12・真実

 

「愛シイ君ハ空ノ向コウニ」






 

願イノサキ

 

 






 

 「ねえ、覚えてる?」

 茶色いガラス玉のような瞳で、自分の目を覗き込み、少女は言う。
それは、ここ最近、頓に行なわれる行動で、いつだって少しだけ身を引き、同じ答えを返すしかない。

 「覚えていない。」
答える口調には、感情は篭らない。
篭めたくても、そこにないものは篭められない。
そう言うと、いつでも少女は悲しそうに目をふせ、自分を覗き込んでいた体を起こして、距離をつくる。
まるで、期待していた答えを得られないことが、この距離を生んでいるかのように。
「リアラ。」
呼ぶと、相手の少女は向き直る。
「僕は覚えていない。何も覚えていないんだ。何度もそう言っただろう?」
「ええ。」
「それなのに、どうして同じ事を聞く?」
少女は少しだけ黙った後、こちらに向き直り、きっぱりと言い放つ。
「昨日、忘れていたって、今日は思い出すかもしれない。今日は駄目でも明日には。違う?」
ムキになっているとも言えなくもない、その口調に苦笑が漏れる。
「そんな都合の良いことがある訳ないだろう。」
「分からないわ。そんなの、分からないじゃない?」
「おい。」
「分かってないのは、ジューダス、あなたの方よ。」
少女は、自分をジューダスと呼ぶ。


 その名は「裏切り者」という意味だ。
始めは、18年前の騒乱の、揶揄かと思った。
だが、彼女はそれを、大事そうに口にする。
とても、恨み言から出てきた名前には思えなかった。

 そして、今では、この名で呼ぶのが3人。
リアラ、とその恋人の自分の甥。そして、その義兄。
このふたりは、何故だが自分でも理由が分からないと言いながらも、その名前で呼ぶほうが、しっくりくる、という。どうしても他の名前で呼ぶ気にならない、と。
そして、それは自分も同じだ。
この3人には・・・慣れ親しんだ、他の呼び名で呼ばれるのが、妙に不自然な気がする。
その慣れ親しんだ呼び名の、リオン、と未だに自分を呼ぶのは、この家では、主のスタン、ひとりだけだ。
そして・・・・・・その他、大勢は。
姉と、その子供たちは、揃って、自分を「エミリオ」と呼ぶ。



 どうなっているのか、分からなかった。
死んだと思ったのに、気がついて、太陽の光を感じた時、そこにあったのは・・・大人になったスタンの顔だった。
森の中に、暖炉にくべる木を拾いに来て、倒れている自分を見つけたという。
ただ、がむしゃらに。
自分の名前を呼びながら、スタンは抱きついてきた。
繰り返し繰り返し、名前を呼んで、他には言葉を忘れてしまったかのように。
そして、大の男になったというのに、大声でおんおんと泣き続けた。
後になって、落ち着いたスタンから、話を聞いた。
18年、たっているという。

 記憶はなかった。
18年、どこでなにをしていたのかも。
だが、ありえない事に、自分はスタンと再会した時、年を取っていなかった。
スタンは、今年で、37歳になるという。
だが、自分は・・・16歳のままだ。
少なくとも、姿はそうだ。
半身だったシャルティは失われていたが、18年前の騒乱の時と、少しも変わっていない。

 いや、実際は少し変わった。
とルーティは言う。
「あんた、少し丸くなったわ、大人になったって言うべきかしら。」
本当に、自分をおいて大人になってしまった姉にそう言われたら、素直にそう受け止めるしかない。
だが、その態度も大人になった証拠だ、とルーティは笑う。
昔なら、どんな正当な事を言われても、私が相手ならつっかっかってきたのに、と。




 「あれ?どうしたの?」

 外から畑仕事の手伝いに行っていたカイルが戻ってきて、自分とリアラのふたりを、怪訝そうに見つめる。
「カイル。」
リアラの真摯なまなざしを受け止め、それで状況が分かったのか、彼は少しすまなそうな顔をした。
それから、自分に向かって言う。
「例の、リアラのお願い、だったんだ?」
「ああ。」
カイルは、リアラのこの行動を「お願い」と呼ぶ。
「お願い、思い出して。」と最後に必ず言うからだ。


 もともと、リアラは、カイルが冒険に出た先で、故郷に近いラグナ遺跡まで戻ってきた時、出会ったのだと言う。
だが、彼女はなにもないところから現れ、そして、自分は見も知らぬ彼女の名前を覚えていた、と。
そう言う。
その、リアラが語るところによれば。
カイルと、ロニと、彼女とは、前に旅をしていた、というのだ。
そして神の化身と戦ったのだ、と。
その神の化身によって、一度死んだ自分は・・・リオン・マグナスは蘇らされたのだ、と。
荒唐無稽な話、と全員が笑ってすませないのは、それが事実だと、どこかで分かっているからだ。
それはカイルもロニも感じていることだ。
そう、きっと、それは現実だ。
それなら、年を取っていない自分にも、つじつまが合うし、なによりも・・・・。
それを否定しようという気に、ならない。
それは、その事実を体験した事として、細胞のどこかにが覚えているからではないだろうか、そう思う。
だが、その記憶はない。
カイルにも、ロニにも、記憶はない。
その記憶を所有しているのは、リアラ、ひとりだけなのだ。

 リアラは、諦めたように言葉を切った。
彼女が思い出してくれ、と言い始めたのは、つい最近の事だ。
それ以前は、こんな、切羽つまった表情で訴えてくることはなかった。

 



 


 蝉が鳴いている。
今年、初めての蝉だな、とジューダスは思った。
まだ、風が冷たい時もあるというのに、夏を待ちきれず出てきてしまったらしい。
そう思っている矢先に強い風が吹き、ジューダスが握っているブランコの綱を揺らした。

 「ね〜エミリオ〜!まだ直らないの?」

 男の子がひとり、ジューダスに向かって期待に満ちたまなざしを向ける。
先日、庭にあったブランコは、綱が老化して危ないとの理由から、孤児院最高の実力者である母親が使用禁止を宣言していた。
「もう少しだ。待っていろ。」
だが、子供の遊び道具を禁止するのは酷と言うものだ。
子供という生き物は、ただでさえ目が離せないのに、つまらないとなれば、それを埋める為になにをするか分からない。
故に、ジューダスはそのブランコを性急に修理する必要にかられ、それに取り組んでいたところだった。


 作業が終わり、はしゃぐ子供たちの声を背にして、庭を横切ろうとすると、木陰でリアラが転寝しているのが見えた。こんなところで、サボっているのはめずらしい。
彼女は、よく働く。
ルーティの手間は半分とはいかないまでも大分減ったようで、息子がリアラを連れて帰った事を「カイルの恩返し」と言っていた。あの能天気な息子が今までしてきた行いの中で、自分の為になったのは、これが始めてだ、と。
どうしようかと迷ったが、ジューダスはその傍に近づいた。
眠っている顔はあどけなく、このうえなく幸せそうだったが、このままほっておく訳にはいかない。
その細い肩に手を置き、乱暴にしないように、そっと揺すった。
「風邪を引くぞ?」
「う・・ん。」
ゆっくりとまぶたを開け、ぱちぱちとまばたきした後、リアラはジューダスの顔を見る。
寝ぼけているのか、にっこりと笑うと、もごもごと何かを言った。
「なんだ?」
意識をはっきり持っていない相手に対しても、何かを言ったなら聞き返さないではいられないのが、ジューダスの性分だ。
何事か訊ねると、リアラは、夢を見てたの、と言った。
「皆で、旅をしていた時の夢。」
「・・・・。」
またその話か、とは言えなかった。
あまりにもリアラが幸せそうだったから。
なにも小さな意地を張ってまで、それを曇らせる事はない、と。
「皆で、いつ終わるともしれない旅をして・・・。でも、確実に終わってしまうのを皆知ってて。それがね、少しでも長ければ良いって思ったわ。ずっとこのまま永遠がくれば良いのに、って。」
そして、夢の中にいるような表情から真摯な瞳に戻り、リアラがジューダスに向き直る。
「ジューダスは、夢は見ないの?」
「なんの夢だ?」
悪夢なら・・・今でも時々見る。
「旅の夢、よ。もちろん。」
「見ないな・・・。」
残念ながら。
ジューダスは、その時、なにげなく、そのひと言を付け加えそうになった。
見たいと望んでいる訳でもないのに。
「そう・・・。」
明らかに、肩を落としたリアラに、ジューダスは、ふと疑問をぶつけてみたくなった。
「なぜ、思い出させたいんだ?」
「え?」
「良い思い出だった、というのは分かる。だが、僕らはそれを持ってない以上、仕方ない、とお前ひとりのものでいてはいけないのか?そう割り切る事は?」
「ジューダス・・・。」
「一緒に記憶を共有していない僕らでは・・・・。」
なんと言おうか、ジューダスは迷う。
心もとないのか、信じられないのか。傍にいても、寂しいのか。
「違うわ。」
リアラが、その先の言葉を読んで、首を振る。
口元には笑みを浮かべていた。
そして、話しだす。
「あのね、わたしたち、6人だったの。」
「・・・。」
「後のふたりを、あなたたちが思い出せない。その事が寂しいの。」
「あなたたち?」
「あなたと、ロニ。」
ジューダスは、少し意外な気がして、首を傾げる。
「ロニ?」
「と、ジューダス。」
「なぜだ?」
「それはね。」
リアラは、微笑み、
「後のふたりが、あなたとロニにとって、かけがえのない人だったから。」
まるで、そこにいるかのように、手を伸ばす。
ジューダスの後ろへと。
思わず、つられるようにジューダスは振り返ったが、そこには誰もいなかった。


 「思い出せない?」
リアラはジューダスの瞳を覗き込む。
まるで瞳の底に、記憶が沈んでいて、それをすくおうとしているかのように。
「とても、大事な人だったのよ?」
リアラの茶色い瞳が揺れていた。
「あなたは、彼女を愛してたのよ?」
思わず、催眠術にかかったかのように、吸い込まれそうになる。
その瞳の中に、真実が隠れているのか。
それとも、ペテンなのか。
ジューダスには分からない。
「それなのに、思い出せない?」
「思い出せないな。」
冷たく言い放ち、ジューダスはリアラから離れる。
「ジューダス・・・。」
「お前が言った事が真実だったとして。」
声も冷たい、と自分で分かった。
リアラに対して、ここまで冷酷は気分になったのは、これが始めてた。
やかましい、と。
初めて思った。
「そんなものは僕は望まない。僕にとって愛する人は、この世にたったひとり。僕はそれを偽らない。」
「ジューダス。」
「くだらない事は二度と言うな。」
リアラに背を向け、ジューダスは家へと戻る。
侮辱だ、と思った。
自分は、他の女性など愛さない。
その心に泥を塗られた。そんな気分だった。






 空に浮かぶ白い川を見ていると、切なくなる。
どうしてこんな気分になるのだろう、とそう思う。
もうとっくに諦めたと思ったのに。
所詮、つもりはつもりだ。
真実の気持ちなどではない。

 もうすぐ、彗星が、この星に落ちてくる。

そうすれば、全てが無に戻る。
一緒にいられる時間も、記憶も。
愛したことだって、消えさる。
初めからなかったことになる。

 綿毛のように揺れる髪を見て、いっそ、このままできるだけ遠くに逃げてしまおうか、と思った。
一緒に。
だが、思っただけだ。
そんな事をするつもりは毛頭なかった。
それに、逃げたところで、結果は同じだ。
綿毛の髪は、ふわふわと上下に揺れる。
スキップかなにかをしているようだ。
それに向かって、自分が何かを言った。
その声は遠すぎて、自分でも何を言ったか、聞き取れなかった。
だがたぶん、転ぶぞ、と言ったのだろう。
言った途端、心の中に、暖かく灯ったなにかを感じた。
その感覚を。
一生忘れたくなどない。柄にもなく、そう思った。
綿毛の髪が振り返る。
自分の名前を呼ぼうと、口を開き・・・・。

 夢はそこで終わった。







 街の噴水の囲いの部分に、ロニが座っていた。
それに気がついて、ジューダスは立ち止まる。
昼食用のパンを買出しに出たのだが、その目的のパン屋の店員が、めずらしく物思いにふけりながら、さぼっている、ときている。
見れば、ロニの足元に、パンが大量に詰め込まれた大きな紙袋が置かれていた。
デュナミス孤児院への、差し入れなのではないのだろうか。

 「おい。」
「お、ジューダスか。」
声をかけられるまで、ロニはジューダスに気がつかなかったようだった。
だが、ジューダスがここまで出てきた目的には察しがついたようで「もうそんな時間か?」と言いながら、足元の紙袋を示す。
軽く頷いた後、なんとなく、その元気のない様子が気に係り、ジューダスもロニの隣に腰掛けた。
恋人たちのまじないをする噴水に男がふたり。
変わった光景だ。
「どうした?」
「んー。」
疲れているようにさえ見えるその姿に、理由を聞けば、気のない返事。
「なんだか・・・だるくってよ。」
「夏風邪か?ひくのは馬鹿と決まっているからな。」
「言ってろ。なんかな・・・。」
そう言いかけ、ロニはふつりと言葉を切ってしまう。
そして、しばらく、ふたりは黙ったままだった。
目の前を、子供が走り去っていく。
口を開いたのは同時だった。
「なあ・・・。」
「リアラの・・・。」
そこで、お互いに口をつぐみ、相手の言葉を促す。
だが、なにを言いたいのかは、予想がついていた。
おそらく、同じ内容だ。
「夢を見たんだよ・・・。」
案の定、ロ二が言ったのは、まさに、自分が言いたかったのと同じ言葉だ。
ジューダスが言う。
「お前もか。」
「つうと、お前さんもか。」
「ああ。」



 はっきりとは覚えていない。
細部はぼんやりと霧に包まれているような感覚だ。
なのに、生々しかった。
夢のような、勝手な捏造をした痕跡が、そこにはなかった。



 「すっげえギラギラした太陽がある場所なんだよ。俺のは。」
ロニが言う。
「絶対に暑いところなんだけどな。感覚まではないから、そういうのは感じねぇ。でも地面がこう、まぶしくってさ。照り返しがすごいんだ。」
「ああ。」
ジューダスは相槌をうって、聞いている事を相手に示した。
「そこでさ、誰かに会うんだ。」
「そうか。」
「でも、正確には会えない。会おうとして、なんか、石を彫ったような家の扉を開けて・・・そこで終わる。」
「・・・・・。」
「お前は?」
「僕は・・・。」



 夜、散歩に出たかのような光景だったが、実際はあれは夜明け前だ。
あの後、段々と空は明るくなり、天の川が薄くなり、同時に・・・。
白い花が花開く瞬間を一緒に見たのだ。
夢の中のあの場所は、白い花が咲き乱れる花畑だった。
そこへ・・・行きたいと。
言われたのだ・・・。
・・誰かに・・・。

『一緒に行ってよ・・・でないと、・・・・・するわよ?』

なんだ?なにをするって?
なんだか、物騒だ、いつだってお前は・・・冗談だとも本気だともつかない事を言う・・・。



 「で?」
「終わりだ。」
そっけなくロニの質問に答え、ジューダスは口を閉じる。
生々しい感覚。
心の中にたつ、ぞわりした感情。
焦燥感、喪失感。
それらに似ている。
なにかを。
なにかを忘れている。
なんだったかは分からないのに、それだけは決定的だった。

 ため息をつき、ジューダスは空を仰ぐ。
そして、目を瞬かせ、勢いよく立ち上がる。
「お・・おい!?」
驚いてロニが、ジューダスを見た。

 幻だったのか。
振り仰いだ空に、それが浮かんでいるように見えたのに。

 「どうしたんだよ?」
ロニも立ち上がり、ジューダスが見ている方向に目を凝らす。
だが、何も見えなかったようだ。
無理もない。
見えたと思ったのは一瞬だけで、ジューダスの目も今は何も見えていない。
「何かあるのか?」
「いや・・・。」
その時、見たものを説明できず、ジューダスは結局、その事については言わなかった。






 刃の噛み合う音が聞こえた。
それは自分の両腕から発せられている音だ。
両腕?いつもシャルティエは左手で握っていたはずだが。
モンスターは対して強くはなかったが、巨大で、長い手がやっかいだった。
それをよけながら、カイルがモンスターの懐に飛び込もうとしていた。
後ろで、長い呪文を唱える声が聞こえた。
こんな場面でも。
聞けばいつでも、甘いと感じる声だ。
その声が、いきなり、途切れる。
自分の名前を叫んでいる。
モンスターの攻撃を受けた自分に向かい、回復晶術をかけようと詠唱を開始する。
バカ、無防備になるな!
そう叫び、必死で、身を起こすと。
モンスターが、彼女に、攻撃をしかけようと体を回転させるのが見えた。

「−−−−−−−!!」






 がばり、とベッドの上で体を起こし、ジューダスはそれが夢だったと知る。
胸の動悸は治まらない。
生々しい夢。リアラの言っていたもうひとつの現実の夢だ。
あの後、どうなったのだろう。
思い出せない。

 ジューダスはこぶしで、ベッドを叩いた。

 もどかしい。
初めてそう思った。
この状況はこちら側からは操作できない。
全ては夢物語のようなのに、実際は現実にあったはずだ。
だが、一歩通行のそれは、夢となって現れる以外、こちらからは取り戻しようもないのだ。
思い出すこともできない。
どんなに頭を使っても。
すっぱりとそこから切られたかのように、先がない。

 そしてジューダスは、夢の中で自分が叫んだ名前が、どんなものなのか、想像もできなかった。






 
 「リアラ、話がある。」
「うん。」
たぶん、その時を待っていたのだろう。
呼ぶとリアラは、素直についてきた。
途中、カイルを拾い、ロニの待つ孤児院の裏にある、なだらかな丘へと、無言で歩く。
その途中も、ジューダスとカイルのふたりの胸中は複雑だった。
リアラだけが嬉しそうに、和やかな雰囲気をかもし出している。


 「よ。」
3人がつくと、ロニは片手をあげて挨拶してきた。
それに無言で頷いて、挨拶に代える。
その後、全員が円陣を組むように座った。
まるで、ピクニックでもしているかのような、光景だ。
「これから、もっと暑くなりそうね〜。」
強くなってきた太陽の光を浴び、歌うような口調でリアラが言った。
丘の上の土はからからに乾いていた。
もうすぐ、本当に夏がくる。
「うん・・・。」
場の雰囲気に、どうして良いか判らないのか、曖昧な返事をカイルが返す。
「どうしたの?カイル。」
それに対して、リアラは明るい。
「皆揃って、こんな風に過ごすの、久しぶり。ねえ、こういう感じだったのよ。いつでも楽しくって。」
「・・・・。」
いきなり、話しだしたリアラの言葉はストレートだ。
「あれ?その話じゃないの?」
誰も返事をしなかったのが意外だったのか、きょとんとした表情で、リアラは3人を見る。
「いや・・・。」
誰が始めに口を開くか、迷わないでもすんでしまった。
そのことに感謝しつつ、ジューダスは返事をする。
「お前は、前に言ったな、夢を見るか、と。」
「言ったわ。」
にこりと笑い、リアラは全員の顔を見回す。
たぶん、それだけで、言いたい事は伝わったのだろう。
だが、その先に繋げる為に、あえて、話し出した。
なんだか、言い訳をしてるようだ。
「この頃、僕達は夢を見る。全員だ。カイルもロニも。それは夢だが、夢ではないとどこかで知っている。」
「記憶が戻りだしているのね?」
「うん、そうだと思う。」
それに答えたのはカイルだった。
「リアラに会う前、オレたち・・オレとロニだけど。少しだけ旅をしてるんだ。その時に、ウッドロウさんにもフィリアさんにも会ってる。でも・・・違うんだ。その時とは違って・・・。夢の中ではウッドロウさんもフィリアさんも何者かの襲撃を受けてた。そんなこと現実には起こってないのに、ハイデルベルグ城が、アタモニ神団の管理してる飛行竜に攻撃されて壊滅したり。これって、リアラの言う、もうひとつの現実?」
「うん、そうよ。」
あっさりとリアラは返事をした。
「わざわざ、そんな大変なところを選んで夢に見なくても良いのに・・・そこらへんがカイルね。それが、現実にあったの。時間が戻ってなくなってしまったけど。」
「時間が戻った・・・。」
「そう。わたし達は実際に、旅をして色々な事を体験したわ。辛いことも沢山あった。でもそれ以上に・・・楽しくって嬉しくって幸せで堪らないという思いもしたの。今は、その上に新しい時間軸が誕生した事によって・・・上書きされちゃったみたいなものなのよ。落書きを消そうと白いペンキで壁を塗り潰して、またその上に、別の落書きを描いているようなもの?だから時間というものを挟んで見えなくなってしまっているだけで・・・現実にはそこにあったの。その記憶を夢に見るんだと思うわ。」
じゃあ、あいつが・・・・とロニは小さくつぶやいた。
リアラの説明をあっさりと、認めたのも、ロニが一番初めだったらしい。
「あ、あのよ、リアラ。」
「なあに?」
「いや、いい。後で話すわ。」
歯切れ悪そうにロニは言い、後でな、ともう一度繰り返した。
その顔が、照れているように見えたのは、ジューダスだけではないだろう。
「僕の方からはもうひとつ聞きたい。」
「なに?」
「僕達が記憶を取り戻しつつある、というのは認めよう。だが、これは始めから、時間がたてば思い出すものだったのか?それともなにかのきっかけからなのか?お前は・・・突然、思い出せと僕達に言い始めたな?それは、なにか理由があるからじゃないのか?」
「うん・・・。」
「お前には見えるのか?」
「え?」
ジューダスの言葉をきょとんとして、リアラは聞き返す。
「僕には見える。」
「へ?」
「ジューダス?なんのこと?」
そして、ジューダスは、手をあげて、空を指差した。
つられるように見上げた空には太陽しかない。
だから、太陽になにかあるのか、とカイルとロニは思った。
「見えないか?」
「なにが?」
聞き返す、ふたりの顔には戸惑いしかない。
ジューダスは舌打ちし、リアラを含む、3人に言った。

 「巨大な黒い彗星が。」






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またもや、前後編になってしまいました(汗)後半は水曜までにはなんとか(汗)
最初に書くとき、実際には、全員の記憶をどうするか迷いました。 覚えていたことにするか、忘れていることにするか。 ゲームのエンディングで、カイルがリアラを呼んだとき、思い出したのか、リアラの名前だけは分かったのか・・・。解釈がどちらになるかによって変わっちゃうんですがね。今回は、全員が記憶がない、方をとりました・・・。 したら、長くなった・・・。 
ジューダスですが戻ってきたという話もよく目にしますが・・・こちらも色々なところで、どこの戻ったかを書かれているのが違うんですが・・・。最も適していると思われたカイルたちのいる時代に戻しました。 天地戦争時代に行かせるのは・・・もう「Doll」でやったし(ボソッ)
リアラのお願い対して、頑なな態度のジューダスですが、ここは記憶がなく、そして、リオンに近い。それならば、まだこの時点で一番大事なのは、穢れなき感情なのは、マリアンに対するそれだと思ったのです。 その後、夢で段々と記憶が戻るしたがって態度が軟化してます。 いきなり、態度が違う・・・と思われるのが一番心配だったんですがね;;

では、後半はもう少しお待ちください。

(04’7/4)