“YOKU”

 

 

 

 

 耳をすませると、軽い水音が葉を叩いていた。
 雨の気配がする。
 外はまだきっと、薄暗い。
 そんな時刻に目を覚ましたアッシュは、いったん重苦しい頭をあげて、そのまま枕につっぷした。
 頭が痛い。
 昨日、差し入れられた酒を煽ったことの二日酔いか?
 それとも、柄にもなく風邪か?
 軽く額をてのひらに乗せ、もう一度体を起こした時、体を支えていた左手になにか暖かいものが触れ・・・そして、その正体を思いついて、アッシュは唸り声をあげた。

 そうだ。
 昨日のことを、すっかり忘れていた。


 ぬくぬくとしている毛布をそっとめくると、なかから朱いふんわりとした髪がでてくる。
 その髪の主は体を軽く丸め、うつぶせたまま、くぅくぅと静かな寝息を立てていた。
 一糸まとわぬ真っ白な体がそうして白いシーツの上に横たわっていると、まるで卵のなかの雛のようだ。

 そんなことを考えながら、つるりとしたルークの背中に指を伸ばし、アッシュはため息をついた。
 剣士らしく体のあちこちに細かい古傷のあるルークの体だが、どういう訳か背中にはひとつも傷はない。
 それは、昨日アッシュが確かめたことのひとつだ。


 ・・・なにをしてるんだ、俺は。

 
 アッシュは自責を含んだ溜息をついた。

 そもそも、どうしてこんなことになった?

 
 昨日は酒を飲んだ。
 漆黒の翼に渡された酒を、ふたりで開けて・・・それで?
 それで、どうしてこいつと寝ることになったんだろう?

 アッシュは痛む頭を軽く振ると、頭を冷やすためにシャワーを浴びようと、ひとりベッドの中から起き上がった。


 浴室のタイルの壁に備えつけられたコックを捻ると、熱いお湯が頭上から降り注がれる。
 砂漠に近い地形でありながら、ケセドニアは水に恵まれている。

 


 アッシュとルークがふたりして帰還して、すでに半年が過ぎていた。

 ローレライによって都合よく再生された彼らは、地上に同時に下され、そして元から二度とバチカルに戻らないと決めていたアッシュは、母上たちに会いに行こうと追いすがるルークを振り切って・・・ひとり姿を消すつもりだったのだ。
 だが、諦めの悪いルークは、気が付くとアッシュの後を追ってきていた。
 脅してもどやしつけても帰らない。
 そして、ルークは言った。
 俺もバチカルには戻らないから、一緒に行きたい、と。
 被験者に似てルークの頑固は筋金入りで、とうとうアッシュさえ仕方ないと半分諦めさせて今に至るのだが、アッシュが、ケセドニアを拠点と定めたのは、ここなら行き交う噂から情報を得やすい為と、様々な人種が集まる為に、特徴的な赤い髪すら、注目を集めることがないからだった。
 
 町はずれの無人になっていた小さな家を借り受けた後、アッシュは、漆黒の翼にだけは連絡を取った。
 仕事には事欠かないだろうと踏んでいたが、それでも仲介人はいたほうが都合が良かったし、なによりも彼等は性質上、口が硬い。今やマルクトにもキムラスカにも要人の知り合いはいるが、わざわざこちらから、連絡を取る間柄でもない。その点は安心できたのも理由のひとつだ。
 昔のよしみからか、アッシュの期待通り、漆黒の翼は彼らの生存を誰にも告げず、収入の良い仕事を優先して紹介してくれるような、良い仲介人になってくれていた。
 ただ、最近の依頼される仕事の内容を考えると、目ざといアスターだけは、どうやら彼らの帰還に気がついている気がする。

 アッシュは、熱いお湯を出し続けているシャワーを止めて、かけてあったタオルを無造作に取った。
 そのまま、ごしごしと顔や髪の水滴を拭う。

 とりあえずは、ルークの事だ。
 今更どうこうもないものだが、こうなった以上、今までとまるっきり同じ関係でもいられないだろう。


 望んでそうなった訳ではなかったが、ルークとの生活は、さほど悪くもなかった。

 気の迷いだと思うのだが・・・アッシュはルークからの、一緒に行きたいという言葉を聞いたとき、それも良いかもしれない、と思った。
 彼の旅には同行者というものがいたことはなく、いたとしても移動に利用させて貰ったアルビオールのギンジか、手助けしてもらった漆黒の翼かだけだった。
 だから・・・たまには他人のいる旅も良いかもしれない、と柄にもなく思ったのだ。
 嫌になれば、別れて行動すれば良いことだし、なによりもアッシュ自身・・・・そんな風に思った自分に対する好奇心もあった。自分自身に対してなのに、おかしな話だが、あんなに憎んでいたレプリカと一緒にいることを、試しても良いなどと思っている自分。
 もはやローレライが人間の思考にまで関与できるとは思っていないが、一度死んだ身なのだから、過去のすべてに目をつむり、初めからやり直してみても良いなどと思っている時点で、もしかしたら、本当に自分は生まれ変わったのかもしれない。
 そんな風にさえ、疑った。

 

 

「おはよぅー。」
「・・・・!」

 シャワー室のドアを開いた途端に投げかけられた能天気な声に、アッシュは一瞬、居間に向かっていた足を止めた。
 キッチンの前には、エプロン姿の(ひよこのアップリケがついている、どこで手に入れたかわからない謎のもの)ルークが、何事もなかったかのような顔をして立っていて、朝食はフレンチトーストでも良いか、などと聞いてくる。
 なんでもないいつもの日常の続きに、アッシュは意味もなく不機嫌になった。
 フレンチトースト。
 ルークの得意といえる数少ないメニューのひとつだ。
「アッシュ?」
 返事のないアッシュに、ルークは不思議そうに首をかしげる。
 アッシュは舌打ちしたい気持ちを押し殺し、「ああ・・。」と短く返事をした。
 それを聞くとルークは、嬉しそうに、にかっと笑い、じゃ、ちょっと待っててな!とキッチンへと向かう。
 じゅーじゅーとフライパンからの焼ける音と香りから察するに、どうやらソーセージもつけられるらしい。

 できあがったものはやはり予想どおりで、アッシュは毎度の代わり映えのしないメニューの、しかし今日は特別ふんわり焼けたんだぜ!とルークが得意顔で言ったその通りの出来の朝食に、フォークを刺した。
 一口食べると、柔らかいパンからは、バターが染み出してくる。
 確かに、いつもよりも上出来で、ルークの成長がうかがえるものだったが、しかし、アッシュには、かけたハチミツがなぜだか甘く感じられなかった。
 無言のまま、黙々と皿の上のものを片付けていると、
「あ、そうだ!」
 ぶすりとパンが刺さったままのフォークを目の前で振りながら、ルークが言った。
「なんだ。」
「さっき確認したら、砂糖が切れそうなんだ。あと、果物も!買い物に出るけど・・・アッシュ、他にいるものって、ある?」
「・・・・・。」
 アッシュは、からんと皿にフォークを置く。
「・・・外。」
「え?」
「・・・雨が降ってるぞ。」
「ああ・・・。」
 ルークが、窓の外を見る。
 ガラス戸を、細かい雨が叩くのを確認し、
「大丈夫、さっと行ってくるよ。まぁ確かに少し面倒だけどさ。」
 いつもの笑顔で、なんでもない事だと口にする。

「なんか、夕食に食いたいもんとかない?ついでに買ってくるけど。」
 アッシュは、そうだな、と相槌を打った。
 その視線は、半分ほど残っているフレンチトーストに注がれている。
「・・・魚。」
「え?」
「・・・晩飯は、魚が食いたい。」
「さ・・・魚、かぁ。」
 答えるルークの笑顔がひきつっている。
「ああ。新鮮なのが市場に行けば手に入るだろう?美味そうなのを見繕ってこいよ?」
 アッシュが笑いもせずにそう言うと、ルークは少しだけむっとしながら、フォークを置いた。
「・・・いいけどさ。なんだよ、機嫌悪いなぁ。」
 明らかに膨れ面のルークは、その場で立ち上がった。
「じゃ、行ってくる。今なら雨脚も強くないしさ。昼飯までには戻ってくるから。」
「あ、ああ・・・。」
 ルークはさっさと寝室へと外套を取りに行った。
 この家には、キッチンも居間も一緒の部屋と、寝室のふたつしかなかったから、アッシュはひとりになって、まだ少しだけ食べかけの残っているルークの皿を見つめる。
 自分が追立てたようなものなのに、まるで、取り残されるような気分になるのは、何故だろう?
 
 寝室から戻ってきたルークはすでに、外套を着ていた。
 それは髪の色を考えたら、アッシュなら選ばないような深い赤で、しかしルークが着ると妙に似合うというものだった。
「いってきます。アッシュ、悪いけど朝食の片付け、頼んで良い?」
「・・・あ、ああ。」
 アッシュの短い返事を聞いて、ルークは足を踏み出す。
 ドアを開くと、深く甘く香る雨の匂いが一気に部屋へとなだれ込み、ルークは目を細めた。
 それは、アッシュも同じで、ふたりはこの時、同じ表情を浮かべていた。
「アッシュ。」
 外套のフードを被りながら、ルークが振り返った。
 なんだ、とアッシュが聞き返す間もなく、ルークは告げた。

「昨日のこと・・・気の迷いだって、わかってるから。」

 

 

 


 ひとりになった後、アッシュは昨日の続きを読もうと、読みかけていた本を探した。
 目的のものは、居間と呼んでいるにすぎない空間の、簡素な作りのソファーの前のカフェテーブルの上にきちんと置かれていた。
 手に取ってみると、昨日ドッグイヤーにして伏せておいた筈のページには、きちんとしおりが挟んであって、ルークの意外にも几帳面な一面に、改めて感心させられる。

 ルークとの生活は、悪くなかった。

 10歳から外での暮らしを余儀なくされたアッシュと違い、なにもかも周囲がやってくれるような環境で育った筈のルークなのに、彼は整理整頓が得意だった。
 それとなく聞いてみると、屋敷にいた時からルークは、掃除こそメイドに任せていたものの、自分の部屋の片づけは自分でやっていたらしい。
 暇だったからというのが理由らしいが、実際には自分のものを自分でわかるところに置いておきたい性格らしく、その為には他人に触らせないことが一番だというのが本音のようだ。
アッシュも、散らかしたりするのが好きではなかったから幸いなことではあったが、ただ、そのせいでアッシュのものですら、勝手に片付けられてしまうのが難点ではあった。(俺のあれをどこへやった!?という会話は日常だ)
 それ以外では、言い争いも最近はなく(ルークが押しかけてきた当初はかなりあった)うまくいっていると思う。


『・・・そもそも。』
 アッシュは思った。
『なんで、あいつは俺についてきたんだ?』
 打倒ヴァンを目指していた時は、憎悪しか向けていなかったというのに、よく自分に付き添おうなどという気になったものだ。

 アッシュは、自分でも人付き合いが良いとは思っていない。
 会話が楽しめるような人間でもないし、愛想もない。
 そもそも、自分に好意を抱いてくれた人間など人生において、ひとりかふたりか。せいぜいその程度だろう。
 アッシュは、自分はそういう人間だと思っていた。
 愛される要素のない類の人間というのは、たまにいて、自分もそれに分類されるのだ、と。
 なのに、なんの見返りもなく自分と一緒にいようと思うなど、なんてルークはもの好きなのか。


 アッシュは溜息をつき、本をひっくりかえしてテーブルに置いた。
 もとより、さきほどから全然内容が頭に入らない。
 その横に、ルークの本が数冊、重ねて置いてあって、その中の一冊を手に取ると、ぱらぱらとめくる。

 ルークは意外にも勤勉家でもあった。
 かつてガイやナタリアに、勉強を嫌っていたと聞いていたが・・・それは家庭教師が嫌いということだったらしい。かつての『ルーク』と同じであることを求められたルークの苦しさを知らないアッシュは、なにもかも押し付けられるのが嫌だったのだろうと解釈していたが、しかし、自由になった途端に、好奇心をむき出しにしてなにもかも吸収したがるルークに、アッシュは自分でわかる範囲のものなら、なるべく応えてきたつもりだ。
 今、ルークはフォニック・ウォーについて勉強中だ。
 そして、それとは別にルークのお気に入りは、『オールドランド童話』だった。
 アッシュの、ぱらぱらとページをめくっていた手が止まる。
 そこには、角があって太っちょの怪物の(一応、妖精らしいが)イラストが描かれてあった。
 ルークはかつて、このケセドニアの路地裏で、ありじごくにんに会ったことがあると言っていた。
 その時、アッシュに一笑に付せられたことを根に持ち、しばらくは絶対にアッシュにも会わせてやる!と息巻いていたが・・・いまだに遭遇はできていないらしい。
 それにしても、どんなもの好きのいたずらか知らないが、そんなものを信じるなんて。
 あいつはやっぱりバカだと思うものの、その純粋さは本物だとも思う。


 アッシュは、自分のてのひらの中に顔を伏せた。
 そんな子どもに手を出した俺は、更にバカだ。
 そもそもどういうつもりだったのか、それすらも覚えてない。
 たとえ、酔っていたとしても、行動に移した時、あいつに対して欲があったのか、なかったのか。
 それが・・・いまだにわからない。

 アッシュは本日何度目かの溜息をついて、ふと、顔をあげた。
 いつのまにか、雨が上がっていた。

 木立ちの向こう、細い道をルークが歩いてくるのが見える。
 遠目でもアッシュと目が合ったのがわかったのか、満面の笑みを浮かべ、手を振ってきた。
 それを見たアッシュは、さすがに手は振り返さなかったが、それでも笑みを返したのだった。

 

 

「なぁ、珍しいモノが手に入ったんだ!」
 
 ドアを開けるなり、ルークが嬉しそうな声で言う。
 そして、ただいまの挨拶もそこそこに、アッシュのいるソファーまで近づき、カフェテーブルの上に買い物用の布バッグから出した戦利品を並べだした。
 ルークのいう『珍しいモノ』というのがなにを指しているかはすぐにわかった。
 ぽん、と置かれた油の沁みた紙袋の中から、甘い香りとともに、アッシュの好きなカヌレの黒い焼き目が覗いたからだ。
 カヌレはアッシュの好物だった。それは、ダアト発祥の菓子で、キムラスカではめったに手に入れられない珍しいものだ。
 それがケセドニアのパン屋で売ってたんだぜ?すごくね?とルークが嬉しそうに捲し立てるのを聞いて、アッシュは目を細める。
 そして、顔をあげるとルークが得意そうに、アッシュの表情を見ているところだった。
 アッシュは慌てて表情を引き締めたが、ルークはそれだけで満足そうだ。

「さて。昼飯作るか。」
 今日の食事当番はルークだった。
 ルークはアッシュから離れると、なににしよっかな〜と鼻歌を歌いながらキッチンへと向かう。

 アッシュはその後ろ姿を見ながら、体の力を抜いた。
 別段意識した訳ではないが、いつのまにか指先に力が籠っていたらしい。


 


 しばらくは、昼食の支度の音以外はなにもしない、沈黙の時間が続いた。
 アッシュはもとより騒がしいのが好きではなかったが、ルークは沈黙の空気を心地よく分かち合える相手だと思う。
 
 キッチンに立つルークの後姿をちらりと見たのをきっかけに、アッシュはそのまま目を離さずに眺めていた。
 頭の中は、さきほどの続きでぐるぐると同じ思考が繰り返されている。
 そもそもは、とか、こいつが、とか何度考えても答えの出ないことばかりだ。

「・・・うう・・。」
 短く声がして、アッシュははっとしてルークを見た。
 別段痛そうな声でもなかったが、ルークはさらに、うんうん唸っている。
 なんだ?と聞き返してアッシュが傍に行くと・・・。
「おにぎりつくってたんだけどさ。」
 ルークが情けない顔で振り向いて言った。
「三角にならねーし、べっとべと。」
 ほら、と言って、ルークはアッシュに米粒が張り付いている手のひらを見せる。
「俺、やっぱり料理向いてないのかな・・・。」
 そうぼやきながら、手のひらを舐める。
「・・・・・今更だろうが。」
 アッシュは、ルークが用意している昼食のメニューを見た。
 ブロッコリーとチキンのグラタンと、おむすび。その横には、味噌がおいてある。
 以前、食材がなくなりかけた時、アッシュが塩だけでは味気ないと教えたのだが、それ以来ルークは、味噌にぎりを気に入っていた。

 アッシュは一度外していた視線を、ルークに戻す。
 一心不乱になって、手のひらを掃除しているルークの舌は赤い。
 以前からこうだった、とアッシュは思い出した。
 無邪気でこどもで。
 無防備にアッシュに近づいてくるくせに、こうして時々、とんでもない・・・色香を放つ。
『バカは・・・やっぱり俺か。』
 こいつに対しての"欲"があったかどうかなど。
 考えるまでもないではないか。


「誰が・・・。」
「ん?」
 なにか言った?とルークはアッシュを見る。
 その目はまんまるで、アッシュに対して怯えの類は一切ない。
 昔は、そうでもなかったかもしれない。
 理由もなく怒鳴り散らし、存在そのものが疎ましいと叫んでいた時、ルークはアッシュに対して少しの怯えを見せていた時期もあった。
 いつのまにそれはなくなったのだろう。
 こうして、腕を掴まれても、ルークは抵抗の様子も見せない。
「誰が、"気の迷い"を起こしたってんだ。」
「あ・・アッシュ?」
「勝手に人の気持ちまで、決めつけんじゃねぇよ。」
 ぐい、と手首を掴み、アッシュはルークの手のひらに唇を近づける。
 舌先で米粒を掬った時、ルークののどの奥から短く声があがり、アッシュはそれを聞いて、満足げな笑みを浮かべた。

 

 


 結局、昼食が夕食になったじゃんよ、と文句を言いながら、向かい合わせのルークがフォークを動かしてる。
 その目はとろんとして、まだ眠そうだった。
 実際に、アッシュが付け加えてこしらえたスープを飲むときも、ずずっと音を立てて、ようやく飲み込んでいるという感じだ。
 ほっといたら、スプーンを持ったままで目を閉じてしまうかもしれない。

 結局、あの後寝室へと縺れ込み・・・ぐっすりと寝ていたところをたたき起こされたルークは少し不機嫌だ。
 その顔を見ながらアッシュは、そういえば、とルークに聞いた。
「お前、魚はどうした?」
「まだ、そんな事、言う?」
 ルークが買ってきたものの中に、魚はなかった。
 それに対しての嫌味だと取り、むっとした反応を示しながらも、ルークはよろよろとブロッコリーを突き刺す。
 そんなに眠いなら、食事は後で取れば良いのに。
 そうアッシュが言うと、え、やだ!とその時だけ、ぱちりと目を開けてルークが言った。
「だって、そうしたら後でひとりで食べなきゃなんないじゃん。それは、嫌だ。」
 ルークは、ひとりで食事をしたがらない。・・・というよりも、アッシュと一緒に食べたがる。
 そのことを問いただすと、ルークは少し顔を赤くしながら、ひとりで食べたくないんじゃなくってさ、と言った。・・・他の人には、アッシュと一緒に食事して欲しくないんだ、と。
「だって食事って・・・なんか色っぽいことと繋がってる感じがするじゃん?」
「色っぽいこと?」
「だから・・・そういうことと、繋がっているっていうか。ほら、その、よく"食べられちゃった"とか、表現するし、さ。」
「・・・ああ・・・。」
 返事をしながら、アッシュは妙に感心していた。
 無邪気な色気だとばかり思っていたが、そのことを意識していたとは、こどもだと思いこんでいたルークの中にも、すでに成熟している部分があったということか。
「だが今のお前は、性欲よりも食欲よりも、睡眠欲が勝っているように見えるが?」
 にやりと笑ってアッシュが、やっぱりこどもだな、とからかうと、ルークは更に顔を赤くして、誰のせいだよ、とごにょごにょ言いながら、誤魔化すようにしてスープをすする。
 その顔を眺めたアッシュは、今日最大の、上機嫌を手に入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


 アッシュって意外と自分の気持ちに疎そう・・・。
 性欲と食欲が似ているということで、やたらと無意味に食べ物がでてきていますが(笑)・・・おにぎりは味噌だー!!

 

('10 10.19)