気はさらさらなかったので、アッシュは同じ街に滞在しているはずのルークの存在を無視した。
 ルークが殊更騒ぐ時は、くだらない用件と決まっていたし、そんなに会いたいなら(根性で)自力で探し当てろと思ったからだ。

 別に避けている訳でもないからアッシュは普通に外に出ていた。
 この街には過去、任務で訪れたことがあり、町外れに美味いチキン料理を出す店がある。そこに向かっていると、なんだか街の空気が妙に騒がしい。
 祭りで浮き足だっているような華やいだ騒がしさではなく、どこか殺気だっていた。
「ったく、なんちゅういたずらだ!」
「ひでぇよな!あちこちだそうだぜ。」
 そんな苛立ちを含んだ声はどうやら誰かのいたずら書きに腹を立てているものと分かった。
 なんだ子供の仕業かと、足を進めようとした時、誰かが、アッシュと己の名前をつぶやいた。
 こんなところで知り合いに会う訳もないし、第一それは呼び止めるような口調ではなかった。
 怪訝そうに足を止め、振り返った時、アッシュの目に、壁にチョークで書かれた、でっかい子供のいたずら書きが飛び込んできた。
 それは壁一面に、およそ遠慮というものを知らない大文字で、押し付けがましく書きなぐられてある。


『アッシュへ
 渡したいものがあるから、これを読んだらすぐに取りに来てくれ』


「・・・・・。」
 みればそれは、目の前の壁だけではなかった。
 地面、柱、果ては他人の家の壁にまで、しつこいくらいに書いてあった。
 アッシュは眩暈を覚えた。
 当たり前だ。
 ついさきほど、チキン屋を目指して宿を出た時には、彼の人生最大の屈辱が、こんなカタチで待っていようとは思いもしなかった。
 こんな風に街中の人間に自分の名前を連呼される羽目になろうとは!

 

 

 

 

 

『この屑!タコ!一度死んでしまえ!』
 とまるでルークが言うような言葉での罵詈雑言とともに、アッシュからの通信があったのは、30分前のことだった。

 今、ルークは念願かなって、アッシュに会いに向かっている。
 なんとかチョコレートの賞味期限には間に合った。
 指定されたのはアッシュが使っている宿屋で、ルークは主人に部屋の位置を教えて貰い(別段、不信がられることもなかった。同じ顔はこういう時は便利だ)機嫌良く扉をノックした。
 途端に帰ってきた声は、ルークの気分と間逆のもので、ルークはさきほどのアッシュの激昂ぶりを思い出して、一瞬にして高揚していた気分が、風船がしぼむように落ち込んでいくのを感じる。
 たぶん、絶対、この後アッシュに怒られる。

 しかし、目的を果たすことが先決と思い、ルークは扉を開けた。
 途端に鼻腔を、独特の香りがくすぐり、アッシュは窓辺で片手をポケットに入れ、マグカップのコーヒーを飲んでいるところだった。
 きょろきょろ見渡せば、宿屋の主人に用意して貰ったらしいポットが、テーブルの上に乗っていた。
 でも、俺は貰えないだろうなぁと思いながら、ルークはとてとてとアッシュに近づいていった。
 甘いチョコレートとコーヒーは絶妙な組み合わせだから尚更残念だが、あそこまでアッシュが怒らせてしまった後では仕方がない。
 しかし予想に反し、アッシュは近づいていたルークを睥睨して身が縮む思いをさせた後、カップを手にとって、こぽこぽとルークの分のコーヒーを入れた。
 つっぱねるかのように、無言で差し出されたカップに、ルークは感動のあまり涙ぐんでしまったほどだ。
 
「で?」
 ぎろり、とルークを見てアッシュは言った。
「で、って?」
「俺に渡したいものってのは、なんだ!」
「ああ・・・。」
 ルークは、(普段はグミが入っている)きんちゃく袋に入れて大事に持ってきたチョコレートをアッシュに差し出す。
 なんだこれは、と言いながら中身を確認したアッシュは・・・喜ぶどころか、意味がわからないと言わんばかりにルークを見る。
 その目が説明を促しているので、
「なに、ってチョコレート・・。」
 と答えた。
「そんなものは見ればわかる。だから、これがなんだと聞いているんだ!」
 ルークは首を竦め、アッシュと一緒に食べたいな、と思って・・・とごにょごにょ言った。
「なんでだ!」
「このチョコすげぇんだぜ!食べたらマジ感動する・・。」
「いらねぇよ!」
 ぐい、と胸元に巾着をつき返され、ルークはむっとする。
「どこにもないくらいに美味いんだってば!」
「そんなもの分かるかっ!」
「食いもしないで言うなよっ!」
「いらんと言ったらいらん!」
「アッシュのばかー!お前がチョコ好きだと思ったから買ったのに!」
「いつ、俺がチョコを好きだと言った!」
 えー、とルークは不満そうにアッシュを見た。その顔は絶対に嘘だと言っている。その自信はなんなんだ、とアッシュはむっとしながらルークを見た。睨みあいとも言う。
「俺は別にチョコなんざ好きじゃねぇ・・・。」
「この間、食ってたじゃねぇか。」
「あれはたまたまだ!」
 1回だけで決め付けるな、とアッシュは言った。
「チョコを好きなのはてめぇだろう。」
「え?俺が好きなのは、アッシュだよ?」
「・・・は?」
 睨んで見ても、ルークは別段、変なことを言ったことに気がついていないようで、きょとんとした顔でアッシュを見ている。
 どういう言い間違いだ、とアッシュは思った。
 今、ルークは明らかにチョコを好きなのはアッシュだと言おうとしたはずだ。主語も意味も完全に取り違えている。これだからこいつはバカだと言うんだとアッシュは思い…だが、まあ悪い気はしない、と思った。

 ルークはアッシュの隙をついて、ごそごそとチョコを出し、はい、と目の前に差し出す。
 とたんに鼻腔をくすぐる香りに気がつき、アッシュはいらねぇ、と怒鳴ろうとした声を飲み込んだ。
「・・?これは・・。」
 な?とルークは笑った。
「チョコなんだけど、綺麗な匂いがするだろう?」
「・・・・・。」
 ルークの表現は明らかに間違っているが、しかしそれは的を得た表現でもあって、少しの間アッシュはどうしたものかと逡巡した。
 さきほどまでは、文句だけ言ったら叩き出してやろうと思っていたが、もうどうでも良くなってくる。
 そもそもルークのアホなのは今に始まったことでもないし、何度言っても何度言っても何度言っても直らないことを今更、怒鳴ったところで、直るとは思えない。意外にアッシュは面倒臭がりでもあった。

 食えば良いんだな?と睨み、アッシュはルークにテーブルに座るように促した。
 ルークは、にかっと笑い(勝ち誇ったような笑みにアッシュはまたむっとした)アッシュよりも先に、手前の椅子に座った。
 必然、アッシュはテーブルの向こうまで回らなければならず、さらにむっとした。
 
 向かい合わせに座って、コーヒーをポットから継ぎ足してやると、ルークは良かったぁ〜とマヌケな声を出した。
「本当に良かった・・!連絡くれなかったら、次はおまえが好きだってあちこち上書きしてやろうと思ってたんだぜ!」
 ・・・なに?
 アッシュは自分のコーヒーを継ぎ足す手を止める。
「でも、やっぱそれはさぁ・・・最終手段ってやつ?流石に恥ずかしいじゃん?」
 でもそれくらいやらないとアッシュは捕まらないからさぁ、と言い、お前がもっと連絡くれれば良いのに、とまるで、情人を待つ女のようなセリフを吐いた。
「お前は・・・。」
「ん?」
「・・・俺が好きなのか?」
「うん、そう!」
 ルークは、よくぞ聞いてくれました、というように笑った。
「お前さっき、俺がチョコを好きだって言ったけど、あれは間違い。俺はお前が好きで、お前がチョコ好きだから、俺も好きになったの。」
「好きだとは言ってない・・・。」
「俺のこと?」
「チョコだ!」
 なんなんだこいつは、イマイチ会話が成り立たない・・とアッシュは今更なことを嘆いて、くらくらした。
 しかしルークは、そんなアッシュの態度に気がついていないのか、もともと気にしていないのかは知らないが、ウキウキとチョコレートを手に取り、パキンとふたつに割った。
 左手に持ったそれを差し出すので、くれるのかと思いきや。
「あーん。」
「・・・・・。」
 こいつはバカだ。
 そう納得してアッシュは、怒鳴りたい気持ちを無理矢理押さえつけて言った。
「・・・もしもそれを食べたら・・・。」
「ん?」
「さっきの、もう一度言うか?」
「・・・さっき?」
 ルークは首を傾げる。
 さっきってどれのこと?と逆に訪ねられ、アッシュは答えに詰まった。
 

 
 思えば、それはアッシュにとって縁のない言葉であった。
 かつてそれを求めたこともあったが、アッシュには到底与えられなかったもの。
 父からは労いの言葉をかけてもらったことすらなく。
 師として尊敬した男には・・・初めから利用されていると分かっていた。
 だから、幼くしてアッシュは自分を求める本当の声をいつか聞きたいという願いを・・・諦めた。
 それが少年期の終わりであり、孤独な人生の始まりでもあった。
 それなのに、今になって、憎んでいた筈の相手が、差し出してくる、という。
 まるでなんでもないことのように。
 まるで、初めからそこにあったかのように。

 だから。

 それが胸に沁みて、なにが悪いとアッシュは思った。

 しかし、それを口にすることができないのも、アッシュがアッシュたる所以でもあった。


「〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
 なにかを決心し、それが鈍る前にというように、殊更に大きな口を開け、アッシュはルークが手に持ったチョコをガブリ、とかぶりついた。
 パキンと口元で割れば、途端に広がる薔薇の香りに目を見張り、食べ物から花という妙な組み合わせの筈の匂いなのに、どこにもクセがないことに感心をした。これはこういう食べ物なのだ。
 ルークを見ていると、にこにこと笑っている。
 まるで、それを見つけてきた自分を褒めてくれることを期待している犬のようだった。
 キラキラと光る瞳を見て、アッシュは密かに、たまにはこんな時間も悪くはないかもしれん、と思った。
 
 自分がいて、レプリカがいる。
 それを忌々しく思わない日がくるなんて。

 アッシュはそっと溜息をつき、しかし明日になったら、こんな気分も気まぐれだったと思うに違いない、と負け惜しみのように思った。

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

「なぁ、今日ここに泊まって良い?」
「〜〜〜〜調子に乗るんじゃねぇ!」

 


 

 

 

 

 


なんだかよく分からない話だなぁ・・・(遠い目)
タイトルは某名曲のパロです。

(’09 12.14)