女の子は、夢とお菓子でできている。
・・現実問題として見れば美化しすぎだ、と思わないでもないが、女の子という生き物は、集まっていれば、それだけで楽しめるものだ。
お茶を飲みながら、おしゃべりする。
一緒に買い物をする。
買わなくても、一緒に見て歩く。
ただ、それだけの事。
意味を問われてもありはしないが、理由なら楽しい、という現象だ。
今まではなかったもの。しなかったこと。
そういうものを、ますますハロルドは好きになる。

 

 

 





   Sweet Color

 

 

 

 





「ねえ、これってどう?」
大勢の女の子でぎっしりと詰まっている。
そういう印象を受ける小さな店の中で、可愛らしいいちごのイヤリングを手に取り、自分の耳にかざしながらリアラが言った。

 「かわい〜。」
「いいんじゃないか?似合うよ、リアラ。」
小さな飾りは、リアラの小さいけれどカタチの良い耳にぴったりだった。
ハロルドとナナリーに口々に言われ、嬉しそうにリアラは、そのイヤリングを右手に握る。
棚に戻す気はないようだ。どうやら、お買い上げ、決定らしい。
その姿に、にっこりと微笑みながら、ハロルドも自分の為になにか良いものはないか、と探す。

 テーブルや棚には、色鮮やかなアクセサリーがところ狭しと並び、それぞれが自分を手にとって貰おうとアピールしているように見えた。
ハロルドが、ちょっといいな、と思い、身をかがめてよく見ようとしたネックレスを、横から出てきた手がひったくるように奪い去っていく。先に目をつけたのに、ハロルドに取られたら大変だ、と思ったのだろう。
あら、残念。と、他人に奪われた分、余計に惜しく思いながらも、ハロルドは違うアクセサリーに目を凝らす。
どれもこれも、見ていると飽きない。
可愛いデザインのものも、シンプルで石が引き立っているデザインのものも、あれもこれも、欲しくなってしまう。
多分、誰もがそう思っているのだろう。
結構大きな街の中にあるにしては、小さな店構えにも関らず、店の中には客が途絶えることはない。
3人去れば、3人がまた入ってくる。かなり流行の店のようだ。
おかげで、小さな店の中は、ごったがえしていた。


 「あ、かっこいいかもv」
次にハロルドが目をつけたのは、百合とクロスを掘り込み、十字の真ん中に紫水晶を嵌め込んであるシルバーのブレスレットだった。
がっしりとした大きさで、ハロルドの腕には似合わなそうだったが、けれど繊細さと大胆さを感じさせるデザインが一目で、気に入ってしまった。
「う〜ん?でもハロルドには大きくないかい?」
ナナリーが言うと、そうね、と横でリアラも言った。
小柄なハロルドは腕も細い。
手首など、まるで少女時代から成長してないかのような華奢さだ。
その腕につけるには、いくらかっこよくても、重たそうに見える。
そう、ふたりが言っていると、店員の姉さんが、営業スマイルで寄ってきて、
「そちらはペアになっているんですよ?」
と言った。
「ペア?」
ハロルドが聞き返す。
「ええ。カップルでお揃いにつけられるように。だから、女物でも、少し重い感じなんですけどね。」
「・・・男物はこれ?」
ハロルドが自分が手にしているブレスレットを差して言った。
「いえ、それは女物です。」
だとしたら、男物は、もっとごついだろう。
こっちが男物だったのなら、女物はもう少し小さいだろうと期待したのだが、アテが外れたようだ。
こういうがっしりとしたタイプのものは、体は同じように細くても、ナナリーには似合う。
それが、ちょっと、悔しい。
ハロルドは、童顔と同じくらいに、自分が小さいのを気にしていた。
結局ハロルドは、女物の方をひとつだけ買った。

 




 次に3人揃って訪れたショップは、今までのアクセサリー店よりは落ち着いていて見れそうだった。
もっともそれは、客足が断然、減ったからだ。
別にその店が流行ってないというわけではないが、客のいる時間が少ないのだろう。
だが、服を扱う店は大概そうだ。
ぱっと見て、良さそうなら長くいる。気に入らないなら、さっさと出て行く。
商品を手に取って見始めてから初めて客として接せられる。それまでは対象外なのだ。
そういう暗黙の了解が、いきている。

 「なんだか落ち着かないね〜。」
ナナリーが居心地悪そうに言った。
壁がピンクで、小さい赤いソファーが置いてある店内の装飾が気に入って、中に入ったのだが、ナナリーの好みの服は置いてなかった。
扱っているものはすべて、エレガントで、可愛らしい、お嬢様系といったところか。
リアラと少女趣味のハロルドは良いが、楽で動きやすい服を好むナナリーには、一種の緊張が必要な場所だったらしい。
とはいえ、
「こんなのどうだい?リアラ。」
と、世話好きの性格を発揮して、人の服を選んであげるところは流石だ。
自分には合わなくても、他人に似合うものは、ちゃんと心得ている。
「あ、かわい〜。」
横でハロルドも賛同した。
そして、こういう会話を自然にしているという事を、少しだけ不思議に思う。

 

もともと幼い頃から友達が少なかったせいもあるが、ハロルドは女友達とどこかに出かけたなどという記憶はない。
ナナリーやリアラといった、出会った当初から気の会った友達などはまったくいなかったし、それこそが奇跡的なことだと、大げさでなくそう思う。
それでも、つい最近までは、このふたりとも一緒に出かけた事などなかった。
小さな事をきっかけに一緒に買い物に出て、そこでハロルドは、女友達との買い物というものを知った。
以来、新しい街に着けばこうして3人で見歩くのが決まりになり、それをハロルドは、本当に楽しみにしていた。
幼い頃できなかった事を、今、取り戻しているのだ、と自分でも思う。
そして、それができるようになる日が、しかも、それを心の底から楽しめる日がくるとは、夢にも思っていなかった、と以前の自分を思い出し切なくもなった。

 

「ねえ、ハロルド、これは?」
一瞬、もの思いにふけっていたハロルドに、リアラの鈴の音のような声がかけられる。
「あ、ごめんごめん。なに?」
「こ・れ。可愛いと思わない?」
にっこり笑いながらリアラが手に取っているのは、ふわりと広がる長めスカートが品の良い感じのワンピースだった。
胸元が大きめに開いた白いノースリーブはウエストの部分がちょこんとリボンで結ばれていて、そこから広がるスカートはチューリップをさかさまにしたような綺麗なラインをつくり、真っ白な総レースが二枚重ねになっている。このまま丈が床につくほど長かったならウェディングドレスになりそうだ。これを着て大きなつばつきの帽子をかぶったら、どこかの令嬢にでも見えるだろう。
「あ、似合う〜。」
これを着たリアラを、カイルでなくても見てみたいかも!と思い、ハロルドは素直に賞賛する。
きっと似合うはずだ。
そう本気で思ったのだが。
「違う違う。」
逆にリアラは首を振る動作まで加えて、否定した。
「ハロルドに、よ?たまにはこういう感じのものもどうかなって。」
「え?私に?」
きょとんとして、ハロルドはリアラも持っているワンピースをまじまじと見た。
普段からレースもフリルといったファンシーな服は大好きだが、女らしいという感じには着ていない。
いや、女の子らしいと言えばそうなるが、今も、淡い花柄で、袖にフリルが施された柔らかい素材のワンピースに、安定感のある太いヒールのブーツを合わせている。
大概はそういう着方がハロルドの主流だ。
品がある、というよりもキュートな感じ。
シフォンのようなふわふわと柔らかい素材のワンピースなら持っているが、こういうフォーマルに近い感じのものは着た事がない。
「私には似合わないわよ〜。」
さっき買ったようなブレスレットよりも、細い鎖のネックレスを。ごついブーツよりも華奢なヒールのサンダルを。合わせないと様にならない。
そういう・・・・お嬢様というイメージのものは、実は照れる。
そうは言わずに、ハロルドはあはは!と軽く手を振ってリアラに答えた。
「そうかな?似合うと思うけど。」
リアラがそう言うと、横でナナリーも、リアラを援護する。
「あたしも良いと思うよ〜。ハロルドって、顔、すっごく可愛いし。これ着たら、きっとお人形みたいだと思うよ?」
「だって・・・なんかおしとやかにしてなきゃ、って感じでしょ?私のタイプではないわ〜。その服そのものは、可愛くって好きだけどね。」
「う〜ん。」
リアラは言う。
ハロルドの方に向けていた服をひっくり返し、自分で見ると、
「たまにはこういうのを着ているの、見てみたかったのに・・・。」
と残念そうに言った。

 




 そろそろ、喉を潤しながら、おしゃべりしましょう、という時間だった。
次に向かったのは、リアラが行きたがっていたカフェだった。
おしゃれだが可愛らしくはないその店内は、装飾も落ち着いていて、くつろげる感じがした。
アイスティーとオレンジジュースとアイスコーヒーをそれぞれ頼み、注文したものを待っている間に、隣のテーブルを何気なく見たハロルドの目に、可愛らしいケーキが映った。
隣のカップルの女の子の方がオーダーしたものらしい。
それは鮮やかなピンクでハート型をしていた。そのピンクが、ケーキにはありえないくらい大胆な色で、ちょこんと乗っかっている飾りも、マジパンでつくった白い水玉をあしらっているピンク色のリボン、と、とってもキュートだ。センスが良い。
あんなケーキを見たら、女の子なら一度は食べてみたいと思うに決まっている。

 今度、あいつを誘って来よう・・・。
密かにそう思っていたハロルドと同じ考えなのか、にこりと笑ってリアラが言った。
「今度、カイルと一緒に来ようと思っていたお店なの、ここ。」
「ん?なんだい?じゃあ、あたしらは、その予行練習かい?」
にやりと笑ってナナリーが言った。
もちろん、リアラの言葉に気分を害した訳ではない。
「ち・・違うわよ〜。」
からかわれて、少しだけ赤くなり、リアラが慌てて訂正する。
「だって、カイルったら、今度はリアラの好きなところに行こうって。決めておいてねって言うから・・・。わたしだって、この街来たばっかりだったのに、そんな事、急に言われたってわからないじゃない?だから、急いで調べたの。ここ、ケーキが美味しいって聞いたから・・・。」
「その割りにケーキは頼まなかったじゃないか。」
「だって、それは・・・。」
「はいはい。カイルと一緒に食べる時の為にとってあるんだろう?ご馳走さま。」
ナナリーとリアラの会話を聞きながら、ハロルドは、いきなり自分の胸の中に、もやもやとした感情が湧きあがってくるのを感じる。
今のリアラの言った事の中に、ひっかかるものがあったのだ。
「ハロルドは?どう、ここ。」
「いいんじゃない?」
思いがけず、そっけない言葉が出て、ハロルドは自分でも慌てた。
幸いリアラはそれには気がつかなかったようで、
「今度、ハロルドもジューダスと来たら?ジューダス、甘いもの好きだし、ね?」
と、可愛らしく言った。
「うん・・・そうね。」
そのハロルドの答えに満足そうににこりと笑った後、リアラは再び、ナナリーにからかわれて向こうを向いた。
その笑顔は、幸せそうに見える。
咲き誇る花々のどれよりも輝いているように。
そして、ハロルドは気がついた。
自分の中にある、このもやもやとした感情。
これは、嫉妬、だと。

 




 以前、勝手に思われて多少、迷惑していた町娘の撃退の為に、ジューダスとデートをしたのが、始まりだった。
それ以来、ハロルドがジューダスを誘い出すのは決まりのようになっている。
新しい町に行けば、ナナリーたちと出かけるように、ジューダスと一緒にでかける。
あちらも文句を言うでもないし、たぶん、それがいつの間にかの決まりごとになっている事にも、別段、不満がある訳でもないのだろう、と思う。
だから今日も、宿に帰ったら、明日一緒にでかけよう、と誘うつもりだった。
ナナリーたちとあの店に入るまでは。

 




 「ねえ、リアラ。おととい行ったお店、今日も行かない?」
朝食の席に全員が集まった時、カイルが早速、本日の予定を口にした。
このところ、全員が顔をあわせるのは、朝食だけだ。
町の中に入ってしまえば、銘銘が好きな事をしているため、一緒の行動は約束でもしない限りは、ほとんど取らない。
朝食後に解散した後は、夕食すら各自で勝手に取っているから、必然的に朝食の席だけが全員の集まる場所となるのだ。
「あのお店に?いいわよ。」
嬉しそうににっこりと笑い、リアラがカイルに答える。
「カイル、あのお店、気に入った?」
「うん、ケーキが美味いよね!」
「なんだぁ?その店って。」
ふたりの世界にすでに突入しているその横で、ロニが知っている人間はいないのか、と訊ねると、ナナリーが答えた。
「前に、3人で行ったカフェさ。リアラがカイルとデートしようと下調べしてたんだ。」
「へえ。たいした意気込みだな。良い店なのか?」
「そうだね〜。落ち着いてる感じがして、デートするにはもってこいかも。行った時も、やたらとカップルが多かったし。ね、ハロルド?」
「そうだったわね〜。」
ハロルドは頬杖をつきながら、気のない返事を返す。
手は砂糖を入れた紅茶を掻き混ぜたままだ。
ちらり、とジューダスがその仕草を見たが、何も言わずに、自分の紅茶を口につける。
それを見て、うん?とナナリーは小首を傾げた。
「あんたたち、ケンカでもしてるのかい?」
「・・・・・いや?」
これ以上、そぎ落としがないほど、簡単にジューダスが答える。
それで、納得するナナリーでもなく、
「だって、一緒に出かけてもいないみたいだし。最近、口もきいてない気がするんだけど。それでケンカしてないってのかい?」
追及するかのような口調に、ジューダスは苦笑した。
自分がハロルドを怒らせるような何かをしたと思っているようだ。
「別になにもない。出かけてないのは、その理由がないからだし、話すこともないからだ。」
自分では正当な説明のつもりだったのだが、それがまずかった。
ナナリーは明らかに目と眉を吊り上げた。
「そういう言い方はないだろう?理由がなくっちゃ、話もしないのかい?」
「ああ、もう〜。ナナリーってば。」
庇ってくれる事をありがたく思いながらも、困りもして、ハロルドはストップをかける。
「本当にケンカなんかしてないのよ〜。そう見えたなら心配させて悪かったけど、でも、ナナリーの気のせいよ〜。ね?ジューダス。」
「・・・ああ。」
「・・・本当に、かい?」
「ああ。」
「そうよ〜。」
まだ、納得はしてないという表情だったが、それでも仕方がないと思ったのか、ナナリーはジューダスに向けた矛先を納める。
彼女は彼女なりに、自分でもおせっかいだ、と思っていたりもするのだ。
これ以上、でしゃばるのは良くない。
「う〜ん。」
横でロニが呆れたように唸った。
「なんだ?」
「なに、変な声だしてんのさ?」
ジューダスとナナリーがロニを見て、聞く。
「いやさ。ナナリーのおせっかいでも、お前らが本当にケンカしてんでも、どっちでも良いんだけどよ。」
「してないってば。」
「・・・あいつらには関係ない、みたいだからよ。」
ロニが言った先を、全員が見る。
そこでは、軽い揉め事がすぐ隣であったにも関らず、気づきもしないふたりが、どっぷりと自分たちだけの世界に浸っていた。

 

 

 

 

Next

 


はい、続きます〜。 ・・・・もう今更なにも言うまい・・・(汗)
これは完全に趣味の話ですね。 書いてみたかったのです、女の子同士の会話とか、買い物の風景とか。
おかげで楽しかったです・・(私は)

お気づきだと思いますが・・・これは「Sweet situetion」の続きになります・・・。
あの時、あとがきに書いた、5回くらいのデートには、まだ達しておりません。 私の中では現在、3回くらいこなした模様。
そして、お互いにそろそろ、心境の変化が現れていて、それがこの話。
後半は・・・大人しく紅茶飲んでただけのあの男がいきなり、熱でもあるのか?っていう攻めぶりを発揮する・・・・・・・・・・予定です。 まだ、そこまで書いてないので・・・。 予定は未定。

後半はただいま執筆中〜(おお!そういうとなんかすごいことのようだぞ!) 出来上がり次第アップします。 しばしお待ちを〜。

 

 

(04’9/25)