暗い夜に行動するのは、もうアッシュにとってあたりまえのことになっていた。
昼間に陰の任務を遂行するには、アッシュの髪は目立ちすぎる。
血を吸ったようなと評される赤は、キムラスカの貴族の中でも殊更に鮮やかで、公の場では美しいが、日陰者の身からしたら隠すしかない代物だ。
紅い髪に加えて、さらに目立つ教団服を隠すように、フードつきの外套に身を包み、アッシュは、顔馴染みの情報屋に連絡を取っていた。入れてくれる情報にガセが少なく、そしてそれがなにに使われたかを詮索したりしないところが利便が良い。
だが、その情報屋をもってしても、ヴァンおよび六神将の潜伏先は一向に掴めない、という。
アッシュは、仕方がない、という風に首を振ると、駄賃代わりの小銭を渡して路地裏から立ち去った。
薄汚れた壁の2階の酒場からは、がやがやとした卑猥な言葉の叫び声や酔っぱらいの鼻歌が聞こえていた。それらの喧騒に背を向けるように、あえて街灯もない暗い道を選んで歩くアッシュの足音が、石畳に冷たくコツコツと響いていた。
アッシュ以外の、人の気配はまるでなかった。
ふと、フードの中から仰ぎ見た空が、普段より明るい気がして、アッシュは足を止める。
そういえば・・・今日は、満月だったと思いだし、銀色に光る円形にしばし見惚れ・・・再び宿への帰路を歩き出す。
夜の住人になって長いからか、アッシュは月が好きだった。
そんな個人の胸のうちにあることなど、かつての師にも、ましてや六神将の誰に漏らしたことはないが、血生臭い道を人知れず動くアッシュの、数少ない慰めであったことは間違いない。
そんなことを柄にもなく考えていると、ふとなにかの気配を感じて、アッシュは立ち止まった。
殺気がこめられたものでも、人ほど大きな気配でもない。危険はなさそうだと判断して、気配の主を探す。
さきほど感じた、ふわりとした小さな、なにか。
「・・・猫か・・・?」
一ブロック先に、薄く黒い猫らしきもののシルエットが浮かんでいる。
らしきもの、というよりも遠目から見たカタチは猫以外のなにものでもないのに、どうして、そんな感想を持ったのか。
しかし、胸の内をざわざわとしたものが這い上がってきて、原因は、アッシュ自身説明がつかなかった。
足音を忍ばせるようにして猫に近づくと、猫はアッシュが傍に寄っても逃げようとせず、逆になにかを訴えるように、見上げてくる。
皮を鞣したような艶やかな黒い毛並に、暗闇の中では大きく見開かれるまんまるい瞳。静かで、堂々としたたたずまい。
どこかの飼い猫で、相当人間には慣れていそうだ・・と思ったのと別に、よく知る匂いを敏感に感じ取って、アッシュは眉をしかめた。
これは、微量ながらも、血の匂いだ。
逃げない猫を上から首を伸ばして覗き込むと・・・後ろ足が、夜目ではやっとわかる程度ではあるが・・・濡れて光っている。
アッシュは、眉を顰めたまま腕を伸ばし、猫の体を抱き上げた。
「あれ、アッシュさん?」
宿屋に戻ると、目を丸くしたギンジが猫を連れて帰ったアッシュを出迎えた。
「猫ですか?どうしたんです?」
「・・・ちょっとな。ギンジ、消毒薬の類を持っていたな。」
ええ、と答えるギンジに、貸せ、と短く命令して、アッシュは猫を部屋の、少しやぶれのあるソファーの上に下す。
小さな部屋ではあるが、二人部屋だったので、質素ながらも調度品が置かれていることが幸いだった。別に、猫を下ろすのはどこでも良かったが、猫のとはいえ、血がベッドの白いシーツにつくのは、あまり気分が良いものではない。
ソファーの上に下された猫は、遅ればせながら負傷した後ろ足を、ぺろぺろと舐めている。
その姿に嬉しそうに目を細め、ギンジは言われた通り、道具袋の中から探し出した消毒薬を、アッシュに渡した。
アッシュが膝の上に抱き上げて後ろ足をひっぱっても、猫は自分の傷の手当をしてくれるのがわかるのか、アッシュの腕の中で大人しくしている。
頭の良い子だなぁ、とそれを見ながらギンジは思った。
普通なら、嫌がって暴れそうなものだ。
『やっぱり、根が優しい人って・・・動物はわかるのかなぁ。』
アッシュは、実は女や子供、いわゆる力の弱い者に対する慈愛の気持ちもきちんと持ち合わせていて、ただ、それが表だって人前に現れ出ることはない。
ギンジはそれをよく知る・・・ほんの数人の中のひとりだ。
「良かったな、お前。」
アッシュさんみたいな人に、助けられて。
ギンジが、手当の終わった猫に話しかけると、猫はじろりとギンジを睨んだ。
そして、頭を撫でようとしたギンジの手を、ふん、とばかりに拒否をして、後ろ足を引きずりながらも、ソファーなら下りて窓辺へと飛び移る。
振られたギンジは、がっかりしながらその姿を目で追って・・・あれ、と目を凝らした。
「なんか珍しい猫ですねぇ、アッシュさん?」
「なにがだ。」
手当が終わり、洗面台で手を洗って戻ってきたアッシュは、興味もなさそうに(たぶん適当な相槌なのだろう)聞き返してくる。
ほら、とギンジは、月を眺めている猫を指さした。
「しっぽ、ないですよ。」
「・・・そういう猫もいるだろう?」
極端に短いだけじゃないか?とアッシュに言われ、それはそうかもですけど、とギンジは答えた。
「それに、目。アッシュさんの髪みたいに、真っ赤でしょ?」
「・・・それがどうした。」
「いえね。綺麗だから良いですけど・・・あんまりみない瞳の色だなぁ、と思って。」
「・・・・・。」
別にどうというものでもなかったので、ただの感想みたいなものだったが、アッシュもそれには同意見だったのだろう。
黙って、猫の姿を見つめていると・・・まるで視線に気がついたかのように振り向いた猫は、窓辺から急に下り、アッシュの足元へとすり寄ってくる。
「あれま。」
それを、微笑ましく見つめ、
「懐かれましたねぇ。怪我が治るまで、しばらくはアルビオールで面倒でもみますか?」
「・・・飼い猫だったら困るだろう。」
自分たちが、ではなく飼い主が、である。
もしも飼い猫ならば、いきなりいなくなったペットを、その飼い主が探すだろうことは目に見えている。
そういうアッシュの礼儀正しさ、姿勢の美しさに心を打たれながら、ギンジは、それもそうですね、と相槌を打った。
「猫の誘拐犯とか、笑えないですよね。」
アッシュは、確かにその冗談には笑わなかったが、だが負傷した猫をそのまま放り出す訳にもいかず、さてどうしたものか、と思っていたのも事実だった。
けれど、そんな心配はよそに・・・猫の姿は翌日、ふたりが目を覚ました頃には、どこかへと消え去っていた。
その日も、美しい満月だった。
エンジン音に時々、どこかがひっかかっているような音が混じるのを気にしたギンジが、アルビオールの徹底的な点検をしに戻りたいと主張したので、アッシュはシェリダンの中心とは少し離れた場所に宿を取った。
この街では、音機関にまつわる事以外の噂が集まりにくい。
ヴァンの動向を少しでも探りたいアッシュにしてみれば、シェリダンの滞在はあまり実のあるものではない。
しかし、今や重要な足となるアルビオールがなければ、思うように動けないのも事実で、アッシュは焦りと、それを押しとどめようとする理性の間の、ずいぶんと気持ちの悪い感覚を抱えて、月を見ていた。
シェリダンには、海に面した展望台があり、そこは夜になると静かで良い場所なのだが・・・この街では、誰も景色になど興味を示さない。
もったいない、という感想を本気で漏らすほどアッシュも暇な人ではないので、ただ静かな場所があるということが、純粋にありがたいというだけのことだ。
アッシュはできれば、人と関わりたくはない。
人目を避けたり、人見知りをするというのとは違って、長い間、さまざまな問題をひとりで処理しながら生きてきた彼にとって、他人というのは煩わしいものに過ぎなかった。
月夜の空気は冷たい。
足元では、波が押し寄せる音が、ザン・・・ザザン・・と響き、その繰り返される旋律は、心臓の音に似て落ち着く。
こんな夜もたまには悪くない。
「・・・誰だ?」
闇に沈む気配があった。
息を殺して近づく、静かな足音。
まさかこんなところで、六神将に巡り合う偶然もないだろうから、たぶん、アッシュがここにいると知って近づいてきた訳ではないだろう。
どこかの誰かが酔い覚ましにでも海風にあたりにきたのかもしれない。
しかし、アッシュが声を上げたにも関わらず、足音は止まらなかった。
酔い覚ましに来たのなら・・・思わぬ先客に驚く様子くらいはみせる筈なのに、それもない。
やがて、足音の主は、展望台の柱の影から、銀色の月の光の中へとその姿を現した。
「こんばんわ。アッシュ。」
「・・・!お前・・・。」
いつもひらひらと落ち着きなく踊っている白い服の燕尾が、まるで音もなく舞い下りるふくろうの翼のように、海風に煽られて舞っていた。
白い面、朱い髪。
なのに、静かに堂々とこちらに視線を向けてくる翡翠の瞳が、アッシュを落ち着きなくさせる。
ルークのアッシュを見る目は、いつも怯えと戸惑いを含んでいたから、こんな風にじっくりと見つめられることはほとんどなかった。
だが今は、揺れもせず感情すらもそこには見えずに、アッシュだけを見ている。
口元にうっすらと浮かべている笑みが、どことなく作り物じみていて、アッシュは、少しだけ警戒して、ルークに話しかけた。
「・・・どうして、ここにいる?」
「どうしてもなにも。俺がいちゃいけない?」
「・・・・・。」
やはり、ルークの態度は妙だった。
妙というよりも・・・アッシュのよく知るルークとは、同じに見えなかった。
落ち着いていて・・・悪く言えば、ふてぶてしく感じる。
もはや器だけ同じで、中身が違う。
そんなことが頭を掠め・・そういうもやもやとした居心地の悪さを感じながらも、しかしルーク相手に怯む気になれず、アッシュは舌打ちをして目を逸らすと、なんとなく向けた視線の先では、海原がぬらぬらと黒く光っていた。
「・・・なんか、面白いモノでも見えるのか?」
拗ねたような口調で、ルークが言う。
俺がここにいるのに他のものを見るなよ、とも。
「・・・意味がわからねぇ。」
呻くようにアッシュが言うと、わからない訳ないだろう?とルークは言った。
その口調には、笑い声が含まれていて、アッシュは思わずルークを振り返る。
そして、ぞっとした。
ルークの朱い髪は、銀色の光に輪郭を取られ、怪しくも美しく銅色に輝いてみえた。
口元は、もはや見間違えがないほど、弓形の笑みを浮かべている。
翡翠の瞳は、暗闇でもそうとわかるほど、楽しそうに光っていた。まるで、獲物を見つけた猛禽類のように。
そして、呼気は意味ありげでねっとりとしたものに変わり、それをそっとアッシュの顔に近づけてくる。
この手の視線には、なじみがあった。
長い兵役生活の中で、遠征に出た街で待つ、様々な夜の誘惑。
彼の部下ほどではないが、アッシュ自身も潔癖ではなかったのだ。
間違えようもない。
それとなく顔を逸らして、それを避けると、ルークは楽しそうに笑い声を漏らした。
初心な客をからかう娼婦と同じそれを聞いた時、アッシュは思わず、ルークの左手首を掴んだ。
左手を掴んだのは、ルークの利き手を封じる為だったからだが・・・ルークはアッシュに締め上げられる左手のことなど気にもとめない様子で、右手を教団の紋章が施されたマントの中に、差し入れてくる。
優雅なその手が、確かな目的を持って自分の胸元を這うのを感じながら、アッシュは喉から絞り出すようにして、相手に問いかける。
「・・・お前は、誰だ?」
その声にルークは、見る者の背筋がぞくりとするほどの蠱惑的な笑みを浮かべた。
「知っている、と思うけど?」
以前、ルークの寝坊がひどい、とあんまりティアがぷりぷり怒るので、ルーク早起き計画なるものを決行しようとしたことがある。
その時、早朝稽古につきあうと約束したルークだったが、結局、翌日起こしにきたガイに、
早すぎると文句を言って、それは反古にされた。
ガイは、ふあぁ、と大きなあくびをしながら、まだ静まり返っている宿の階段を下りていた。
古い建物のせいか、ぎしぎしいう木製の階段だったので、そっと足音を忍ばせ、まだ寝ているだろう他の客のことを気遣い・・・確かに、この稽古は早い時間ではあるな、と納得する。
もう長い間の習慣だから、慣れてしまったが。
ところが、ガイが宿の扉をそっと開いた時、外は雨が降っていた。
起き出して、一番にカーテンを開けた時は、まだ暗い窓の外に雨はなかったから、顔を洗っていた間にでも降り出したのだろう。
予定が狂い、あちゃーとつぶやきながら、ガイは右手で短い金髪の頭をぽりぽりと掻く。
まったくもってついてない。
もっと早くに降り出してくれていたら、それなりに対処したものを。
さて、どうしよう。
雨はまだ本降りではない。
このまま小雨のなかで、稽古を始めようか。魔物が襲い掛かってくる時は、雨だろうとおかまいなしなのだ。その為の訓練になると思えば調度良いかもしれない。しかし・・・後で濡れた服を着替えなければならなくなる。それも面倒だ。
それとも、今日は稽古を諦めて、荷物の整理でもしようか。
しかし、ガイの荷物は昨日、整理整頓が得意なルークが、勝手に部屋にやってきてまとめてくれていた筈だ。(クッキーをくすねる目的もあったらしいが)
となると・・・やることはない。
そろそろとまるで遠慮するかのように降る雨を、ガイは少しだけ見つめていた。
ルークと言えば・・・つい最近、彼は雨が好きだ、と言い出した。
思えば、なぜいきなりそんなことを言い出したのかが、不思議だ。
何故なら、ガイの記憶の中にあるルークは雨が嫌いで、屋敷にいた時は楽しみにしていた剣の稽古ができなくなると、雨が降る度に怒っていたからだ。
でもさ、雨って綺麗じゃね?
とルークは言った。
あがった後の緑の匂いも、たまに見ることができる虹も、いきいきとしていて、水の恵みに世界中が喜んでいるみたいっていうか。
めずらしく情緒があることを言うね、ルークのくせに、とアニスにからかわれ、その後、膨れていた。
その時の様子を思い出し、思わず含み笑いをしたガイの視界には、木蓮の並木道が映っていたが・・・ふと、木の間から赤いものがちらり、と揺れたのが見えた。
ん、とガイは目を凝らす。
しかし、それはほんの一瞬のことで、見間違いかと言われればそうだったかもしれないが・・・ガイにはそれが、よく知る朱い髪が通ったように思えた。
けれど、こんな早い時間に、ルークが起きている訳もない。
首を傾げていると・・・おや、お客さん早いね、と後ろから声をかけられる。
振り返ると、宿屋のおかみが、眠そうな目を擦りつつ立っていた。
どうやら、夜中は施錠していた宿の扉を開ける為に起きてきたらしい。
「じゃあ、早めに朝食の準備をしなきゃね。」
と、おかみさんがふくよかな体を揺らして笑うのを見て、ガイの元使用人の血が騒いだ。
「って、なんでガイが宿の食堂手伝ってるわけー?」
通りで今日は起きてこない訳だよ!とアニスが、すっとんきょうな声を出して叫ぶのを、ガイは、ははは、と笑って受け流す。
一同が(ひとりのぞく)介して座る丸テーブルにガイが給仕に向かうと、ジェイドは読んでいた新聞から目を放し、
「それにしても、そのエプロン。よくお似合いですよ。」
と言うので、うるさい、と答えておいた。
しかし、本当によくお似合いですわ、と褒めてくれたナタリアには、笑顔でありがとうとお礼を言ってしまうあたり、ガイである。
「・・・ルークのやつは、どうした?」
ティアの前に、スープの皿を置きながら聞くと、この時間に起きている訳ないでしょう?と呆れ顔で返される。
「今日も、アルビオールの点検で出立できないことを知っているのだもの。十分に寝坊しようと思っているんじゃないかしら?」
「うーん。そうか・・・。」
世界中を回っているアルビオールであるが故に、時々、本格的に点検をしなければならない。
つい昨日、ベルケンドを訪れたついでに、海峡を挟んだシェリダンまで足を延ばしたという訳なのだ。
シェリダンは、言わずとしれた音機関の街なので、ガイは嬉しいが・・・別段興味がない一同としては、体を休める以外にすることもない。
だから、ルークの寝坊も今回はお咎めはないのだが・・・。
「って言っても、早く朝食食べて貰わないと、いつまでも片付かないしなぁ・・・。」
げ、片付けまで手伝うの?とアニスは目を丸くしたが、ガイにしてみれば、乗りかかった船は最後まで下りない主義である。
「仕方ないなぁ。俺もこの後、朝食貰うことになっているし。その時にでも起こしにいくか・・・。」
そう、よろしくね。とティアはそっけない。
急ぎの用事がないのなら、ルークの寝起きの悪さにはつきあいたくない、といったところなのだろう。
そんな会話を交わした後、ガイは他の客への給仕に回り、落ち着いた時には、仲間は全員食事を終えて、ガイに声もかけずにいなくなっていた。
白状なやつらだ、と少しだけ白けた気分になった頃、お客さんも食事をどうぞ、と礼と共に朝食を出された。
そこでやっとガイはエプロンを外し、やはりというべきか、最後のひとりになるまで姿を現さなかったルークを迎えに行こうと、おかみさんに断って食堂を出る。
ルークの部屋は、2階の階段のすぐ横だった。
ノックをしても返事はなく、ガイはいつもの通り、勝手にドアを開け、ルークの寝ている部屋へと入った。
案の定、まだカーテンは閉められたままで部屋は薄暗く、そのすぐ脇のベッドのうえには、白いシーツにくるまった塊が、すーすーと呼吸に合わせて上下に体を揺らしていた。
「おいおい、ルーク・・・。」
いつものことだが、本当に寝汚い。
呆れ半分でガイは、ベッドへと近づく。
その時、足元をふと見て・・・あれ、と目を丸くした。
ルークの服が、落ちていた。
ルークはあれで綺麗好きで、整理整頓も、男のくせに風呂も好きときていて、脱いだ服もきちんとハンガーへとかける習慣があった。
めずらしいこともあるものだ、とガイは首を捻り・・・その服を拾うと、さらに、あれ、と首を傾げることになる。
この服、湿ってないか?
「んんー・・・。・・・ガイー?」
大きくこちら側に寝返りを打ったルークが、ぱちりと目を開けた。
「おー、おはよう。朝ごはんの時間だぞ?」
「んー。」
しかし、返事をしたものの、ルークはやはり眠そうだ。
半分閉じかかる目に、また寝ちまうんじゃないだろうな?と焦りながら、ガイがルークの服を持ったまま近づくと、再びルークは、ぱちりと目を開け、
「俺の服・・・。」
と言う。
「ん?」
「俺の服、なんで持ってんだ?それ、今日着る服だから、洗濯しなくって良いんだけど。」
「あ?・・ああ・・・。」
不思議顔のルークから、答えに困ることを先に言われてしまい、ガイはしかたなく、ハンガーから落ちていたから拾ったところだったんだ、と説明した。
えー?俺、昨日その服ハンガーにかけたっけ?とルークは、納得してないようだったが、まぁいっか、と再びシーツにもごもごと潜り込もうとする。
「朝飯だって。」
苦笑するガイに、ああ、そうだっけ?と答えながらも、一向にベッドから出てくる気配がない。
再び、ガイが揺り起こそうとした時、
「おはよーございます。ガイさん!ルークさん!」
と閉じたドアの向こうから、聞き覚えのある声がする。
え?と目を見開いて、今度こそルークはベッドから起き上がった。
それを横目で確認しながら、ガイが部屋のドアを開くと、そこにいたのは。
「・・・ギンジー?」
銀髪で長身のノエルの兄が、人好きのする温和な笑顔で立っていた。
手にはなにやら大きなバスケットを抱えている。
思いもよらぬ客に驚いているルークとガイに、お邪魔して良いですか?と言いながら、返事も待たずにギンジはルークの部屋に入ってきた。
「昨日の夜、整備室でノエルとばったり会って。もう、びっくりですよ!皆さんもシェリダンに来ていたんですね?」
あ、これ差し入れです、と言ってギンジが差し出したバスケットの中身は、大量のカップケーキだった。
ドライフルーツの入っているものや、チョコレートのかかったものと色とりどりで、ルークは目を釘付けにしながら、ごくりと唾を飲み込むと、さっそく手を伸ばす。
「どうしたんだ?これ。」
とガイが聞くと、オイラが作ったんですよー、と照れたようにギンジが言う。
なんと甘党のギンジは、自分が食べるおやつを自分で用意するらしい。
へー!すげー!などと大げさに驚きながら、すでにルークはひとつを平らげ、チョコレートのかかったカップケーキに手を伸ばしている。
礼が先だろ、礼が!とガイに怒られ、カップケーキを頬張りながら、ありがとーと言うルークに、どういたしまして、と答えるギンジは、にこにこと笑顔を崩さない。
「・・・・ん?ってことは、ギンジ。」
ルークがかぶりついていたカップケーキを、膝の上におろす。
「はい?」
「アッシュもシェリダンにいるって、ことか?」
「ええ。そうですよ。」
さっきどこかへでかけちゃいましたけど、とギンジが言うと、そうか、と言って・・・その後、うーんと唸る。
「ルーク?」
「どうかしましたか?」
「うん・・・いや。」
ルークは、ベッドの上で腕を組み、うーんうーんと首を傾げた。
「なんか変、だな?さっきまで会ってたような・・・。俺、あいつの夢でも見てたのかな?」
全然嬉しくねー!と自分で自分の言ったことを否定した後、ルークは、会ったらまた文句言われるから会いたくねー!と眉を下げながら、カップケーキを頬張った。
>2
|