どんなものでも確かめないと気がすまないの。
無邪気なロマンスを疑わないでいられるほど、子供でもない。
意味がないなんて事はしないわ。
なくなってしまっても、それは同じこと。
私には、確かめなくても良い事なんて、ひとつもないの。
朝になれば、どんな迷いも、それが霧散してしまう。
太陽の光の下でさらけ出されるものと、月の下でさらけ出されるものは、その種類において、違う心情だ。
たとえば、どこに向かっているか、その方向性。
朝が外部を表すとすれば、夜は内部を表す。
ただ、それが確固たる信念に基づいているならば、夜の迷いも朝の威力を前にして、消える事はない。
「なんの話だ?そりゃ。」
聞いていないとばかり思っていたのに、呆れた声を出し、ロニが相槌をうった。
あれ、と顔をあげ、そのロニの表情を見て、ハロルドは笑う。
「なに、その変な顔!おかし〜〜〜。」
「あ、この!失礼なヤツだな!お前がいきなり、ぶつぶつと変な呪文みたいな事言い出したからだ!気味が悪ぃんだよ!やめろ!」
「あ〜ら、この大天才さまの、講釈をタダで聞けるんですからね!ありがたがって当然ではなくって?」
呪文、とは言いえて妙だ。
とハロルドは笑う。
これからしようとしている事に対して、上手くいくように。
そんな願掛けみたいな、非科学的なことは信じないが。
うん、そうだ。試す前に、呪文のひとつも唱えてみようではないか。
「ねえ、それでジューダスはどうなのさ?」
太陽の光が透けて見える綺麗な金髪の頭を、地面すれすれまで近づけ、横から、ぴょこんと顔をふたりに間に挟み、カイルが言う。
ばか、メシに顔をつけるなっとロニが自分の皿を引きながら、カイルの頭をよける。
「どうってなにがよ?」
ハロルドは自分の分のパンを千切り、口の中に入れながら答える。
「だから、ジューダスだよ!2週間近くも寝てたんだもん!他に悪いところとか、ないの?」
いきなり倒れて、2週間近く眠り続けていたジューダスが、目を覚ましたのは、おとといの事だ。
別段、体調も悪い訳ではなかったが、さすがに、いきなり動くことはままならなかったらしい。
念の為、と称されて、未だにベッドに括り付けられている。
「あいつなら、平気よ〜。」
ハロルドは言った。
「もう、めっちゃ元気!なのに、なんで私らは、未だに滞在してる訳?私、ここにはもう、飽きちゃったんですけど?」
それに苦笑して、ナナリーが言う。
「そうだけどさ、一応って思って。ホラ、ハロルドだって、今回のジューダスを麻痺させた原因を突き止めるんだ!ってはりきってたじゃないか?」
「それはどこでも出来るわよ!要は、データ持ってるあいつさえいれば、血ィ摂って、データ取って、必要とあらば、かっさばけば良い事だもの〜。」
「おいおい。」
なにしろ、もう17日間に及ぶ、長期滞在だ。
お金の心配は必要ないが・・・モンスターを倒した見返りに宿屋の主人が安くしてくれている。タダにはしてくれなかったが・・・同じ所にいるのには、もともとハロルドは性格が向かない。
すぐに飽きる。すぐに違う事に興味が移る。
だが、それはハロルドに限らず、全員が飽きてきているのは明白だった。
それは、宿があるのにわざわざ、丘の上にハイキングがてら、昼食を取りに来ていることでも伺える。
マンネリ化した日常を、少しでも楽しい方向へ向けようとしているのだ。
ちなみに、リアラは今日は、ジューダスと一緒だ。
「まあ、そろそろね。出発するのは良いかもね。」
ナナリーが、宿のある方向を見て、言った。
「よし!待ってました!」
パチン!と指を鳴らし、カイルがその場に飛び上がる。
「もうオレ、早く旅に出たくって仕方なかったんだ!」
「飛ぶな!」
とロニが、カイルの撒き散らす砂埃を迷惑そうによけた。
「でも、まあ、俺も退屈してきたところだ。ヤツさえ大丈夫なようなら、そろそろ発つか?」
そうね〜と、気のない返事を返しながら、ハロルドは考える。
明日、か。
「じゃあ、そうしようか?」
心配性のナナリーの了解を得たところで、それは決定事項になった。
明日、か。
善は急げって言うし、次の街まで待てそうにない。
だったら、今日の夜に決行だ。
ハロルドはそう思い、昨日から作り始めていた薬の、最後のしあげを頭の中で、組み立てていた。
「気持ち悪いとか、ないの?」
「ない。」
相変わらず、そっけない言葉だと思う。
必要以上に言葉を交わさない。
余計に話すと損だ、とでも思っているかのようだ。
ハロルドはジューダスの顔を見る。
蝋燭に光に照らされて、卵色に反射する肌が、鼻筋や髪の影をきつめのコントラストでもって、くっきりと浮かびあがらせる。
別段、顔色は悪くはない。
だが、健康そうにも見えないのは、普段から彼の面は白いからだ。
陶器のような、肌。
対照的な漆黒の髪。
まるで、作り物のようだ、と毎回、近くで見る度に、思う。
これで女だったら、絶世の美女だ。
「何だ?」
「え?」
「何故、見る?僕の顔になにかついてるか?」
にやり、とジューダスは人の悪い微笑みで、ハロルドを見上げる。
明日、発つ前の最終チェック、と称して、ハロルドはジューダスの部屋を訪れていた。
順番からすれば、調度ハロルドの当番だったという事もあり、自然な成り行きだった。
はずだ。
「・・・別に?」
意識をしないように、ハロルドは、視線をジューダスから逸らす。
「顔色を見ていただけよ?他意はないわ?」
「どうなんだ?」
「何が?」
ジューダスは笑った。
「顔色だ。その話をしているのだろう?」
裏に隠した違う意味を、わざと意識させようとする物言いに、ハロルドは、その手に乗るものか、と思う。
「ダイジョブよ。なんともないわ。」
「そうか?」
「うん。」
「では、明日、発っても大丈夫だな。」
「へえ?」
意地悪くハロルドはジューダスを見る。
「えらく素直な反応じゃない?自分の体の事は自分が一番分かる、っていつもは言うくせに。」
ジューダスはそれには、口の端をわずかに上げただけで、答えなかった。
「じゃ、これ。」
ハロルドは、自然に見えるように心がけて、白い錠剤を袖から出した。
それをジューダスの手の上に落とす。
ハロルドは、自分の手から彼の手へと、それが落ちていくのをスローモーションのように、見る。
そう見えるのは、きっとハロルドの目だけだろう。
「念のための栄養剤よ。飲んで。」
ジューダスが、ハロルドの顔を見て、その言葉を聞くと、次に手の中の錠剤を見た。
その彼は、別段、怪しんでいる様子もない。
早く飲みなさいよ、とハロルドは思う。
躊躇う心が、勝手に何かを言い出さないうちに。
ジューダスはベッドの枕元に置いてあった水差しに手を伸ばす。
コップに、長い間そこにあった為にぬるくなった水を注ぐと、錠剤を口に含み・・・飲み下した。
それをハロルドは、動く喉元を見て、確かめた。
「なにか、あるのか?」
「・・・え?」
その喉元が動いて、自分に向かって声を発した。
我に返るようにして、ジューダスの顔へと目の焦点をあわせると、ジューダスは、訝しげな顔で、ハロルドを見ている。
「なんか、言った?」
「いや。」
ハロルドが聞き返すと、ジューダスは答えない。
いつのまにか、なんとなく気まずい雰囲気が生じていることを感じた。
それは、今の薬のせいだろうか。
それとも、もともと、彼が眠りにつく前からあった、問題のせいだろうか。
「ねえ・・・。」
「帰らないのか?」
ハロルドが、この雰囲気を脱しようと口を開くのよりも、ジューダスの言葉の方が早かった。
なにか、変な事言わなかった?と思い、ハロルドは聞き返す。
「何?」
「帰らないのか、と聞いたんだ。」
きょとん、とハロルドはジューダスを見る。
「どこへ???」
ジューダスは・・・・・・・
「お前・・・。」
笑った。
「とぼけてるのか?それとも、本当に分かってないのか?」
「だから、何が?」
「自分の部屋には、帰らないのか、と聞いたんだ。」
思わず、ジューダスの顔を息を呑んで見つめてしまった。
人の悪い、いつもの微笑を浮かべたまま、ジューダスはその後の言葉は言わない。
ようやく分かった言葉の意味に、ハロルドはうろたえた。
帰るわよ・・・そう、条件反射のように言いかけて、ハロルドはそれを飲み込んだ。
時計を見る。
5分、たっていた。
「私の質問に、答えなさい。」
「・・・・・・・。」
何の脈絡もなく、なにかを始めるのはいつもの事なので、いきなりなんだ?とは、今更言わなかったが、それでも、呆れかえった表情で、ジューダスがハロルドを見返す。
ハロルドは凛とした表情で、先ほどの質問に答える前に、自分の質問を優先させる。
そして、何かを宣言したかのように、ジューダスに問うた。
「どうして、私なの?」
「なんの話だ?」
「あんたが私に目をつけた理由。」
はっきりと物を言うのを好むハロルドの言葉は、ストレート過ぎて、飾りがない。
それも、場合によっては良し悪しだな、とジューダスは笑う。
「まるで、悪事に加担でもするような物言いだな。」
「答えて。」
ハロルドは、ジューダスの言葉を取り合わない。
きりっとした表情だった。
なんの迷いもない、そういう顔だ。
信じている者の表情というのは、残酷な結果を予想していない無邪気さを覗かせているものだ。
時には、それを忌々しいと思う者と出会うかもしれないというのに。
「知ってどうする?」
「別に?ただ、知りたいの。」
「知りたい・・・・か。」
はっ、とジューダスは笑った。
「では、データ採取とやらの、一環か?」
「!!」
いきなり、立ち上がったジューダスが手首を捕らえ、ハロルドがびくりと体を震わす。
「人の心に土足で入り込んでも、許される、そう思ったか?」
「ちょ・・・。」
「自分に惚れてる男になら、何をしても平気だと、そう思ったのか?」
きり・・・と手首を強く握られ、ハロルドが痛みに顔をしかめる。
「体よく、モルモットが手に入った、その程度にしか思ってないんだろう?」
ばっ、とハロルドが手を強く引くのと、ジューダスが手を離したのは一緒だった。
冷めた表情でジューダスは、ハロルドを見下ろす。
手首をさすりながら、ハロルドは混乱していた。
5分、たっている。
薬は効いているはずだ。
だったら・・・。
これは本音だ。
いきなり怒り出したジューダスの瞳が、敵を捕らえたかのような冷たく光っているのを見て、初めてハロルドは怖い、と思った。
それは、本能的な恐怖だ。
ジューダス自身も怖い。
この状況も怖い。
でも、これが。
コレガ、ジューダスノ、本当ノ姿ダト言ウノガ、怖イ。
これは、望んでいた結果なのだ、とハロルドは唇を噛む。
希望していたものと違う結果だからと言って、それを無視する事はできない。
後悔することも。
なかった事にも。
「お前が、待っていたのは。」
え、とハロルドは顔をあげる。
今、聞いたのは、ついさっきの突き放したような、ジューダスの声音と違っていた。
いつもの、どこか甘く聞こえる、静かな声。
普段どおりの。
それを聞いた瞬間、胸が震えるのを感じた。
「コレの、効き目か?」
「あ。」
先ほど手渡した白い錠剤を、指で摘んだジューダスが、顔の横で掲げるようにして、ハロルドに見せた。
「どうして・・・・。」
「やはりな。」
ジューダスは、小さく笑って、それをハロルドの手へと戻す。
白く小さいそれは、ころんと、ハロルドの手の平で回転して止まった。
「なんなんだ?それは。」
「うん・・・。」
手の平を握り締め、ハロルドは、良かった、と思った。
では、自分は騙されたのだ。
だけど、これをジューダスが飲まなかった、という事に、小さく喜びを感じたのを、認めるしかない。
「これはね・・・。」
小さなこぶしの中にある物は、呪文の言葉。
「本当の気持ちを話す薬。」
「・・・・自白剤か?」
「それよりも、もっと、深層心理に効くの。本人ですら知らない、本当の自分に気がつくくらい。」
ジューダスは、目を細め、ハロルドを見据える。
その視線に気がつき、ハロルドは小さく身を縮めた。
「そんなものを使って・・・僕がとんでもない化けモノを心に飼っていたら、どうする気だったんだ?」
「だって、あんた・・・いろんな毒に対する抗体を持ってるみたいだから・・・・。普通の自白剤なんて効かないと思ったんだもん・・・。」
ジューダスは溜息をつく。
当たってはいる。
確かに、自分は色々な抗体を持っては、いる。
幼い頃から、そうなるように、育てられてきた。
時々、食事に混ぜられる毒を使って。
だが、今はその話は関係ない。
「それで、一体、何を聞き出したかったんだ?」
ジューダスは言う。
その声には、怒りも軽蔑も、少しも混じっていない。
いつもの、ハロルドと議論をする時と同じ声だ。
「あんたの全部を・・・。」
「なんだって?」
全部、というのが、具体的にどこからどこまでを指すのか、をジューダスはどう判断するか、迷った。
まさか、幼い頃から今日までの記憶にある全てをさらけ出せ、というのではあるまい。
なら、目的は、心のどの場所だ?
「あんた自身の、まるごと全部。」
「僕自身?」
うん、とハロルドは頷く。
薔薇色の髪が、心細げに揺れる。
心なしか、いつもよりも小さく見える、とその姿にジューダスは思った。
「あんたの全てを・・・性格も、物の考え方のパターンも、全てを分析して、そうして結論を出そうと思ったのよ。あんたの・・・私への気持ちというのを、信じても大丈夫なのか、どうか。」
「・・・・僕の気持ちも、お前にとってはデータか?」
ジューダスの言葉に、ううん、とハロルドは首を振った。
「でも、人の気持ちなんて、確かなものではないわ。ここにある、と口では言っても手に取って確かめられる訳じゃない。今、あったとしても、なにかのはずみで、次の瞬間には消えてしまうかもしれない。そんな幻のようなものよ?ある、とただ言われて、おとぎ話を信じるほど、私は子供ではないわ。」
「だから、証拠が欲しかったのか?」
「証拠ではなく、確証が。あんた自身を信じられれば、あんたの言葉も信じられるもの・・・。」
ジューダスは黙っていた。
なんの言葉がなくても、それが怒っているということくらい、ハロルドには分かる。
自分の気持ちを、証拠がないから信じられないと言われて、腹をたてない者はいない。
人の言葉を信じられない、というのは不幸な事だ。不幸で礼儀に反する。
でも、そう自覚していても尚、ハロルドには、無邪気に信じることができない。
ただ、知りたいというのは嘘だ、と思った。
本当は、不安だから確かめたいのだ。
信じられないのは、信じて、それが違ったら怖いからだ。
信じたいからこそ、疑う。
それを。
ジューダスが分かってくれれば良いのに、と思った。
「確かにな。」
ジューダスは言った。
納得した、そういう感じに笑う。
「人の気持ちなどアテにならん。永遠を口にしたところで、それは言う傍から嘘になる。」
自分を棚にあげて、ハロルドは捻くれてるな、と思う。
ここは普通なら、納得するところではない。
「だが、データは信じられるのか?それが完璧だと、ほんのわずかな計算違いもそこにはないと、言い切れるのか?」
「それは・・・。」
「僕らの永遠など、短い。」
いきなり、自分たちには時間の制限がある事を指摘され、ハロルドは、言いかけた言葉を飲み込んだ。
「その短い間さえも、僕が信じられないのか?」
永遠などない。特に自分たちには。
それはふたりとも、痛いほど分かっている。
だからこそ、ハロルドは信じたがった。疑いの隙間もないほどに。
そして、ジューダスは、だからこそ信じられるだろう、という。
短い期間くらい、自分自身も含めて、僅かな疑問が湧き上がっても、目をつぶる事ができるだろう、と。
信じるという事は、そのまま、何も疑わないということだ。
ジューダスの気持ちを。
些細な事で、心を揺らす事もなく。
信じきれるだろう、と。
ああ、そうか。
とハロルドは思った。
嬉しくって勝手に、涙が浮かんでくる。
心が満たされて、長い間、彷徨っていた迷路から抜け出せる、そんな気がした。
「ちょっと・・・。」
「黙ってろ。」
せっかく、こんがらがってしまった心に、光が差したと思って感動してたのに、これだ、とハロルドは思った。
ジューダスが、黙ってしまったハロルドの顎に手をかけて上を向かせる。
意図したものがなにか、はっきりしている。
男は、こういうところで気が利かない。
「何よ、人が折角・・・。」
ハロルドが文句を言うと、ジューダスは手を放し、体を起こして、なんだ?と言った。
それにも、ハロルドは呆れる。
ここまできて、やめるか?それはそれで、変わってる。
「なんだって?」
ジューダスは、不思議そうな表情で聞く。
「いや、だからね。」
「ああ。」
ハロルドは溜息をついた。
ジューダスは、真顔で見下ろして、ハロルドの言葉を待っている。
なんだか、説明を求められるのが億劫になった。
「もう、いいの。」
「なんだ、それは?」
「いいのよ、もう、満足したの。」
ハロルドは笑い、ジューダスの顔を下げさせて、自分から唇を重ねた。
「やっぱ、旅の空の下は気持ち良いよね〜〜〜!」
伸びやかに胸をそらし、空気をいっぱいに吸い込んで、カイルが言う。
その顔は、やっとの出発に、今日の空に負けないくらい晴々している。
それを見て、全員が、微笑ましい気持ちになる。
「ところで、ジューダス。」
ナナリーが、歩調を遅くして、後から来るジューダスに並んだ。
「なんだ?」
「平気なのかい?」
「ああ、もうなんともない。」
「いや、そうじゃなくって。」
ナナリーは苦笑し、チラリ、と後ろを見る。
ハロルドはリアラとしゃべりながら、のんびりと後をついてくる。
十分に距離があると判断したが、念の為に、聞こえないように小声で言った。
「昨日、ハロルド、部屋に行ったろ?」
「・・・ああ。」
「なにもされなかったのかい?ホラ、いつもの実験とやら・・・・・。」
「してないわよ〜〜〜〜〜〜ん。」
ぎょっ、としてナナリーは、振り返る。
いつの間にか、ハロルドがすぐ後ろに立っていて、ふたりの話を聞いていた。
「ハ・・ハロルド・・・。」
「私がなにかした、ですって?失礼な。私は、何もしてないわよ〜。」
嘘をつくな、自白剤の事はどうした。とジューダスは思ったが、あえて言わなかった。
「いや、だってさ。」
笑いながら、ナナリーは言う。
「ふたりして、朝まで一緒にいたみたいだから。てっきりジューダスがハロルドに一服盛られたのかと・・・。」
「一緒にいたけど、そんなことしないわよ〜!私が、されてたの!」
「・・・・へ?」
ナナリーは、足を止めた。
ハロルドもジューダスも、足を止めずに、その横をすり抜けていく。
「な・・・なんの事を言ってるんだい!?」
自分の想像している事が、まさか事実ではあるまい、と焦りまくったナナリーは思わず声を荒らげる。
ん?とロニとカイルもナナリーを振り返り、リアラは立ち止まって、追いついたナナリーの顔を見る。
それにも気にせず、ハロルドはナナリーを振り返ると、先ほどの続きを普通に言い放った。
「ま。男と女ですから。色々あるのよ〜。」
「え?」
足も止めないふたりの姿を、唖然と見て、そのまましばらく。
「ちょ・・・・。」
「おいおい、なんだって?」
我に返り、慌てて追いかけてくる数個の足音を聞きながら、ハロルドは、傍らのジューダスを見る。
不機嫌そうにしているかと予想したが、それに反して、口元にうっすらと人の悪そうな笑いを浮かべていた。
状況を楽しんでいる、余裕の表情だ。
ホント捻くれ者、とハロルドも、それを見て笑う。
「ええと、つまりさ。」
慌てる他の3人を見ながら、カイルの反応は、ひとりだけ普通だ。
冷静というよりも、鈍い分、人と驚くポイントがずれてるらしい。
「ジューダスとハロルドが、えっと・・・できてる、って事?」
カイル〜〜〜、誰からそんな言葉を教えられたんだ〜〜〜〜〜と嘆く声が後ろから聞こえる。
ジューダスとハロルドのふたりは、そのカイルのズレぶりを笑い、同じように、気持ちよく晴れた空を見上げた。
そこには、なんの怪しい雲行きも見えない。
このまま永遠に、平和が来てしまいそうな、そんな空だ。
この短い永遠すら終わらないかもしれない。
ハロルドはそう思い、そんな無邪気なロマンスを信じてみるのも、悪くない、と思った。
実際、短い永遠の終わりを、予感させるものなど、何もなかった。
fin
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